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君の声が聞こえない  作者: 葉方萌生
第1章 再会
3/43

2.

***


僕が彼女と出会ったのは高校2年生の春、通っていた高校からほど近くにある街中の書店だった。

昔ながらの書店で、店内に入るといつもふわりと紙の匂いが漂う。至極分かりやすい本の配置をしていたため、目的の本を見つけやすい。高校生の僕が、気軽に立ち寄ることのできるお店だ。

僕は来月行われる模試に向けて数学の参考書を買いに来ていた。参考書コーナーには何種類もの本があって、どの参考書にするか考えあぐねていた。多分どれもそんなに変わりはしないのに、僕は良さそうな本を一冊ずつ棚から取り出してパラパラと中身を見ては棚に戻すという行為を繰り返す。そうして考えること30分、ようやく買う本を決めてその本に手を伸ばした時だった。


「あ、あった」


どこかで聞き覚えのあるような声がして、横からスッと誰かの手が伸びてきた。その手は僕が取ろうとした参考書の隣にある『徹底攻略』と書かれた本を掴んだ。実は僕もその本に目を通していたのだが、如何せんそれは群を抜いて分厚く、また内容もかなり難解だった。


僕はその『徹底攻略』を手に取った人が一体どんな人なのか気になって、チラリと横を見た。


その人は女の子だった。肩まで伸びた黒髪が自然にうねっている。ぱっちりとした二重まぶたが印象的だった。おそらく、自分と同じ高校生だろう。だってそこは「高校数学」と書かれた棚の前だったのだから。

 それにしても高校生にしては大人びた子だった。制服ではなく、私服を着ているせいなのもあるだろうけれど、いかにも難解そうな参考書を手に取って顎に手を当てじっと何かを思案する様子は彼女の聡明さを匂わせていた。それに加え、艶のある黒髪と白い肌が大人っぽさを引き出しており、何というかもう……魅力的だと思った。


「あの、何か?」


僕が彼女をじっと見ていたせいか、彼女は僕の視線を感じたようで、訝し気にそう訊いてきた。


「い、いえ。何でもありません」


「そうですか」


僕らはそんなぎこちない会話をしただけで終わった。僕としてはこれ以上怪しまれるのも嫌なので良かったのだが、彼女があまりに興味なさげに僕を見ていたのは少し悲しかった。いや、まあ初対面の相手なのだから当然だが。


それにしてもどこかで見たことがあるような顔だったな、と思ったが気のせいだろうか。


僕は結局『徹底攻略』の隣にあった『基礎から数学』という参考書を買って家に帰ったが、帰宅してからもずっと彼女のことが頭から離れなかった。


彼女はどこの高校に通っているのだろう。


あそこの書店にいたということは、この辺の学校なんだろうか。


頭の中はもうすっかり彼女に対する疑問が渦巻いていた。

ダメだ、せっかく参考書まで買ったのだから、模試に向けて勉強しなければ!

そう意気込んで参考書を開き問題を解き始めたが、やはり集中できない。だから僕は諦めて今日はもう寝ることにした。


「明日から頑張ろ」


恐らく「高校生の自分への言い訳としてはかなり低レベルな言い訳NO.1」であろうその言葉を呟いて僕は眠りについた。


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