Prologue 『7』
中国奥地の霧煙る大森林。
その森の奥には、未だ人類に確認されないエベレスト級の山々が存在するという。
そして、前人未到であるその山の頂上に、『彼』は住んでいた。
全身の骨が浮き彫りになるほど痩せこけた裸の老人である『彼』は、それにも関わらず、全身からは揺るぎない生命の息吹が感じられる。
……前”人”未到の山に住む、老人。
……そう、つまり、『彼』はもはや『人』ではなかった。
植物すら生えず、野生動物すら寄り付かないその場所で。
雪や雲や霞を食べて生きる『彼』のことを。
……人は……『仙人』と呼んだ。
『彼』が人間であった時の名は、金 黄斐。
しかし、その名前は歴史の風雨に削られ、本人ですらもはや記憶の彼方である。
ふと、『彼』が、東の空を見上げる。
そして。
「……ああ、あ、あ~……」
何かに気付いたように、ゆっくりと声を上げた。
数百年ぶりの発声で、カラカラに乾いた『彼』の声帯がピーピーと悲鳴を上げる。
声を上げるのを止めた『彼』は、山の頂上から大森林を悲しそうな瞳で一望した。
この森は、『彼』が作ったもの。
……3千年をかけ、自身の生命力を与えて育てた『我が子』なのだ。
そして、その『わが子』から、『彼』は、今。
全て、返してもらう事にした。
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山の麓のすっかり枯れた森の中から、筋骨隆々の若々しい美丈夫が現れた。
彼は一度、森を振り返り、艶のある声で静かに語りかける。
「すまん、『我が子』よ……『厭月怪』が終われば、私も逝こう……」
悲しそうに響くその声は。
全く似ていないはずなのに。
……どこか、山の上の、『彼』の声に、似ていた。
中国語についての突っ込みは禁止。
適当です。




