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ダイバー(冒険者)  作者: 飛び猫
15/19

12 フェイカー

 フォースたちは自らをナンバーズと呼び、彼女たちは元は普通の人間で、彼女たちを捕らえたのはファーストとという彼女たちにとって一番上の姉にあたる。

 彼女たちは父と呼ばれる男から命令されると拒否できない。それは彼女たちの脳に細工されたナノマシーンの一部が、拒絶しようとするその脳に直接命令を与える。それは命令だけに留まらず、時にその命まで奪うことができる。

 フォース、彼女の独断でボクに助けを求めたが、その助けがなくても彼女たちはそれから逃れるための方法も用意していた。

 ナエリカに投与されたサンプルは、彼女たちの手によって細工がされていて、一定期間経過後にナエリカとリンクという行為を行うことで、彼女たち全員の脳にある、男による命令権を受理するナノマシーンを強制的に効力を失わせることができるというものだ。

 男に悟られないようにそれらを遂行するのは、かなりの手間がかかったとフォースは言った。

 ファーストという個体の従順さを、他の個体にも持たせようと考えられたリンクによって、逆にファーストに宿ってしまった嫌悪や憎しみといった感情が、彼女たちナンバーズが自由へと向かいだしたきっかけだったらしい。

 ヒシュバーン連合の一国であるデクリ、その北部ルアリッカの古代の遺跡の屋根のある場所。柱も風化し、雑草が内部にも生えてしまったそんなところで、ボクたちは隠れて今後の思案をしていた。

「ぼくたち、救援、いいですか?」

「……話は大体分かったけど、ナエリカの記憶を元に戻す事はできるのか?」

 それを聞いてフォースは首を傾げ、カイネルはその事実に頭を押さえる。すると、その隣で座っていたエイトスがカイネルをジーッと見ながら言う。

「本当に信用できるのか貴様は?」

「それはお互い様だよエイトス」

 エイトスはフォースと違い、カイネルをいまだ警戒している様子だった。そんな二人の隣に行儀良く座っていたテンスが言う。

「…ファーストお姉様は仰ってましたよフォースお姉様、セヴンスお姉様の記憶は一時的な混濁があるだろうと」

「テンス、ぼくは知らない、今初めて耳にした」

 フォースとテンスがジーと互いを見つめあい、エイトスが溜め息混じりに二人に言う。

「テンスの勘違いだ、私もその事は始めて耳にした。テンス…リンクした時期をちゃんと思い出してみろ」

 エイトスの言葉でテンスが何かを思い出すように一点を見つめる。そして、唐突に目を見開いて起立したテンスは、地面に正座すると額を地面につけてフォースに謝罪しだした。

「この度は愚妹極まれる私めの言動どうか、平に、平に、ご容赦下さいませ姉上」

 潔い土下座にホチアが、土下座!?と驚きを露にしている。エイトスは溜め息を吐き、フォースの横腹をつつく。

「…許してあげなよフォース姉様」

 フォースはそんなテンスをジーと見つめて言った。

「テンス……許すまじ」

「ええ~!!」

 エイトスが驚きのあまり後ろにこけて、テンスが絶望の表情を浮かべる。そんな三人を見ていたカイネルは表情に笑みを作った、が、すぐに表情を引き締めて、遊んでいる暇はないんだろ?と言って話を進めた。

「つまり、ナエリカ…セヴンスは時間が経てば記憶を取り戻す、ということでいいのかな?」

「どうやら、そう思っていいです」

 そう言ってフォースは騎士服の中から紙を取り出すとそれを広げて見せた。

「それは…地図かな、モジュール?プラグ?オートマチックドア…自動扉か?古代語ばかりだな」

「古代語?いいえ、それはエイゴ、チキュウの標準的言語の一つ」

 エイゴ、チキュウ、その言葉にカイネルは身を寄せてフォースに聞く。

「キミたちは古代人…いや、チキュウ人についての知識があるのかい?できれば詳しく教えてもらえないか!」

 不意に顔を寄せたカイネルにフォースは戸惑い頬を赤らめる。

「知識ある、でも、今、そんな、暇ない、そんなに、見つめられる…困る――」

 カイネルは目を輝かせていたが、その言葉に、「は!そうですね、今は――それどころじゃありませんね」と言う。

 いまだ顔を赤らめているフォースに、もう一度額を地面につけて土下座するテンス。

「フォース姉上様、どうか、平に、平に、ご容赦下さいませ」

「……許すまじ」

「いやいやそこは許してあげようよ、なんかもう見てて心苦しいよ、ねぇコロロ」

 二人のやり取りにホチアは仲裁に入り、胸元からコロロを呼び出す。すると、毛玉が!と声を上げたエイトスは、座っていた場所から飛び跳ねてカイネルしがみついた。

「毛玉が!ぁぁ、ぁぁぁまた下着が…」

 抱きつかれたカイネルはエイトスの様子を察して耳元で言う。

「尿意かい?それともまた発情しちゃった?」

 平然とそう言うカイネルにエイトスは顔を真っ赤にする。

「は!発情なんか、してないんだからな!」

 そう言いながらも、カイネルから一向に離れないエイトスに、ホチアは歯をむき出しにして睨み付ける。その横で頭を地面につけて謝るテンスにフォースは、「許すまじ」と繰り返し言うのだった。


 カイネルがフォース・エイトス・テンスと共闘する事に決め、彼女らと計画していたころ、天外で彼女らを探索していたスィクススことクススは、探索を諦めてスカイブロックに帰還していた。

 天外の外層幕とスカイブロックの外層幕が近づくと、互いに吸い寄せあい、すんなりと内部に入れる。天外の外層幕はスカイブロックから離れると約3時間で消えてしまい、地上から1ガレンの高さの低い気温に低酸素の空気の中飛び回ることになる。そうなると人外の体を持つナンバーズでもさすがに苦しいため、彼女は探索を切り上げた。

 外層幕はそれ自体に外敵を撃退する力はない。ゆえに一度近づけたなら誰でも簡単に入れてしまう。なにせ1ガレンの高さはダテではない、その高さに到達できうる人類はそういないからだ。

 スカイブロック内の植物はただの観賞用で、酸素を作るために育てている訳ではない。酸素は浮遊機関と同じ永久機関で、外層幕外の大気中から採取できるもので全て賄われてる。

 天外に乗ったクススは建物の高い場所にある天外の発着場にそれを止める。天外は彼女の乗っていたものを含めて4機がそこにあった。

 天外の発着場から内部に入ったクススはすぐに呼び止められる。

「「クスス姉様!」」

「…あらら、イヴちゃんにサーちゃんじゃない、どしたの?そんなに慌てて~」

 そこにいたのは右に銀髪を束ねたイレヴンスと左に銀髪を束ねたサーティーンス。二人の顔はまったく同じで、見たままの双子である。

 イレヴンスは対神宝具であるミョルニルを所持し、サーティーンスはティルフィングを所持している。ティルフィングは自身を傷つけることで異常な身体能力を得て、敵を斬ればその身体能力を低下させる剣で、ミョルニルはその一撃は雷の如く雷撃を放つ刃無しの剣。

 二人はクススの言葉に、「私はイレヴンスです!」「私はサーティーンスです!」と言い返す。

「二人とも長いのよ名前が~、で、何?」

「姉様たちは見つかったのでしょうか」

「悪いけど、天外の外層幕が限界だったから帰ってきちゃった」

「帰って来ちゃったじゃありませんよクスス姉様!こうなったらサーティーンスが自ら出向きます!」

「イレヴンスもついて行くぞ!」

 一人称を名前で呼ぶ二人にクススは溜め息を吐くと言う。

「イヴちゃんサーちゃん、二人はこのスカイブロックの防衛が任務でしょ?さっきの襲撃の時寝ていて敵を倒せなかったって責任を感じてるなら、それはフォースとエイトスをバカにしているんじゃないの?」

「そんな事は…」

「ありません…」

 二人は数時間前に侵入者があった時に、カプセル内で寝ていたために対神宝具の共鳴に気がつかなかった。そのことを生真面目な性格の二人は心から恥じているのだ。

 そんな二人をクススは、その、のほほんとした性格で落ち着かせる。

「なら、も~二人とも忘れてしまうといいわ。大丈夫、アポロン&アルテミスの手入れが済んだらまた探しに行ってくるから~ね」

「「よろしくお願いしますクスス姉様」」

 二人を落ち着かせたクススは、ところで、と話を切り出す。

「イヴちゃんもサーちゃんも例の件はファーストお姉様から聞いてる~?」

「例の件といいますと――」

「"謀反"の件でございますか?」

 yesyesとクススは指を立てて言い、さらにイレヴンスとサーティーンスに続ける。

「今度のリンクで私たちへの命令を司るナノマシーンの機能を止める事が成功すれば私たちは自由の身、そうなればもう人間を殺さなくていいし、嫌な思いもしなくてよくなる――でしょ?」

「セヴンス姉様とのリンクで上位書き換えが完了すれば――」

「後はあの男さえ何とかしてしまえばいいだけのこと――」

「そうすれば二度と姉妹を失う悲しみも、命を奪う悲しみからも開放される…イヴ、サー、私の夢はね、いつか恋をすること」

「「恋?」」

 二人は顔を見合わせて首を傾げる。

「あなたたち"ライブラリー"にある"恋愛"に属する書物を読んだことある?」

 首を振る二人にクススは遠い目をして言う。

「アレはとてもいいものよ~、胸キュンってやつ」

「しかし、リンクで記憶や体験は共有できるはずですが?」

「どうして私たちは知らないのでしょうか?」

 リンクはナノマシーンを調律して姉妹の数ヶ月の記憶、その体験を互いの体験として記憶しあうのだが、それゆえにクススの記憶を共有していないイレヴンスとサーティーンスは疑問に思う。

 その疑問はすぐに尋ねられたクススも持ち、それがどういうことかを考える。

「…おかしいわ、リンクは先月したばかり、私が"ライブラリー"で書物を読んだのは目覚めた直後、つまり半年は前のはず――」

「姉妹間で記憶のそごがある」

「クスス姉様、これは問題ではありませんか?」

 リンクはほぼ月一で行う、もしかすると…リンクで共有されるのは一月間の記憶だけなのかもしれない。

「古い記憶はリンクでも共有されないのかな~。イヴちゃんとサーちゃんが目覚めてからはライブラリーで書物を読んだことはないから、私が目覚めた時にいた姉妹なら共有しているかもしれないわ。後で、フィフィに確認してみるわ」

「そういうことなら――」

「よいのですが」

 双子は顔を見合わせてそう言うと、クススに別れを告げて自身の任務である警護に戻っていった。

 二人と別れたクススはすぐにフィフスのもとを訪れる。

 天外の発着場があるのは4階で、2階に彼女たちの部屋があり、その廊下を歩いていたクススは前からきたナインスとトウェルフスに声をかけた。

 ナインスはフィフスの見舞いを終えて自室に帰るところで、トウェルフスは丁度フィフスの見舞いに来たところだった。

「あれれ~トウェルフスにナイナイちゃん~どしたの、フィフィちゃんの見舞いかしら~」

「も、もう、クススお姉様、ナインスはナインスっていつも言っているのに~」

 小さい体でピョコピョコと飛び跳ねて抗議するナインスに、クススは、「も~かわいいな~ナイナイは~」と頭をワシャワシャと撫で回す。

「クススお姉様~私も何かあだ名を付けて下さいな」

 トウェルフスにそう言われたクススは、今までの姉妹にとっていたものとは明らかに異なる態度をとる。

「…そうね~、あなたのことをかわいいと思えるようになったら付けてあげるわ~」

 しかし、トウェルフスはそんな態度などお構いなしに話を続ける。

「ところで、クススお姉様もフィフスお姉様のお見舞いですか?」

「そ~よ、フィフィちゃんがまた廃人化したセヴンスでダーインスレイブを落ち着かせたのでしょうからね~。また自分を責めて泣いているんでしょう~」

「そうなのです~、フィフスお姉様は嫌がっていたのに、ダーインスレイブが勝手に死を求めて暴れだして、仕方がないからって廃棄ナンバーを連れてきたです」

 ナインスの言葉にクススはジーとトウェルフスを見る。

「…あなたが連れてきたの?トウェルフス――」

「ええ、お父様のご指示ですわ」

 クススは溜め息を吐くと一人フィフスの部屋へと入っていく。

 部屋に入ると隅っこにもたれかかりうなだれるフィフスがいて、その体には斬り傷がいくつもついていた。

 そっとその体に触れようとクススが手を伸ばすと、怯えたフィフスは咄嗟にその手を弾いた。

「――――クスス…ごめん、あたしまた姉妹を殺した――」

「フィフィちゃん……あなたのせいじゃない、ダーインスレイブの能力のせいよ」

「あたしは抜きたくなかった!…でも、体が――勝手に…」

 魔剣とは言ったものだわ、所持者に戦闘の意思が無くても強制的に抜剣させるなんて…。

「あたしさえ!意思をしっかり保っていれば!こんなことには――」

 自分の体もダーインスレイブで傷だらけなのに…。

「回復薬を飲みなさいな、痕が残ってしまうわ」

 そう言ってクススは胸元から錠剤を取り出して手渡そうとするが、フィフスはそれを拒絶するように壁に顔を伏せる。

「もう、放っておいてくれ」

 今はそっとしておくしかないようね…。カフドの戦いでもフィフスはダーインスレイブを抜いてから一人も殺さずに、暴れるそれが一人を勝手に殺すまでその身を斬られるに任せていた優しい子。いつまでこんな事が続くのかしら――。

 クススはもうライブラリーの事など聞く気は失せていて、ただ、そっとフィフスの頭を撫でて部屋を後にした。

 部屋を出た彼女は、自分の部屋で一時間ほどアポロン&アルテミスをカプセルに入れて耐久度などを回復させると、再び天外に乗り連れ去られたフォース・エイトス・テンスの三人を探すべく地上近くを飛び回る。

 そうして彼女が、天外を出して半時と経たずに見つけたのは連れ去られた三人の内の一人フォースだった。


 フォースは待つだけでよかった。そうしていれば、天外で必ずスィクススが見つけてくれることを知っていた。

 遺跡から少し離れたところにある開けた平地で立ち尽くして1時間半ほど、風がフワリと髪を撫でると目の前には天外に乗ったスィクススが現れた。

 スィクススは辺りを警戒しながら天外の外層幕から出てきて地上へと降り立つ。

「フォンフォン…これはどういうことかしら~」

「クスス、警戒、必要ない、ぼく、一人、状況、説明したい」

 フォースがそう言うとクススは唇に人差し指を当ててから、近くにあった大きな木の方角を指差した。

 肯いたフォースは足早にその木に向かう。二人は木の下につくともう一度互いに肯きあって会話し始める。

「で、フォンフォン…状況を聞こうじゃないの~」

「ぼく、エイトス、テンス、白面の男、話して、救援、要請した」

「三人とも無事でよかったわ~、で、あの男に手助けを頼んだのはあなたの独断?」

 コクコクと頷くフォースにクススはすぐに勘繰りだす。

「ひょっとして、あの白面の下がすごく好みだったからなんてことはない?」

 左右に首を振るフォース。

「私たち姉妹はリンクで互いの好みがほとんど一緒だから、他の二人もコロっと惚れちゃったなんてことは?」

 またも素早く首を振るフォース。

「惚れた弱みで、"もうあの白面の男に命令されたらなんでも言う事聞いちゃうわ"的な気分になってないと言える?」

 三度首を振るフォースは、そんなことはない、と言わんばかり縦に頷く。

 溜め息を吐くクススは笑みを浮かべてフォースに尋ねた。

「それじゃ、その話を詳しく聞かせてくれる?フォンフォン」

「分かった」

 天外の外層幕が切れるまでには帰らないと、と言うクススは、何やら訝しげな表情でフォースの背中について行った。

 二人のいた木から少し離れたハイデアという細い木の林の中で、テンスとエイトスそして白面の男と少女が待っていた。

 フォースがそこへ近づくと、唐突にクススが弓を腰から外して構えてみせる。狙いはもちろん白面の男――

「なんのつもりさ!」

 少女が叫ぶと、クススは「動かないで!」と声を荒げる。

 フォースは慌てた様子でクススの肩に触れようとするが、クススはそんなフォースにも動かないように言った。

 エイトスとテンスも、「いきなりどうしたんだ?」「クスス姉様?」、と展開が突然すぎてアタフタとしている。

 二人の問いかけにも答えないでクススは白面の男を睨み付ける。

「私の姉妹たちがお世話になったようね、ま、悪いけど私は姉妹意外を信用する気は元からないの」

 白面の男はいまだに微動だにしてない。クススはエイトスとテンスを呼ぶとゆっくりと後退りし始める。

 フォースは動かない白面の男を呼ぶ。

「カイネル――」

 その瞬間、白面の男は姿を消す。しかし、男の速さはすでに一度確認しているため、クススは行動パターンを先読みして自分の背後に弓を向けた。

「パターンは!」

 しかし、クススのその先読みは、白面の男にとってはたいして意味を成さなかった。一度消えた方向から現れた白面の男はクススのその腕を握って、小指のほうから弓を取り上げた。

「な!ん~!」

 奪った弓を少女に投げた白面の男は、クススの両腕の袖を後ろ手に縛り上げて、彼女の騎士服の下のスカートを捲り上げる。

「剣は持っていないようだな…」

 そう言って白面の男はクススの耳元で囁きながらその白面を取る。

「言っておくがボクは気が短い方なんだ、裏切れば"酷い事をする"――そうフォースにもエイトスにも言ってある」

 白面を取ったカイネルの顔は本気が窺えて、クススは背筋が凍る感覚を味わう。

「カイネル、すまない、ぼく、謝る、クスス、妹、許してほしい」

「私からも謝るわ、カイネル――」

 フォースとエイトスが頭を下げるがカイネルはすぐにはその手を放さなかった。

 クススが内心、漏らしちゃいそう、と思っていると、テンスがカイネルの袖を掴んで振り向かせると、地面に額をつけて土下座する。

「クスス姉様を許してほしい…」

 そう言われたカイネルはようやくクススの袖を離した。

「わ、悪かったわ…でもね、それでも私はこの子達が操られていないか確かめる必要があったの、分かって」

 その言い訳はクススの本心だが、カイネルはフォースやエイトスを見て溜め息を吐く。

「……ま、そういうことにしておこう」

 ほっと胸をなでおろすフォースとエイトス、テンスを起こす少女にカイネルは言う。

「ホチア、カタナを出して」

「…はいさ!」

 ホチアはすぐに大きなカバンから、カタナを4本取り出して、カイネルに手渡す。受け取ったカイネルは、それを腰に吊るしながら話す。

「フォース、彼女…クススだったかい、早く事情を話してくれないか」

「分かった」

 クススはフォースから経緯を聞き、今後の作戦を聞くとすんなり"OK"と口にする。

「でも、別に"カーくん"の手を借りる必要性も感じないでもないけど?」

「…その"カーくん"というのがボクを指しているなら、できれば止めてもらいたいな、反応しづらい」

「え~じゃ、カイカイのほうがいい?それともネルネル?それが嫌ならシロシロってのはどう?白いお面だし~」

 カイネルがクススのことを面倒だなと思い始めていた時に、エイトスが話しに割って入った。

「そんな事を今は議論している場合じゃない。作戦は簡単だ、セヴンスとのリンクで私たち姉妹の父からの命令権を無効化し、ファーストが父を始末できればよし、できなければセカンドかサードがする」

「三人が父上と同じ区画にいて、別の区画にいる私や他のみんなはセヴンスを外に連れ出します、もちろん父上もすぐ魔物放つでしょう、それを対神宝具で倒したり、フラガラッハを手にした私が戦意を削いで振り切ります」

 テンスはそう言うと、やる気十分だと言わんばかりに腕を突き出す。

「ボクの役目は異常事態に備えた援護と天外の確保、そして地上での生活の支援だね…確かにボクの役割はあまり大きくはないね」

 カイネルはそう言うと最後にクススに言う。

「キミたちがあの男から自由になりたいのは分かっているつもりだけど…、自由になってキミたちは何がしたいんだい?そうなる前の事は何も覚えてないんだろ――」

 その質問に迷うことなく答えるクスス。

「私は恋がしたいですわ、フィフスはもう人を殺したくない、他のみんなも理由は様々だけどほとんどの子がほしいのよ」

「ほしい?自由をかい?」

「いいえ違うわカーくん、ほしいのは――」

 ほしいのは"自分"、そう言ってクススはフォースたちを連れて天外へと向かっていった。


 クススたちと別れたカイネルはホチアとナンバーズの話をしていた。

 ホチアは彼女たちに同情している様子で、カイネルが手助けすることに賛成していた。

「ウチは何をすればいい?偵察…は必要なさそうだし、素材収集もないし、情報もない……、あれ、今回ウチ、役立たずじゃん!」

 ションボリと落ち込むホチアにコロロが頭の上で転がり、シュシュは心配そうに鼻をク~ンと高く鳴らす。

 そんなホチアと二匹の隣で白面を手にしたカイネルは声をかける。

「そんな事はないよ。実はホチアにしか頼めないことがあるんだ」

「ウチにしか頼めないこと?何さ――」

 カイネルが耳元でこそこそとホチアに何かを伝えると、すぐに立ち直ってシュシュに跨った。

「任せといて!ウチは最高のクーリエだからさ!」

「ああ、よろしく頼むよ」

 そうしてホチアは南西に向けてシュシュを走らせた。

 一人になったカイネルは、日が傾きかけたころを見計らってヴァハムートを呼び出し、もう一度天空に浮かぶ島を目指して飛行し始めた。

 この時、カイネルは事がうまく廻りすぎていることに不安感を覚えたが、ナエリカを救えるなら多少の危険は臨むところだった。


「テンス!」「お姉様方!」

 天外を降りたテンスとフォース、エイトスを出迎えたのは、ナインスとイレヴンスそれとトウェルフスだった。

「心配かけた、クスス、ぼくたち、見つけてくれた、感謝」

 フォースの言葉にクススは指を2本立ててみせる。

 喜びのあまりエイトスに勢い良く抱きつくナインス。短いスカートがその勢いでフワリと広がりそうになるのをエイトスは必死に食い止めた。

「お姉様、ど、どうしたのです?」

「重要案件だ!現在の状況を説明するのには、その、少々抵抗がある!」

 頬を赤く染めるエイトスの後ろで、フォースが不思議がるイレヴンスに説明する。

「発情、下着、濡れる、下着脱ぐ、今履いてない」

 その説明にイレヴンスはさらに混乱し、エイトスはフォースの口を手で塞ぐ。

 そんな様子を見ていたクススは、"はいは~い"と言って手を叩く。

「みんな感動の再開は終了!さ~パパに報告しに行かないとね~」

 歩き出したクススだったが、突然背中から何かを突きつけられて足を止める。

 その場の空気が和やかから一気に変化し、クススは緊張が入り混じる声で言った。

「いったい…何のつもり?トウェルフス――」

 クススの背中に何かを突きつけたのは対神宝具のアロンダイトを所有するトウェルフス。その表情はクススからは見えないが、他のナンバーズには見えていた。

 イレヴンスが対神宝具ミョルニルを抜剣して構えると言う。

「何を笑っている!トウェルフス!!」

 不敵な笑み口の端に刻んだトウェルフスは、その問いに答える事はなくイレヴンスを見る。イレヴンスは素早くその横に回りこみなぎ払う。が、その剣は鈍い音と共に防がれてしまう。

「な、どういうことだ!サーティーンス!!」

 イレヴンスの攻撃を止めたのは、不意に現れた彼女の双子であるサーティーンスで、その身はあらゆるところから血を垂らしている。

「んぁあああああ!」

 サーティーンスが叫び声と共に受けた剣を払うと、イレヴンスが壁にまで吹き飛ばされて気を失ってしまう。

「…サーティーンス、なぜイレヴンスを攻撃する?」

 エイトスの問いにサーティーンスは泣きながら答えた。

「私じゃない!体が――」

 言い終わる前にサーティーンスはエイトスに斬りかかった。ティルフィングによって自身の体を傷つけているため、身体能力が通常の3倍になったサーティーンスの動きは速すぎて、エイトスは抜剣できなかった。

 ギィィイイン!と剣と剣がぶつかる音が鳴る。サーティーンスの剣を受け止めたのはフォースの対神宝具グラム。その効力は鎧に対して絶対的な切れ味を持つ。

 エイトスはその隙にオハンを抜剣する。オハンは剣の形をした楯で、絶対に折れない、敵が侵入したさいに剣が持ち主に知らせ、持ち主が瀕死になると他の対神宝具に共鳴してその危機を知らせることができる。

 攻撃的な武器ではないため、本来エイトスは前線で戦闘する事はない。

 ゆえにエイトスがとる行動は一つしかなく、それは、自身に深い傷を負うことでファーストやセカンドにこの危機に気づいてもらう事。

「オハン!」

 エイトスは勢い良く剣を自身に向けるが、それを遮るようにアロンダイトが自動的にオハンを弾き飛ばした。

「オハンが!で、でも――」

 オハンを弾いたのがアロンダイトであれば、今ならクススが自由に動ける。そう思ったエイトスだったが、クススにはいまだトウェルフスが剣を突きつけていた。

「アロンダイトはここに、なんで――」

 困惑するエイトスにテンスが声をかける。

「あれは…フラガラッハです!エイトス姉上!」

 トウェルフスの持っていた剣はテンスの対神宝具、敵の戦意を失わせるフラガラッハだった。

 それを聞いたクススはすぐに行動にでた。自分に突きつけられたそれがフラガラッハならば、トウェルフスには能力を引き出せない。ただの尖った棒でしかない。

「そうだと分かったなら!」

 振り向いたクススは初めてトウェルフスのその表情を目にした。

 何!その表情は――そんなはずはない、それができたなら私たちの存在意義が――まさか!

 トウェルフスは口の端に笑みを刻んでフラガラッハを突き出した。

「クススお姉様――その"まさか"ですわ」

 その刃がクススの体に数クレン刺さるとクススの体から力が抜けて、その手に持ったアポロン&アルテミスが床に落ちる。

「フラガラッハの能力は戦意を失わせる…、たしかにそれが表向きの能力ですわ。ですが、実は刺した対象を自在に操る事ができるのですわ、ほら、弓を拾って――」

 床に落ちたアポロン&アルテミスを、クススの体が自身の意思とは関係なしに拾い上げる。

「か、体が勝手に――」

 なるほど、こうやってサーちゃんも…。

「サーティーンス、早くやつけちゃいなさいよ」

 トウェルフスがそう言うと、サーティーンスは全力でティルフィングに力を込めてフォースを吹き飛ばした。

「くぁぁあ!」

 吹き飛んだ拍子にグラムがその手から離れ、床を滑り地上へと落ちてゆく。

 フォース自身も落ちる手前ギリギリで止まった。サーティーンスも血を流しすぎたのか、意識を保てずに床に倒れてしまう。

 クススの身を操るトウェルフスが、ゆっくりとその歩みを進めクススの回りを廻りだす。

「ふふふ、おもしろいですわねークススお姉様」

「なんで…こんなことができる」

「さぞ疑問でしょう、私がフラガラッハを扱える事が――」

 そう言ってクススからアポロン&アルテミスを受け取るトウェルフス。

「ま、さか――」

 弦を引くと燦々と輝き出した。その弓は昼は太陽の光りを放ち、夜は月光の光りを放つ。太陽の光りはその矢を隠し、月光は音なく影を射貫く。

「熱いのかと思いましたが、温かいぐらいですね」

「どうして…」

「対神宝具はそれ自体に所有者を合わせることで個々を扱えるようになる。違います、そんなことはありませんのよ、私は全ての対神宝具を扱うために調整されたのですから」

 クススはどうにか体を動かせないかと抵抗するが、指すら動かせない状況。そんな彼女にトウェルフスは弦を緩めてその弓を手渡す。

「ほら、クススお姉様……あの的を射るのです」

 言われるままに弦を引くクスス。その的とは、目の前で立ちすくむテンスだった。

「逃げなさい…テンテン――」

「姉上――」

 後ろは壁、左も壁、右は高さ四階、テンスの身体能力でも無事ではすまない。

 放たれた矢はテンスの体にまっすぐ進む。が、それはテンスには当たらなかった。しかし、変わりにエイトスにその矢が刺さり膝を床につく。

「エ、エイトス姉上!」

 かはっ!と血を吐いたエイトス。その瞬間大声を発したのは幼い幼女だった。

「ヴァーサゴ!!」

 短剣を構えたナインスが叫ぶとその黒き影が姿を現す。ヴァーサゴは唯一のサモン系の対神宝具アゾット剣の能力。武器としての性能が皆無なアゾット剣はそれゆえに幻獣を有するのだが…。

「ヴァーサゴ…出るまでが遅いのよね、ナインス」

 いつの間にか、背後に移動していたアロンダイトにナインスは腹部を貫かれると、ヴァーサゴは掻き消えてしまう。

 ナインスはそのまま前のめりに倒れて、「エイトスお姉様…」とその手を膝から崩れたエイトスに伸ばす。

「テンス…逃げるんだ」

 エイトスは、トウェルフスに操られたクススの前で、膝から崩れてなおも両手を広げてテンスを護ろうとする。

「体が…」

 必死に抵抗するクススだったが、再びその弦を引き矢を放ってしまう。

 放たれた矢がエイトスの体を通過し肩に大きな穴が開く。ゆっくりと後ろに倒れるエイトスを見て、絶望をその表情に浮かべるクスス。

「なんで…こんな――」

「トウェルフス!!おぁああああ!」

 それはイレヴンスの怒号。壁を崩すほどに打ちつけられたその体は、動けていることが不思議なほどの重症だったが、気力だけで彼女はミョルニルを構えていた。

「どうしてこんな事をするんだ!…私たちは姉妹だろ!」

 その問いにトウェルフスはクススの体に擦り寄りながら答える。

「………そうですわね~私たちは姉妹ですわ。お父様に創造された存在で~、お父様のためにその命を使う存在ですが~違いまして?」

「…そうか、お前は父に操られているのだな!」

 イレヴンスは真剣な表情で言うが、トウェルフスは笑みに加え大声で笑い出す。

「あははは!――操られる?私がですか?いい加減にして下さいな――」

 私を笑い死にさせる気ですか?とトウェルフスは言うと、少し落ち着いた声で話し出した。

「ナンバーズ初期ロットは4人、ファーストからフォースまでがそれに当たります」

 突然何を言い出す?とイレヴンスが言い。抵抗できないクススも、「何を――」と言おうとするも、その口に指を押し当てられて、"しー"とトウェルフスに止められてしまう。

「それ以外のナンバーズは今までに何度か入れ替えしています。前回はフィフスにエイトスとナインスからサーティーンスまでを入れ替えました、さて、問題で~す♪"何故"入れ替えたのでしょうか!」

 イレヴンスがトウェルフスの言動が理解できずにいると、クススがそれに答える。

「それは…以前のナンバーズが、対神宝具に耐えられなかったから――でしょ」

「クススお姉様、いいえスィクスス~、残念ですが不正解で~す。正解は"反逆による制裁"です!はい!つまり~お父様を裏切ったことで彼女たちは罰を受け、新たに選ばれたあなたたちがナンバーズとして今いるので~す」

 自身が今までトウェルフスを、どうして好きになれないかが、その時初めて理解できたクスス。

「あなたとのリンクが不快だと感じていたのは…」

「私はとても心地よかったですわ、クススはいつも"恋"や"王子様"を妄想しているのはとても滑稽でしたし」

 唇を噛み締めるクススは、怒りで少しだけその体を動かせた。

「許さない!あなただけは!許さな――」

 ザクっとクススの足に剣の先が刺さると、トウェルフスは笑みを浮かべてそれを徐々に深く刺し込む。

「んぁああああ!!」

「ああ!いいですわ!その表情!!」

 うっとりという表情のトウェルフスと悲痛に声を上げるクスス。イレヴンスが剣を構えて駆け出すとクススの体はその手の弓を射る。

 目に見えない矢を簡単に弾いたイレヴンスだったが、次の瞬間にはその騎士服を何かに貫かれて足を止めてしまう。

「ば、ばかな――」

 彼女の腹部に刺さったものは見えない矢だった。弾いた感触は間違いなくあり、2本目の矢が放たれる様子は少しもなかった。

 どうして2本も、そのイレヴンスの疑問に答えたのは、クススの足を剣で貫くトウェルフスだった。

「疑問ですか?疑問ですよね!実は…対神宝具の能力はあなたたちが知っているものだけではないのです!フラガラッハに他人を操る能力があるように、アポロン&アルテミスには"放った矢の時を巻き戻す"能力があるんです!」

 その事実にクススは足の痛みを忘れるほどに驚き、イレヴンスは意識を失い床に倒れた。

「ま~その効果は一本につき一回ですが」

「…なぜ、あなたがそんな事まで知っているの!あなたの言う事が事実なら!あなただってナンバーズになったのは最近でしょ!」

 クススの言うとおり、ナンバーズは数字が小さいほうが早くに覚醒したという証で姉として扱われる。それならばトウェルフスが目覚めたのはごく最近で、それほどの知識を持っているのが不思議なのだ。

「なぜって――それは、私が"フェイカー"だからですが?」

「フェイカー?」

「そのままです、私は初期ロットの一人"ファースト・リリアン・アトワイト"。つまりトウェルフスは嘘ということ…ああ、ファーストが呼び名で、リリアンはお父様が付けてくれた名前、アトワイトはお父様の姓ですので」

 なら、始めから私よりも早くに覚醒していたという事…、それに初期ロットの一人という事は――

「ほ、他にも初期ロットのセカンド…サード…フォースがいるということなの?」

 その問いにリリアンは首を傾げると、あ!と表情を変えて答えた。

「それはですね…どっちがいいですか?」

「?どういう意味かしら…」

「今いるセカンド、サード、フォースが"そう"なのと"そうじゃない"の…、そこで寝ているフォースが初期ロットであるか――否か」

 そう言うとリリアンはフラガラッハを引き抜いて、立ち尽くすテンスに歩み寄る。

「ちなみに、初期ロットは全員"私側"――いいえ、"お父様側"と言ったほうがいいのかしら」

 不敵な笑みを刻みながらリリアンはフラガラッハをテンスに向ける。

「さー、答えてスィクスス、正解ならテンスを操ってあなたを殺してあげます、不正解ならテンスの細い腕がスパッと斬れちゃいま~す」

「テンテン!!」

「クスス姉上…」

 怯えるテンスと戸惑うクスス。リリアンは、「は~い時間切れ!」と言ってその剣を振り上げる。

「やめてぇええええ!!」

 その声は外層幕で反響してスカイブロック中に響く。

 テンスに振り下ろされるそれは、次の瞬間に音を立てて反響した。

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