Prologue 『43』
伯爵様、登場。
紫色の月の下、伯爵様が、お目覚めになられた。
伯爵様が出てこられた棺の名は、ザザルペス。
通称、『ザザルペスの空庭魔柩』。
伯爵様がお召しになられている服の名は、ヒーヴォ。
通称、『ヒーヴォの発狂黒衣』。
伯爵様が首に掲げるのは、エラドストゥラ。
通称、『エラドストゥラの絶命十字』。
……そのどれをとっても、聖骸布レベルかそれを超える程の聖なる霊威を持つものである。
「……ふぁあ……」
伯爵様は、欠伸をなさる。
その欠伸で、半径10kmに存在した生命体は、全身の血液を抜かれて死亡したのだが、伯爵様の糧となられたのだから、むしろ本望であろう。
……ヴァンパイアは、月夜にのみ活動し、人の血を食料とする。
そういう意味では、伯爵様も同じく、ヴァンパイアであった。
ただ、伯爵様が他のヴァンパイアと違う点があるとすれば。
伯爵様は、紫色の月夜にのみ活動し、人の血を食料とするヴァンパイア、である事だ。
当然、その力は他のヴァンパイアとは一線どころか、十線も百線も隔する。
伯爵様は、例えば水であるとか、杭であるとか、十字架であるとか。
おおよそヴァンパイアの弱点とされるものが、全く通用しない。
というか伯爵様は、あまりにも強すぎるため、むしろ自身の力を抑えるため、大量の聖遺物を身に纏っておられるのだ。
「……はぁ。
なんなのだ。
ヒトは増えてはいるものの、味が粗悪化しておるではないか」
伯爵様がため息を吐かれる。
そのため息で、伯爵様の直線上200kmにいる生命体が、その全身の血を抜かれて命を落とすのだが、まあどうでもいい事だろう。
「……いくぞ、ザザルペス、ヒーヴォ、エラドストゥラ。
狩りの時間だ」
ザザルペスが大量の液体と同様の力を持つマナを展開し。
ヒーヴォが伯爵様の体めがけて大量の杭を打ち込み。
エラドストゥラが神に等しい聖なる力で彼を滅ぼそうとするのを、愛おしそうに眺めながら。
ロザリオ・ロストヴァージン伯爵は、紫色の闇夜を飛び立った。
NiOさんてば、相変わらず素晴らしいネーミングセンス




