Prologue 『3』
ウェイフォードの森の奥。
ウェンディ・ウッドストックは茶色い液体と緑色の液体を混ぜ合わせることに余念がない。
皺だらけでカサカサの肌にギョロギョロとした右目、醜く曲がった鷲鼻。
彼女を見た人々は、100人中200人がこう呼ぶであろう。
『ウェイフォードの魔女』
……と。
『ウェンディ―婆や、ウェンディ―婆や!』
窓から羽の生えた小人がウェンディに声を掛ける。
「おや、ぶくぶく沼のパントゥじゃないか、どうしたんだい?」
ウェンディは特に驚いた様子も見せずにその妖精に返事をした。
『オリエンタル・ムーンが上がったって!
森中大騒ぎさ!!』
「オリエンタル・ムーンが?
あたしゃが前に見た時から、まだ3000年も経ってないよ。
早すぎやしないかい?」
そんなことを言いながら、ウェンディは杖を妖精に向けて構える。
『え、なに、なに?』
「それと、何度も言うけど、あたしゃは“婆や”じゃない、まだ“お姉さん”だよ」
彼女が杖を振ると、そこには……掃除機が、あった。
「ヒェヒェヒェ、罰として、あんたはしばらく、あたしゃの乗り物だよ」
『うわーん、あんまりだー』
5000年を生きる魔女は、最近のマイブーム、掃除機に跨ると、呪文を唱える。
「3000年ぶりに、まーたあの馬鹿の頭をブッ叩いてこないとねェ、ヒェヒェヒェ」
しわがれた声で愉快そうに呟くと、掃除機とウェンディが、宙に浮かんだ。