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アクアリウム・バックヤード  作者: 鈴木 崇嗣
第1章 利眞守奮闘編
12/16

カルキ抜き ヒットマン&スナイパー



ココはドコだろう?

辺りを見渡しても地平線(ちへいせん)彼方(かなた)まで広がるのは、雑草(ざっそう)1つ存在しない荒れた大地。

空はまるで血を(こぼ)したかの(ごと)深紅(しんく)に染まり、ドス黒い雲が点々と(ただよ)う不気味な空間・・・その中に1人の男がいた。



「・・・えっ?なにこれ??何で俺は(おり)の中に閉じ込められてんの!?」


"──グゥウアアェエェェェ・・・"



「うぉえ!?なによ今の雄叫(おたけ)びは!!」


「チッ、いつまで寝ぼけてやがるんだ!!あのバケモノの狙いはテメェなんだぞ!?」


(おり)の外から語り掛けたのはラーニャだった!


「ラーニャ!?お前どうして──」

「貴様はいちいち驚かなければ喋れんのか!!」


聞き覚えのある怒号(どごう)に振り向くと、そこにはアーチャー大尉(たいい)の姿まであった!

一体何がどうなっているんだ!?

なぜ願いを叶えた2匹が、再び擬人化しているのか!?

そしてこの状況は一体?

混乱する利眞守(とします)に、考える時間さえも与えぬとばかりに、先ほどの雄叫(おたけ)びが再び大地を()き、地平線(ちへいせん)を揺らし不気味な空に木霊(こだま)する。


「来やがったな・・・おい!オレが突っ込むからテメェは後方で援護射撃でもしてろ!!」


「貴様こそ我輩(わがはい)の邪魔だけはするな!!」


「気に入らねぇ野郎だが、その減らず口だけは()めてやる!!」

"──シュウゥッ!"



(するど)い踏み込みから高速移動するラーニャ。

その視線の先を見ると──

「オオォォォ・・・」


「げえっ!?あのバケモノは一体なんぞ!?」


「ヤツこそが我輩(わがはい)小娘(ラーニャ)にとっての敵"異形(いぎょう)の怪物"である!!」



異形(いぎょう)の怪物って・・・えぇ!?

確かアーチャー大尉(たいい)の話では全長2mを超えるとは聞いてたけど、アレは(あき)らかに10mを超えている!!

楕円形(だえんけい)の真っ黒い巨体からは、ウネウネとした無数の触手のようなモノを伸ばし、その中央には不気味に輝く赤い眼のようなモノが円形(えんけい)に並んでいる・・・こんな生物は見た事がない。

それ以前に、そもそもアレは生物なのか?



「つーか何で俺は1人で(おり)の中なわけぇ!?」


「その(おり)はトクソテス部隊技術部の全勢力を集結させて作った絶対防御要塞だ!貴様が如何(いか)に暴れようとも決して開かぬ!!無論(むろん)異形(いぎょう)の怪物とて同じ事!!貴様は(こん)作戦の最重要保護リストに指定されている!つまり我輩(わがはい)小娘(ラーニャ)も貴様を(まも)る為に戦っているのだ!!例え目標を撃破出来たとしても、貴様が無事でなければ無意味!!貴様が負傷する事は(すなわ)ち任務の失敗を意味する(ゆえ)貴様には、そこでおとなしく見ている他に選択肢はない!!」



なんか話が凄い事になってきた!

あの怪物が俺を狙ってるって!?

どうして自分が狙われてるのかも、自分が今どういう状況なのかも理解できない利眞守(とします)は、とりあえず正座(せいざ)をしながら考えてみる。

しかし理由が見当たらない・・・本当に何が起こっているんだ?



「おらぁ!!」

"──ザシュッ!"


「ウオオォォォアア!!」

"──ドゴォンッ!"


利眞守(とします)を放置して、一足先に怪物と対峙(たいじ)していたラーニャは(するど)い斬撃で応戦(おうせん)するも、相手の放つ力任(ちからまか)せな攻撃を前に苦戦していた。

腕なのか触手なのか、それとも足なのか?

怪物は、よくわからない部位(ぶい)をしならせて地面ごとラーニャを粉砕(ふんさい)しようとするも、彼女は鮮血(せんけつ)殺し屋(ヒットマン)と恐れられた程の猛者(もさ)

並の攻撃では、かすり傷どころか触れる事さえ(まま)ならない。

不規則な攻撃をヒラリと回避しながらが相手の一撃を見切(みき)り、背面跳びからの急降下攻撃を狙う!

だがその姿を見たアーチャー大尉(たいい)は彼女の(おか)した重大な(あやま)ちに気付いた。


「バカ者!!空中に逃げては敵の思うツボだ!!」



"──ドゴォッ!──メキメキ・・・バシュッ!"

「ぐぅわぁ!!」


死角から飛び出してきた触手に殴り飛ばされたラーニャを、すかさずアーチャー大尉(たいい)が受け止める!


「げほっ!・・・チッこりゃアバラの2、3本は()ったか」


「・・・貴様は下がっていろ!最前線には我輩(わがはい)が立つ!!貴様は我輩(わがはい)の許可があるまで最重要保護リスト警護にあたれ!!」


「テメェ・・・そんな古傷()()げて行く気かよ」


「今の貴様より数億倍マシだ!!」



彼女をゆっくり地面に寝かせると、今度は大尉(たいい)がライフルを(かま)えながら怪物めがけて突撃する。

一方のラーニャは左脇腹(わきばら)付近を押さえ、苦悶(くもん)の表情を浮かべていた。

その口元からは(わず)かに吐血(とけつ)(あと)が見てとれる。


「ラーニャ!しっかりしろラーニャ!!」


「はぁ・・・う、うるせぇ・・・よ・・・げほっ!」


ぐったりした表情のラーニャは再び吐血(とけつ)

それを見れば、誰だって彼女が危険な状態なんだと瞬時(しゅんじ)に理解できる。

自らの血で首筋から胸元にかけてを()()に染めながらも、よろよろと立ち上がり怪物を(にら)みつけたラーニャは、口の中に残った血を吐き捨てニヤッと笑う。

まさか戦うつもりなのか!?

自殺行為だ!なんとかして彼女を止めなければ!!


「アーチャー大尉(たいい)の言葉を忘れたか!許可無く──」

「オ、オレは・・・アイツの部下じゃ・・・ねぇんだよ!だ、だから・・・そんな()(ごと)(したが)う・・・ギリなんざ・・・ねぇっ!」


傷付きボロボロの身体で、なおも戦おうとする彼女を(おり)の中から傍観(ぼうかん)する事しか出来ない利眞守(とします)は、究極の()れったさを味わっていた。


「・・・うぅっ!」


「貴様!!我輩(わがはい)が許可を出すまで最前線には来るなと言ったハズだ!!」


「オレは・・・テ、テメェの・・・くっ!・・・部下じゃねぇんだよ!!オレとテメェは・・・た、対等(たいとう)だろ・・・?」


ヒドいダメージを()っているラーニャだが、アーチャー大尉(たいい)も、それに等しいダメージを()っていた。

おそらく古傷が開いたのだろう。

コートからピタッピタッと()()な血が(したた)り落ちている。


「・・・ならば我輩(わがはい)と共に死ぬか?」


「へっ・・・悪く・・・ねぇな・・・」


「よかろう!!貴様の心意気(こころいき)(めん)じて我輩(わがはい)との共闘(きょうとう)を許可する!!(なお)(こん)作戦において貴様に死亡する権利は(あた)えぬモノとし、許可無く身勝手な戦死を()げる事を断固(だんこ)(きん)ずる!名誉(めいよ)ある戦死など存在しないと、(きも)(めい)じて心得(こころえ)よ!!」


死力(しりょく)()(しぼ)って2匹は怪物を攻め立てるが相手が悪すぎる!

どんなに攻撃しようともコイツ、これといって効いてる素振(そぶ)りを一切見せない。

この怪物は一体どれが顔なんだ?

そしてどれが腕なんだ?

そもそもコイツは今どんな体勢なんだ?

全てにおいて圧倒的な強さを(ほこ)る怪物を前に、ジリジリと追い込まれていくラーニャと大尉(たいい)


「アーチャー大尉(たいい)、俺をココから出してくれ!これ以上お前達が戦っても被害が増えるだけだ!!」


「貴様は我輩(わがはい)の言葉を聞いていなかったのか!!(こん)作戦は貴様の安全が最優先である!!」


「それにテメェが・・・いまさらノコノコ出て来やがったら・・・オレ達の血が・・・ムダになんだろうが!」


「ふざけろ!俺は保護対象なんざになった記憶はねぇぞ!それに保護対象だったとして、ソイツが戦っちゃイケねぇルールなんてねぇだろ!!」

"──ガンガンッ!──ガシィンッ!"


内側から(おり)を破壊しようと893キックをかますが、いかんせんビクともしない。


「何がトクソテス部隊の全勢力だ!こんな(おり)に閉じ込めやがって!!」


苛立(いらだ)利眞守(とします)を無視してラーニャは次なる作戦を提案(ていあん)する。



(らち)があかねぇ・・・こうなりゃ一点を集中攻撃してヤツの体に風穴(かざあな)()けてやろうぜ!」


「よかろう!貴様に合わせる!!」


「ぜってー(はず)すんじゃねぇぞ!」



インスタントコンビとは思えない程の連携をみせ、1発目にラーニャが切り()き、2発目にアーチャー大尉(たいい)が同じポイントを精密狙撃。

そして3発目に再びラーニャが手刀による突きを放ち、そこから錐揉(きりもみ)回転!

作戦通り、巨大な風穴(かざあな)()け貫いた!!

そのままラーニャは空中で体勢を立て直し、反対側へと着地。

起死回生(きしかいせい)の連係技に、利眞守(とします)(おり)の中からガッツポーズを決め、怪物の撃破を確信した。


「ったく・・・デカ物がいつまでもウザってぇんだよ」


「さすがのヤツとて、タダでは済むまい!!」


「オオォォォ・・・」

"──ズガアァァン!"


怪物は大地を揺らしながら崩れ落ちた。

その巨体に()いた風穴(かざあな)から互いを確認しあうと2匹は、ゆっくり(かま)えを解除する。





"──ドシュッ!"





「っ!?」

「なに!?」


刹那(せつな)、荒れた大地に肉を切り()く嫌な音が木霊(こだま)する。

同時にラーニャとアーチャー大尉(たいい)に例えようのない鈍い痛みが走った。

見ると撃破したハズの怪物から2本、黒く(するど)いトゲのようなモノが伸び、それが2匹の腹部を貫通そのまま串刺しにしていた!


「な・・・なんで・・・だよ・・・?」


「くぅはっ・・・み、見誤(みあやま)ったか・・・」


「グゥウアアェエェェェ!!」

"──ブゥオォンッ!"


息絶えたハズの怪物は再び立ち上がり、2匹を乱暴に投げ飛ばす。

まさに絶望を具現化(ぐげんか)したような光景に利眞守(とします)は言葉を失った。

それは投げ飛ばされたアーチャー大尉(たいい)が、利眞守(とします)の入れられた(おり)に叩き付けられたあとも依然(いぜん)としてだった。

パックリと開いた大尉(たいい)の腹部からは本来、見えてはイケない臓物(ぞうもつ)などがダラリと()れ下がり、荒れた大地を()()鮮血(せんけつ)(うるお)している。

さらにその衝撃で飛び散った大量の血飛沫(しぶき)利眞守(とします)の顔面に付着。

彼は無言のまま、親指で()き取りソレを確認した。

ぬるりとした生暖(なまあたた)かさを感じるコレこそが、先ほどまで大尉(たいい)の体内を流れていた熱き血潮(ちしお)に他ならない事を物語っている。

しかし本来の居場所である彼の肉体は、鉄格子(てつごうし)(はさ)んだ(むかい)の地面に力無く倒れている・・・ジャケットが血まみれになるのも躊躇(ちゅうちょ)せず、鉄格子(てつごうし)に張り付き利眞守(とします)は語り掛けた。


大尉(たいい)?アーチャー大尉(たいい)しっかりしろ!大尉(たいい)!!」


「・・・」


「ラーニャ!起きろラーニャ!!」


「・・・」


「おい・・・ウソだろ・・・返事をしろ大尉(たいい)!ラーニャ!!」


全身全霊の力を込めて叫んだ!

2匹の名前を呼び続けた!!

しかしその()い掛けに対する応答はない。

認めない、認めてたくない!認めてやるモノか!!

2匹が返事をしないのはタダ疲れているだけなんだ!

俺に返事をするのが億劫(おっくう)なだけなんだろ!?

本当は聞こえてるんだろ!?


「ははっ・・・そういう事か・・・そりゃ俺を驚かす為の前フリか!いや~(だま)されちまったよ!俺の予想を(はる)かに超えるクオリティでねぇの!?いやいやいやコイツは1本どころか1000本くらい取られたぜ!さぁてネタバレもしちまったし?そろそろ終わりにしようぜ」


「・・・」

「・・・」


「こ、こりゃあ!いつまで続けるつもりだ!!」


「・・・」

「・・・」


「あっ、確か冷蔵庫に千春(ちはる)から(もら)ったケーキがあったな?ラーニャの好きな玉ひもと、大尉(たいい)の好きなコオロギが入った特製のヤツが」


「・・・」

「・・・」


何を言っても(むな)しさだけが込み上げてくる・・・なぜだ?

その答えを一番理解しているのは利眞守(とします)本人だろう。

あんな攻撃をまともに食らってしまっては2匹はもう"助からない"。

だがその事を認めたくないんだ・・・だから利眞守(とします)は普段通りに話し掛け続けた。

返ってくるハズのない返事を待ち続けた。

自分を(いつわ)り続ける道化師(アルルカン)(つら)(おが)嘲笑(あざわら)う為か、活動を再開した怪物が地響きを鳴らしながら、ゆっくりと利眞守(とします)の入れられた(おり)に向かって来る。

遠くから見て10mを超えると分かる程の巨体。

それが1歩1歩近付いて来るのだから、その迫力(はくりょく)圧巻(あっかん)だ。

真っ直ぐコチラに向かって来る怪物を、(うわ)(そら)で見ていた利眞守(とします)は、ふと気付く。


「お、おい・・・ちょっと止まれ!!それ以上歩くとラーニャが──」


怪物と自分を結ぶ直線上にラーニャの姿がある事に。

しかも彼女は倒れたままピクリとも動かない。


「止まれ止まれ止まれえぇぇ!ストーープ!!」


「オオォォォ・・・」


彼の叫びが通じたのか?

怪物はラーニャを踏み(つぶ)寸前(すんぜん)の位置で止まった。

ふぅ~っと利眞守(とします)が胸を()で下ろした刹那(せつな)──

"──グヂャア"ァ!"


「!!!」


目一杯(めいっぱい)まで触手を振り上げた怪物が無抵抗なラーニャめがけ、その一撃を振り下ろした。

直前で1度立ち止まり彼女の存在を確認した上での、この所業(しょぎょう)・・・確信犯(かくしんはん)だ。

コイツは全てを理解した上で、わざとラーニャに(むご)過ぎるトドメを・・・!!

その光景を()()たりにした利眞守(とします)の瞳から光が消えた。

冷酷(れいこく)冷徹(れいてつ)冷血(れいけつ)

その程度じゃ()りない!

残酷(ざんこく)残虐(ざんぎゃく)グロテスク?

そんなモンじゃない!

鬼だの悪魔、鬼畜(きちく)なども赤子(あかご)()(ごと)同然だ!

それは前触れなく黒き者(スルト)より()げられし大いなる冬(フィンブルヴェト)

世界樹(ユグドラシル)()()てギムレーなど存在しない無限の死者の岸(ナーストレンド)

全ての光が(つゆ)と消え行く終末の日(ラグナロク)



「ラー・・・ニャ・・・?」


「グゥウオオォォォアアァァ!!」

"──ドァンッ!──ドァンッ!"


(わずら)わしいハエを仕留(しと)めた満足からくる雄叫(おたけ)びなのか、はたまた腹が捩切(よじき)れる程、笑いこけているのか。

次なる獲物に狙いを(さだ)めた怪物は、悠々(ゆうゆう)と利眞守(とします)めがけ(せま)り来る。

だがそれよりも恐ろしい異変が、(すで)に起きている事など、怪物はまだ知るよしもなかった。

(おり)の中から(にら)みつける彼の顔は、禁じ手殺法(さっぽう)正統伝承者(せいとうでんしょうしゃ)、史上最強のアクアリストと(うた)われる男の顔になっていた。


「ヤったな・・・よくも・・・ラーニャを、大尉(たいい)を!!」


"──ガシッ!──ギギギ・・・グシャッ!"


「キサマァアァァアアァァァァ!!」



少し(くき)の太い雑草をへし折るかの(ごと)く、軽々と鉄格子(てつごうし)をひん曲げると(おり)の中から彼は現れた。

キャップの奥に隠された、その眼が怒りで深紅(しんく)に染まる今、彼は何を思い何を見ているのか。



「オオォォォアアァァ!」

"──バシュウゥッ!"


獲物が自ら、(おり)の外へと出てきたのをこれ幸いとばかりに、怪物が利眞守(とします)めがけ触手のようなモノを振り下ろす!

大地を(えぐ)りながら砂煙を巻き上げ、利眞守(とします)もろとも全てを粉砕(ふんさい)した!

確かな手応えを味わっているかの、怪物は腕を振り下ろしたまま微動だにしない。


"──ドチャッ!"


だが次の瞬間にはキレの良い、(かわ)いた音を響かせながら、振り下ろされた触手はバラバラに吹き飛んだ!!

その中心には右腕を天に(かか)げ、怪物の腕を穿(うが)利眞守(とします)の姿があった。

怒りに震えるその姿を見て、怪物は自分が何者を敵に回してしまったのかを知る事となる。



「グゥウアアェエェェェ!!」

"──シュバッ!──ブゥオォンッ!──ドゴォッ!"



直後、その攻撃がさらに激しさを増す。

それは殺気を(まと)った利眞守(とします)を前にした"恐怖"からくる防衛本能だった。

だが遅すぎる・・・今の彼にはラーニャと大尉(たいい)を傷付けた怪物を許すなどという甘ったれた選択肢は存在しない!


「さっさとこの世から消え失せろ!!」



1秒たりとてコイツに生きる資格はない!

利眞守(とします)は見た事もない(かま)えから、禁じ手殺法(さっぽう)の"最終奥義"を発動させる!


「禁じ手殺法(さっぽう)が最終奥義!掟破(おきてやぶ)りのギュンター回帰(かいき)!!」

"──フッ・・・──ザザッ・・・"


利眞守(とします)の姿が徐々(じょじょ)に(かすん)んでいく・・・そしてその姿は完全に見えなくなった。

しかし彼は間違いなく"そこにいる"。

何が起きたのか?

この不可解な現象こそが"掟破(おきてやぶ)りのギュンター回帰(かいき)"の真髄(しんずい)で、厳密(げんみつ)に言えば利眞守(とします)の姿が消えたのではなく、相手が彼の存在を"認識する事が出来なくなった"と表現するのが正しい。

全ての事象(じしょう)は、それを理解した時に初めて"認識する事が出来る"。

逆に言えば、理解できない事象(じしょう)を認識する事は不可能となる。

今、利眞守(とします)は世界の(ことわり)外側(アウトサイド)の存在として認識された為、(ことわり)内側(インサイド)に存在している怪物からは、利眞守(とします)という存在を認識出来なくなってしまったのだ。


長引(ながび)かせるつもりはない!(ふせ)(すべ)もなく()られる恐怖と共に、絶望を()いて冥府(めいふ)()ちろ!!」


姿無き利眞守(とします)の攻撃にその巨体は、みるみる解体されていく。

容赦(ようしゃ)はしない!

それが2匹への手向(たむ)けでもある!


"──ザシュッ!──ゲチャッグァ!"



時間に直せば約2分。

怪物を存分に破壊したのち、利眞守(とします)はラーニャとアーチャー大尉(たいい)(とむら)いながら考える。

この不可思議(ふかしぎ)な世界で一体どれだけの人々が、俺と同じ悲しみと怒りを(いだ)いているのか。

どれだけの力無きモノ達が泣いているのか?

俺のやるべき事は決まった・・・この世に蔓延(はびこ)る、いかなる闇も見つけ出す狙撃手(スナイパー)となり、(あらが)う悪に絶対の死を与える殺し屋(ヒットマン)として俺は生きる!!

神か悪魔か?

今この時より利眞守(とします)は自らの名を捨て、無情の救世主"アクア・ザ・ダークメシア"が誕生した。

どこまでも広がる荒れた大地と、深紅(しんく)の空に(はさ)まれながら彼は行く・・・己の使命を(まっと)うすべく、死の(やす)らぎすらも打ち捨てて──

──to be continued



・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・



「っていうのを考えたんだ!タイトルはアクアリウム・バックヤード外伝(がいでん)第1章、殺し屋(ヒットマン)狙撃手(スナイパー)!!」


「・・・外伝(がいでん)すぎてアクアリウム・バックヤードとか、その他もろもろが一切リスペクトされてない気がするんだが?しかもラーニャと大尉(たいい)死んでんじゃん」

(それより、どうしてギュンター回帰(かいき)を知ってんだ?)


「わかってないなオーナーは!仲間が死ぬから物語が発展するんでしょ!?」


「つーかこれ、どういう設定なんだよ?」



"──バシャバシャ!"


「ほーら言わんこっちゃない。ラーニャが怒って水槽バンバンやってんじゃねぇかよ」



"──ピシュッ!ピシュッ!"


大尉(たいい)も仲間連れて、お前に一斉射撃してるぞ」


「よーし、さっそく第2章を考えよう!!タイトルは筋肉&ヒールラッパーで──」

「って聞けよ!せめてラーニャと大尉(たいい)の話だけでも聞けよ!!」



なんだか2匹には(もう)し訳ないが、プレ子が楽しそうならそれで良いか!と開き直る利眞守(とします)であった。

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