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Prologue 『38』

 ここは深夜2時のとあるマンション。

 妊婦である夜風(よかぜ)陽子(ようこ)は、独りベッドの中で呟いていた。


「たつき君は単身赴任……大丈夫、私ならいける……大丈夫、一人で産める……」


 女性は自分に言い聞かすようにブツブツとそんなことを呟いている。

 目は血走っており、連日ほとんど眠れていない事が分かる。


 ……そう、彼女は妊娠で半ば病んでいた。


 妊娠37週。

 そろそろ産まれてもおかしくない状態での夫の不在。

 初産の彼女にとっては、病んだって仕方ないことであろう。



 ふと、その時。


 部屋の窓が開いたかと思うと、外から何かが飛び込んできた。


「よ、ヨーコちゃん~!

 やっと見つけたビュッ!」


 豚の貯金箱に羽根が生えたような可愛らしいデザイン。

 音遠は思わず声をあげた。


「ぶ、ブタスキーじゃない!


 うわ久しぶり……10年以上ぶりじゃない?」


 豚のオモチャに懐かしそうな声をかける彼女であったが、豚の方は何故かシリアスな顔をして近づいてくる。


「ヨーコちゃん……いや、初代魔法少女テラカワのテラカワイエロー!

 助けて欲しいビュッ!」


 夜風陽子は……いや、初代魔法少女テラカワイエローは、目をぱちくりさせ、首を傾げた。


「え?

 いやいやいや?

 引退して何年になると思ってるの?


 私、今年で28だよ?」


 「10000人に1人の天才魔法少女であるテラカワイエローにしか、あの紫色の月を倒す力は……世界の危機を救う力はないんだビュッ!」


 10000人に1人って、あれ、マジだったのか。

 相方も10000人に1人の逸材だったし、次世代のテラカワは5人組だったし、「ああ、そういうレベルの『10000人に1人』ね」と思っていた、と陽子は考えた。


「あの紫色の月、やっぱりヤバいやつなんだね。

 あれもクソタワーケの仕業?」


「どうも違うみたいビュッ。

 もっと大きななにかが動き出してるみたいビュッ」


「他の魔法少女は?」


「一応戦いに参加してるけど、絶対勝てないビュッ」


「あ、じゃあ、ねっちゃんは?

 もう1人の『10000人に1人』、テラカワインジゴブルーでも良いじゃない」


「彼女は、その……永遠に終わらない書類と格闘中の……社畜……ビュッ」


「私、妊娠中なんだけど」


「それなら大丈夫ビュッ!

 魔法少女テラカワは超絶ホワイト企業ビュッ。


 妊婦もすかさず経産婦になれる魔法があるビュッ!」


 ブタスキーが訳の分からない台詞を吐いた後、何やらブツブツと呟くと。


 陽子のお腹が萎み始め、何故か目の前に美少年が現れたのであった。


「え?

 は?

 なにこれ?

 たつきくん?じゃないよね?」


 突然現れた自分の夫にそっくりな謎の美少年は、ニコニコ笑いながら陽子の頭をポンポンすると、嬉しそうに言った。


「産んでくれてありがとう、お母さん」


「まだ産んでねー!」


 深夜2時のとあるマンションで、突然上がった数人の話し声。



 そして。



「ラブラブチュッチュッ、素敵なアイドルになーれ!」



 部屋の窓が、激しく明滅し出した。

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