再開と最悪と災厄と
思ったより長くなってしまった。
この物語で一番長いかも。
王に会いに来たら勇者がいた。
なんでここにいるんだ?
一緒にいたときにエルドラドに行くって言ったからか?
参ったなぁ、感動の再会って感じにはならないよなぁ。
まず俺が自分から離脱したんだし、向こうからすれば嫌けがさしてーみたいな感じに思っただろうしなぁ。
よし、ここはひとつ誠心誠意謝ろう。
もしかしたら謝ってすまないかもしれないけど、まず謝ろう。
「あ、あぁ~…えっと、久しぶりじゃ「ロアお姉さんっ!!!」
なにか言おうとした矢先にエルザに抱き着かれた。
小さいからだに似合わない力を鳩尾に一身に受けた俺はしっかりと呼吸困難に陥った。
「今までどこにいたんですか!?心配していたんですよっ!?」
「小娘、何事かは知らないが心配するなら今現在呼吸困難に陥ってるロアを心配するんだな」
「え?ああっ!?」
気づいたエルザが押し付けていた頭をどかしてくれた。
助かる、想像以上に圧迫されたから少し死ぬかと思った。
「だ、大丈夫です?」
「だ、大丈夫じゃとも、だ、伊達に魔王では無いからな!」
大丈夫大丈夫、今までで一番辛かったなんてことはない。
ジト目でプリシラが見ているが気にしない!
「えっと、勝手に離れて本当にすまなかったなのぅ」
「本当に心配したんですからね?」
「あ、あぁ…」
「もう勝手にいなくならない?」
「約束する」
「なら、いいよ」
そういうと今度はそっと温もりを確かめるように俺に抱き着いた。
許してくれて良かった、エルザに嫌われたりするのは嫌だしな。
それにしても、俺の体はそんなに落ち着くのかね?
「おい、妾をおいてけぼりにしてイチャイチャするでない。とりあえず説明せい」
「そうですね、僕たちにも説明してほしいです」
あ、すっかり忘れてた。
「そうじゃな、オスカーもすまなかったな。私も説明しようとは思うのじゃが、各々先約があるからその後じゃな」
「お?もういいのか?女同士が乳くりあうのを見るのも面白れぇかと思ってたんだが」
先程から傍観をしていた男がこちらを見てニヤリと笑う。
鋭い目に威厳のある顔、そこそこ高齢だと思うがそれを感じさせないほどに浮き出た筋肉。
忘れていたとはいえ、この巨体を見逃すか?と思うぐらいには存在感のありすぎる男だ。
男が立ち上がると同時にエルザとオスカーが跪く。俺とプリシラは完全に仁王立ち、いつもの俺ならすぐにオスカーたちに続くところだが今回はプリシラに合わせる。
「ほう?お前らは跪かないのか?」
「妾がなぜそのようなことをしなければならん、妾たちは魔王だぞ?そもそもお前が呼んだのだろう?」
限りなく平坦な胸を得意気に反らせたプリシラは呆れたように言葉を返す。
ほーらそんなことだろうと思った、ここで跪いたら確実に殴られる。
「一応自己紹介だ、俺がこのエルドラドの王、ゴルドラだ」
「私らを呼んだ理由はなんじゃ?まさか本当に会ってみたいからなんて話じゃ無かろうな?」
「あん?そのとおりだが?」
……………帰って良いかい?
「魔王は今まで見たことあるが、お前らみたいなのは珍しいんだよ。だから会ってみたかった」
「珍しい?」
「お前ら、自分たち以外の魔王と会ったことは?」
「妾はない、このロアが初めてだ」
「私はここに来るまでに3体と遭遇しているのぅ」
魔王になるきっかけだった熊とミミズのことである。
あ、グリードを入れると4体か……、多いのかな?
「ふぇ!?3体!?ロアお姉さん大丈夫なの?」
「ふむ、この通りぴんぴんしとるぞ?」
「で?会ってみて思ったことは?」
「んー?少々レベルが高かったぐらいかの?」
「まぁそれもあるが、人間を襲ってなかったか?」
「襲ってはいたんじゃが、魔王ってそんなもんじゃろ?」
「言葉は喋ったか?」
「一人はしゃべったが、他はまるっきり獣じゃったな」
「なるほど、ではやはりお前らは珍しいな。俺が見た魔王は喋らないしやたら手強かったし人間を襲っていた」
「だからなんじゃ?」
「お前らみたいに意志がはっきりわかる魔王と意思疏通が出来ない魔王の二種類がいるってこった。しかも後者が多い。そこのプリシラも攻撃してきたからそっちかと思ってたが、違ったみたいだったし?お前共々興味が沸いたからここへ来てもらった」
「少数派、ねぇ…」
「あとは、そこの勇者が探しているって話だったからな、協力させてもらった」
二人を見ると跪づいた姿勢でこちらの様子を伺っていた。
「妾たちを連れてきた理由は分かった、もう他にはないのか?」
退屈そうにしながらプリシラはゴルドラを睨んだ。
「そう睨むな、後はお前さんに用があるだけだ」
「妾か」
「ああ、この場所がエルドラドの中心で尚且つお前さんの前に立っているのがこの国の王だ。どうする?」
「どうするとは?」
「殺さないのか?」
ゴルドラがそう言うと控えていたギャランドが静かに構えた、プリシラが動いた瞬間に取り押さえるつもりなのだろう。
ギャランドがどれだけ強くても、それでもプリシラには追い付けないだろう。きっとギャランドも分かってる筈だ。
まぁ、もしもの時は俺が止めようかな。
「興が乗らん」
それだけ言うとプリシラは黙ってしまった。
だけど何故だろう、俺にはツンデレのデレに見えて仕方ない。
「クッハハハハハ!そうか!興が乗らねぇか!ハハハハッ!」
「何故笑う、やかましい奴だ」
ほっ、どうやらなんにも起きないみたいだ。
ギャランドも流石に冷や汗をかいて笑っている。さっきの状況で笑えるなんて、やっぱり大物なのだろう。
「よし!満足した!わざわざ来てもらって悪かったな、詫びといっちゃ何だが食事を用意してある、少し羽休めしてけ。あぁ、風呂もあるから好きに使えよ」
ん?いま食事と言ったかね?
「ではあるだけ貰おうかのぅ……」
「ん?あぁ好きなだけ食ってけ」
「あ、あの!ゴルドラ様、それはやめておいたほうが……」
勘が働いたのか、オスカーがゴルドラを止めに入る。
その後ろで全力で首を縦に振るエルザが何とも可愛い。
「心配するな、ここは豊かでスリルの溢れるエルドラド、少々のことでは傾かねぇ!」
ゴルドラは忠告を気にも止めずに笑って言った。
ふふん、そうかそうか。
いや丁度何か食べたいなと思ったところだったんだ、ここまで自信があるなら御馳走になっても良いよね?
そんな事を俺が考えてるなんて思いも知らず、上機嫌のままでゴルドラは笑っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ、良い湯じゃなぁ………」
食事を終えて、何日ぶりか分からないがお風呂である。
しかも広い大浴場、まるで温泉施設だな。
ディーナも風呂桶の中で気持ち良さそうにプカプカしてる。
ディブロはおいてきた、この戦いにはついてこれないからな(紙的な意味で)
ちなみにここまでのあらすじは食事中に説明した、かくかくしかじかってやつだ。
「ロアお姉さん……、もう少し遠慮したほうが良かったんじゃ……」
「流石にあれは妾も呆れたぞ」
何とも言えない表情をしながらプリシラとエルザが湯船に入ってきた。
遠慮したんだぜ?ちゃんと抑制しながら食べたもん。
まぁ、自信満々だったからちょっとイタズラしてやりたいとは思ったけど。
「ゴルドラのやつ半泣きだったな、文字どおり暴食と言ったところか」
うるさいやい。
「ロアお姉さん、旅の間はどこに泊まってたの?」
藪からスティックに何を言い出すのかねエルザちゃんは。
「んー?基本野宿じゃな、一回牢屋に泊まっておったのはさっきの通りじゃし」
「…………それでこの肌はズルいと思います」
そう言うと俺の腕を触ってきた。
やめて、くすぐったいぞ。
「ほほぅ?なら妾も見てやる」
何を思ったのかプリシラまで悪い顔をしてこちらに来た。
「お前そんなキャラじゃったか?って!背後から忍び寄って胸を鷲掴みするでない!痛いじゃろ!」
「………………ほう?ほうほうほう」
プリシラがフクロウみたいになった、どうしたよ。
「なるほど確かにズルいな、肌の質も、そして何よりこの胸が許せん」
「えっ」
「あぁ、分かります!これズルいですよね、気を使ってこれならまだしも、野宿しててこれとか」
プリシラさんエルザさん、仲良いですね!
エルザもそんな感じだったか?この旅で変なベクトルへ成長しちゃったのか!?
男が苦手な引っ込み思案系なのはどうしたんだよ。
「なぁ?そろそろ解放して欲しいんじゃが?」
「「ダメだ「です」」
えー(´・ω・`)
・・・
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
しっかりのぼせた。
「だらしないな、それでも魔王か」
誰のせいだプリシラよ。
「確か中庭があったので涼んではどうですか?」
「中庭か、そうするかのぅ」
エルザの助言に従い、俺は中庭に向かった。
中庭はとても落ち着いた雰囲気で夜なのもあってとても涼しかった。
「あれ、ロアさん?」
ふと見てみると、どうやら先客がいたらしい。
「オスカーか、お前さんも涼みにきたのかの?」
「まぁ、そんなところです」
「オスカーは、大分変わったのぅ」
「がんばって鍛えましたから。ロアさんは……、あんまり変わってないですね」
「そうか?これでも変わったことはあるんじゃがな」
主に性別が、これはこの世界に来てからか。
空を見上げてみると、たくさんの星が輝いている。
星がきれいなのはここでも同じだ、だから意外に落ち着くんだよな。
地球とは違うけど同じところもある、最近の夜はそんなことも考えたりする。ホームシックなのかねぇ。
「あ、ロアさん、流れ星ですよ」
オスカーに指されたところを見ると、確かに線を引いて動いている星があった。
あったのだが………。
「のうオスカー、流れ星というのはあんなに遅いものじゃったのか?」
「いえ、普段ならすぐにいなくなってしまうはずですが」
明らかにあの流れ星は居なくならずにゆっくり動いている。
それどころか、何だが大きくなってるような………。
「のうオスカー、流れ星とは段々大きくなるものじゃったのか?」
「いやっ、こっちに落ちてきてますよ!?」
ですよねー!
猛スピードで迫ってくる流れ星、全力で動けば俺だけなら余裕で避けられるけど、オスカーはキツそうだな。
それにあのスピードで落ちてきたらこの辺が吹き飛ぶんじゃないか?
エルザがいるし、一人だけ助かるのは良くない。
なら、どうしようか。
んーーー、食べてみる?
アレタベル?
いけるか?
タベヨウ
よし、ならいこうか。
「食後のデザートじゃな、いくぞ!」
俺は影を伸ばしてフィーちゃんを出した。
流れ星を丸飲みにしようと大口を開けて食らいついた。
だが流れ星は喰われることはなく、なんと拮抗した。
「なんじゃと!?」
しかもそのまま押し潰さんと力が増してきた。
いやいやおかしくね?
流れ星じゃないのかよ!?
もしかして攻撃?
フィーちゃん、大丈夫?
ツカレタ
余裕ありそうだね、少しそのままにして
ワカッタ
フィーちゃんに対面は任せて流れ星の上に跳ぶ。
「落ちてくるならとっとと落ちてこんか!!」
俺は渾身の力で流れ星を叩き落とした。
流れ星は俺の攻撃により地面に激突、砂煙をあげながら少しクレーターが出来たぐらいで大きな被害はないようだ。
「全く、いったいなんなのじゃ」
「流れ星では無いみたいです、気を付けてください」
分かっているともオスカー君
砂煙の中を警戒する。
ふと、砂煙から人影が現れた。
段々と砂煙が晴れてきて、そいつの姿がはっきりと確認できた。
病的なまでに肌が白い、真っ白な中に存在感を放つのは厚い口紅と涙のようなメイク。赤い髪をオールバックにしていて服装はスーツっぽい。
さながらピエロのようなイメージだった。
そして何より、不気味なほどに笑っていた。
「いぃやぁぁあー申し訳ない、まさかこれで生き残っているなんて思わなくてですねぇぇえあ??アヒャハハハハヒャヤハハハハ!」
男がそう笑うと、嬉しそうに、本当に嬉しそうに俺をみていた。




