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5・課外授業(クエスト)後編

「下がってろ。ロレッタ」


 さすがにロレッタでは実力不足だろう。

 なんせこのキングスライム。

 現時点でのロレッタのレベルと4も離れているのだから。


「せ、先生っ! 転移石を使いましょう! 敵ぃっこありませんって!」


「却下だ。転移石の値段知ってるか? 5万スコラだぞ。そんな金、俺は持っていない」


「お金を借りましょう!」


「俺が借りることになるんだろうがっ!」


 こうやって漫談を繰り広げている最中にも、キングスライムがのそのそと近付いてくる。

 キングスライムはその巨躯のままジャンプし、俺達がいるところに落下してきた。


「ちぃっ!」


 舌打ちしながら、ロレッタを背負ってキングスライムののし掛かりを回避。


「さすがキングスライムと言うだけあるみたいだな」


 つうー、と汗が流れてくる。

 キングスライムは敏捷こそは鈍いものの、その攻撃力はロレッタを一撃で葬り去るものであろう。


(やれるのか……? 俺に?)


 気付けば、地面に立つ両足が震えている。

 大丈夫だ……俺なら、こいつに勝てる。

 俺は地面から拳大の石を拾い上げる。


「ていっ」


 そして素人丸出しの、適当なフォームでキングスライムに投石。


 ブッチャー!


 石がキングスライムに直撃すると同時に、それを中央としてゲルが一気に飛散する。


「え……」


 殆ど液体になっているキングスライムのゲルを頭から被ってしまったロレッタ。


「これで一件落着だな」


 パンパンと手を払う。

 キングスライムがいた場所には、『キングスライムの核』が落ちてあったので回収する。

 これがあるということは、キングスライムは間違いなく倒されたということ。


「先生……どどどど、どうして一発で倒しちゃってるんですか!」


「何か、俺、超強ぇーみたいなんだよな」


 俺が投石するだけで、キングスライムを倒せた理由は勿論用意されている。

 通信簿を開き『タクマ・ナナウミ』の名を念じる。


『タクマ・ナナウミ

 種族:人間

 ジョブ:教師

 スキル:《共立成長》

 レベル:52』


 そこには桁違いのレベルが記されていた。


 ——俺がここまでレベルを上げている理由は《共立成長》という、ジョブ職『教師』だけに与えられる特殊スキルのおかげなのだ。

 これもクレアさんに聞いたことだが、この《共立成長》。

 何とクラス総合レベルが10上がる毎に、自分のレベルが1ずつ上がっていくものらしい。


「今、思えばこれがあったからリュウヤの暴力も抑えることが出来たんだよな……」


 ニホンにいる頃では、力では敵うはずがなかったリュウヤ。

 あの時、俺がリュウヤの手を押さえることが出来たのは、この歴然としたレベル差が存在していたからである。


 今の三組のクラス総合レベルは既に520を記録している。

《共立成長》の効果によって、俺のレベルも52というチート的な領域へと達していたのだ。


「だから先生、何だか余裕そうだったんですね。何かずるいです」


 頬を膨らませるロレッタ。


「悪い悪い。お詫びに良いモノを買ってやるからさ」


「やった! 私、お金持ちの家に住んでみたかったんですよね」


「家は買わねえよ?」


 今、彼女の頭ではレベルアップの文字がホップしている。

 先ほどの戦いで彼女も加勢した、とカウントされているのだろうか?

 同じパーティー内であったら、何もしなくても戦いに参加していることになり経験値を得られるのかもしれないな。

 何やともあれ、ロレッタのレベルも5。


「じゃあ帰るか」


「はい!」


 学校へと帰る俺達の足取りは軽かった。


  ◆


 アドルフ奴隷学校に戻り、俺達が最初に向かった場所は購買部であった。

「甘いもの……甘いもの……っと」

 メニューを眺める。


『苺 1000スコラ

 苺大福 5000スコラ

 苺のショートケーキ 2万スコラ

 苺のケーキ(1ホール) 10万スコラ』


「先生—、この苺大福ってのは何ですか?」


 そうなのだ!

 ここの購買部では召還者たる俺——リュウヤ、オサムの三人だけが、ニホンにいる品物を購入することが出来るんだ。


「饅頭に苺を包んだものだ」


「饅頭って何ですか?」


 興味深げにロレッタがメニューを眺めている。

 今は苺の項目を見ているので、苺づくしのメニューが並んでいる。

 しかし他にも『携帯電話』『テレビ』や『クーラー』といった、明らかにニホンの電化製品があったりもする。


「本当に……あの人。どうして校長なんかやってるんだよ」


 頭の中ではピースをしている校長の姿が思い浮かぶ。

 入手困難なもの程、諸経費がかかるらしいのでお金が必要となってくるらしいのだが、全て校長の『召還術』によって可能となっている。

 一体、どんな諸経費がかかるのだろうか……。

 色々とツッコミたくなる。


 しかし!


 便利だから、これで良いのだ。


「よし。これに決めた——すいません。これください」


 俺はメニュー欄のとあるものを指差し、購買のお姉さんにそう告げた。


  ◆


 サクサク……。


 サクサクサク……。


 サクサクサクサク……!


 教室のいたるところから、そんな音が聞こえる。


「先生—! これ美味しいですね。これは何て言うんですか?」


「ああ。これはサッキーというお菓子だ」


「聞いたことのないお菓子です」


「そりゃそうだろ。俺の国にあったお菓子なんだからな」


 そう。

 俺がクラスのみんなのために買ってくれたお菓子はサッキー。

 細長いチョコレートをクッキーで包んだ定番のお菓子である。


 クラスのみんなは最初、毒だと疑っていたらしいが、ロレッタが率先して食べると後を争うようにサッキーを食べ出した。

 まさしく、サッキー戦争である!


「お菓子なんて初めて食べるかもしれないです。貴族の人達は『パンがなければお菓子を食べれば良いじゃない』と言ったそうですが」


「こっちにもそんなこと言うバカな貴族がいるのかよ」


「いや? パンじゃなくて、パンツだったかな?」


「きっとパンで合ってるよ!」


 俺が気になっていた問題。


 一つ目はロレッタのレベルが一人だけ上がっていないこと。

 そして二つ目はみんなが『甘いもの』に飢えていそうなところだったのだ!

 ろくなお金も持っていないのか、授業中でもいつもグーグー腹の虫が鳴っている。


 このままじゃいかん!

 そこでロレッタのレベルも上がり、お金も得られてみんなを幸せに出来る方法。

 それが課外授業を利用して、経験値もお金もゲットするという方法だったのだ。


「先生! 本当に美味しいです!」


 麻薬を貪るように、ロレッタがサッキーを食べている。

 サクサク……。

 健康的なハーレムクラスに向けて、今日もまた一歩前進したのであった。


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