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ダイバー(冒険者)  作者: 飛び猫
2/19

1 ダイバー カイネル・レイナルド

 世界は残酷だ。

「ギルドに入りたい?ならスキルを見せな……こいつはだめだな帰んなボウズ」

 力の無い者はギルドに入ることもできず、かと言って農夫として働くにも土地を管理している領主に利益の半分を徴収される。

「キミがギルドに?スキルは?………だめね。このスキルを持ってちゃどこも入れないと思うわよ」

 冒険者になってお金を稼がないと病気の母も幼い妹たちも生きてはいけない。父は農夫として働きづめで体を壊して他界してしまった。

 だから母は病気がちな体に鞭打ち父の変わりに働こうとしたが無茶が過ぎて倒れてしまった。なんとか働けるよう地主である領主様に働けるよう話をしてみたが門前払いだった。

「子供の冒険者も少なくないけどこのスキルはだめだね。絶対に冒険者にはなれない」

 絶対に冒険者にはなれない――――

 ボクにはそのスキルがあった。ギルドには絶対に入れないと言われるほどのスキルが。

「お願いします!ここを断られたら冒険者になれないです!お願いし―――がっ」

 蹴り飛ばされたその身に浴びせられた言葉は慈悲すらない事実だった。

「テメーのスキルは他人に迷惑かけんだよ!ダイバーになりたいなら"ノラ"にでもなるんだな!」

 冒険者ダイバーはギルドに入って仲間を作りとダンジョンへ挑むのが普通で、それが何らかの形でできない人間が"ノラ"と呼ばれて孤独に一人ダンジョンへと挑む。

 14になったばかりの子供が一人でダンジョンへ挑む時点で無茶だというものなのに、さらにパーティーを組まず一人でなんて無謀なのだ。

「………ノラ」

 ボクは縋る思いで"ノラ"になる為の方法を探した。ギルドに入るのは利点がありその一つが給与でもう一つが装備一式の支給。

 剣・槍・斧・弓といった武器や楯・胸当て・籠手・脛当て等の防具それにダンジョンタワーから飛び降りる為のタコがタダで手に入る。

 しかし、ノラはそれらを実費でそろえなければならない。ボクは知り合いで父の友人だった鍛冶屋ブラックスミスのおじさんに頼んで格安でそれらを購入した。

 格安と言っても蓄えなんてあるはず無いボクは父の形見でもある農具を一式売り払ってそれらを手に入れた。

 初めてのタワーは雲を突き抜けて全貌が窺えなかった。農夫の息子であるボクはタワーを見ても今までは関係のないただの建造物だったのに、いざ目の前に立つとその迫力に脚が棒のようになってしまう。

 次々にタワーの入り口――ゲートへダイバーたちがぞろぞろと入って行き流れにのるようにボクの体も前へと進む。

 初心者丸出しのボクを見て笑うダイバーもいた。

 ワクワクもドキドキもない、期待もしていない、ただもう立ち止まることはできない。

 ゲートをくぐった瞬間からボクは冒険者……いや―――

「ダイバーだ!」

 カイネル・レイナルド―――

 職業――――ダイバー(冒険者)―――


 全長は遥か天空で一説には頂上が天空島スカイの一部と隣接しているらしい。

 口を開けてタワーの内部を見上げるとその辺に生えてる大木のゆうに倍はある。ダンジョンらしく柱も階段も室内を照らすランプも人工物とは思えない物が視界に飛び込んできた。

 螺旋状に階段が左右に一つずつあり中央には市場のような出店が並んでいて回復に使うキュラルや武具防具を販売していた。

 出店にあった胃液を大量に出させる朝食や昼食用のバーガーサンドに五感を奪われつつもグッと我慢して右の階段へと近づく。しかし、こちら側がボクが上るべき階段ではないということは一目で気が付いた。

 右の階段下でギルドパーティーらしい集団がいくつも出発前の準備をしている。対する左の階段は点々と個々人がバラバラな足並みで上層を目指し黙々と上っている。

 最初は気が付かなかったが出店も武具防具の店は右側に向いて店を構えていた。左側は"ノラ"右側がギルドとはっきり分かれているようだった。

 気を取り直して左の階段へと向かうといよいよモンスターのいる最初の階層が近づいた気がした。いざ階段を上がろうとしたボクの腕を誰かが掴んできた。

「待ちな、お前さん一人でタワーを上るのかい?」

 振り向くと男はフードを深々と被って口元に怪しい笑みを浮かべていた。その問いに答えると男はそうかいと言い一つの提案を持ちかけてきた。

「お前さんみたいな子供がタワーに一人で上るの危険だからおいちゃんが一緒に上ったげるよ」

 ボクは男の言葉を疑った。スキルが危険な者や迷惑な者が多い"ノラ"は大体パーティーを好まない。それが見ず知らずの人間なら尚更だ。

 男は一人がどれだけ危険かをペラペラと話し始めて、ボクがもう少しで話を真に受けそうになった時。

「そこまでよハーメルン」

 声をかけられた男は舌打ちとともに足早にその場を去っていった。

 声をかけた女性は薄い緑の髪を靡かせながらボクに指を指して言った。

「あの男はスキル"ソールイーター"を持っているわ。効果はパーティーメンバーが一人欠けるごとに戦闘力が倍になるのよ。

 だからあの男は素人を上層まで言葉巧みに連れて行って見捨てて、自分は能力アップしてレベリングする最低なやつよ。次からは気をつけなさいルーキー君」

「あ、ありがとうございます。ボク、カイネル、カイネル・レイナルドっていいます」

「私はメイア・シャス・ラインハート」

 その名には聞き覚えがあったラインハートはギルド"クロスハート"のマスターの名前だったはず。

「キミ…ソロなの?」

「はい"ノラ"です」

「……"ノラ"ね……提案なんだけどうちのパーティーに混ざらない?」

 彼女は後ろで頭を抱えるパーティーメンバーに目を向けて、いいわよねと聞くが後衛の参謀職らしき男が反対した。

「お嬢様、私は反対です。彼は"ノラ"間違いなくレッドスキルの持ち主だ」

 男の言うレッドスキルがボクの最初のスキルのことだということはすぐに分かった。スキルやステータスを確認するスキル鑑定士には悪いスキルは赤く見えることからそう呼ばれている。

「わかってるわ、でも上層に行かなければいいだけの話よ。私たちのレベルより7ぐらい下ならレッドがいても問題ないと思うの」

「確かに7下なら十分に安全でしょうが、彼のような見ず知らずのルーキーを連れて行くのはリスクが高いだけです」

 男の反対意見にメイアさんは問題ないの一点張りだったがボクは隠さずに自分の危険性を話した。

「あの…誘っていただいてありがたいんですが、ボクのレッドは"パーティージャック"なんです」

 ボクの言葉を聞いたメイアさんやそのメンバー。声が聞こえた周りのノラまでが足を止め驚きを表すほどのレッドスキル。

 パーティージャック―――レッドスキルの三大凶悪の一つとされこのスキルを持っているダイバーが一人でもいると味方へのモンスターのヘイト値が3倍上昇しさらにメンバーのスキル発動率を無効化する。ただし、パーティージャック同士はヘイトを上げるだけでスキルを打ち消さない。

 今までもこのスキルで全滅したダイバーは数知れない―――とされているがこのスキルを持つ者が少ないためそこまで全滅したパーティーは少ないはずだ。

「キミ…それは本当なの?」

「はい、だからボクは"ノラ"で十分です」

 ボクは振り返ると周りの視線を感じながら再び階段へと向かうが、その手をメイアさんが掴んだため歩みが止まった。

「待って、少しだけ待って」

 メイアさんはそう言うが、参謀職らしき男が睨みつけてくる。

「大丈夫です。一人でもダイバーをこなしている人は沢山いますから」

「だけど―――」

 ボクは制止を振り切るように階段を駆け上がった。優しさを振り払うのはとても心苦しかった。

 だけどこの時、ボクは本当に大丈夫だろうと高をくくっていた。知らなかったのはボクの無知で、仕方の無いことだけど、このスキル――いやレッドスキルを持つ者が通る苦難はまだこの先に待っていたのだ。


 タワーの最初の階層は高さ18バレン位置にあり、帰るときは来た道を戻るより階層の大穴を飛び降りた方が早いためタコと呼ばれる落下傘が使われる。昔はそのタコにも不良品があって落下死なんてこともあったらしいが今は確立はとても低い。

 誰もがタワーへ上り飛び降りることから冒険者のことをダイバーと呼ぶようになった。

 一階層はモンスター(魔物)がクリムと呼ばれる小鬼だけだが錬金生命体であるため経験値以外は素材や鉱石は一切落とさない。つまり一階層で戦っていても利益は無で、普通ならパーティーを組んでいる場合は一階二階層を飛ばして三階層のバグハという植物系のモンスターを狙いレベリングと素材集めをする。

 だけどボクにはそれができない。現状Lv4のボクがLv11のバクハと戦うのも二階層のLv8のダータスと戦うのも無謀というもの。クリムですら6から7Lvで今のボクでは対1ならなんとかなるぐらいだ。

 だけど、だけどやはりボクにはこれしか道が無い。一日も早くLvを上げてバクハを倒せるまでにならないと日々の食いぶちも稼げやしない。いずれは十一階層の階層主ガダラス(錬金生命体)を倒せるようになって十二階層のオータというモンスターから取れる鉱石で大金を稼ぎたいところだけど、これは将来の目標みたいなものにしておく。

 一階層は通過点と言わんばかりに次々とダイバーたちが駆け抜けて行く。できればクリムとの戦闘を見ておきたかった。

「て、高レベルのダイバーは一撃で倒して行くから参考にならないけど」

 などと愚痴を吐きつつ出現スポーンしたクリムを見つける。大体のダイバーがクリムを無視するおかげで再出現リスポーンする危険が少なくてすむのも初心者のためになるのかもしれない。

「クリムのことは図書館の魔物図鑑で下調べを済ましているから後は――」

 実際に対峙した時の立ち回り。

 大きな包丁のような武器を持つクリムは大振りで不意を衝かれない限りは危険性がない。背にした片手用の楯を左手に持ち右手にショートソードを握ると人生初のモンスターとの戦闘が始まった。

 初めてクリムと対峙するダイバーはクリムの振り下ろしを防いではいけない。安易に安い楯でそれを防ごうとすれば腕ごと楯を折られてしまう。しかし、受けたほうがいい攻撃もあってその一つがなぎ払いだ。

「振り下ろしを避けて横振りを防ぐ―――くっ!」

 バシン!と大きな音を立てて楯とぶつかった包丁は勢いを殺されて動きが止まった。そしてその隙に腕を斬ってさらに胴を突き刺す。

「ガァァアア!!」

 腕を斬られて包丁を落とし大きな呻き声を上げたクリムに引き抜いた剣をもう一度突き立てると一瞬で煙になって消え去ってしまう。勿論包丁もクリムの一部であるため消失してしまう。クリムのような錬金術によって生み出されたモンスターは人が生まれる前から存在してその起源は太古の文明のものらしい。

「よし!」

 初めての戦闘はあっけないものだった。ここからボクは一人でモンスターと戦っていかなければならない、一瞬の油断が自らを母を妹たちを全てを失ってしまう。

「命がけのギャンブルか……それでも人生すべて賭けて大切な人を守れるなら―――」

 ボクの人生賭けてやる!

 朝から昼過ぎまで20体のクリムを倒して手にした経験値やLvは現状鑑定士に見てもらわないと分からない。自ら確認するスキルを持っているダイバーなら自分で確かめることも可能なのだが。

 確か、クリム1体に付き2ポイントで20体だから40ポイント、Lv4からLv5への昇格には大体1200ポイントだから大体後580体クリムを倒さないといけない。

 1日50対をノルマにして約12日程度は期間がかかる。装備の手入れや食事、タコの再装填を含めると1日250ギリー12日で3000ギリー。

 Lv5から6へは2000、7へは3400、バクハを倒せる最低のLv8へは6600。計12000単純計算で120日約3月ギリーにして30000……。

 とてもじゃないがそこまで時間はかけられないからリスクを抑えつつノルマを上げていかないといけない。

「昼食もなるべく短くしないといけないな」

 タワーの中では時間を知る術がなく、日の光は一切入らないし置時計なんってものもない。そのため街に設置された大きな鐘の音が朝・昼・夕の3回ならされ、朝はゆっくり鳴らされ日が暮れるにつれ速く鳴らされる。

 夕を知らせる鐘の音がタワーに響くなかボクは61体目のクリムを倒した。これで2日は短縮、明日は70、明後日は80。

 18バレンの高さはなるほどモンスターと対峙した時に似た恐怖を味わえた。いや違う恐怖だったかもしれないし、もしかすると少し楽しかったのかもしれない。自分ではその時のことを覚えていないからどっちだったかは今では分からない。

 帰る前に装備の手入れとタコの再装填してから帰った。

 翌日もその次の日もさらに次の日もタワーを上ってはクリムを倒し続けて9日目の昼前には目標数を討伐していた。

 その日は昼食を用意せず昼には一度ダイブして街外れの母の母、ボクにとっては祖母にあたる人に会いに出向いた。

「こんにちは、ルーディばぁちゃん」

「よくきたねカイネルぼうや」

「ステータス見てもらってもいいかな?」

 ルーディばぁちゃんは昔からダイバー相手に鑑定士として依頼を受けていた。専門家だけあってステータスやバフ(付加能力増加)デバフ(付加能力低下)スキルの名前や性能、なかには武器や防具の性能やアイテムの効果に素材の鑑定もできる専門家もいたりする。

 老眼鏡を外したルーディばぁちゃんはボクの瞳を覗くと筋力値やらなんやらを言った後現状のLvを口にする。

「レベルは……4じゃな、経験値は分からんが数値は4の後半で間違いない」

 耳を疑った。

「それは本当なの?何かの間違いじゃ―――」

 正直ボクのLvは4だったけど、経験値を集めだす前から200から300のポイントがあると考えていて少なくともLv5の前半になっていると思っていた。

 でも現実は違った。いまだボクはLv4のままで1200ポイントを稼いだ時点でLv5に到達していない。これの意味する所は……。

「カイネルぼうや…どうやらぼうやの成長速度は晩成型のようじゃ」

 晩成型―――LvからLVへの経験値が通常よりも必要でそのポイントは人によって異なり、Lvが上がるにつれて育ちにくいが他の同Lvの人と比べると能力値は高くなる。

 通常1200ポイントところを1500から1600のポイントが必要になる。逆に早熟は約1000ポイント稼げば4から5へLvアップできる。

 絶望とともに再びあの言葉を頭に浮かべる―――"世界は残酷だ"――

「よかったねカイネルぼうや、神様は"努力すればするだけ力をあたえる"そう言っておるのじゃよ」

 肩を落としていたボクにルーディばぁちゃんはそう言って笑顔を見せてくれた。

 その笑顔に救われた。心底救われた。

 そしてルーディばぁちゃんの家を出たボクは再びタワーへと向かった。そして、出店の香ばしいバーガーを一つだけ買いその場で平らげると再び階段を上がって行った。

 得なければならない経験値が増えたとはいえギリーはタワーから帰って夕刻から荷降ろしや配達の仕事を手伝えばなんとかなるし、母の蓄えで家は半年は大丈夫だから期間は半年、半年でバクハを狩れるまでになる。

「よし!」

 駆け上がる足は軽くまだボクの冒険は始まったばかりだ。


 約半年後いよいよボクはLv7へ昇格して一旦バクハへ挑む為に階層を駆け上がっていた。

 二階層のLv8から9のダータスは経験値を3ポイント素材は落とさないモンスターで噛み付きをしてくる。ダータスはクリムに比べると野性的な動きをする厄介なモンスターだからレベリングするのには向いていない。

 三階層へ到着してまず目に入ったのはダイバーの数だった。パーティーらしき集団がバクハと戦闘をしていた。ボクはそれを眺めていたが数撃倒されてしまってバクハの行動パターンを全て理解することはできなかった。

 いよいよバクハと対峙すべく階層を彷徨い数分後一匹のバクハを見つけ背負った楯と剣を構えた。しかし、戦闘になる前にそのバクハは両断された。

 男は屈強な身体つきをしていて大きなスパーダ(大剣)を振るっていた。

「誰の許可を得て狩をしている!ここは我々ギルド"ファルファーン"の狩場だぞ!」

 狩場―――特定のモンスターが生息する場所をギルドで占有して狩を行う。

 聞いてはいたけどまさかここまで広範囲に占有してるとは思ってもいなかった。

「どこならモンスターと戦ってもかまわないですか?」

「ん?知らないのか、この辺はもう全体を色んなギルドで占有されて"ノラ"が狩する場は無いぞ」

 驚愕の事実にボクは再びあの言葉を思い浮かべていた。"世界は残酷だ"―――

 とにかく三階層を駆け回ってバクハと戦う場を探した。

「お願いします1体でいいんです!」

「だめだだめだ!日に狩れる数が決まっているんだ、他人に譲っている余裕は無いんだよ」

 どこもリスポーン(再出現)じゃないリグロウ(再成長)のモンスターであるバクハを分ける余裕はないと断られ続けた。

 その日からボクは二階層のダータスと戦った。自棄を起こしたわけではない、むしろダータスと戦った方がボクの将来の糧となると思ったためである。

 しかし、その気力も一月後には再び失せて頭を抱えていた。その理由は武具防具の劣化と新調による出費。

「剣が1200、防具が計4000、一番厄介なのが以外にも楯なんて………3000ギリー」

 最初の装備一式が2000ギリーで買えたのは父の親友だったブラックスミスの割引によるものでこれからは実費で購入しなくてはならない。

「それにしても8000ギリーを2000まで割り引いてくれていたなんて…」

 いつか必ず恩を返そう、そう思いながらもやはり現状に頭を悩ます。

 色々思考した結果防具は脛当てだけ楯は買わずに剣を2本購入することにした。3000ギリーが今ボクが出せる精一杯の金額でこれにローブを150ギリーで購入して装備を揃えた。

 新調して初めてのタワー、対峙するモンスターは装備を新調するのを早めた敵ダータス。

 ボクは脛当てしか付けていない、つまり攻撃は受けない前提で今ここにいる。モンスターも目で対象を捉える相手の間合いを錯覚させる為ローブを纏った。さらに長さの違う剣を二本左右に持つことでこちらの間合いをも惑わせる。

 敵の攻撃が一撃でも当たれば即死を意味する。敵の動きを全て見切る。

 敵の攻撃をこちらの攻撃の起点にすれば防御と攻撃を同時に行える。

 ダータスは確実に戸惑っていた。その戸惑いが手に取るように分かってダータスの不用意な攻撃にこちらの攻撃を加える。

「カウンター」

 いつか見たケンカ祭りで優勝した男の攻撃を見て父が口にした言葉だった。

 傍から見ているとリスキーに見えるのだろうがボクにはダータスの呼吸と戸惑いが手に取るように分かった。

「これなら戦える!」

 この時のボクはまだ気付いていなかったが、後に気付くことになるのだ。この戦闘スタイルが歴史上初で革新的なものだという事に。

 武器を新調して3日後にボクは二階層である発見をした。

 隠し部屋である。一階層も二階層も三階層も大きな階段で区切られているが、実際には細かく階段や坂があり一層の間に2階3階といった段差があったりする。

 そういった入り組んだ作りのせいで発見されてない部屋があったり、隠れた部屋や隠された部屋があったりするのだ。勿論どういった理由で隠されているのかは分からないのだけど。

 そして、ボクが見つけた隠し部屋はレバーが壁にあってたまたま天上が崩れたことでレバーに当たって扉が開かれた。

 開いた扉から中を覗くと広い部屋にモンスター図鑑で見たことのあるモンスターがいた。十六階層で生息するアーリルハウという魔法生命体でこいつは十六階層でのみ生息し魔法生命体の中で唯一錬金術でスポーンしていない。

 アーリルハウは二足歩行の楯のみを持ったモンスター見た目は異形で不気味なモンスターだが、倒せば魔法石の欠片を落としそれを商人に売ることもできる。値段は据え置きではあるが。

 十六階層で生息しているアーリルハウは対となる剣を持ったシースナハウという魔法生命体がいるため戦闘を回避するダイバーの方が多い。Lvも20あり強力なモンスターだ。

 しかし、ここに生息していたアーリルハウは単独で数も少なくLvも15と低い。

 Lv差は8、普通なら戦闘するのも危ういが……ボクは倒せると分かっていた。アーリルハウは楯のみ装備するモンスターでしかも自身から攻撃しようとはしない。

 その日4体ほどアーリルハウ倒して2体残した。アーリルハウは日に二回ほど分裂をし自らの数を増やしある程度まで数が増えると分裂をやめる。

 次の日から人目を避けながらダータスを倒しながらアーリルハウと戦った。ドロップする魔法石の欠片はすぐには売ることができなかった。何せボクはLv7で十六階層にしかいないモンスターから取れるアイテムを売ってしまうとそれとなく他のダイバーに感ずかれてしまう。

 この幸運を確りと掴んでおかなければ、ボクや母や妹たちの人生がかかっているのだから。

 一月後ボクはLv9まで達していた。既にバクハではなくその上の四階層のオーダムスと戦っていて、黒石こくせきと呼ばれる鉱石をその体から採取していた。鍛冶師が黒石を精錬することからブラックスミスと呼ばれる所以でもある。

 オーダムスは鉱石食モンスターの一種で数が多い。四階層にうじゃうじゃと生息しているため占領しているギルドもいない。

 八月目にしてボクはようやくダイバーだけで生計を立てれるようになった。

 だけど、やはり……。

 "世界は残酷だ"―――――


 母が倒れた。元々体の丈夫だった母は以前に倒れた頃から咳を時々出していた。それがまさか魔瘴病の罹り始めだと気がつけなかった。

 魔瘴病ましょうびょう―――ダンジョンの瘴気によって発病する気管系に異常がでる病気で本来ダイバー以外が罹るのは稀。

 日に日にやつれていく母を見守ることしかできないボクは街の書庫で医学書を読み漁り知識を蓄えて魔瘴病に関する知識を得た。

 魔瘴病は完治する方法が確立していない。症状を抑えることのできる薬があるが、その素材となる一つがモンスターから入手できるがそのモンスターは二十六階層に生息していて今のボクではどうすることもできない。

 素材自体は簡単に店頭に並んでいるのを見つけることができたのだが値段は50,000,000ギリーというでたらめな値段で到底購入できる物じゃなかった。

 眺めていたボクの横でどこかの貴族の執事らしき男がそれを購入していくさまを目にした時は本当に格差が現実に見えた。

 その日からボクはタワーの中で戦って朝を迎える"ディープダイバー"になっていった。日に数回ダイブしてはまた上る。繰り返し繰り返し、何度も何度も、上ってはダイブし、ダイブしては上った。

 約一年間それを続けていると、ボクはLv17になっていた。正確には一月前に鑑定してもらって以来してないから現在がどのくらいか分からない。

 今は十九階層で戦うというより狩りをしている。日のほとんどをレベリングに費やして家に帰るのも月に一度ぐらいで目指す二十六階層まであと少しまで来ていた。

 本当ならLv16で二十六階層へ挑むつもりだったのだが、大きな誤算があったために断念した。その誤算とはLv15で出現するはずだった"第二スキル"が"出現しなかった"のである。

 人はLv2で第一スキルを取得してLv15で第二スキルを得る。そして25、35でも取得して最大で5つの個人スキルを取得する可能性がある。

 得られるスキルは第一が天性的で第二スキルは決まって強力な攻撃的スキルを取得する者が多く、第三より後は冒険者としての経験から発動するものが多いとされている。

 本で読んでボクが第二スキルを取得したなら二十六階層でも戦えるだろうと考えていた。しかし、現実はボクに厳しかった―――

「カイネルぼうや、レッドスキルの保持者は稀に第二スキルを開花させないまま第三スキルを取得する可能性があるのじゃ…。もしかするとぼうやも――――」

 ルーディばぁちゃんがそう言って口ごもったのを今でも鮮明に思い出せる。

 才能って奴にとことん見放されているんだなとその日痛感させられた。そういえばその日人生で初めて酒を口にしたけどあれは人の飲み物じゃない、一口含んで飲み込んで後はとなりでちまちま飲んでいたおじさんに譲った。

 第二スキルが発動しないならLvを19まで上げるだけだ。開き直ったボクは再びタワーを上る。

 気が付けばダイバーになって1年を軽くこえてしまっていた。先日、成人になった貴族がダイバーとして初の冒険に向かっているのを目にしたが、デリス鉱石の長剣に二重楯、さらにヘレス鉱石の防具を身に着けていた。

 現状のボクよりもかなりいい装備を身に着けている。そして、そんなギルドのパーティーがこちらを見てほくそ笑んでいるがボクの知ったことではない。今さらそんなことは理解している。

 世界は残酷だ。

 実は多忙なボクにも趣味が一つできた。それは"マッピング"である。

 燃えない破れないと有名な高級な紙に一層づつ精密な地図を作っていく。勿論いきなり書き込むのではなくある程度別に安い紙に記載して一層分書きとめた後、仕上げに200ギリーの高級な紙に写して額に入れる。家の地下にあるボクの部屋には十六層までのマップが保管してある。

 それらを使う機会はないが自分だけが知っている部屋なんかを書き足していくのは気分のいいものだった。ちなみに、モンスターの生息域や安全な道も記載したダイバーにとっては助かること間違いない作品に仕上げている。

 それでも、やはりボクが使う機会はないのだけど。

 マッピングはボクにとってただの趣味というだけでなく、将来的に母の病である魔瘴病を完治できる薬を見つけ出す一つの可能性だと考えてもいる。

 そして、この頃だっただろうか……あの大事件が起こったのは――――

 ある日、いつものように十九階層へ向かっている時にそれを目撃した。

「おい!あんた!頼む助けてくれ!パーティージャックだ!」

 聞き覚えがあるのも当然だ。そのスキルはボクも天性的に持っているのだから。

 男に言われるまま付いていくと十一階層の階層主ガダラス(錬金生命体)がそこにいた。

 今ボクがいるのは十七階層でガタラスの出現圏外なはず。ボクが作っているマップにもその生息域は無くボクもこの層では戦ったことも無かった。

 そんなガダラスが目に見えるだけで12体はいる。ダイバーの数はその倍ほどだろうか、ほとんどが死体だった。

「俺たちはこの階層にいるタルタロスってモンスターを狩る為に集まった寄せ集めのパーティーなんだがどうやらレッドスキル持ちが混ざっていたらしいんだ!」

 タルタロス―――凶悪な獣型のモンスターでタワー内を徘徊してダイバーを襲うため目撃されるとすぐに討伐依頼がでる。報酬は国から支払われるためギルド以外のダイバーで大規模なパーティーを組んで討伐することもある。

「どこのどいつかはしらないがレッドスキルのことを黙ってやがったんだ!くそ!俺のスキル"サーモアイ"も発動しやがらねー!」

 サーモアイ―――体温のあるモンスターを視覚できるスキルで討伐などの依頼に向いている。

「とんだ"デスパレード"だったってことさ!」

 男はそう言うと腰の短剣を抜いて構えた。

「待ってろリグレッド!ハンナ!」

 デスパレードとは大軍を率いて全滅することをいい、文字通り"死の行軍"ということだ。男はきっと事前にボクを見ていたのだろう、十六階層でシースナハウとアーリルハウと戦ってレベリングしていたのを知っていたからボクを呼ぶために十七階層の入り口まで来たのだ。

 しかし、ボクはすぐには動けなかった。なぜなら、自分と同じレッドスキルの本当の効果という奴をまざまざと見せ付けられているのだから。

「ハンナ!」

 男の声にようやくボクはその死地に駆け込んだ。

 ガダラスのLvは鑑定力の低いボクでは見えないもので、現状確認できるレベルは30程度な為目の前のガダラスがそれ以上なのは間違いなかった。

 相手は二十九階層クラスでしかも数は11体。他のダイバーは状況に混乱しているのか、まともに連携もできていない。

 こんな時ほど恐怖を感じるのが普通なのだろうが、ボクはまったくと言っていいほど感じていなかった。

「スキルの使えない人は負傷者を助けて下さい!」

 ボクの第一声は階層内に響きわたり、その声によって混乱していたダイバーが視線をボクへと集めた。

 ガダラスの側面から一撃斬撃を当てると反応するように反撃してくる。少し大きめの全身鎧がロングソードを装備したそんなモンスターのガダラスだが間接などという概念は無い。

 ボクは基本モンスターをLvではなく戦い易いか否かで危険性を基準にしている。

 ガダラスがどちらに入るかというとやはり前者だろう。地面に立っているモンスターは間合いが計りやすいし、武器を持っているなら攻撃の起点が読みやすい。

 逆に飛び跳ねたり壁に掴まったりして爪や尻尾あるいは体などで体当たりされると非常に戦いづらい。

 常に対一の戦闘を意識して動き素早く左右の武器で攻撃を加えて、相手が大振りしてくるとそれにカウンターで攻撃をする。

 ボクが1体のガダラスを倒したのを見て他のダイバーもようやく冷静に対処し始めた。

 3体目のガダラスを切り伏せた時そいつは現れた。

「ゴガァァアア!」

 天井をまるで床のように這い回る白い悪魔。

「タルタロスだ!」

 腹を空かせたモンスターが獲物を品定めするように遠巻きにこちらの様子を窺っている。

 唾液をポタポタと落とす姿に一人のダイバーが声を漏らした。

「ヒ!」

 一瞬の出来事だった。声を漏らしたダイバーが瞬きせぬ間に姿を消した。

 6体のダガラスといまだ戦闘中なのに現れたタルタロスのせいで再びダイバーたちが戸惑いを見せた。

「アレはボクが惹きつけます!そのうちにダガラスを!」

 タルタロスを誘うように声を出しながらボクへのヘイトを上げる。

 うまくいけばタルタロスと対一で戦うことができるしこの隙に彼らが退却することも可能性として出てくる。

 途端に恐怖心が湧いた理由をボクは理解した。それは初めて"仲間"という存在が意識的に勇気を与えていたのだ。

 駆け抜ける広めの通路で足を止める。その数バレン先へとタルタロスが天井から飛び降りてきた。白い口元に赤い血を滴らせている。

 先に述べたとおりボクは基本モンスターをLvではなく戦い易いか否かで危険性を基準にしているが、タルタロスは完全に後者であり現状救いなのはそのLvが21という比較的近いということぐらいである。

「ゴガァァアア!」

 しかし、それらの苦手意識は対複数でのことであるといえる。つまり対一の場合はそれには該当しない。

 タルタロスの行動を一手二手先を予測し回避と攻撃を同時に行う。

 戦いにおいて素人の領域からスタートしたボクのそれは既に完成系に近づいていた。

 タルタロスは混乱していた。攻撃すればするほど自らが傷ついていき相手が大きく見えていく。

 それはやがて恐怖に変わりそれを感じ取ったカイネル・レイナルドは転じて攻撃にでる。

 連続してくり出される攻撃を避けようと背中を見せたタルタロスは既にその身に突き立てられたアシュレイン(ロングソード)と前で待ち構えるアルファール(ツインソード)に貫かれた。

 背後にいたはずの敵がいつの間にか逃げた先にいるのだからタルタロスからしたら何が起こったのか不思議でならないだろう。しかし、タルタロスがそれを理解することはもうない。なぜならもう事切れてしまっているのだから。

「報酬も無いのに…何に命をかけているんだか―――」

 その場にドサッと倒れこんでフーと溜め息を吐く。

 契約を交わしていない以上タルタロスを倒した報酬はでない。つまり無償の討伐であり武器の手入れをしたら赤字だった。

「それでも―――」

 それでも気分は悪くなかった。

 その後数時間十九階層でレベリングした後地上に降りると助けた男が仲間連れで待っていた。

 結局レッドスキルを持った者は戦闘のドサクサで命を落としたらしい。律儀なことに男たちはタルタロスの討伐報酬を国から受け取っていて全てをボクに譲ると言ってきた。

 しかし、全ては受け取れないと一部だけ貰っておくことにした。

「それにしてもレッドスキル持ちめ!目障りな連中だ!」

 そう言う男たちにボクは隠さず話した。

「そう悪く言わないで下さい、全員が悪い人間じゃないんですよ…現にボクはあなたたちを助けた」

 その言葉にその場の人間は驚きを表した。

「あんたもレッド?!……そいつはすまなかった。そうだよな、レッドが全員悪もんじゃないよな」

「そう言ってもらえると助かります」

 彼らと別れた後ボクは久々にルーディばぁちゃんの所によった。

 ルーディばぁちゃんの家は、ボクの稼ぎがそれなりに良くなった時にタワーに近い場所に新しく購入してあげたため数分で会いにいけるようになっていた。

 勿論世話になったブラックスミスのおじさんにもそれなりに恩返しできている。

「よくきたねカイネルぼうや、鑑定かい?それともご飯食べていくかい?」

「やぁ、ルーディばぁちゃん。ステータスをしてもらいにきたよ」

 杖を突きながらテクテクと歩み寄ってくるルーディばぁちゃんは以前に比べて腰が曲がっている。

 本当なら鑑定師として働かせずにのんびりしてほしいところだがこの世界はそれを許さない。

 瞳を覗いたルーディばぁちゃんはいつものように淡々とステータスを口にする。

「敏捷230、レベルは―――18じゃの………ほう~"スキルが出現しとるな"」

 ボクは耳を疑った。Lv15で出現しなかったスキルが18になって出現したのだ。

「ほ、本当かい?!」

「間違いないの、……古代語で"ソロ"?"単独"かの?"単一"や"個"という意味じゃったかな」

 そのスキルは知っていた。何せスキル図鑑の中で一番出現してほしいスキルだったからだ。

「古代名称で"ソロフェンサー"だよルーディばぁちゃん…効果は―――」

「図鑑でもう予習済みかい?カイネルぼうや」

「まぁね」

 効果は所持者が対独行動時のヘイト減少と奇襲時のアタックステータス2倍。つまり相手の死角から攻撃した場合に力・速さが倍になる。

 このスキルがあればLvが倍だろうがなんだろうが一人で倒せる可能性が生まれる。

 神には見放されているものだとばかり思っていたが……。

「きっと神様からカイネルぼうやへの贈り物だろうね」

 笑顔でそう言うルーディばぁちゃんはボクの頭をワシャワシャと撫でてくれた。

 これでボクは二十六階層でも戦える。魔瘴病を緩和させられる薬の素材を手に入れられる。

 しかし、そんなボクの思いも世界はほくそ笑んで踏み潰そうとする。

 国王の主命で二十六階層における占領権をギルド"クロスハート"へ与えたのだ。その結果他のギルドやノラダイバーは一切戦闘行為ができなくなってしまった。

「なんだよ…なんなんだよ!」

 これから、これからって時に―――

 世界は残酷だ。

 その日からいくらレベリングしようが、ギリーを稼ごうが母の病気は進行していった。

 ただただ弱っていく母の姿を見ていられなかったボクは以前よりもタワーに入り浸るようになった。

 そして半年後、母は病によって他界してしまう。

 息を引き取る前に母は言った。

 "ごめんね…カイネル…あなたにばかり苦労かけて……これからも苦労かけるけどメイネとネテルの事よろしくね"

 勿論だよ母さん。

 たとえ世界が残酷であっても母を助けられなかったボクにはもう誰かの為にしか生きていけないから。

 せめて世界の代わりにボクが優しさを与えていこう。

 ボクは―――


 カイネル・レイナルド―――


 ―――― 職業 ――――


 ――― ダイバー ―――

次話14時投稿予定です。

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