10匹目 殺意に染まった鎧武者!アリゲーターガー
「ネオン・・・」
日付も変わり、夜も明けた。
ポンプがブクブクとエアーを送る音。
ろ過装置がキュルルと水を吸い上げる音。
それら設備の稼動音が、こんなにもハッキリ聞こえるのは今ここに利眞守がいないから。
遂に人間不在となってしまった店内で、プレ子は1匹イスに座り、頬杖をつきながら無二の親友ネオンと語らっていた。
物思いに耽る彼女の表情は、まさに年頃の乙女のモノであり、その正体が熱帯魚だなんて誰が想像出来ようか?
究極に、ぶっ飛んだ感性の持ち主であろうとも1発で彼女の正体にたどり着ける者など、まずおるまい。
色を知った熱帯魚は水槽越しにネオンをツンツンしながら淡い恋バナに花を咲かせる。
「利が好き・・・私って、やっぱ変かな?」
"・・・"
「そうだよね・・・うん・・・なんだろう」
"・・・"
「別に利を褒めたって私は嬉しくないよ。でも悪い気はしないかな」
"・・・"
「そっか。ネオンはモテるからなぁ・・・決めた!ネオンは今から私の師匠だ!」
"・・・"
利眞守がいなくとも寂しくはない。
周りを見渡せばネオンが舞い、ディスカスが韻を踏み、タニシが新たなネタを探している。
ヤマトは肉体の鍛錬に勤しみ、ニアとラーニャは互いに微笑み合い、アーチャー大尉は怒号共に部隊を指揮している。
きっとプラナリアだって見守ってくれているハズだし、エイルも相変わらずプレ子を気に掛けてくれてるみたいだ。
こんな素晴らしい仲間達に囲まれて、しみったれた顔など見せられるか。
むしろパーフェクト過ぎるくらいに切り盛りして、ヤツからオーナーの座を奪い取り泣かせてやる!
気合いを入れ直したプレ子が店内を駆け回る一方で利眞守サイドは──
「・・・おい政宗」
「なんだ?」
「包帯取ってくれよ。こんなにグルグル巻きにされちまっちゃ治るモンも治んねぇよ」
「ダメだ。今年のエジプトコンテストに向けての特訓だと思って我慢しろ」
病室の片隅、晴天を一望できる窓辺のベッドで、生きたミイラと化しているのが利眞守その人。
その文句に合いの手を入れるのは無二の悪友千芭政宗。
病院に担ぎ込まれた利眞守は否応なしに衣服を脱がされ、全身を徹底消毒、感染症を防ぐ為の塗り薬を、たんまりと塗られた後、頭からつま先、果てには口元まで包帯で覆われた激ミイラスタイルへと変貌を遂げていた。
「ところで俺の御神木は?」
「御神木・・・あぁ、あの薄汚ぇキャップの事か?」
「なにが薄汚ぇだコラァ!はっ倒すぞ万年平社員!」
「おうおう出来るモンならヤってみてくれや?あぁ?」
手も足も出ない状態なのに口だけで噛み付こうとする彼を、政宗は普段通りに遇らった。
一応の心配こそすれど2人の関係は常に対等。
極端に言えば、どちらかが総理大臣になろうとも世紀の大罪人として闇に葬り去られようとも、この関係性が変わる事はない。
直後、大きな紙袋を持った千春がやって来て、それを利眞守に差し出すが、今の彼は受け取る事は疎か、中身を見る事すら出来ない。
相も変わらぬ不思議ちゃん補正を見かねた政宗が代わりに袋を受け取り、中を確認すると──
「なんだこの薄汚ぇキャップは・・・ゴミか?」
「ンなわきゃねぇだろ!一刻も早く、その聖なるキャップを我に捧げるのだ!さもなくばエジプト神の祟りが降り掛かるぞ!!」
袋の中に自身のキャップが入っていると、わかった途端"キャップがないと力が出ない!"などと騒ぎまくるミイラ男に対して"うるせぇな"と、ぶっきら棒な態度でキャップを被せる政宗。
すると利眞守は、おしゃぶりを与えられた赤子のように、おとなしくなった。
包帯でグルグル巻きの彼だが、キャップ1つ装備させた事によりその正体が利眞守であるとパッと見で、かるようになった。
一言で表すなら"これだ!"的フィット感とでも言うのだろうか、まさに利眞守らしさを具現化したような光景に2人は改めて、そのキャップをマジマジと観察してみる。
もしかしたらキャップ自体が戦場利眞守という存在なのかも知れない・・・声には出さずとも政宗と千春は胸の内で同じ事を考えていた。
「昨日かしら?それとも今日の夜中だったかしら?急に政から、利眞守の服を直してくれー!って電話が来た時は、びっくりしたわよ」
「お、おい千春っ!?」
「政宗が?」
「おかげで徹夜するハメに・・・はぁ〜たわ・・・」
利眞守の為、政宗の為、何より親友の為に身を呈して尽力していた千春は、相当眠いのだろうか片手では隠しきれない程の大きなあくびを1発。
なんとも間の抜けた乙女の天然っぷりに野郎共は少し癒された。
「あくびしながら喋るなよ?タダでさえ、のほほんとしてるお前がンな事してたら、そのまま溶けっちまうんでねぇかとコッチが心配になるぜ?」
「人をスライムみたいに言わないで!それに溶けてたのは、あなたの衣服でしょ?そのジャケットと同じような生地を探すのに、どれだけ苦労したと思ってるの?反省しなさい!でなきゃ服は返さないわよ」
「そんじゃ俺は全裸でGOってか?」
「むぅっ!そのまま捕まりなさい!」
珍しく千春が強い口調で文句を返す。
彼女は、のほほんとしてる事を小馬鹿にされて怒っている分けではなく、スライムみたく言われた事に対して怒っているのだ。
笑うポイントも怒るポイントも驚くポイントも常に斜め上を行く千春の扱いは、その実利眞守や政宗よりも難しい。
なぜならスライムはNGだけどアメーバはOKという、その境界線が見極められないからだ。
キュートな糸目の、のほほん面がいつもより15度程度つり上がっているが、それでも"怒ってるぞ!"的な迫力は一切なく寧ろ可愛くさえ見える。
わざとらしく千春を持ち上げ誠意のない謝罪を繰り返す利眞守を相手に、甘噛み程度の脳天チョップを打ち込んで千春の怒りは治った。
「・・・とりあえず、これで全員揃ったな」
一息入れて政宗が場の空気をリセットすべく2人の注目を集める。
もちろん利眞守からしたら何が何だかサッパリの展開だが、政宗と千春の表情をみればソレがハッピーサプライズ的なモノではない事だけは確かだと確信する。
警戒する利眞守同様2人もまた、少し緊張感したような面持ちをしている。
正直コレを利眞守本人に聞く事は、かなりのリスクを負っていた。
最悪は3人の紡いできた友情が一瞬の内に崩壊する可能性もある。
かけがえのないモノを失うのは誰だって怖い。
だが仲間を信用出来なくなる事は、それ以上に怖い。
2人は利眞守という男を理解している。
普段はどうでも良い事を、べらべらと垂れるが本当に大切な事は一切口に出そうとしない。
良い事も悪い事も全部1人で抱え込み、人知れず苦しみ、嘆き、周りが彼の異変に気付いた頃にはケロッとした表情で、事は既に後の祭り。
別に利眞守が周りを信用していない分けではない事も理解している。
むしろ周りを思うがあまり抱え込んでしまうのだが、今回の一件は度を超えている。
仮にも利眞守は一度"死んでいる"のだ。
変に遠慮して彼の意思を尊重したが挙句、利眞守に"万が一"でもあれば、それこそ悔やんでも悔やみきれない。
なにがあったか問い質したところで、おそらく彼は誤魔化してくるだろうが、今回ばかりは引き下がれない。
政宗と千春は互いに目で合図すると、改めて利眞守に向き直る。
「単刀直入に聞くぜ。普通に生活してる中で全身に酸を浴びるなんて事自体が常軌を逸しているのはわかるな?なにがあったんだ?」
「・・・覚えてねぇな」
「なら質問を変えよう。"誰にやられたんだ"?」
「誰・・・悪いがマジで記憶がないんだ」
「・・・相手は"人間"だったのか?」
「おい政宗さんよぉ?お前はいつから妄想の多重責務者になったんだ?俺にナニをした犯人がいたとして、ソイツが人間じゃねぇってどういう事よ?」
覚えていない?
健全たる一般人の口から出た言葉ならいざ知らず、人間やめましたランキングに入賞し兼ねない勢いの、この男に限ってソレはあり得ない。
やはり利眞守は何かを隠している・・・が、具体的な所まではわからない。
多少の罪悪感を押し殺し、政宗はさらに1歩踏み込んだ。
「それで隠してるつもりかよ。プレ子ちゃんがお前の所に来てからの事は、もう全部知ってるんだぜ」
「・・・なに?」
「じゃ彼女がドコの誰なのか答えられるのか?」
「え〜とアマゾン出身と見せかけて実は沖縄生まれの17歳とか2歳とかで・・・本名は宝山守初だったっけ?沖縄の苗字ってなぁ独特だからな」
ジョークを交えながら被告人はビックリする程スラスラ答えたがソレは"だからこそ"の結論を露呈する事となる。
戦場利眞守という男はウソや言い逃れをしている時こそ、頭や舌が良く回る。
わざとらしくウケを狙ってます的な口調で語る、その裏には必ず真実を隠している・・・つまり黒!
ヘタをすると足元を掬われ、真相を闇の中へ葬られてしまうかもしれなかったが敢えて政宗はカマを掛けたのだ。
そして2人は1つの結論を出す。
「目の前にあるのは現実か、それとも幻想か・・・ソレを知ってるのはお前だけなんだぜ」
意味深な言葉を残して政宗は病室を後にした。
しばらくの静寂が続いた後、千春も少しだけ悲しそうな顔をしながら、この場を去った。
その表情はナニを思ってのモノなのか・・・包帯に隠されてはいるものの、利眞守の表情もまた2人同様に曇っていた。
その頃アクアリウム・バックヤードでも動きがあった。
"・・・"
「水流が弱すぎて身が引き締まらない?知らないよ!」
"・・・"
「え?ウィローモスが成長しすぎて縄張りを占拠された?でも・・・勝手に切って良いのかな?」
"・・・"
「砂利を漁ってたらアヌビアス・ナナが引っこ抜けた?埋め直すから待ってて」
"・・・"
「今度はなに!?水温を少し上げてくれ?え〜と・・・これで良い?」
"・・・"
「えぇ!?卵を隔離してくれって・・・ちょっと待ってよ!!」
"・・・"
「お腹空いた?我慢しろ!!」
"・・・"
「隠れ家が小さくなってきたから新しい流木が欲しい?じゃあの中から選んどいて!」
"・・・"
「んぐぐっ!!うるさーい!そんな事いっぺんに言われたって出来るかあぁあぁぁ!!」
"──ガチャランッ!──ドサッ"
手にしていたフィルターとオーナー代理の使命を盛大に投げ捨て、その場に寝そべりプレ子は不貞腐れた。
生体達の声が聞こえる分、彼女にのし掛かる苦労は人一倍・・・いや魚一倍か?
この時、初めて利眞守の苦悩とタフネスさを知る事となったプレ子が、一端のアクアリストになる為の道はまだまだ遠い。
それから1週間がすぎ、療養中の利眞守を覆い隠していた包帯も取れてきた頃、彼は見舞いに来てくれた政宗に率直な心境を語っていた。
「なんだかんだで、もう1週間か・・・今頃アイツは大丈夫なんかねぇ?」
「心配か?なんならロシアンにサポートでも頼めば良いんじゃねぇのか?」
「簡単に言ってくれんでねぇの?アイツだって暇じゃねぇんだし、俺の店にゃ俺なりのやり方ってモンがあるんだ。むしろミハイルにもミハイルのやり方だってあるだろうし、同業者に頼むと余計混乱しちまうのよ」
「そういうモンなのか?」
「ンだ」
「まぁどのみち完治するまでお前はベットの上から出られねぇんだ・・・とか言ってる内に噂のアイツが来たみたいだぜ」
政宗が爽やかな強面フェイスで病室の入り口を親指で差すと、そこには花束を持ったミハイルの姿があった。
同業者の噂で利眞守の身に起こった事態を聞き付け、多忙なスケジュールの合間を縫い見舞いに来てくれたのだ。
変な気を利かせた政宗がその場を立ち去ると、入れ替わるようにして先ほど彼が座っていた小さな丸椅子にミハイルが腰掛ける。
「михаил・・・」
(訳:ミハイル・・・)
「・・・」
ベッドの上に横たわる利眞守を悲しそうな目で見つめた後、ミハイルは無言のまま持って来た花束を花瓶に移し替える。
それは紫色の美しい花を広げながら辺りに柔らかな香りを漂わせるヒヤシンスと、少々季節を先取りし過ぎたのか微かに薄紫を覗かせた蕾二分咲き状態のスカビオサとバーベナだった。
「Это сексуальная фиолетовый. этот опасный секс апелляцию・・・подходит для меня?」
(訳:こりゃまたライトパープルがセクシーなこと。この危険な色気・・・俺にこそ相応しいってか?)
この花には友人、戦場利眞守を心配する純粋な彼の想いの他にミハイル・ロスティスラーヴォヴィチ・ドラグノフからの"伝える事を禁じられたメッセージ"の意味も込められていた。
ソレは近い未来で"初源の悪"と対峙する事になる利眞守への、せめてもの償い或いはソレこそがミハイルの本当の想いだったのかも知れない。
だが利眞守が、その想いに気付く事はなかった。
「Если это возможнодо тех пор, пока все закончится・・・нет ничего」
(訳:できれば全てが終わるまで・・・いえ、何でもありません)
「Н?подождите минуту михаил」
(訳:あ?お、おい待てよミハイル)
そそくさと逃げるように病室を出ようとするミハイルを呼び止め、語り掛ける。
「・・・"Вы также"секрет?」
(訳:・・・"お前も"ワケありか?)
「・・・」
その言葉にミハイルは一瞬立ち止まったが、コチラに振り返る事はなかった。
そしてなぜかはわからないが、彼の後ろ姿は泣いてるようにも見えた・・・常識も良識も欠片程度しか持ち合わせていない利眞守だが、本能的にこれ以上ミハイルを止めておくのはイケない事だと悟り、無言のまま去り行く彼を見送った。
「ミハイル・・・まさか、お前も俺と同じなのか?」
利眞守は現在進行形で"あり得ない状況"の真っ只中にいる。
そしてミハイルの意味深な言動・・・こうなると2人の共通点から推測するに"もしや?"という疑問が浮かぶのは至極当然。
誰にも言えない究極の秘密・・・独り彷徨った未開のアクアリウム。
自分と同じ状況にいる誰かの存在など、考えもしなかったが、この世界にはアクアリストと呼ばれる者達が"ごまん"といる。
ならばその可能性は0ではない。
もっと言うなればアクアリウムだけに限った話でもないのかも知れない。
森羅万象、不可説不可説転の中の1つの可能性。
それがこの俺、戦場利眞守だとしたら──
「ダ〜メだ!考えれば考えるほど、わけがわからなくなるぜ!そもそも答えがあんのかも、わからん問題をどう解けってんだ?俺は摂理の探求者じゃなくてアクアリストなんだぞ!畑違いも良いところだぜったくよぉ・・・って、あぁっ!?この花全部、根っこ付いてんじゃねぇかよ!日本だと根っこ付いた花を見舞に持ってきちゃダメなんだぞ!ミハイル聞いてんの!?」
思わぬ不意打ちに一瞬あらっ!?となったが、それも束の間。
ふかふかの枕にドサッと後頭部を沈め、病室から見上げた空はどことなく、いつもより広く大きく見えた。
退院の許可が下りるまであと1週間くらいか?
なんとも言えない時間を持て余した利眞守は、包帯の端を爪で摘むと、慎重にソレを捲りあげ皮膚の状態を確認してから目を閉じた。
それから数時間後。
すっかり日も暮れ、辺りが闇の帳に包まれた現在の時刻は午後9時半前。
まだまだ人々の活気衰えぬ市街地から裏路地を抜ける事、約1km。
奇跡的な立地条件の悪さにもめげず、人知れず構えた水生生物専門店アクアリウム・バックヤード内部は、まるで盗人にでも入られたかのようなヒドい散らかりようであった。
その犯人は言わずもがなプレ子である。
しかも困った事に散らかすだけならまだしもこの時、彼女はアクアリスト鉄の掟を3つも犯していた。
1つは水槽のフタは開けっ放しにしている事。
魚類にしろ甲殻類にしろ水生生物というヤツは驚くほどアグレッシブに活動するモノで、水面を飛び跳ねたり、水槽内のシリコンやレイアウトを巧みに利用して外へ飛び出してしまうのだ。
これは小型の淡水魚や淡水エビに限った話ではなく、カラシン目エリュトリヌス科ホプリアス属に分類される大型(約50cm前後)の底生魚"ホーリー"でさえ、僅かなフタの隙間から脱走。
翌朝、見るも無惨な姿で発見された事例があるのだから、アクアリストにとって水槽のフタがどれだけ重要なモノであるかなど言うに及ばず。
2つ目はライトを付けっ放しにしてる事。
アクアリウムにおいてライトの存在もまた無視できないモノで、水槽内の明るさはイコールで生体達の生活リズムとなり太陽光と違い常に一定の光量、熱量を供給できるライトは"管理"という意味でも必要不可欠なモノなのだ。
拓けた庭に巨大な池でもあれば別だが、そうじゃないのが、この御時世。
水草が光合成を行うにも生体達が健康的に育つにも屋内という環境下では、いかんせん光量不足となやすい。
のだが常時点灯というのも、またよろしくない。
日中に活動する生体もいれば、夜間に活動を開始する生体もまた然り。
その生体にあった本来の生活リズムが崩れれば、それは大きなストレスとなり水草に至ってはパワーフィーディング(エサを与え続け生体を巨大化させる事)ならぬパワー光合成?で異常成長を遂げた挙句、水槽内のスペースを占領したり、最悪は水槽全体に深刻な酸欠を引き起こす事もある。
最後に冷凍アカムシを常温で放置してドロドロに溶かしてしまっている事。
冷凍アカムシは1度でも解凍すると、凍っていた栄養素などが体外へ溶け出し、品質が大きく劣化する。
さらに溶け出したそれらが水質を悪化させてしまうのと、なにより見た目が悪い!
挙句に当人は見て見ぬフリをする為か、柱の影に張り付き爆睡を決め込む質の悪さと来たモンだ。
利眞守がこの場にいたら彼女は間違いなく、御叱りを受けていただろう。
「Zzz・・・」
"──バチャバチャ・・・ドサッ!──ベチッベチッ!"
その時、店内奥にズッシリと構える一際大きな水槽から、これまた一際大きな巨影が飛び出して来た!
程よい弾力と力強い筋の塊とでも言うべき巨体が、鈍い音を立てながらタイルの上で暴れ回っている。
本来陸地に打ち上げられた魚が暴れる時、それは"ジッとしていたら助からない"と考えた時や"地表の温度で火傷しそうな時"などに行う防衛本能。
つまり水中を目指して移動している分けでもなく大抵は同じ場所をクルクルと回転するだけの、その場しのぎに終わる事が殆んどなのだが、この巨影は器用に体をしならせながら一直線にドコかへ向かっている。
水の民が水槽を飛び出してまで、何を目指す?
命辛々散乱した障害物を乗り越えて、目的地にたどり着いた巨影は大きく口を開け──
"ガリッ!──パァアァァァ!!"
「・・・ふぇ!?」
店内を眩い光が弾け飛んだのと同時にプレ子は飛び起きた。
「この時を、今や遅しと待っておったぞ・・・」
点々とライトが照らす暗闇の中、霞む眼を細め何が起きたと辺りを見渡せば、そこにいたのは鎖帷子の上からガノイン鱗を彷彿とさせる装飾の施された燻銀の甲冑を纏い、さらには陣羽織を着こなした身の丈7尺6寸(約2m30cm)の鎧武者だった。
内側に鋸状の刃が付いた、鍬形の立物が目を惹く烏帽子形兜と、左腰には対となる2本の刀。
1本は禍々しい鞘に納められた5尺(約150cm)の大太刀。
片や簡素な鞘に納められた2尺(約60cm)の脇差しを携えている。
甲冑に刀というだけで申し分ない迫力と威圧感を醸し出しているにも拘らず、その顔には鬼のような表情を模した面頬まで装備した徹底ぶり。
"カチャン・・・カチャ・・・"
「"誰ぞ鳴く 月が照らすは 弔いの 手向け仇に 振るふ一太刀"・・・今宵は月も狂喜に舞っておるわ」
カチャカチャと甲冑を鳴らしながら窓から夜空を見上げた鎧武者は、妙に物騒な短歌を詠み上げた。
満月が放つ神々しい輝きをその眼に焼き付けているのか、しばらく微動だにしなかったが突如刀に手を伸ばしたのを見て、慌ててプレ子が待ったの声を掛ける。
「ち、ちょっと待って!まずその・・・誰!?」
「某に問うておるのなら、まずはお主が名乗られよ」
「えっ、わ私はプレコス・・・プレ子だ!!」
"カチャ・・・"
月明かりに照らされた燻銀の鎧武者は刀から手を引き、姿勢を正し自らを名乗る。
「某は名を"呀"と申す」
やたらと古風だが丁寧な口調で"呀"と名乗った鎧武者の正体はガー目ガー科アトラクトステウス属に分類される、全長2m超えの大型硬骨魚類"アリゲーターガー"である。
生息地は主に北米から南部にかけてでミシシッピ川、リオグランデ川、トリニティ川などのメキシコ湾に注ぐエリアが原産地と言われており、基本的には流れの緩やかな淡水域、汽水域に生息するが海域でも発見されたりとその実、淡水と海水の両方に対応出来る魚類としても知られている。
また本種を含むガーパイク(ガー目の総称)は古代魚特有のガノイン鱗で覆われている為、ナイフやナタで斬り付けても弾かれるどころか最悪コチラが刃こぼれを起こし、へし折られる事もある。
加えて無数に並んだ鋭い牙が凶悪なフォルムを演出するのに一役買っている。
鉄壁の鎧にキラリと輝く牙は、まさに刀を翳した鎧武者に他ならない。
だが目から得た情報と先入観だけで相手を決め付けるのはナンセンス。
実はアリゲーターガーという生物は本来、臆病でおとなしい性格をしているのだ。
その為"ガーは人喰い怪魚だ!"などと言う与太話を本気にしてはイケない。
確かに2mを超える巨体が暴れれば軟弱な人間など一瞬の内に大怪我を食らう事もあるだろうが、それは全てスケールの問題。
小さなメダカやエビだって、ちょっかいを出されれば暴れ狂うのと同じで、それがアリゲーターガーのスケールで起きただけの事。
"少し見た目が恐いから"その理由だけで尾びれの付きまくった都市伝説がアリゲーターガーを悪名高き怪魚に変えたと言って間違いない。
その証拠に、目の前に現れた鎧武者は落ち着いた口調でプレ子と向き合っているではないか。
「水槽の噂にて聞いた言葉。初めこそは天が放った一時の戯れ、願いを叶えようとは異な仰せとも思ったが・・・全ては真であったか」
天?異な仰せ?真??
呀の使う独特の言い回しは、プレ子に新たな可能性と知的好奇心を植え付けた反面、理解不能な単語に困惑させると同時にソレに対する、もどかしさも植え付けた。
ポジティブな感情とネガティブな感情が一瞬の内に頭の中を支配した結果が、今の彼女のキョトンとした表情として表に出てきていた。
しかし状況を理解する事は出来る。
なんたって自分も含めれば、これで10匹目となる生体の擬人化現象。
呀にも叶えたい願いがあるから、こうして出て来たに違いない。
例え目の前に巨大な鎧武者が現れようと落武者が現れようと、やるべき事さえわかっていれば苦心惨憺、恐るるに足らず!
「あっ、でも今は利がいないんだった・・・」
だがしかし為すべき事が、わかっていようとも出来ない場合もある。
生体達の願いを叶えるのはプレ子ではなく、あくまで利眞守その人だ。
相手の願いを聞き出しプランを立て、知恵を絞り出してソレを叶える。
工程自体は簡単だが、いざこれを実践しようとすると中々どうして難しいモノである。
なのでプレ子は今の状況を呀に伝え、少し待ってもらおうとしたのだが──
「彼奴が・・・居らぬ?」
"ゴゴッ──ショワァアァァ・・・"
肝心の叶え人、利眞守がいないと聞くや否や、呀の携える大太刀が尋常ならざるドス黒い念を放ち始めた!
血飛沫、電撃、消化液とイレギュラー飛び交う水生生物専門店アクアリウム・バックヤードでもココまで禍々しい気配が店内を支配するのは初めての事。
その迫力たるや敵意を剥き出しにしていた頃のラーニャが放っていた邪気ですら、そよ風とも呼べないレベルの代物。
辺りがざわめきに包まれる中、面頬の僅かな隙間から狂喜に満ちた笑みを窺わせ、呀は溢れ出た念を愛でるようにして大太刀に語り掛ける。
「そうかそうか・・・そう慌てずともよい。天もこの弔い合戦一夜にしてならずと言うておるのだろう。されど安心致せ・・・某が願いは個に非ず、お主らの無念必ずや晴らしてみせようぞ。天命はこの一太刀、常にお主らと共にある」
"シャァァ──キシンッ!"
直後、腰に携えた150cmにも及ぶ大太刀を華麗な抜刀術で引き抜いた。
剣術なんて知らないが、その完成されすぎた1つ1つの動きにプレ子は思わず見惚れていた。
そして全ては数秒後・・・その切っ先が彼女自身に向けられている事に気付いたのは。
そもそも大太刀とは本来、馬上からの攻撃に使用したり、持ち歩く時も家来や小姓に持たせたり(この時、素早く刀を抜くために家来は鞘の部分を持ち、柄を常に主人に向け、いざ刀身を引き抜くと同時に家来らも鞘を引っぱった)と個人単体が使うようなモノではない。
その性質上、大太刀は槍に近い武器とも言われている事から、この一刀がどの程度の大きさなのか想像できよう。
そんな代物を、いとも容易く扱えるのは偏に呀の巨体と技術あってのモノ。
「現世に蔓延る下賤の御霊を、斬り伏せ屠るは妖刀"斬奪命葬牙"!一族郎党が受けた不当な仕打ち、その報い今こそ貴様らが死を以ってして償う時と知れ!」
"──シャッ!"
「此度の弔い合戦、彼奴の御首級頂戴仕りし折の鮮血を狼煙とし、者共揃いて修羅とならん大戦にあるぞ!天網恢恢疎にして漏らさず人間共よ赦すまじ!」
"──ダシュッ!"
重心を落とし手首を返しながら放たれた渾身の刺突は、目にも留まらぬ速さでプレ子の眉間に噛み付いた!
だが不思議な事にたった今、刀が貫いたであろう眉間には一切痛みを感じない・・・それどころか血の一滴すら落ちる事なく、受けたダメージはコンッと軽く突かれた程度であった。
この一撃は質量、刃の角度、力加減、必殺の間合いを完璧に把握した呀が敢えて放った"切っ先での峰打ち"という究極の神業であると同時に、先の文言がただの虚仮威しでない事を物語る。
理由はわからないが、その狂おしき願いは利眞守を皮切りに、人間達を叩き斬る事だと理解した途端、先ほどまで抱いていた興味は一瞬にして恐怖へと変わる。
「月を見るからに亥の下刻(現在の時刻で午後10時20分から午後11時の間)・・・今より三日間だけ待つ故に彼奴に伝えよ。斬奪命葬牙がお主の肉を斬らせろと、血を吸わせろと狂喜に鳴き叫んでおるとな」
「ちょっと待ってよ!なんで利を!!」
「・・・お主、人成らざる身でありながら何故人間の肩を持つ?よもや彼奴らが愚行を忘れたわけではあるまいな?」
「でも利は──」
「この痴れ者めがぁ!!」
殺気に満ちた呀の怒号で、プレ子の身体は魂ごと硬直した。
「己を偽るのも大概に致せ!一斑を見て全豹を卜すとはまさにこの事、如何様な言葉で塗り固めようとも一寸の虚、混じわらざるは炒り豆に花が如し!お主の中に渦巻く憎悪は、未だ人間を赦しておらぬ事なぞ既に見切っておるわ。されどその偽善、あくまで立て通すつもりならば某が思い出させて進ぜよう。人間がお主らに行ってきた非道の数々を」
刀を引くと同時に鋭い踏み込みで間合いを詰め、巨大な掌でプレ子の顔面を鷲掴みにして持ち上げる。
掴みかかった呀の腕を殴りながら"離せ!"と、踠くが──
「何故お主は生まれ育った地を追いやられねば、ならかった?お主が一体、人間に何をしたと言うのか?」
"ジュッ!──ショワァアァァ・・・"
大太刀に纏わり付いていたドス黒い念が呀の腕を介して彼女を包み込む。
心の奥底から込み上げてくる言いようもない強烈な不快感を振り払おうと、叫び踠くがドス黒いソレは増すばかり。
「思い出せ・・・自らの意思で来たわけでもないモノを、異国の地にて外来種と蔑まれた挙句"生態系保護の為"と、己の都合だけで掲げた大義名分を免罪符に、人間共はお主らに何をした?」
「あぁ"あぁ"ぁ!があぁ"ああ!!」
「保護とは名ばかり、殺す事を前提に捕われたお主らは八つ裂きにされ、火炙りにされ、その他悍ましき程の理不尽な仕打ち。忘れようにも忘れえぬは、まさに鬼畜の所業」
「やめろ!ヤメろ!!止め──げほっ!」
「そうだその調子だ。己を解放せい・・・お主は彼奴に救われたのではない。その優しさは自ら撒いた種が芽を出し、それが自らの首を絞め始めている事に恐怖したが故の苦し紛れの愚行と知れ」
「うぅ"うう"!人・・・憎・・・」
「ならば某に賛同こそすれど止める理由などあるまい?生態系に影響がなどとは笑止千万。なれば何故、異国の地にお主らを棄てた者共を罰せぬのだ?彼奴らこそが真の咎人だというのに・・・剰え、全ての罪を押し付けられたお主らを討ったモノには、手柄首だと囃し立てる始末よ」
「憎・・・しい・・・」
「憎むがよい・・・怒るがよい・・・その殺意至極真っ当、当然の感情であるぞ。某が斬り捨てるは人間共の悪意。是即ち、個を指しての敵に非ずして"人の意思"こそが真の悪」
「・・・」
「一太刀、二の太刀、三の太刀、斬っても斬っても斬れ味衰えぬは、この斬奪命葬牙に宿る殺意にあり。者共の晴らせぬ恨みが今この瞬間も"人間を斬れ!"と滾り叫ぶ」
「斬レ殺ス、死ネ・・・yサn、k・・・sネ・・・」
「ふふ・・・ふはははーっ!此れを聞いてなお異議申し立てるは誰ぞある!!」
"シュッ──ガシャンッ!"
掴んだプレ子を右腕だけで強引に投げ捨てると刀を納め、店内にいる全ての生体達に問いただす。
呀の目的、それは利眞守を斬る事ではなく"人間共を斬る"事だった。
何故呀はココまで人間を憎み、怨み、強烈な殺意を抱いているのか?
その理由は先の言葉からも分かるように昨今の議題となっている"外来種問題"にある。
言わずもがなアリゲーターガーは本来この国にいるハズのない生物だが、アクアリウム専門店などでは許可も必要とせず、誰でも購入する事が出来た。
その圧倒的な存在感は見るモノの心を奪い、数cm程度の稚魚ならば値段も安く、人間とアリゲーターガーとの距離は縮まっていくかに思えた・・・。
だが本種に関する知識もなにもない、無知な人間共の手に渡ってしまったのが、全ての悲劇の始まりだった。
先述の通りアリゲーターガーは2mを超える大型の淡水魚。
初めこそ一般的なサイズの水槽でも飼育出来るが、次第に巨大化していくアリゲーターガーを前に、なんの知識もなかった人間はどう考えるだろう?
"こんなに大きくなるなんて知らなかった"とか"飼い殺しにするくらいなら川や池で元気に育ってね"などと飼育する者の義務を放棄して"アリゲーターガーを破棄する"という選択肢が浮かんでくるのではなかろうか?
そもそも生息する環境が違うというのに、それに対応出来ず死んでしまっても"残念だったね"くらいにしか考えていないのか?
それこそ真の無責任と言えよう。
しかしアリゲーターガー浮き袋に毛細血管を張り巡らされており、水深僅か数cmの川であろうとも酸欠を起こす事なく環境に対応する事が出来た。
その生きて行く為の進化が、今の外来種問題に繋がっていると考えると皮肉なモノだ。
このように身勝手な解釈をする人間がいる事は否定できない事実であり、以前アクアリウム・バックヤードの軒下に、明らかにサイズの合っていない水槽に入れられた体長1mを超えるデンキウナギが捨てられるという事件があった。
この時、利眞守は激しい怒りに身を焦がし"飼い殺しにするのは可哀想だ、などと思っての愚行かも知れないが、お前のようなヤツに飼われていた日々こそが、このデンキウナギにとっては生き地獄だったと断言する。浅ましき痴れ者よ恥と知れ!!"と、客商売を営むオーナーにあるまじき文言を紙に書き、デンキウナギの入れられてた水槽に貼り付け、なんと3ヶ月もの間、堂々と店の前に晒していた程だった。
そしてデンキウナギは後に"エイル"と名乗り、利眞守と対峙する事になる。
持ち前の姉御肌からなのか特別人間を恨んでいる様子はなかったが、本来なら彼女に対して人間は償っても償いきれない程の大罪を犯している事を忘れてはならない。
このアクアリウム・バックヤードの生体達にとっても決して他人事では、ない人間の無責任さ。
それを重々理解して、尚且つ呀から発せられる"本物の殺意"を知った上で誰が反論など出来ようモノか?
それに、ある意味で彼の言い分は正しい。
かつて人間と共存出来ていたブルーギル、カダヤシ、ヨーロピアンパーチなどの淡水魚も、今や状況をよくわかっていない人間にさえも、忌み嫌われる"特定外来生物"に指定されてしまっている。
此度の決意を呀自身も勧善懲悪だとは思っていないが、一方的な悪とも思っていない。
全ては刀に宿った仲間達の無念を晴らす為の"弔い合戦"なのだ。
「来るがいい戦場利眞守。手始めに、お主の首を天下に晒してくれる・・・例え悪鬼羅刹と蔑まれようとも、この一刀の元に、者共の無念弔えるとあらば、如何様な罵詈雑言とて賞賛の声に聞こえるわ」
呀は棚に腰掛け、脚を大きく開き腕を組んだ。
その威風堂々たる佇まい、まさに合戦を控えた戦国武将さながらの迫力。
来たる3日後には決して語り継がれる事のない現代の大戦場"アクアリウム・バックヤードの戦い"が火蓋を切って落とされる。
相手が誰だとか、そんな事は関係ない。
人間が魚を見るとき、全て同じに見えるように呀からして見れば"敵は人間"の一言で事足りる。
死線を掻い潜る殺気と緊張感を忘れ去った現代人が、悪鬼羅刹となりて刀を振りかざす呀と遭遇してしまったが最後、成す術なく無残な肉片へと変わり果てるのは必然。
殺意に染まった鎧武者を止められるのは、最早利眞守を置いて他にいないのだ!
しかし当の利眞守が、この事実を知る術はない。
まして入院中とあらば尚の事。
だが彼の状況を知らない呀からしてみれば"利眞守が逃げた"として人斬りを始める理由になる。
斬奪命葬牙の怨念から解放されたプレ子ただ1匹だけが、その全てを悟った。
だからこそフラフラと立ち上がった彼女は、無謀にも呀の前に立ちはだかった。
「・・・何人かの為か?あくまで某に楯突くと申すなれば、お主から先に斬ってくれる」
「呀・・・」
カチャカチャと甲冑を鳴らしながら立ち上がった呀は、僅かに重心を落として腰を捻る。
刹那、刀を抜くよりも早くプレ子の背後に回り込む。
背後を取られたと彼女自身が理解したのは、カチャッという金属音が聞こえた時だった。
「背を取られれば是即ち死あるのみ!」
"──ザシッ!"
脇差しを用いた目にも留まらぬ抜刀からの返し刀。
背中をVの字に斬られたプレ子は吹き飛ばされ、ピクリとも動かなくなった。
鮮やかにして冷酷な太刀筋で、1匹の熱帯魚を斬り伏せたのだから、さぞ満足そうな笑みを浮かべているだろうと思いきや、なぜか呀の表情は曇っていた。
「・・・」
目線よりやや高い位置で固定した脇差しを、じーっと見つめながら時に片目を閉じ、時に光を反射させるように刀身を細かく動かしている。
「因果と頑丈な奴よ・・・脇差しの腰が伸びてしもうたわ。某が刀に鈍なし・・・であるにも、お主ごときに引けを取ろうとは」
腰が伸びるとは硬いモノを斬った際に、刀の反りが歪んでしまったという意味で、このような状態になると刀の斬れ味は格段に低下、鞘にすら納まらなくなる。
刀身の背を掴み力尽くで修正して、今回はなんとか鞘には納められたものの実際、戦国の乱世を駆け抜けた武士達も刀が曲がった場合、足で踏みつけテコの原理で修正したり、そのまま捨てたりしていた聞く。
二対の刀を我が子のように溺愛していた呀にとって、これは由々しき事態であり、第三者が見ても彼の動揺が分かる程に焦りの色が滲み出ていた。
そもそもなぜプレ子を斬ったら刀が、ひん曲がってしまったのか?
それ程までに彼女は硬かったのか?
実はプレコストムスの仲間は、強固な鱗(高密度なカルシウムの塊)で全身を覆われており、その見た目と硬さから"アーマードプレコ"と名付けられた種類までいる程で、アクアリストなら誰しもがプレコストムス=鉄壁のイメージを持っている。
本種の鱗は、まさに強化骨格と呼ぶに相応しいレベルで、魚の天敵と言われる水鳥の鋭い嘴を弾き返し、あの超大型肉食魚サメに襲われても、少し傷が付いた程度で何事もなかったかのような面で去って行ったと記録にも残っている。
ぽけ〜っとした見た目に反して、実際のところプレコストムスという熱帯魚は物理攻撃に対して無類の強さを誇り、天敵と呼べる天敵はワニ、寒さ、そして人間くらいしかいない。
つまりプレ子も、刀は疎か弾丸すらも弾き返す、絶対防御に守られた鎧少女だったのだ。
その為、誰よりも彼女の事を理解している利眞守から言わせれば、噛み付き攻撃よりも時たま放ってくるフライングヘッドバットの方が数億倍ヤバいらしい。
現にプレ子は利眞守と千春を必殺のヘッドバットで吹き飛ばしている。
唯一、腹部だけは若干強度が弱いらしく、利眞守の脳天に腹部から落下した際には悶絶していたが今の呀に、ソレに気付く余裕などあるわけがない。
だが衝撃まで無効化するかと言われればそうでもない。
タダでさえボロボロになっていたところに、鋼鉄の打撃を打ち込まれたプレ子は一緒にして気を失ってしまった。
その後、呀は改めて今という状況を確認する。
刹那と言えど取り乱した自分を"珍しい感情だった"と客観的に捉え冷静さを取りもどし、再び棚に腰掛ける。
その後プレ子が起き上がる事はなく、呀も腕を組んだ状態から微動だにせず夜が明けた。
それからの時間が経過するのは早いモノで、呀の指定した期限も残り8時間となった現在時刻は午後3時。
驚異的な回復力でミイラを卒業した利眞守はベッドの上ではあるものの、いつもの服装へともどっていた。
緑のズボンに黒いシャツ、緑のジャケットは損傷の激しかった襟、肩部、ポケット周りを新たに黒のレザーで修理した為、少し印象が変わっているが当人も満更ではない様子。
なにより政宗と千春の心遣いが嬉しかった。
そして目元が隠れるまで深くキャップを被れば、誰がどう見ても戦場利眞守の完成だ。
「こうして見るとミイラだった頃のお前が懐かしく感じるな」
「まぁアレはアレでコーディネートの心配もなかったし楽っちゃ楽だったんだけんね」
「その服しか持ってねぇクセしてなにがコーディネートだぁ?」
利眞守が病院に運ばれた日から、ほぼ2日に1回のペースで政宗は顔を出しに来る。
また見舞いの品として大量の青リンゴをくれたり、ドコから仕入れたのか与太話を聞かせてくれたりと。
その甲斐あってか政宗は利眞守の中で、究極の暇潰しを提供してくれる、ありがたい存在へと昇格していた。
そして今は近所のゲームセンターに有名アーケードの最新台が導入される話で盛り上がっている。
学生の頃はよく昼休みに学校を抜け出して2人でゲーセン行ったよなぁとか、その後2人して千春にマジ説教されたよなぁとか。
少し荒んだ学生時代も、今は昔の良い思い出。
懐かしい風が吹き抜ける中、話は政宗の一言で急展開を迎える。
「しっかしまぁ、お前も変なヤツだよな?防犯だがなんだか知らねぇが自分の店の、ど真ん中に鎧武者を置いてるような野郎、見た事ねぇぞ」
「あ?鎧・・・武者・・・?」
「ったく、あんなモン置いといたら空き巣どころかプレ子ちゃんだって寄り付かねぇぞ?」
「おい、ちょっと待て──」
「つーかあんなデカい鎧武者、骨董品屋にすら──」
「そんなモン知らねぇぞ?なんだそりゃ??」
今度は利眞守の一言で、話は急展開を迎えた。
"救急車に乗せられベッドの上に放り込まれるまで付き添いをしていたお前の目を盗んで、どうやって鎧武者をセットするんだよ"と正論を叩き込んだ利眞守の言葉で政宗はあの瞬間を思い出す。
2人は同じタイミングで、あの場を立ち去ったのにその時、鎧武者なんてあったか?
答えは"よ"の字もなかった。
ならプレ子がドコかから持って来た?
いやいや、あり得ないだろ。
つまり政宗の見たソレは突然と現れた事になる。
店内にいるプレ子を鎧武者と見間違えたのか?
だとしたら彼の目は相当、愉快な目をしていると言わざるを得ない。
"あれ?この流れどうしよう・・・"的な雰囲気が漂い始めた刹那、利眞守はすかさず次なる話題を切り出した。
「政宗」
「なんだ?」
「見なかった事にしねぇか?」
「・・・」
「・・・」
「そ、そそうだな!!あるわけねぇよなぁ鎧武者なんて?まったく俺は老眼か?何と見間違えたのかな〜?は、はは!はははは!!」
わざとらしい口調で誤魔化そうとする政宗。
強面暴力フェイスに反してこの男、幽霊や怪奇現象などホラー系が大の苦手で少しでも"そういう雰囲気"を感じ取ると、しばらく1人で行動したがらなくなる程に怖気付いてしまうのだ。
苦手な理由を本人に言わせると"急に出て来てコッチの攻撃が通用しないから"らしい。
理由はどうあれ、政宗の幽霊嫌いは利眞守的には好都合。
突如現れた鎧武者の正体は、おそらく自分の所の水生生物だろうと確信した彼は口八丁政宗を丸め込み、しばらくアクアリウム・バックヤードには近付かない方が良いと信じ込ませる事に成功する。
そうすれば・・・最悪の事態だけは避けられよう。
「確かちょい先にある二百姓寺ならいつでも、お祓いは出来るみたいだぜ」
「マジか!?」
その一言は2人にとって、まさに救いの言葉。
先手必勝とばかりに病室を飛び出した政宗は風よりも速く疾走する。
1人残された利眞守もジッとしちゃあ、いられないとキャップのポジションを直しベッドから飛び降り、退院予定を5日も前倒しして、こっそり病室を後にする。
変質者と見紛うばかりの利眞守の服装は一瞬にして病院勤務者達に知れ渡り、何食わぬ顔で抜け出す事は不可能となっていた。
その為、医師達に見つからぬよう遮蔽物に身を隠し、時には無駄にアクロバティックな動きを魅せながら順調に出口へと向かっていたのだが──
「あら、利?」
突然背後から名前を呼ばれてビクッ!としながら振り返る。
タイミング悪く、そこにいたのは千春だった。
どうやら政宗と入れ替わるようにして、見舞いに来てくれたところに遭遇してしまったらしい。
さしもの千春も彼の奇行には違和感を感じたらしく──
「・・・ねぇ?」
「はい?」
「病院を抜け出すつもり?」
「いえ、違います」
「ウソ!病人はおとなしくベッドの上で安静にしてなさい!」
"ガシッ!"
「あっ、あぁあぁぁ!!」
ジャケットの襟を掴まれベッドの上へと強制送還された利眞守。
その後たっぷりとお説教された挙句、病院側が許す限りの時間まで千春に監視されるハメになってしまった。
擬人化した生体が現れた今、その1分1秒が惜しいと言うのに、最悪のタイミングで確保された利眞守はダダをこねながら反抗を試みるが、政宗を含む悪ガキ2人はドコか千春に頭が上がらないところがあり、彼女に何か言われてしまうと基本的には逆らえないのだ。
それでも利眞守は反抗し続ける。
今まで現れた生体達の性格は擬人化した際の見た目に比例している事が多い。
おとなしくて優しいネオンとニアは落ち着いた服装だったし、漢気溢れるヤマト達は角刈り褌姿だったし、強気なアーチャー大尉は軍服、同じくエイルもパンクファッションだった。
これらの前例から推測すると今回はどうだ?
しかも政宗曰く"デカい鎧武者"・・・事が穏便に済むとは到底思えない。
なんとかこの状況を突破して、直接その鎧武者とやらに会わなければ、以前のタニシのように生体が暴走してからでは取り返しのつかない事にもなりかねないし、なによりプレ子が危ない。
唯一の救いは、さすがの千春も他人の頭の中までは分からない事。
だが相手は斜め上行く感性の不思議委員長。
裏をかいたつもりが、まんまと千春包囲網に引っ掛かってしまっては意味がない。
さらには妙に感の鋭い彼女を前に、ヘタに行動してはコチラの考えを先読みされる危険性もあるため、利眞守は敢えて数時間のクールタイムを取る事にした。
もどかしさに焼き殺されそうになりながらも虎視眈々と"その時"が来るのを狙っていた彼にチャンスが訪れたのは、午後7時を迎えた頃だった。
「なぁ千春や、お前少し疲れてないか?」
「私が眠った隙に逃げ出すつもりね?でも残念だけど今は眠くないわ」
「とーかなんとか言っちゃって本当は眠くて堪らないんでねぇの?」
「しつこいわよ!まさか睡眠薬でも使おうとしてるの!?」
「まさか!まぁ睡眠薬も麻酔銃もないけど"コレ"なら・・・な?」
不敵な笑みを浮かべた利眞守が見せたモノは、何も持ってない両手の平だった。
妙に膨らみを持たせた言い回しの割には早すぎるネタばらしに千春が呆れ顔を浮かべたその時──
「悪いな千春。5分だけ眠ってもらうぜ」
「え?」
"ススッ──パンッ!"
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「時間だ」
同じ空の下、同じ時間を共有している小さな島国の時刻は午後11時を迎えた。
三日三晩指先1つ動かさなかった呀は目を見開き、辺りを見渡した後ゆっくりと腰上げる。
正面出口に向かって1歩1歩着実に歩み寄るさまは差し詰め、惨劇へのカウントダウン。
事情を知らなかったとは言え利眞守は間に合わなかったのだ。
最早殺意の鎧武者を止めるモノは何もないかに思えたが、水槽の影から不意に何者かが、呀の骨太な足首を両手でガッチリ掴み動きを止めた。
が、それに関して眉1つ動かさず寧ろ"やっと動いたか"くらいの笑みを浮かべ鼻で笑った。
「やはり目覚めておったか。屍に扮し刹那の機を捉えるも兵法の1つと知るが故に、お主の手の内も読めたと言うものよ」
「・・・」
這い蹲ったプレ子を見下す呀の視線と、弱々しい表情を浮かべながら呀を見上げるプレ子の視線が交差する。
正直、両手で掴まれようが全身を使って纏わり付かれようが、一蹴で振り払えるモノを呀は敢えて立ち止まった。
「此の期に及んで、まだ人間共を庇うか?」
「だけじゃ・・・ない・・・よ」
「ほぅ。なれば何の為に抗うと?」
「・・・呀の為だよ」
「なに?」
その一言は呀の予想していた全ての可能性を裏切り、一抹の疑問を抱かせた。
それと同時にプレ子の次の言葉を聞いてみたいとも思わせた。
寝言、戯言、綺麗事、何をほざくいてくれるやら・・・今まさに燃え尽きんとするロウソクの火を払い、出陣の啖呵にするのも悪くない。
楽しみを後に控えたような笑みを浮かべ、這い蹲った彼女の襟を掴むと無理矢理立たせて向き直る。
「その真意、申してみよ」
「だって・・・このまま人を斬っちゃったら・・・本当に・・・呀は悪いヤツになっちゃうじゃん」
「な、なんとお主っ!!」
プレ子の一言は呀の度肝を抜いた。
"此奴は、この状況を理解した上で敢えて某の身を案じると申すか!?"声に出さず、心の内にそう叫んだ。
なぜなら彼女の言葉の意味、それはイコールで呀を"信じている"という事に他ならない。
1度は自分を殺そうとした相手を・・・ましてや、この状況でそんな事を口走れるのか?
普通なら信じる事は疎か、赦す事さえ出来ぬハズ!
だとすればコイツは"普通じゃない"・・・いや、そんな単純な事なのか?
むしろ人間を恨み、憎み、殺意を滾らせる自分が"普通じゃない"だけなのか?
プレ子は仲間を信じ、人間を信じ、剰え自らを斬り付けた相手を信じると言っているのに対して自分はどうだ?
信じてきたモノは刀に宿った無数の怨念のみ・・・邪魔するモノは例え仲間であろうとも悉く斬り捨てた。
周りを見渡せば憎み憎まれの渦中にいた。
そこが自分の居場所だと信じてきた。
外来種と蔑まれるモノ達のあるべき姿だと信じて疑わなかった・・・なのに・・・コイツは・・・。
「呀は・・・少し恐いだけ、で・・・悪いヤツなんかじゃ・・・ない」
プレ子は、ずっと何かを訴えかけてきているようだが最早その言葉が呀の耳に届く事はなかった。
人間を信じる・・・始めこそ、この店内にも人間に対する心地良いばかりの憎悪が犇めき合っていたというのに、今やドリームタブをキッカケに奮闘する1人の人間の姿を見た生体達の憎悪は消え去ってしまっている。
確かその人間も"お前達を信じる"などと綺麗事を言っていた・・・だけどソイツは幾たびの死線を乗り越え、最後まで誰も見捨てず"大胆不敵なアクアリスト"を貫き通していた。
たかだか1人の人間に・・・戦場利眞守という1個体に触れただけで、お前達は人間を赦してしまったのか?
呀は人間を信じる事が出来た周りが羨ましくもあり、同時に憎たらしくもあった。
「もうよいっ!性懲りもせず、のうのうと戯言を垂れる痴れ者め!最早捨て置けぬ!!」
"シャァァ──キシンッ!"
感情的になった呀は声を荒げ斬奪命葬牙に手を掛ける。
"叩き斬る"為に存在する大太刀の、全力の兜割りを受ければ、如何にプレ子の防御力を以ってしてもタダでは済まない。
だが一瞬の迷いは大きな隙となり、気付けばプレ子に懐への侵入を許してしまう。
密着した相手を振り下ろしで斬る事は不可能。
呀は1度ならず2度までも刀を封じられた。
これが意味するモノは即ち"心技体の乱れ"。
呀の強さの根本にあるモノは"殺意"。
しかしプレ子と接している内に揺るぎなき信念だったハズのソレに、本人自身が疑問を抱いてしまったのだ。
その時、斬奪命葬牙が再び強烈な念を放出し始め、呀の全身を包み込む。
すると呀は思い出したかのように893キックでプレ子を蹴り飛ばし、斬奪命葬牙を頭上高くに掲げ、これより斬るべき相手を見下した。
「小賢しい真似を・・・神妙に致せ!!」
腹部を押さえたプレ子は、その場に蹲り苦しそうに悶えている。
逃げられない・・・呀が刀を振り下ろせば天井、床もろとも今度こそプレ子は真っ二つにされる。
だがこのまま彼女を死なすわけにはいかない!
利眞守不在の中で訪れた未曾有の危機を前にして、遂にアクアリウム・バックヤードの生体達が立ち上がる!
"呀さんやめて!!"
"ソレだけはイケねぇぜ!もう少し待ってくれ!!"
"が、呀殿やめるでござるよ!!ププレ子殿斬ってしまったらオーナー殿のげ、逆鱗回避不可の死亡フラグでござる!!"
"そうじゃ!どうしても斬ると言うのならワシらを斬ってからにせい!!"
「お、お主らっ!」
擬人化してるならいざ知らず、本来の姿のまま呀の斬撃を受ければ死を免れ得ぬは必然。
にも関わらず生体達が、逃げ場もない状況で敢えて立ち向かって行けたのはプレ子を、利眞守をずっと見てきたからに他ならない。
今ココにアクアリウム・バックヤードは、種を超えた繋がりに1つとなったのだ!
"だから、その・・・刀を納めて・・・呀さん!!"
"それでも殺りてぇんなら先にオレが相手になってやんよ!!"
"貴様の敵は人間のハズだ!!ならばなぜ伍長に武器を向ける!!己が敵さえ見えぬ貴様は新兵にも劣る!!"
"ハッ!今のアンタはプレコストムスに八つ当たりしてるだけのヘタレ野郎って事だな!!"
「・・・人間なぞに臆した腑抜け共が知った風な口をぬかすなっ!!某は既に修羅!死の安らぎさえも打ち捨て、八万地獄に堕ちるも定めと受け入れし修羅なるぞ!元より死ぬと思わばこその大戦場、今更の躊躇いなど毛頭もないわ!!」
だからこそ呀も引けなかった。
なぜなら呀も人間達に蔑まれてきた仲間の"思い"を背負っているからだ。
「憎いか!某が憎いか!申してみよ!!某が憎いかあぁあぁぁ!!」
周りの声を掻き消すように狂気に満ちた怒号を上げると、再び怨念を纏い、先ほど抱いてしまった感情を"一時の迷い"と一蹴して憂いを断ち切った。
"ダメ・・・プレ子さん逃げて!!"
「ネ、オ・・・逃げたい、けど・・・体が動かない・・・もうダメ・・・みたい」
"諦めないで!!"
「哀れなり!人間に屈したが挙句の末路は総じて何とやらとなぁ!!」
左足を1歩前へ出した呀は背筋を伸ばし柄を握る手に力を込める。
今こそ思い知るがいい・・・修羅の刃を!!
"あぁっ・・・プレ子さんを・・・助けて!!呀さんを止められるのは・・・プレ子さんを救けられるのは"首領"しかいません!!"
"・・・"
"お願いです!彼女を・・・親友を助けて!首領!!"
「終いだ!!」
"──ガガッ!"
天井に突き刺さった刀をプレ子めがけて一気に振り下ろす!
「利・・・ごめんね・・・」
死を覚悟したプレ子は、涙ながらに最期の言葉を残し目を閉じた。
その刹那、激しい閃光と共に金属の咆哮が店内に木霊する。
呀を止める事は出来なかった・・・絶望にうち犇めく生体達を他所に、事態は急展開を迎える事となる。
"──ギギッ・・・"
「・・・何奴か」
「オレ様の縄張りでずいぶんと好き勝手してくれたなぁ、この殺戮嗜好め」
強烈な閃光は斬奪命葬牙によるモノではなく、生体が擬人化した際のアノ光だった!
プレ子と呀の間に割って入った光は、2匹を引き離すように強く輝きながら間一髪のタイミングで修羅の刃を受け止めていた!!
"親友を助けたい"
ネオンの想いに応え、姿を現したのはアクアリウム・バックヤード"もう1本の牙"だった。