Prologue 『5』
稀代の陰陽師、大原修はたった今、テレビ局から逃げ出したところであった。
「タクシー!
運転手さん、とりあえず、ここから離れてどこか遠くにお願い!」
「あいよッ」
ぶよぶよのほおの肉を弛緩させ、修は静かに考える。
(ふざけるなよ……あんなもの相手にできるかよ、いくら金を積まれてもな!!)
シートにもたれかかり目をつぶると、瞼の裏に映るのは、紫色の、月。
明らかに人間が扱う限界を超えている。
そんな物と、戦えるわけがない!!
……実は大原自身も、人間の限界など3つも4つも超えてはいるのだが。
そこは置いておいて。
「お客さん、大原修さんですよね、テレビ、いつも見てますよ!!」
疲れはてた修であったが、ファンサービスを欠かすようでは芸能人の恥である。
「あら、ありがとう。
陰陽のあり方を信じてくれない人達、多いのよねー」
テレビ用のおネェ言葉で会話をする修。
タクシーの運転手も心得たかのように話が盛り上がって。
そして。
「つきましたよ、大原さん」
いつの間にか、目的地に到着していた。
「ありがと。
あれ、でも、目的地なんて言ってなかったんじゃ……」
「知ってますよ、大原さん。
次は、戦うんでしょ、あの『紫色の月』と!!」
タクシーの運転手は、一片の曇りも無く修の顔を見つめてきた。
目の前には、テレビ局の用意したバス。
バスの横には、『THE・大原修 陰陽師 ~紫色の月編~』などと書かれていた。
(まじかよ、オレ、死んだわ)
疲れはてた修であったが、ファンサービスを欠かすようでは芸能人の恥である。
「ええ、もちろん。
『紫の月』なんて、チョチョイのチョイよ。
『陰陽の技を持って、必ず紫色の月を鎮めてみせよう』!!」
「いよっ、決め台詞!!」
大原がいつもの台詞を決めて、タクシーの運転手は快哉をあげた。
こうして、人々は『紫の月』に巻き込まれていく。
望むと、望まざるとに関わらず……。




