Prologue 『44』
ワンダ・ワンダはウサギの様に長い耳をピコピコさせて、仲間たちに声を上げる。
「おいおいおい、僕らの月の、ピンチだ!」
仲間たちは、冷めた目で彼を見つめる。
「でも、俺らのピンチじゃないし」
「月のことなんて、どうでもいいだろう」
「はい、解散、解散」
ワンダの前にいた人だかり……いや、ウサギだかりは、あっという間になくなった。
「おいおいおいワンダ・ワンダ、一体全体どうしたってんだ。
確かに僕らの月は麗しくて愛しい存在だけど。
そこに住む生き物は、必ずしもそうじゃあないぜ。
何しろやつら、同種族に核爆弾を使うんだ」
ワンダの友達が、彼を諌める様に声をかける。
まさに正論であったが。
「……確かに、そうかもしれない。
そうかもしれないけど。
僕らの月が麗しくて愛しい存在なのは。
そこに住んでいる人たちのお陰でも、あるんだぜ」
「……まあ、僕は突っ走るワンダ・ワンダも大好きだよ。
好きにすると良い」
友達は呆れた様に、そう呟く。
月に住み、人類が持つ科学力を軽く1000年は凌駕する、月兎族のワンダ・ワンダは。
彼らが、僕らの月と呼ぶ。
青い惑星へ、向かうのであった。




