羅生門
羅生門の新説です。
窮地に達したとき人々はどのように生きる術をえるのでしょうか
正義と悪の狭間の物語。
いざとなったらあなたはどうします?
いざとなったら私はどうしよう?
漠然と浮かんできますが、物語は物語。
娯楽のうちの一つとしてお楽しみいただければと。
稚拙な文章ご容赦くださいませませませ
雨にふりこめられ、行き場もなく途方にくれている下人。此処は羅生門の下。職も家も無くした彼はぼうっと降り注ぐ雨を見つめている。そう、これは芥川龍之介の羅生門。だが少し異なる下人と老婆の話。膿んだニキビのある下人ではなくて美しい容貌の下人の話である。彼は臆病だが大層正義感の強い人間で他者を羨望怨恨することを良しとせず、全てをおおらかに寛大に包み込みたいと願う美しい心の持ち主であある。それは彼の容貌にも相応しく誰が見てもうっとり見とれてしまうような端正な顔立ちの美少年。 誰しもが苦しむこの時勢にせめて自分だけは清く正しく、出来ることなら人の役に立ちたいと心から願う善人でありその美しさを彼自身も誇りにしており、暇を言い渡したかつての主人も恨むことは無かった。
この「羅生門」は下人が老婆と遭遇するところから始まる。
羅生門の上に通ずるはしごを二、三段上ったところで下人は異変に気づく。上はてっきり死人だけだと思いこんでいたが明かりが見える。背筋の凍る恐怖を感じつつも階上で起こっている事態に好奇心を駆られ恐る恐る覗き込む。息を殺し身を縮め下人の見たものは死体の散乱する中に一人せっせと動く老婆の姿だった。片手に明かりを持ち、女の死体のそばで何かをしている。その奇妙な光景に息を呑み目をそらすことのできない下人はつい足を滑らせギシリと音を立てた。しまったと思ったときにはすでに遅く、老婆はこっちを見渡し「誰がおるのじゃ。隠れてないで出てこい。」と叫んでいる。下人は意を決して彼女の前に姿を現した。「盗み見るつもりはなかった。雨やみのために此処に辿り着き、行き場を無くして右往左往している時にこの梯子をみつけた次第で、一晩此処で夜を明かそうと思って登ってきたのだが。」老婆は微塵にも動かずじっと下人を睨んでいる。彼女はまるで干からびた蛙のようなしわくちゃな肌に、今にも落ちんばかりのデメキンみたいな眼球。一度吸い付いたら二度と離れることは無いような筋張った唇。全身はボロに包まれその様はまるで年老いた猿のようであった。かたや美の体現者、かたや醜の体現者とも言えるだろう。どうするか、このまま一目散に逃げようかと思ったときにその干からびた唇が開いた。「おうおう、それは大変じゃったな。さぁこっちに来て火に当たりなさい。食い物は無いが一晩明かすだけなら不便では無かろう。」そういって老婆は不気味な笑みを浮かべる。その微笑にひるんだものの、下人は老婆の言葉を有り難く捉え恐る恐る彼女の隣に腰を据えた。
初めは黙りこくっていた下人だが、老婆が若い女の死体をせっせと拭いているのを不思議に思い、知り合いの死体なのかと尋ねる。老婆は咄嗟に顔を上げ下人を見つめた。その目には涙を堪え悲痛さを物語っているかのようだ。「この女は儂の娘なのじゃ。生きておる時にちょっとした諍いで家をおん出てしまったのじゃ。あれから数年経ってこの御時世、偶然娘の屍を見つけてな。これは儂の娘じゃ。ほれ此処に、二つ並んだほくろがあるじゃろ。」彼女は死体の着物をはぎ取り、乳房の谷間に位置するほくろを指さす。下人は正視することをとまどいつつも火の明かりに照らされた艶めかしい乳房に触れてみたいと感じ始める。「可哀相にな。生きている時に辛い思いをさせたから、せめてもの償いとして身を清めてやりたいのじゃよ。」そういって老婆は涙を拭い、せっせと死体の鎖骨から胸元を拭いている。 思案する下人。先ほどまで老婆に対する恐怖で周りを冷静に伺うことは出来なかったが、今一度、目の前の情景を見渡してみると、死体が無数に捨てられている中でこの女の死体だけがまるで生きているかのように生々しく美しさを留めている。白くきめの細かい肌に整った顔立ち、生きているときはさぞかし美しかっただろうと思いをはせる。その体を老婆のしわがれた手がペタペタと拭いていく。怪しげに乳房から下腹部にかけて拭きつづけ下人はそれに見とれていた。ふと気づくと老婆が手を止め下人の顔をじっと見つめている。目を逸らす下人。「どうじゃ、お主も拭いてやってくれぬか。娘が成仏できるように祈ってはくれぬじゃろか」老婆はそう言い、それまで持っていた端切れを下人に渡す。驚きつつも死体に触れる喜びが彼を飲み込んだ。端切れを片手に持ち、死体の乳房を拭おうとした瞬間に老婆が止めに入る。「片手間じゃなく、両手で、こう拭いてやってはくれぬか。せめて最期くらいは大事に扱ってくれぬだろうか」そう言われ下人は身を乗り出し膝をつき両手で死体の乳房を包んだ。下人にとって死体に触れること自体初めてのことでその冷たさに一瞬おののいたもののそれよりも遙かに死体の柔らかさに彼は浸った。もしこれが死人ではなく生きている女だったなら、どれほどあでやかで心地良いものだろう。女体の触感に快楽と恍惚を覚えた時、突然背中に衝撃が走りつんのめって死体の上に倒れ込んだ。咄嗟に身を起こそうとするが上に老婆が乗っているようで起きあがれない。老婆は素早い動きでどこから取り出したのか彼の胴と腕を縄で縛り上げる。 「おうおう、美しい坊やよ。本来ならばその女の死体を好色家に売りさばこうと思っていたがお主の方が大層儲けになりそうじゃよ。その美しい顔立ちに食いつく男色家は幾らでもいるじゃろう」そう言ってけたたましく笑い声をあげる。下人は状況を理解できず、とにかくもがこうとするが死体に重なっているため上手く力が入らない。老婆は更に死体と下人を縛り上げる。最早彼に自由はない。「その女に触れたかったのだろう。満足か。お主が欲情していたことなど一目瞭然じゃわい。夜が明けるころにな、客がくるんじゃよ。そいつにお主を引き渡すまでどうじゃ、儂が相手をしてやろう」そう言って老婆は下人を陵辱し始め、恐怖と恥辱に下人は包み込まれた。
かくして、下人を売ることで老婆は金を得ることになる。下人は老婆の性欲を満たし更に彼女の生活の役に立ったと言えるのではなかろうか。そう問うた時、美しい下人は何と応えるだろう。だが、その後の下人の行方は誰も知らない。




