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アクアリウム・バックヤード  作者: 鈴木 崇嗣
第1章 利眞守奮闘編
1/16

プロローグ プランも水槽も立ち上げが肝心



時代(とき)は現代、舞台は某所(ぼうしょ)

その中でもローカルな風合(ふうあ)(ただよ)某地区(ぼうちく)のとある場所。

陸の孤島(ことう)(ある)いは世界の終着点(おわり)

最果(さいは)ての地を彷彿(ほうふつ)とさせるムダに開けた土地のど()(なか)には一軒(いっけん)の水生生物専門店が存在する。

奇跡的な立地条件の悪さにもめげず、デンッと構えるその店は地元民でも通らない横道を抜け、急勾配(きゅうこうばい)な上り坂を()()り、遊具も無い地味な公園を目印に十字路を右折。

さらに、そこから約1km直進した所にソレは突如(とつじょ)現れる。

古ぼけた外装に破れた暖簾(のれん)、塗装の剥がれた看板は(かろ)うじて読める程度。



店の名は"アクアリウム・バックヤード"



まだまだ()の光が(まぶ)しい時間だというのに、周辺には(ひと)()ひとりの気配も感じられない。

それどころか(あり)んこ1匹すら、その気配を感じ取る事ができない。

にも(かかわ)らず周りの事など我関(われかん)せずと、その店を1人で()()りする男が居た。

緑色の長ズボンに黒いシャツ。

その上に緑色のジャケットを羽織(はお)り、頭にはトレードマークの色褪(いろあ)せたカーキ色のキャップ。

しかもソレを目元(めもと)が隠れるまで深く(かぶ)たその姿は(まご)う事なき変質者。

男の名は"戦場(いくさば)利眞守(とします)"。

元々は学生の頃からの趣味としてアクアリウムに(きょう)じ、後に(おろし)のブリーダーとして生計を立て独立(どくりつ)

最終的には(わか)くして自分の店まで手に入れた猛者(もさ)である。

ポンプが生み出す穏やかな水流の音と、酸素を供給(きょうきゅう)するエアーのブクブクをBGMに1人生体達の世話をしていたその時──

"──ガチャッ"


「相変わらず(さび)れてんなオイ!」


「それが客に対する第一声か?おぉ?宅配ぐらい、さっさと出来ねぇのか万年平社員!」



店にやって来たのは客ではなく学生時代からの幼なじみにして無二(むに)悪友(あくゆう)、現在は自ら立ち上げた小さな宅配業を(いとな)強面(こわもて)男"千芭(せんば)政宗(まさむね)"だった。

グレーにオレンジ色のラインが入ったツナギをバッチリ着こなし、程よく(たくわ)えられたアゴヒゲと後ろ手に(むす)んだ髪から、彼がヤンチャな学生時代を過ごしてきた事が(うかが)い知れる。

対面するなり文句を言い合う2人だが、この(けな)し合いが彼らにとっては挨拶(あいさつ)のようなモノ。

その証拠に利眞守(とします)政宗(まさむね)も、その表情は()み切っていた。


「おい・・・そこ片付けてくれよ・・・コレ結構重いんだよ」


「あんりまぁ、こりゃまた仰山(ぎょうさん)な事で」



改めて見た荷物のスケールに利眞守(とします)は少し驚いた。

とりあえずレジ前に散らばったフィルターやらを片付け"ココに置け"の指示を出す。


"──ドサッ!"



「え〜とフィルターとエサとCO2ボンベ、それとガラス(ばん)・・・あっ、あとネットと砂利(じゃり)で全部だったよな?」


「パーフェクトだぜ」


荷物を受け取り、ささっと殴り書きのサインを済ませるとソレを政宗(まさむね)めがけカードのように投げ付ける。

挑戦的なパスに(こた)政宗(まさむね)も2本の指だけで華麗(かれい)にソレをキャッチしてみせた。

お互い特に意味のない行為だが、それはそれで悪くない。

さっそく中身を確認していた利眞守(とします)は段ボールの奥底に転がった、何やら見慣(みな)れぬ物体を発見する。

それは円錐形(えんすいけい)の容器に入った・・・エサのようだが・・・?



「これなんぞ?」


「おうソレか?なんか俺(あて)のモンらしいけど、どう見たってお前の担当領域の代物(しろもの)だよな?別に魚のエサなんて必要ねぇし、つーわけでお前にやるよ」


「なにが"つーわけで"だよ。大体YAMAMOSO(ヤマモソ)なんてメーカー聞いた事ねぇし何より"ドリームタブ"ってなんだよ?胡散臭(うさんくさ)さ満点でねぇの」


「そう言わずに(もら)っとけよ!」


シャカシャカと容器を振りながら"こんなモンいらねぇよ!"と返品を要求(ようきゅう)する利眞守(とします)に対し、政宗(まさむね)は暴力的な笑顔を浮かべながら親指を立てて気前(きまえ)の良さをアピールする。

悪友(あくゆう)2人が(そろ)えばこんなムダ話も毎度(まいど)の事・・・なのだが、この時だけは"意味"が違った。

自営業の水生生物専門店アクアリウム・バックヤードを舞台に、史上最強のアクアリスト戦場(いくさば)利眞守(とします)の波乱に満ちた日常系異種コミュニケーション黙示録(もくしろく)が今、幕を開ける!

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