プロローグ〜校長の異世界召喚術〜
初投稿になります。
校長が俺達を異世界に召還した。
「いや! そこは女神とか、王様だとか、召還士だとかが普通だろ! 何で普通の校長がそんなこと出来るんだよ!」
「タクマよ。私語は慎みなさい」
「あ。すみません」
注意され、口を閉じる俺。
俺——七海拓真は高校の理科室で掃除をしていて、いつの間にか異世界に召還——されたらしい。
少し狭いが、床には灰色の絨毯が敷かれていて、本棚には盾や表彰状が飾られている。
こうして見れば王様がいる謁見室に見えないこともない?
……いや見えないな。どう考えても、校長室にしか見えない。
「おいっ! 異世界に召還……ってどういうことなんだよっ!」
隣に立って、校長に詰め寄っている男の名を菊地龍也と言う。
同じく、先生から頼まれ一緒に理科室を掃除していた三人の内の一人である。
菊地……いや、リュウヤは地味な黒髪の俺とは違い、金髪で耳にもピアスを付けている……所謂、イケイケ系の男であった。
眉間に皺を寄せているリュウヤは、気弱な人間ならば一歩後ろに退いてしまうだろう。
しかし校長は立派な白色の口髭を撫で、
「そのままの意味だ。ここはそなた達が元々住んでいた……ニホン? という国とは違う。ミルドファースと呼ばれる異世界だ」
「そんなこと聞いてっ……」
「どうしてアマデウスさんは僕達をこの世界に召還したのですか?」
手でリュウヤの話を制し、問いを投げかけたのは村椿治。
理科室で掃除をしていた三人目の男である。
オサムは人差し指でメガネをくいっと上げ、理知的な瞳で校長を見つめる。
ちなみにこの校長の名はアマデウス、と言うらしい。無駄に何か偉そうだな、おい。
「ふむ。よくぞ聞いてくれた! そなたたちをこの異世界に召還した理由は……!」
少しタメてから、校長はビシッと指をつけつけこう続けた。
「そなた達はこれから一年間——奴隷学校の先生となるのだ!」
「帰ります」
踵を返し、部屋から出て行こうとした。
「こらこら。話くらいは聞きたまえ。それに何処に帰るというのだ」
チッ……やっぱダメだったか。
「奴隷学校の先生……ってどういうことですか?」
人一倍面倒くさがりなのが俺の最大の長所だ。
人によっては短所とも言い張ってくる特徴を持った俺が、頭を掻きながら質問をする。
「ふむ……実はワシが運営している奴隷学校——アドルフ奴隷学校は運営難に陥っている」
表情を暗くし、校長は続けた。
「奴隷学校は優秀な奴隷を輩出することが使命なのだ」
「優秀な奴隷って何なんだよ」
「このままでは廃校になってしまうかもしれん……そこで、だ。異世界からの召還者に先生をやらせてみれば? そう思って、ワシはそなた達を異世界から召還させたのだ」
「色々、説明を端折りすぎだ!」
「ちなみに異世界から人間を召還する魔法はワシを入れて、世界でも三人しか使えん」
「そんなに凄い人だったら、もっと別の方法があるよねっ?」
こうして一言二言、会話しているだけでもツッコミ所満載だ。
俺はまだ良い。もともと異世界に転生して無双する話や、異世界に転移して美少女の奴隷集団を作る話が好きだったからな。
まだ抵抗は少なく、異世界に召還されたことを受け止めている。
しかし……こういう話には縁がないのだろう。
リュウヤとオサムはポカーンとして口を半開きにしている。
それが『一般人』の対応なのだろう。
「普通、異世界への召還者の使命といったら『魔王を倒す』とか『世界を救う』とか、だろ。そういうのはなくて良いんですか?」
「ああ。魔王については、一年程前に現れた異世界からの七人の勇者が倒してくれた」
「俺達用無しじゃん!」
「いや……だから奴隷学校の先生になってもらおう、と思ったわけじゃが」
勇者によって救われた異世界が舞台?
平和になった世界でも奴隷っていうのは需要があるのかよ。
いや、だからかもしれないな。金持ちがシンボルとして持ちたがっているのかもしれんし。
「なあに。手ぶらで先生になってもらおう、ということは考えていない。これ、クレア。この者達にアイテムを」
「はい! かしこまり……キャッ!」
説明していなかったが、椅子に座っている校長の横に黒色のスーツを来た金髪の女の人がいた。
背が高く、穏和な顔付きで、『年上のお姉さん』といった感じでただのジジイの校長よりもこの人を見ておきたい。
クレア……と呼ばれた女の人は、校長に名を呼ばれたと思ったら盛大に転倒した。
「ふぇぇえ……痛いですぅ」
前のめりに転けてしまったからだろう。
鼻を強くぶつけ、涙を瞳に浮かべるクレアさん。
「あの……早く話を進めて欲しいのですが?」
オサムがしかめっ面をする。
するとクレアさんはまるで怒られたみたいに、立ち上がり背筋をピーンとして、
「ひゃ、ひゃい! すみません!」
両手をツボを持っているように広げる。
「——神聖なる光の塊よ。召還者に両手一杯の祝福を」
クレアさんが目を瞑り、そう呟くとそこに光のボールのようなものが現れる。
それは分裂し、俺達三人の前で停止した。
「こ、これは?」
光が具現化し、まずそのアイテムを手に取ったのはイケイケ系の男——リュウヤであった。
「ふむ。それは勇者の聖剣。そなたの戦闘能力を大幅に上昇してくれるだろう」
「うぉぉぉおお! 何だか力が湧いてきたぜ!」
リュウヤがそのロングソードを手に取ると、見る見る内に活力が湧いてくるようであった。
気のせいだろうか。その剣を持つだけで、リュウヤが一回り大きく見える。
「僕の……この石? は何ですか?」
オサムの手に載ったもの。
それはガラス瓶の中に入ったカラフルな石……? のようなものである。
「そなたは賢者の石。魔法を含め、この世の全ての知識が入っておる」
「成る程。僕にお似合いのアイテムですね」
基本、無表情のオサムの口元が少し笑っているように見えた。
おいおい……名前からしても、二つ続けてチートアイテムかよ。
となると残りの俺のアイテムは何なんだ?
戦闘能力……知識……ときたら、チートスキルが手に入るアイテムとかか?
やがて俺の前に現れた光の球体も具現化し、その姿を露わにする。
「こ、これは!」
「ふむ。それはチョークだ」
……白、赤、青の三色のチョークであった。
「これはどういう効果があるんですかっ?」
「ふむ! 黒板に文字が書ける!」
「それ以外には?」
「黒板消しを使えば文字を消すことが出来る!」
「それ以外には?」
「特にない!」
……。
…………。
特上のハズレアイテムじゃねぇかぁぁあああああああああ!
「ふむ……ワシも見たことのないアイテムなのだ。クレア。これは?」
「私も見たことがないですね……神から授けられるアイテムはランダムですから」
困惑したような表情を浮かべる二人。
いや、それだけならまだしも「うわ……やっちゃたよ」みたいな気まずさも感じるぞ!
「カッカッカ。いつも机の隅で気持ち悪い本を読んでいるお前にはお似合いのアイテムだな」
四つん這いで落ち込んでいる俺に、容赦なく罵声を浴びせるリュウヤ。
チョーク……何で他の二人が勇者の聖剣とか、賢者の石とかなのに、俺だけチョークなんだよ!
涙を拭い、床に落ちたチョークを強く握りしめる。
こんなもん、折れてしまえ。という念を込めて、
すると——先ほどにはなかった現象が起こる。
『魔法のチョーク
生徒のレベルをアップさせやすくなる』
そんなメッセージが頭に浮かぶ。
レベルをアップ? レベルを上げやすくなる、ってことなのか。
「三人の召還者よ! しかし使命を忘れるな。そなた達の使命はドラゴンを倒すことでもなければ、魔王を倒すことでもない! 奴隷学校の先生となって、立派な奴隷の生徒を育て上げることだ! それだけは忘れるな!」
立ち上がって、手を広げてカッコ良く言い放つ校長。
おいおい。俺のことをなしにするつもりかよ。
リュウヤとオサムは俄然、やる気が出てきたのか真っ直ぐと校長を見つめている。
「魔法のチョーク……生徒のレベルをアップさせやすくなる……か」
——そう、この異世界は魔王が倒され平和となった後のこと。
校長が言っている通り、俺達の使命は立派な奴隷の生徒を育て上げることだ。
ならば——もしかしてクズアイテムだと思っていた俺のチョークって、もしかしてアタリアイテム?
「……なわけねえよな」
俺の呟きは、誰の耳にも入ることはなかった。
今日はあと3回更新する予定です。
次は8時前後の更新予定。