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ダイバー(冒険者)  作者: 飛び猫
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10 アンチゴッドノーブルウェポン

 カフドの国首代理は、まるで生け贄に選ばれた雌鹿のように震えていて、明らかに立場の弱い人間が選別されてこの場に差し出されたようだった。

 国土を護る騎士団と国を治める国首を失ったばかりの国を、誰が好き好んで代理したがるだろうか。

 額の汗を幾度も拭うその男は、"初めまして"を二度噛みなんども"すみません"と謝っていた。

 話は、戦死したドラゴンヘッドのウォーカーやモンスターの遺体の処理をどうするかだった。

「此度はこちらも多くの遺体を処理しなくてはなりま"せにゅ"…せん。ですのでついでにそれらも処理いたしましょう」

「……わかった。ところで今回のことはもう民に知らせているのか?」

「いいえ、まだですが…なにせ7万以上の犠牲ですので…」

 ワールドは、代理が自分の白面に怯えていることを理解した上で顔を近づけると言った。

「その7万の死を我々やドラゴンヘッドの仕業などと言って回ることは無いと思うが、もし仮にそんなことをすればきっと後悔することになる」

「ひ!も、もちろんですとも!」

 騎士団が全滅したことをそのまま国民に公表すれば間違いなく、国民は国首を非難するだろう。しかし、その国首もすでに死している以上国民の矛先はそれを補佐するものへと向かう。それを避けるために彼らが、楯となる別の何かを用意することのないようワールドは釘を刺したのだ。

 カフドとの戦後処理を終えたワールドは、ナエリカとホチアを連れてカーハスの下へと向かった。

 騎士団の調査を続けるカーハスの下に行くとカフドからも調査隊らしき一団が来ていた。

「カーハス、カフドとの話はついた、私たちはもう帰るが一応調査の内容を聞いておこうか?」

「ええ、構わんのですが…少々あちらさんと揉めていましてね」

 カーハスがその手で示したのはカフドの調査隊の女だった。

「私はカフドのローゼス騎士団団長ローゼスです。この場は我ら騎士団の調査地域、よって速やかに撤収していただきたい」

「ローゼス騎士団?騎士団がまだ残っていたのか…」

 ワールドの言葉にローゼスは眉を顰めると重い口を開くように言う。

「…我々ローゼス騎士団は全員が女で構成されているため、今回の防衛には参加できず。結果的に騎士団員が欠けることなく無事だったのです。とても誇れたことではありませんが…」

「不幸中の幸いという奴か…、少なくともカフドにとってはだが、騎士としては不名誉なことだということか」

 肯いたローゼスは胸に拳を当てると、なるべく早く撤収していただきたい、と言ってその場を後にした。

 彼女と別れたワールドはナエリカとカーハスから調査の報告を聞く。

「つまりモンスターではなく、人がアレをやったと?」

「ええ姫。アレはほとんどが矢傷、剣傷、他にも武器によると思われる傷をいくつか確認しました。中にはよく分からない傷もありましたが―――おそらくは」

「数十人で万人に勝る武器となると"対神宝具"か」

 聞き覚えのない言葉を口にするワールドにカーハスは質問する。

「"対神宝具"ってなんですか?」

「それ自体が神を殺すために作られた武器のことだ。それでもなければ後は古代の何かだ」

 "神を殺すための武器"と聞いたカーハスは思う。

 そんなものがあるのなら、いるのかそれは―――

 カーハスと別れたワールドは、ホチアを連れてガリュード要塞へ向かった。それは、ドラゴンヘッドの代表が、おそらくはガリュード要塞に降伏の旨を伝える使者を送っているであろうからで。

「ね、カイネル…あの人と何かあった?」

「あの人?……ああ、ナエリカ姫のことか?別に、何もないけど」

 カイネルはそう言ったのに、とても何もないという表情には見えなかった、とホチアは思った。


 カイネルとホチアが徒歩でガリュード要塞へ向かっている時、ナエリカはカーハスとともにコトーデ軍とバルファーデン軍を連れて、フューイからハルファー城へと向かっていた。

「ナエリカ姫?どうかなさいましたか?」

 カーハスは俯いて歩くナエリカが気になって声をかけた。

 しかし、ナエリカは無反応で歩き続けていた。

「お疲れでしたら、あちらの馬車に乗っていただいてもいいのですよ」

 馬車に視線を向けたナエリカは言う。

「アレは負傷兵を乗せるためのものだカーハス」

「確かにそうですが、姫も十分に負傷しているように見えますよ。しかし、万事がうまく終わってよかったですね姫」

「あぁ…………そうだな」

 そんな変哲もない会話の途中でカーハスは血を吐いた。

「かは!…………はぁ?」

 ナエリカは、胸を貫いた銀色の槍がカーハス自身の血を吸って赤く染まっていくのを目にした。

「血を食らえゲイボルグ」

 その言葉でカーハスは残骸となってナエリカに張り付いた。

 いつの間にか周りは死地と化していた。ナエリカは馬車が血に染まるのを見てようやく剣を抜いた。槍を防いで弾き、それを持つ手に傷をつけた。

「ほう、お前は剣の高みにいるな」

「なめるな!我が名はナエリカ・ハルファー!この身は……この身は、今はまだ主のいない身だが、この剣はすでに主を得ている!」

 いつか主がこの身の剣となり私は鞘となる!

「殿は私が引き受ける!!皆!急ぎ首都へ!」

 ナエリカは自ら最後尾に立って強襲してくる敵と対峙した。

「ファースト、ずいぶん息のいいのがいるじゃない」

「ああ、セカンド。こいつは目標の"ローゼス"に代わって新たな姉妹になる者だ殺すな」

 ローゼスという言葉で、ナエリカが槍を持つ女とその仲間が何者なのかを理解した。

 カフドの騎士団の団長の一人"ローゼス"の事だとすると―――

「貴様らがカフドの騎士団を壊滅させたやつらか――」

 ナエリカの言葉はまるで独り言のように女たちの耳を通り抜けた。

「へー…ファーストの腕に傷をつけるなんて本当に人間?」

 ナエリカを前に槍を持つ女と大鎌を持つ女がそう話す。

「基礎が以上に高いのでしょうねお姉様」

 すると、また別の女が姿を現して、三人が同じ銀髪に金色の瞳を持っているために、そういった家系なのだろうとナエリカは考える。

「トウェルフス…あなたには言っておいたでしょ、惨殺だと――」

「無茶を言わないでファーストお姉様。私たちはつい先ほど7万もの惨殺をしたのですよ。逃げて行くあれらを追えるほどの体力が残っていませんわ」

 トウェルフスと呼ばれた女は、剣を手に、笑みを浮べてそう言うとナエリカにそれを向ける。

「それに、こっちの方が楽しそうですわ」

「悪いですがトウェルフス、今回は体に害なく捕らえたいので、アレの相手はセカンドに任せます」

「新たな姉妹の誕生ですか?欠番のセヴンスの登場ですか?これはおめでとうございますお姉様方々」

 ナエリカは混乱していたが悟っていた。こいつらがカフドで7万を惨殺した存在。そして三人ともが強い。

「お前たちはいったい何だ?どこかの国に所属しているのか?」

 ナエリカの質問に答えようとする者はいなかった。それどころか勝手に話して、勝手に会話が進んでいった。

「私のデスサイズで体の自由を奪えばいいのだろファースト?」

「その通りだ、それを持ち帰るのが我々の仕事」

 大鎌を振るう女が瞬間で間合いを詰めるとそれを豪快に振るう。ナエリカは、それを同等の力で弾くと反撃に転ずるが容易に避けられる。

 そして、数回剣で打ち合ってナエリカは気づいた。

 殺す気がない?ならば―――

 様子見なし、浅い鎌の振りに鋭い一閃で鎌の刃が当たる前に――――――

「悪いな~!この鎌の刃は魂を斬るんだよ!」

 鎌が!変形するだと―――

 ナエリカの一閃が届く前に、体を通過した大鎌が何かを斬ると、糸が切れた人形の如くその身が倒れる。

 何が、――力が――入らない。

 そしてゆっくりと意識が遠のいていく。

「さすがセカンドお姉様のデスサイズ!私のアロンダイトの次の次ぐらいに強いとされる対神宝具!」

「一番だ!神に死を与える鎌だぞ、このデスサイズはな!」

 そんな会話も遠くなる意識には何も感じさせない。だが、ナエリカはすぐに気を失わなかった。

「私は!……主を見つけたんだ!―――会えるはずのない主と会えたのだ!こんなところで!!」

 体を起こそうとするナエリカだったが、その体に剣が刺さると完全に意識が消えさる。

「おいおい、傷つけちゃいけないんだろファースト?」

 セカンドと呼ばれた女がファーストと呼ばれた女にそう言う。

「いや、よくやってくれましたテンス。あなたのフラガラッハなら相手の戦意を失わせることができる」

「いいえ姉上。お役に立てて光栄です」

 いつの間にか現れたテンスと呼ばれた少女は、剣を鞘にしまい小さくお辞儀した。

 そして、意識を完全に失ったナエリカを担ぐとファーストと呼ばれた女は言った。

「父上がお待ちだ。帰るぞ、我が姉妹たちよ」

「「「はい、お姉様」」」


 フューイからガリュード要塞までは、徒歩でなら二日はかかる。しかし、カイネルにはスキルであるオーバーアクセルがあり、それが武器防具を身につけていない状態でなら、弓に放たれた矢よりも速く走れるのだ。

 武器防具を身につけた状態とは帯剣する、抜剣した物をその手にする、防具を身につける等である。つまり、武器や防具を他人が持って、その他人を担ぐだけならその条件に満たない。

 つまりは、一切合財をホチアが持ち、そのホチアをカイネルが担ぐならこの条件を満たさないということだ。

「どうだった?馬よりもヴァハムートよりも速い乗り物に乗った感想は?」

「……き、気持ち悪い」

 約2時間かけた道のりを1時間で駆け抜けたカイネルと、それに抱えられて揺られたホチアはすでにガリュード要塞の傍にいた。

 白面を着けてワールドとなったカイネルとホチアを出迎えたのは、国境警備司令官のハイトレン・フェルナーと第5王女リサーナだった。

「本当に半日も経たずにお戻りになるとは」

「お帰りなさいませワールド…とホチア――さん?でしたわね」

 ホチアはワールドの後ろから顔だけ出してリサーナに舌を出す。イラっとしたリサーナだったが、それを表情には出さずに心内に潜め、ニッコリと笑みを返した。

 ワールドはすぐに使者の有無を確認すると、やはり一人と一匹が使者としてこの砦を訪れていた。その人物とは、ドラゴンヘッド傘下のドラゴンアイの長、アルファー・クリートとそのテイムモンスターであるヴァルスだった。

「もう少し時間がかかるものだと思っていたが、私のヴァルスは風のように駆ける。足の速さでは敵うものなどいない――と自負もあった。だが、先に逃げた私とほぼ同じ時間でこちらに移動してくるとは…白面の方」

 現れたワールドにアルファーは驚きをそう言い表した。

「いいや、あなたのヴァルスは速い、それに意見がまとまるのも。降伏の使者がくるのはもう少し日が落ちてからだと思っていた」

 その言葉にアルファーはすぐに話を切り出した。

「敗北した事実を受け入れられないほどのバカはうちにはいない、こちらはどんな条件でも受け入れるつもりだ」

「全面降伏と受け取ってよいのですか?」

 リサーナの言葉にアルファーは即座に肯く。

「そう捉えてもらっても構わない、そちらの要求には全て従おう。それに重要なのはそこじゃない」

「今回の戦の処理よりも重要なことがあって?」

 強くそう言ってアルファーを睨み付けたリサーナ。そんな彼女をアルファーは、まるでいないように無視してワールドに話しかけた。

「白面の方」

「ワールドだ」

「…ワールド、今回の戦いの最中に私はカフドの騎士団が襲われるのをこの目で見た」

 リサーナやハイトレンはその話についてはこれなかった。二人は戦場でのことなど知らないのだから無理もないこと。

「で、どんなやつらだった?」

「やつら…か、気づいてはいたのだな、あんなモンスターを従えているんだ当然か――。敵は約10人どいつも女、これは確かだ俺のスキル"ハンターアイ"で確認した。一人は大鎌を持ち、一人は弓、一人はよく分からないがモンスターらしきものを呼び出していた…言葉では説明しづらい。残りは全員剣でいずれも手だれだった」

 ワールドはアルファーからの情報を頭で整理していた。

 大鎌に弓に剣…と得体の知れないモンスターを呼び出す武器。間違いなく対神宝具だな、しかもホーリーレリック級だ。

「私は自分の目を疑ったよ、アレを見ていなかったらワールド、あなたのアレにも驚いただろ…スター、ドラゴンヘッドのギルマスがやられたことにも驚いただろう。今思えば…モンスターたちは、アレに怯えていたのかも知れない。私たちの知らないところで世界の法則が変化しているのだと実感した」

 明らかに溜め息を漏らすワールドは机に指を立てて言う。

「それは違うな、もともとこの世界はこうだったんだ。昔からこの世界には全てあった…古代人の遺産だ」

「古代人か…私たちよりも高度な文明を持ちながら、ある時をきっかけに歴史からいなくなってしまった。残されたのは未知と謎だけだ」

「そんなことよりもだ、情報を持ってきただけ…ではないんだろ?」

 ワールドはアルファーの前に、さっと手を出すとそう言う。

「もちろんだ。私がここにきたのはバルファーデンとコトーデの同盟に参加したくて―――だ」

「!」

 ハイトレンはその言葉に怒りの感情を見せて怒鳴った。

「何をぬけぬけと!一方的にそちらから仕掛けてきておいて!」

 彼の怒りはもっともだ、とアルファーは言って"しかし"と続けた。

「アレは殺戮集団だ。我々だけは太刀打ちできない。匹敵するのは私クラス、勝るならワールドぐらいだろう。もちろんこの同盟に対しての礼は惜しまないつもりだ。フォレストを囲む南の砦を開放しよう、出入りも自由にしよう、情報も提供するそれに―――」

「私はコトーデの代表として言うが、共闘はしない――勝手にしてくれ」

 話を聞き終わる前にそう言ったワールド。アルファーはそれが意外だったのかしばらく沈黙した。

「……もう一度考えてほしい。アレはさすがのあなたでも一人でどうこうできる相手ではないはず」

「私は勝手にしろと言ったのだ。あとはドラゴンヘッドとバルファーデンの問題で、コトーデはそのことに口を出す気はない」

 アルファーは溜め息混じりに頭を抱えた。そしてワールドは即座に席を立ちその場を後にした。

 しばらく頭を抱えたままのアルファーに話しかけたのはリサーナだった。

「アルファー殿、よかったですね」

「………よかった?私は失敗しました交渉役として…キャンプに残った仲間に合わす顔がない」

「いいえ、ワールドは言いました、"後は勝手にしろ"と。つまりは、バルファーデンがドラゴンヘッドと同盟を結ぶかどうかで、コトーデも対応を変えるということです」

「それは…真に?」

「おそらくですが―――」

 その言葉がワールドの真意かどうかアルファーには分からなかった。しかし、彼にはそれしか残されていないように思えた。

「リサーナ姫、どうか―――」

「よろこんでお引き受けいたしますわ」

 こうしてドラゴンヘッドとバルファーデンは同盟関係を組むこととなり、フォレストはバルファーデンにもその入り口を開いた。

 リサーナがアルファーとの交渉によってバルファーデンにもたらしたのは、フォレストだけではなく、彼らがモンスターによって行っていた物流網も、一部彼女の名で受け取ることとなった。


 勝手にしろ、そう言って部屋を後にしたワールドは外で待っていたホチアと合流する。

「話し合い済んだのか?カ…じゃなかった―――ワールド」

「ああ、一応念のために顔を出しただけだからな」

「でも、ドラゴンヘッドが本当に降伏するなんて思ってもみなかったな~」

「文字どおり頭を潰したんだ。降伏しなければギルドごとなくなる事は向こうも承知だろう」

 事の顛末をホチアに聞かせると、彼女はよく分からないと言ってそれ以上その話題には触れなかった。

「ところでカイ―――ワールド、夕方だけどこれからどうするの?」

「帰る」

「帰る?どこに?」

「コトーデだ、今日中に帰らなくてはいけない」

「ええ!まさかまた走るの!?」

 そのまさかだった。ガリュード要塞について間もない二人だったが、ワールドことカイネルの都合でコトーデへとすぐさま帰国することになった。

「どうしたのホチア?」

「ね~カイネル疲れてない?今日はこの辺の宿に泊まってもいいだよ」

 というかウチは今日はもう疲れた、一生分働いた気がする。

「そうか…ホチアにとってはコレぐらいでもう疲れてしまうんだね。ボクはまだ全然平気だけどね、これぐらいなら、後数回同じ事をしても疲れないだろうな」

 常人の領域から離れすぎたカイネルの持久力にホチアは呆れることしかできなかった。

 涼しい顔で50ガレン以上を走破してしまう人間はカイネルをおいて他にいないだろうが、彼はそれが当たり前になっているために他人の体力など身体機能を忘れがちになる。それに気をつけることを常に彼は自身の旨に留め、他人と自分は違うのだという認識を日々再確認している。そうしなければいつかその認識の誤差で他人を傷つけるかもしれないから。

「今度から注意しよう。でも、ホチアは走らなくて良いからそんなに疲れないよね?」

「…………」

 そういう問題ではない、とホチアは思ったが口にはしなかった。

 コトーデまで走る気満々の彼に、彼女が何かを言ったところで気が変わるということもないだろう。そう彼女が考えたためだ。

「カイネル…、コトーデに行くのは分かったけど…あまり急がなくていいよ(酔うから)」

「ああ、深夜にでも着ければいいからそこまでとばさないよ、大丈夫」

「は~…コロロが羨ましいよ」

 コロロはカイネルと走るのを楽しんでるようで、むしろ興奮してると言っていいほどに喜んでいた。

「じゃ行こうか」

「ウチ、大丈夫かな…」


 カイネルとホチアとコロロがコトーデへの帰路に入ったころ、ようやくアルファーとの話を終えたリサーナがその姿を探してガリュード要塞を彷徨っていた。

「まったく、どこにお行きになったのかしらワールド様…」

 そんな彼女に入り口の警備兵が話しかける。

「姫様、いかがなさいましたか?」

「…ワールドの姿を見かけませんでしたか?」

「ああ彼なら先ほど小さな少女と共に出て行きましたよ」

「お出かけ?いったいどこにでしょう?」

「遠巻きに聞こえた会話によると、お二人は、"コトーデへ帰る"と言っていました」

「え!コトーデに!今から?……そんな~」

 いつもリサーナは姿勢を正して言葉遣いにも品があるのだが、その時ばかりは肩をガクッと落としていた。その様子が稀で警備の兵は内心珍しく思っていた。

 これでは何のためにガリュード要塞にまで足を運んだのか分からないわ、と一人呟くリサーナはションボリと貴賓室に戻って行った。

 日が暮れ夜が明けると、リサーナはドラゴンヘッドと交わした書を携えて首都に戻る仕度をしていた。

 そんな彼女の元にも届いた報告は、バルファーデンにとってもコトーデにとっても、カイネルにとっても意外なものだった。

「軍を率いていたコトーデの指令官カーハス・ロバルトアールが帰路にて死亡。バルファーデン第5王女ユリアナ将軍も行方不明…彼女を最後に目撃した兵は、将軍は殿として敵の足止めをしていたと、その甲斐もあり両軍のほとんどが首都へ帰還することができたらしい」

 王宮軍軍統括司令官ダンダ・リオ・ラインハートの報告が、カイネルのいないノラの集いに届いたのは正午過ぎだった。

「ワールドはどうしている?」

 ダンダの質問にノラの集いサブマスターのレイフ・ラドクロスは頭を掻いた。

「…ワールドは今日は休暇でして、ここには来ないと思いますよ」

「そうか…なら伝えてくれ、事は一刻を争うと――」

 そう言い残しダンダはギルドを後にした。

 レイフはすぐにカイネルの自宅に足を運ぶ。深夜にコトーデに着いたカイネルはレイフとベルギットにだけは帰った事を伝えていた。そのためレイフはカイネルが見知らぬ少女を連れ帰った事を知っていた。

「やあ!アリアちゃん!今日も早いな」

「レイフさん?どうしたんですそんなに慌てて」

「いや、ちょっとね、で、カイネルは?」

「義兄さん…義兄さんなら寝ています。変な女の子を連れて帰ってきて、ワールドさんの知り合いとか言って、一緒のベッドで、イチャイチャと、相思相愛で、仲むつまじく、それはもう恋人のように!」

 調理中の包丁の音が響く中、刺々しい言葉を言うアリアに、レイフは、やぶへびだったか――と呟いたが、事が事なだけあって急いで起こすように彼女に頼んだ。

 レイフが客椅子に腰を掛けると奥の部屋からアリアの怒鳴り声が響いてくる。

「…こえー」

 そしてアリアが部屋から出てくると、すぐにカイネルが出てきたが、レイフは知っているのだ彼が――とても。

「おっす、カイネル寝ていたところ悪いな」

「………………………………殺されたいのか?」

 そうカイネルは寝起きがとても凶悪なのだ。その眼つきや言動や振る舞いにいたる全てが普段の彼とは異なり。

「…口が悪いな~、それよりも大事な話を持ってきたんだ」

「………俺様を叩き起こすだけの用件じゃなかったら、……ごみが―――命は無いぞ」

 おそらくは、エリカ・グレーゴル・アルバーのワールド像は、このカイネルがモデルとなっているのだろう。カイネル自身は、自分がこうも寝覚めが悪い事を知らないこともレイフは知っているため、本人に直すようにも言えずにいる。

「…ダンダ軍統括がたった今伝えにきたことなんだが、バルファーデンに派遣した兵が首都へ帰還の帰路の最中に何者かに襲撃されて指令官のカーハス含む数十名が殺された」

「………それで」

「帰還してきた兵の話では敵は3名で女ばかりだとか」

「…女」

「あと、一緒にいた姫さんが行方知れずと言っていた」

「……ナエリカが?」

「ああ」

 カイネルは、それを聴いた瞬間我を忘れて右手を机に叩き付けた。机は轟音と共に叩いた部分から割れ、その音でアリアやメイネとネテルが心配そうに顔を覗かせた。

「落ち着けカイネル!」

「……すみません、今意識がはっきりしました。少し頭を整理します」

 そう言って家の外へ出て行くカイネルの手からは流れるほどに血が出ていた。アリアがすぐ後を追って行きメイネはネテルに見せまいとすぐに扉を閉めた。

 これはボクの判断ミスだ、優先順位の付け間違いがカーハスを死なせ、ナエリカを例のやつらに連れ去られる結果を招いた。

「またか―――また!」

 井戸から汲み上げた水で顔を洗ったカイネルにアリアがタオルを手渡す。そして、血のついた手を別のタオルで拭きながら心配そうに言う。

「義兄さん…」

「ごめん、心配かけたね」

「何があったの?」

「……ごめん―――なんでもないんだ」

 カイネルが"ごめん"という時は、絶対に自分に真実を話してはくれないと理解しているアリアは、ただただ笑顔を作って言う。

「…無理―――しないでね、義兄さん」

 カイネルはタオルで拭いた顔を両手で叩くとレイフの待つ部屋へと戻った。

 そして、レイフにワールドにも伝えておくよう言ったのはアリアの目があったため。

「それじゃー俺はギルドに戻る。…あとで変わりの机も持ってくるように手配しとく、それと、メンバーには伝えておくか?」

「必要ないです、ボクとワールドでなんとかします」

「分かった…無茶すんなよ」

 その後、ホチアが起きるとすぐさま彼女にあることを頼んで、カイネルはすぐにカーハスとナエリカが襲われた地点に向かった。


 ホチアは、カイネルからカタナの手入れをエリカに頼むよう言われて工房へと向かった。

 カタナが万全になったらすぐにカイネルに合流することになっているために彼女は急いでいたが、ブラックスミスのエリカがカタナを手入れする事を拒否していた。

「どうして手入れしないんだよ!こっちは急いでんだ!」

「…なんでカイネルがこないの?あんたは誰?カイネルの何?それを聞くまでは絶対メンテなんてしないから!」

 エリカは突然現れたホチアに苛立ちを見せた理由は、自分が手塩にかけたカタナを見知らぬ少女が持ってきたからだ。

「ウチはホチア。あんたの事はカイネルから聞いてるよエリカ」

「いきなり呼び捨て!!…いい度胸ね」

 もう怒りが治まらないエリカはハンマーで工房の鉱石をガンガンと叩き始めた。

「私が!打った!子どもたち!を!どうして!カイネルは!こんな子に!持たせたのよ!バカ!!」

「聞いてたとおりエリカは怒りんぼうなんだ…カイネル言ってたよ、"笑えばかわいいのに"って」

「………はぁ~。まったく…あいつは!分かったわよ!やるわよ、やればいいんでしょ!」

「結構急いでね、カイネル待たせちゃうから」

「……あんた…本当にカイネルのなんなの?」

 ホチアを部屋から追い出したエリカはすぐにカタナを鍛えなおして彼女に渡した。

「で、カイネルはどこにいるの?帰ってきているんでしょ?」

「今はバルファーデンの首都に行っているのさ」

「え!?私には挨拶なし?ちょ、ちょっと!あんた!待ちなさいよ~!」

 逃げ去るようにホチアがその場を離れるのはカイネルの忠告を聞いていたからで。

「どうしたのコロロ?…なんで逃げるのかって?カイネルが言っていたのよ、"エリカはボクの話をし出すときりがない"ってさ」

 コロロは懐から少し顔を覗かせて疾走感を目を細めて楽しんでいた。


 ホチアがコトーデを出立したころ、カイネルは両軍が襲われたフューイの下部に隣接する領地、ニルイの現場にワールドとして立っていた。そこにはすでに調査隊を率いたオールスト将軍がいて調査の内容を聞く事ができた。

 現場を見たワールドはオールスト将軍と話をしたが、敵の目的も敵がどこに逃げたのかも分からなかった。

 その後、ワールドは四方に10ガレンほど探索して何か手がかりになるものがないか探したが結局何も見つからなかった。

 バルファーデンの首都でホチアを待っている間、ワールドをワールドだと理解して周囲の人間が興味を持っていたが、苛立ちが周囲に伝わったのか誰も近づく事はなかった。

「お待たせワールド、どうしたのさ?凄い殺気だけど――」

「…ホチアか、カタナは?」

「ほい!このとおり!…それで、あのお姫様の居場所は分かった?」

 その問いかけにワールドは頭を振って立ち上がった。

「だが、一つだけまだ手がかりになるかもしれない場所がある」

「どこ?遠いの?夕方だけど行く?」

「もちろんだ。そこはドラゴンヘッドが撤退したカフドの内の道だ。確証はないが、ニルイ同様あっちでも多数の被害が出ているはずだ」

「…でも、アルファーは何も言ってなかったじゃん」

「彼は知らなかったんだろう。おそらくは殿もいなかっただろうから死人はこっちより多い」

 カイネルは、とにかく今は一瞬も時間を無駄にできない。情報が少ない分こちらは常に後手になる、そう言ってホチアを抱き上げると街中にもかかわらずオーバーアクセルを使って超加速した。

 突風を発生させながら街中を疾走して、街を抜けるとさらにその速度を増した。ホチアはあまりの速さに目を閉じていたが徐々に意識が遠くなるのを感じていた。

「ワ、ワール…………」

 それは超加速による重力によって彼女の脳に血流が行き渡らないために失神したのだ。それほどの超加速に当のワールドの足も細かい筋肉がプチプチと切れていく。

 そのまま走り続けたならホチアの体にもよくはない。そう感じたコロロがカイネルの首下に移動してその毛、本来は植物のトライコームと呼ばれるもので、普段は柔らかく害はないが、時にそれを棘のように尖らせることもできる。

 急に首下に走る痛みに駆ける足を止めるカイネル。その時にようやくホチアが気絶している事に気がつく。

「ホチア!……そうか失神か。ボクとした事が、速く走りすぎたんだね」

 白面の中のカイネルが冷静さを取り戻して、ホチアの体を気遣う事を欠いていたことに気がついた。

「すまない、ホチア……。ありがとうコロロ、君がいなければホチアに何かあったかもしれない」

 しばらくカイネルは自身を戒めるために自ら胸を殴りつけていた。

 何度そうしただろうか。不意にその手を止める者がいた。

「…そんなに叩いたら……カイネルが死んじゃうよ?」

「ホチア?」

「気失っちゃったみたい、はは、死んだかと思ったの?ウチはカイネルのクーリエだよ、簡単には死なない――さ」

 カイネルは、ごめんごめんと繰り返してホチアに謝り続けた。

 落ち着いたカイネルは再び走り出し、抱えるホチアの体を気遣いながらカフドの東部の領地アラドミナへ向かった。

 ホチアは、もう少し速くても平気と言ったが、カイネルはそれ以上足を速めることはなかった。

 そして、日が暮れたころ二人と一匹はアラドミナへ到着した。

 夜間のため月光だけしかない中、ドラゴンヘッドの襲われたであろう場所は探せるわけもなく。

「だめだな、これじゃ手がかりを探すところじゃない」

 辺りを見渡すカイネルは白面を着けていない。天気が変わってしまってはと急いだ意味がなくなる、そう呟いた彼にホチアが話しかける。

「夜になっても大丈夫さ!コロロ、ほら"プチプチ"だよ」

 ホチアはそう言って、小さな種をいくつか手に載せてコロロを呼ぶ。

 その種にコロロがトライコームを刺して、地面に一つ落とすとそれが急成長してランプの植物が生え、優しくだがはっきりと辺りを照らす光源になる。

「どうやったんだい?不思議な力だね」

「コロロは精霊族だから植物に対して色々と影響を与えられるんのさ!小さいけどやるときはやるのさ」

「驚いたな…コロロが精霊だったなんて。ありがとうコロロ、キミは助けられてばかりだ」

「ウチも!」

「あぁ、もちろんホチアもだよ」

 数分後それを見つけた。血、血、血。それらは7万の人が死ぬよりも多かった。

「モンスターの血だ。ドラゴンが多数いたからな、これぐらいにはなる」

「…池ができてる……鳥肌が―――」

「だが、予想どうりになった。ここまでとは思わなかったけど、これならあるはずだ」

「いったいこんなところに何があるのさ」

 カイネルはコロロが咲かせた光源の傍をしばらく調べると、再び別の場所にそれを生やさせてまた調べるを繰り返した。

 そして彼が、見つけたと言ったところにホチアが近寄ると、そこには傷ついた獣系のモンスターがいた。

「酷く怯えている。が、こいつがボクの言ってた"手がかり"だ。……どうやらテイムした主はもう死んでしまっているらしい。ホチアこの子をテイムできるかい?」

 そうカイネルが探していたのは逃げ延びた存在。

「多分できる。この子に戦意はないし耐久度も半分以下でレベルは…33かー、少し高いけど条件は満たしてる」

「レベルが高いと何か問題があったりするの?」

「う~ん直接見たわけじゃないけど、前に傷ついたドラゴンをテイムしたおっさんがいて、レベルが26離れていたらしいんだけど、傷も治って慣れてきたころバクって食べられちゃったらしいのさ。コロロが言うには20以上あった場合は危険だってさ」

 カバンから魔具"ハンティングロープ"を手にすると、ホチアはそれを傷ついたモンスターの首にかけて優しく撫でた。その後、数分の時間経過後ロープが淡く光りホチアのステータス上にLv17、58、33と表示される。

「シュグルー?シガーとは別種の獣系だってコロロが言ってる。女の子みたい、かなり怖がっていてすぐには何かを聞き出す事はできないみたい」

「そうか…ま、目的は達したからあとはその子の回復を待つだけだ」

「シュシュだってさ」

「?シュシュ?その子名前かい?」

「うん。あんまり急がなくていいよシュシュ」

 そして、カイネルとホチアはシュシュが倒れていた場所で一夜を明かした。さすがはモンスター、数時間でその傷が自然治癒してしまい、そのころにはホチアとの会話も問題なくできるようになっていた。

 カイネルの質問は3つで、一つは敵の姿、もう一つは敵の強さLvなどステータス、最後に。

「これが一番大事だ、敵のニオイを覚えているか否か」

「シュシュ、襲ってきた奴のニオイを覚えてる?…―――うん、うん、花の香り?カイネル、覚えているみたい」

「そのニオイをシュシュは追えるのかな?」

「シュシュ、追える?……追える…けど、怖いって」

「それは当たり前だろうが、シュシュがそいつらともう一度会う事はないよ。居場所を突き止めるだけだからね」

 それを伝えるとふらつく体をゆっくりと起こしてシュシュは鼻息を荒く吐いてホチアに言った。

「それなら問題ないってシュシュが言ってる」

 シュシュはすぐにそのニオイを辿りだした。シュシュの移動速度はカイネルが走るよりも遅く、時間は掛かったが夕刻を過ぎたころそこに到着した。

 

 カイネルがホチアと、シュシュがいるところまで駆けていたころ、バルファーデンの首都にあるハルファー城では、王と第一王女ユーファ、夫のヒュデルン将軍がリサーナ姫の帰還を出迎えていた。

 王はナエリカのことで気が気でない様子で、ユーファも同じ様子だった。ヒュデルン将軍は、王都の防衛のため北部から帰還したばかりのようだった。

「で、陛下…姉様はまだ―――」

「………アレは、…昔から剣だの戦術などに現を抜かして…、誕生の祝いは毎年武具や防具を強請って……気づけば将軍になっていた……」

「陛下……」

 王との話を終えたリサーナはユーファとヒュデルン将軍とで昼食をとることになる。

「お労しいや、父上は姉上がいなくなってからずっとああなのですか?」

「そうよリサーナ。一番手が掛かったからそれだけ気も落ちたのでしょう。将軍、父上のことよろしく頼みますね」

「もちろんだ、私にとっても陛下は王であり父でもあるのだからな」

 ヒュデルンは元々ダイバーで、コトーデからバルファーデンへと鞍替えしたきっかけがユーファの口ぞえだった。彼にとっては彼女と彼女の家族は命に代えても守るべきものと考えている。

「だが、ナエリカ将軍のことはどうにもならないことだった。ユーファ、キミの妹はこの国で一番の剣の使い手だ。彼女が叶わなかったのなら私がいたところでどうもできなかっただろう」

「では、敵が今すぐ王の命を奪おうとしたなら…」

「無論私も力の限り命をとして戦うが、お守りする事叶わないだろう」

 ユーファもリサーナもその表情を曇らせて食事も喉を通らなくなる。

「しかし、そう分かっているのだから私も陛下の命を野ざらしにするつもりはない。変わり身として用意した男を楯に陛下にはご存命いただく。無論姫たちもだ」

「それはあなたもでしょヒュデルン」

 ユーファは心配そうにヒュデルンを見つめる。しかし、彼はその頭を振って言う。

「私がいなくては敵に感づかれるやもしれん。囮として私ほど適任な者はいないからな」

 ヒュデルンがそう言うとユーファは席を立ってその身に縋る。声には出さないがリサーナは姉の目から零れるのを確かに目にした。

 リサーナは姉を安心させようと声をかけた。

「心配なさらないでお姉様。ワールド様が全て解決なさってくれますわ」

「…だと宜しいのだけどね」

 ユーファの震える肩をヒュデルンはそっと支えた。


 そこは蛍光灯がいくつも光っていて、扉は人が前に立つと自動で開閉する――そんなところ。

 床を鳴らしながら女が一人長い廊下を歩く。女は、ある部屋の前で立ち止まると、その部屋の扉にある四角い板に触れる。

 キュイィィィイン!と、機械仕掛けの音が響くと扉が上に開する。

「失礼します」

 女は一言だけそう言って部屋に入り、扉が閉まった後に頭を下げて喋りだす。

「ただいま帰りました、父上」

 女の前にはリクライニング式の椅子に座した男がいて、男の見たは老人という年頃でメガネのレンズを白く光らせながら、四角い板の前で指を動かしカタカタと音を鳴らしていた。

「ああファースト、私のファーストもう少し待ってくれ、サンプルの仕上げがもう少しで完了するのだ」

 男は椅子から立ち上がるとノソノソと杖をつきながらファーストに近づいて行く。そっと手を彼女の背中に持っていき、次に撫でながらそれをお尻に持って行くと頬と頬を強引に当てる。

 ファーストは無表情でそれを受けながら話し出す。

「父上、目的のカフドのローゼス騎士団の団長ローゼスは現場にはいませんでした。その後、異常な力を感じた戦場から撤収する部隊を強襲、結果彼女に勝る素材を入手しました」

「うん。それじゃ、後でデータを転送しておいてくれ…ほら舌出して」

 男はファーストにそう言い、彼女が舌を出すと自らも舌出して、舌と舌を絡めだした。ファーストは一切舌を動かす事はなかったが、男は気が済むまで舌を動かし続けた。気の済んだのかようやく彼女から離れた男は、ノソノソと杖を突きながら近くにあるガラス張りの筒に近づき中に入った剣を見ながら言う。

「見てみなさいファースト!これがアンチゴッド―――ノーブルウェポン!所謂"対神宝具"!キミのグングニルもそれに属するが、この剣はキミのそれとは別格!グングニルが神核朱雀級に通ずるのに対し、この剣は神核八蛇大蛇(ヤタオロチ)級に通ずる力を秘めている」

 ファーストは興味なさげに、そうですかと言うと、男は少しムッとして勝手に話し続けた。

「グングニルは本来投擲武器で突いたりするのは使い方として間違っていたのだが、もう一つはちゃんと実現して見せた物だ。この剣も妖精の加護とはいかないが、剣には自動迎撃システムを搭載し、鞘には癒しを与える力"ヒール"をナノマシーンによって常に行うことができるのだ。不死身とまではいかないが体が半損しても再生する可能性を秘めている」

 男はもう一度ファーストに顔を向けてその名を口にした。

「その名もエクスカリバーカリバーン!……反応が薄いな――――やはりファーストはこういったものに興味を示さないか」

「私にとってそれらはただの道具です。もちろん私も父上の道具です」

 男はジッとファーストを見て、まあいいと顔を剣に向け直す。

「お前たちは私の娘だ。ヴァルキュリアもあと一人で全員が揃う。ようやくこの剣にあう女が手に入ったのか…、ふ、ふはははは!」

 不敵な笑みをガラスの筒に映して男は笑い声を上げた。ファーストはその後姿に頭を下げると静かにその部屋を後にする。

 閉まった扉にファーストはしばらく視線を送っていたが、それがいったいなんなのかはいまはまだその旨の内に留めている。

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