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第一話『女勇者暗殺作戦』

 「――で、婚約が決まってしまったと?」


 半ば予想していたのかさほど驚くことはないチュリィと引きつった笑みのゴルガムさんを前に、俺はうっかり結婚をしてしまった経緯を話終えた。

 場所は俺の自室。魔王用の部屋として作られた空間の為かゴルガムさんほどの巨体が地べたに座っていても、場所を持て余すほどの広さがある。この広すぎる空間は、まるで自分が責められているような錯覚を覚えてしまう。

 勇者と結婚するのは愚策だったのではないか。

 この程度で計画に支障が出るなんておかしい。

 本当にお前に魔王の資格があるのか。

 強い権力を持っているはずが、その権力が今は刃になって胸を貫いているようだ。

 良くない方向へと考えが向かおうとしていたので、その嫌な考えを振り払う。今はそんなことよりも、エリンの扱いをどうするかだ。


 「ところで、今その勇者様は何しているのかしら?」


 ゴルガムさんは、『勇者』の部分を強調させながら言う。

 そういう言い方はやめてほしい、温厚なゴルガムさんもさすがに刺々しい。


 「……今、他の部屋で寝てもらっているよ」


 「つまり、そこが王女の私室になるわけね」


 「……うん」


 このやっちまった感に頭を地面に打ち付けて、そこら中を転がり回りたいほど自暴自棄になりそうだ。気が触れてしまったと思われたくないので、あまりの辛さに顔を覆ってしまう。

 

 「うぅ……俺どうしたら……」


 そんな俺の腕を掴んで強引に顔を解放させたのはゴルガムさんだった。


 「魔王様! 何を女々しいことを言ってんのよ! どんな形であれ、男が女を妻にすると決めたんでしょ!? それはアンタの勝手な言い分よ! 人と関わり、その結果が結婚だった。さらに、当事者であるなら魔王様に責任が伴うわ。ねえ、魔王様ごちゃごちゃ言うのは後で何回だって聞く……文句を言う暇があるなら、最後まで責任取りなさいよ!」


 「ゴルガムさ……ん……」


 これまた珍しく男前なゴルガムさんの強い言葉に胸がときめいてしまう。正直、俺が女の子なら抱かれてもいい。


 「アタシだって最初は驚いたけど……。ま、面白いからいいかなて思うようになったわよっ」


 「――お前も同類か!?」


 心を許しかけたゴルガムさんすら、まさかチュリィと同じ思考だとは思わなかった。厄介な思考の持ち主であるもう一人の人物チュリィが俺とゴルガムさんの間に割って入る。


 「まあまあ、ゴルガムさんもこの場を和まそうと必死になんですよ」


 「そうよそうよ、プスススー」


 「ゴルガムさん、なんかプスプス笑っているけど!? 後、この場面でお前が出て来ると俺の怒りの炎に油を注ぐからやめろ! ……とりあえず、今はエリンをどうするかを考えるぞ」


 不安定な気持ちをツッコミという形で発散した俺はベッドに腰かけ、エリンの扱いについて再び開口する。


 「エリンは一応、俺達の仲間になることになった。共に世界から魔王と勇者を消すことを約束してくれた。これから俺達がどんなことをしようとしているのかをエリンはよく分かっていないみたいだが、勇者が俺達と協力してくれたっていう成果は大きいぞ」


 「結果、魔王様は苦労することになるんですけどね」


 「プスススー」


 「茶化すな! 笑うな! ……今、魔王城付近の森は人間達に偏見はあるものの俺には協力的だ。ある程度、魔物達は力を貸してくれるし、勇者の力もある。いよいよ、人間達の住む領域へと行動を起こしてもいいんじゃないか」


 俺の言葉にさすがのチュリィも感慨深げに腕を組み、ゴルガムさんは「おぉ」と声を上げた。盛り上がりつつある場の空気に水を差すように、チュリィが「しかし」と俺の言葉を急停止させる。


 「勇者は魔王様にはゾッコンですが、恐れている魔族も多くいます。魔力を抑えるための道具も用意することはできますが、勇者に不信感を抱かせることになるでしょう。やはり、勇者をこのままにしておくのは得策ではないのかもしれません」


 「じゃあ、どうしたらいいんだよ?」


 僅かばかりの逡巡の後。


 「――勇者を消しましょう」


 「は!?」


 「あらま、物騒」


 驚きの声を漏らす俺と乙女っぽく口元に手を当てる気持ち悪いゴルガムさん。そんな俺達の反応をよそに、チュリィは淡々と言う。


 「いえいえ、消すといっても命を奪うという意味ではありません。そういうやり方は魔王様が一番お嫌いでしょう」


 まだ会話を続けていいのか、という感じに俺の顔色を窺うチュリィ。その表情からは、冗談やおふざけで言っているようには思えなかった。


 「……続けてくれ」


 はい、とチュリィが頷けば提案を語りだす。


 「――消すのは勇者の記憶です。私の魔法があれば、彼女の記憶を消去し新しく捏造することも難しくはありません。当たり前ですが、無論彼女は抵抗してくるでしょう。私は基本的な魔族としての能力は高くても、精神干渉専門ですし、ゴルガムが戦闘に特化しているといっても、まともに戦っては勇者に勝てるわけがありません。……魔王様が論外なのは誰が見ても明らかですし」


 「ぐぅ……」


 いや、確かにそれはそうだけど、一応もうちょっと表現を柔らかくしてほしい。こう見えても五分前まで、結構真剣にに悩んでいたんですけど。


 「私が見るに勇者は常に魔力障壁を張っています。おそらく、それは彼女の装備している鎧から発生しているものだということに気づきました。つまり、あの鎧さえ外せれば、勇者の記憶をちょちょいと弄ることもそう難しいことではない。そのために、私に作戦があります。勇者を倒すことができなくてもそれに匹敵する強者がいれば勝機も見えて来るはず……ここで、四天魔の出番です。彼らを魔王にぶつけましょう」


 「四天魔? ……ああ、あいつらか……」


 久しぶりにその単語を聞いた。

 四天魔、それは魔王の命令を忠実に実行する魔王直属の四人の幹部。人間の間でも夢委なので、下手にこの四人を外に出すと大騒ぎになる可能性が高く、この魔王城の近くにある東西南北の四つの砦を守るように指示を与えている。

 魔族である四人はいずれも実力者。四人揃えば、勇者と同等かそれ以上の力を発揮できるのだと言われている。事実、四天魔一人に対しても現在の魔王城の全戦力をかき集めても戦いなんてもってのほか、一方的な暴力にしかならないだろう。

 ただ、性格的にはかなり癖が強い四人なので、一致団結することもなく四人とも別方向を見ている。この四人が揃えば、竜族最強の原初とも言われるドラゴンすら頭を垂れると噂されるが、四人で肩を並べて戦う姿なんて想像もできない。

 渋い顔をする俺を気にしてか、ゴルガムさんがチュリィに会話を促す。


 「でも、どうやって戦わせるのよ。いくら勇者とはいえ、今は魔王様の婚約者なのよん。戦闘バカの四天王でも、手を出すような真似はしないでしょう?」


 「そのために、婚約祝いの武闘大会を開こうと思います。勇者様が婚約した記念の大会ですので、特別参加枠として勇者様に出場していただきます」


 「おいおい、そんな見るからに怪しい大会に参加する……しそうだな」


 「あのバカ勇者ならするでしょう。ちなみに、景品は一日魔王様を自由にできる券にします。魔王様を殴るも蹴りもその権力を思いのままに操るのも自由、そんな一日魔王様を自由にできる券が優勝賞品です。……あの魔王様狂いなら、涎をまき散らしながら参加するに決まっています」


 「……それって俺の安全は保障されているんだよね?」


 さらりと業務的にチュリィはとんでもないことを言ってしまっているが、景品にされそうになっている俺は気が気じゃない。勇者に勝たれでもしたら、一体どんな無理難題を押し付けられるか……。いやいや、それ以前に血気盛んな四天王も参加してくるなら、奴らだって魔王の権力をどう扱うか分かったものじゃない。

 俺は二つの意味でそう質問したつもりだった。それに対して、チュリィは驚くほど優しく笑う。


 「大丈夫ですよ、せいぜい勇者の溜まりにたまったアレでコレな感じのはけ口になるぐらいじゃないでしょうか?」


 「いやだあぁぁ――!」


 頭を抱えてのたうち回る俺の両肩を掴んでチュリィは抱きしめてくれた。

 巨乳なチュリィに抱きしめられて思わず黙っちゃう現金な俺。


 「安心してください、少なくとも勇者が優勝する場合はあの力は使わせまん。……そのために、奥の手を用意しておきますね」


 「なんだよ、そんなの聞いてないよ。お――」


 ぎゅうぅと奥の手と言葉を続けようとしていた俺を黙らせるようにチュリィは胸の谷間の間に顔を押し付けた。


 「――おっぱい……」


 刹那、鼻から脳にかけてを支配する甘い香りと共に心をおっぱいが支配した。


 「ええ、大丈夫ですよ、魔王様。このおっぱいの温もりを感じ続ければ、武闘大会の不安も消し飛びます」


 すげえぞ、チュリィのおっぱい! 夢にまで見た、おっぱいに埋もれておっぱい死だ!


 「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」


 僅かに残った理性の中、どこかで呆れたようなゴルガムさんの声が聞こえた。


 「……チュリィ、うっかり魔王様をサキュバスの魅惑魔法で混乱させているわよ」


 なんか、ゴルガムさんが喋っているが、俺の、僕の、頭の中は……おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!


 「――おっぱいいぃぃぃ!!!」


 「……すいません、魔王様。心を落ち着かせようと魔法を使用したら……やりすぎました……」


 この反動で、魔法が解かれた後も半日ほど「おっぱい」しか喋れなくなった。

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