勇者ってなんだろう、魔王ってなんだろう?
「逃げるなら、一人で逃げろ。私一人で何とかするから。ただ、お前はもう勇者を名乗るな、そして二度と私に近づくな。」
それがロアさんから言われた言葉だった。
「勇なきものが勇者を名乗れるはずがないじゃろう?とっとと逃げろ!」
僕は怖くなって逃げ出した。
『何が怖かったの?』
傷つくのが怖い。
『誰が傷つくのが怖いの?』
そりゃあ自分さ、誰だって自分が痛い思いするのが怖いだろう?
『ほんとうに?自分が怖いから逃げる?』
逃げるさ、僕は弱いんだ。あの子よりも、あの人よりもずっと弱いんだ。
『勇者なのに?』
……………。
『勇者を引き継いだのに?』
…………………………………。
『あの子との約束は?』
勇者は逃げちゃいけないの?
勇者だって人間だよ?
怖かったら逃げるじゃないか。
弱かったら逃げるじゃないか。
僕は弱いんだ、強くないんだ!
『強ければ勇者なの?』
弱い勇者なんて誰も望まないよ。
あぁ、そうさ。
僕は弱い。
弱い勇者なんて要らないんだ。
だから勇者失格なんだよ。ロアさんの言う通りだ。
そもそも勇者じゃないんだから。
僕もロアさんみたいに強ければ……。
【だったら、弱い勇者になればいいのよ】
え?
【弱い勇者のままで、人から望まれればいいのよ。】
そんなの無理だよ。
【出来るわよ】
なんでさ。
【だって、そう思ったから。だから貴方に託したのよ?】
………………。
【弱くたってなんとかなるわよ。わたしだって、最初は弱かったんだから。】
…………………。
【ねぇ?貴方は何で勇者になったの?】
………僕は。
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どうも。
勇者にイライラしちゃったロアだよ!
まぁ、あいつの事はいいや。
今は目の前のゴロツキたちだな。
とりあえず、立てない程度に痛め付けるか。
うまい具合に加減できるか分からないけど、まぁ、大丈夫だろ!
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僕は走っていた。
最初に走っていた方向とは逆に、ロアさんの所に。
遠くにロアさんの姿が見えた。
人さらいたちを殴っていた。
ダメだ。
それじゃあダメだよロアさん!
足に全力で力を込めた瞬間、蒼い光が僕を包んだ…………。
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今起こったことをありのまま話すぜ?
俺はゴロツキどもを痛め付けていたと思ったら、いつのまにか目の前にオスカーがいた。
なんで?逃げたんじゃなかったの?
てかいつのまにか俺の前にいるんだ?
「ダメ…ですっ!」
しかも俺の拳を受け止めながら、強い目でこちらを見ていた。
「ダメですロアさん、そんなことをしてたらコイツらと同じですよ!」
同じ?
同じか。
そうだよ、なんで痛め付けるなんて考えたんだ?
なんで暴力的に解決しようと思ったんだ?
もっと、いい方法があったんじゃないのか?
分からない。
なんだろう、なんで俺はこんなことしてる?
「キュ!」
ディーナに顔をペシペシ叩かれた。
くすぐったいだけだったが、なぜだかそれが一番痛かった。
「ごめんなさい。」
気付いたらその言葉が出ていた。
うん、俺悪い子だったな。
悪い事したな、オスカー。
「酷いこと言ってごめんなさい。」
「え、いや、その………、僕も逃げちゃったし。でもロアさんのお陰で思い出したこともあると言うか。」
でも、俺酷いこと言ったしなぁ。
「でも、少し焦りましたよ。ロアさん魔王みたいな威圧感でしたもん。」
え!?
魔王みたい………。
俺、身も心も魔王になっていってる?
そうならないようにって思ってたんだけどなぁ。
んー、魔王って難しい。
「とにかく!お互い様ってことで、ダメですか?」
「し、しかし。」
「ならたまに僕に稽古を付けてくださいよ。少しぐらい強くならないと流石に顔向け出来ませんから。」
「ん?なんだか良くわからんが、そんなことでいいなら喜んで。」
にしても、オスカーほんとに弱いの?
正直、実力あると思うんだよなぁ。
「ということは、これで正式に仲間ですよね?」
「え?あ、そうじゃな。」
「では、改めましてよろしくお願いしますロアさん!」
「ロアでいい。こちらこそよろしくオスカー。」
なんだよ、オスカーいいやつやん。
とりあえず心のなかで土下座しておこう。
オスカーと軽く握手する。
「そういえば、さっきの女の子はどうしました?」
「あっ。」
やべっ!
すっかり忘れてた!
ちょっとやり過ぎたなぁって思ったから仲直りさせてみました。
不自然かもしれないけど、そこはご愛嬌ってことで。




