赤き鬼
4月9日・・・・・・・
俺は死んだ。と、思われた。
確かに、俺は車に轢かれた。住宅街の交差点で轢かれた。だが、体には何の異常もない。痛くもない。
ただ、おかしいと思うのは周りの人々から受けるそれこそ、例えるなら恐怖心の籠った視線だった。
周囲の視線が気になり、自分はのろのろと自分が轢かれた車の窓の前に立ち、そこに映る自分の変わり果てた姿を見た。
俺の姿、それは、皆がよく知っている姿だ。絵本でも見たことのある鬼の姿そのものだった。体は赤く光り、血管のように無数に伸びた緋色の腺が皮膚に浮かびあがっている。視界は青くなっていた。そして、窓に映る自分の瞳は青く光っている。鬼なのだから、角もある。額から2本生えている。髪の毛は銀色に輝いていた。・・・・こんな、変わり果てた自分の姿に愕然として車の窓の前で固まる俺を見て、当然、周りの大人は混乱する。そんななか、まだ、保育園くらいの男の子が目を輝かせこう言った。
「ママー!赤鬼さんだよ!!」
男の子の母はサッと子供の目を手で覆い、そそくさと車に乗り込み住宅街の細い道をあっという間に逃げていった。
さっきの男の子の言葉を聞いてからだろうか。まだ、信じきれてはいないが、自分が赤鬼に近い姿になったのを認識した。
当然、周りの人も、俺を轢いた車の運転手も、大急ぎで逃げだす。そして、俺も変わり果てた姿を認識して、少ない理解能力で必死に理解しようとする。だが、それは意識的なものであって、行動では大声を上げひたすらに自分の頭をかきむしるだけだった。
どれくらい時間経ったのだろうか。俺が轢かれたときはまだ日が出ていたというのに、落ち着いた頃には、辺りは月明かりと蛾や蠅が飛び回る街灯の光りだけだった。結局、理解はできなかった。
ふと、辺りを見回していると、視界は青くなかった。そしてカーブミラーに映る自分が見えた。そのカーブミラーに映る自分は黒い髪に眼鏡をかけた特にこれと言う特徴もない見慣れた自分の姿だ。
夢なのか・・・。いや、夢であってくれ・・・。
赤鬼の自分の姿は夢であって欲しい。そんな願望を持ち始めた。
だが、儚くも俺のそんな願望は打ち砕かれる。
俺の右手の甲は、まだ赤く光り、緋色の光り続ける腺も残っていた。
やはり、俺はあの時の赤鬼なのだ。そう、思うと己が怖く感じた。
そのとき、思い出した。俺は車に轢かれた。轢かれたのに生きている。
これは、どうして?
理解できなかったことがやっと少しずつ紐解けた気がした。
・・・・・・・・。
車に轢かれたときの状況を思い出せるだけ思い出した。
そこで、解ったのは・・・
1.俺は車に轢かれる瞬間に「死にたくない」と強く願った。
2.目を瞑った瞬間、その時は解らなかったが、赤い炎のようなものが視界にはあった。
この二つだけだ。たった二つだが俺はこの事実を基にある仮説を立てた。
それは、俺が車に轢かれる瞬間に見たあの赤い炎は鬼の姿になるスイッチのようなもので、鬼の姿になるには強く何かを願う。
というものだ。そして、俺はこれを《鬼化》と呼ぶことにした。
そして、これは《鬼化》の特徴なのかは不明だが、鬼の状態の自分はどうやら、回復能力が格段に上がるのだと思う。だから、轢かれても傷が見当たらなかったのだろう。きっと、すぐに回復したのだと思う。
轢かれてからまだ、半日も経ってないだろうが辺りは薄暗い。
それに、親も心配してるだろう。そう思った自分はまだ、赤く光り続ける右手を左手で覆いながらのろのろと家へ帰る。
道中に改めて右手を見て、自分が鬼になるということを理解した。いや、無理に納得した。
これからどうなるんだ・・・・。そして、《鬼化》と名付けたものの本当に自分なのか・・・。まだ、不明な点が多くて何が何だか解らない。仮説を立てたが確証もない。
本当にこれからどうなるのか・・・・・・。そんな不安を抱えて住宅街の薄暗く点滅する街灯の灯る細い道を歩く。
・・・・・・・・春だが夜はまだ冷えて肌寒い、白い息を吐きながら、ゆっくりゆっくりと家へ帰っていった。
ちょいと、新しい作品を作ってみました!
これから、頑張っていきます。
2話も近々投稿(予定・・・)
いや!投稿しなきゃ!!
2話も読んで頂けたら幸いです。