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Prologue 『32』
幕張メッセ。
多くの観客が、彼女の登場を今か今かと待っていた。
突然ライトが暗転し、ステージにスモークが焚かれる。
……そして。
「皆さんこんばんはぞなもし!
愛媛、皆鏖みかんちゃん、ぞなもし~!」
ステージの上には永遠の12歳であるバーチャルアイドルが科学の力で3D化し、蜜柑を模した帽子に鉄壁のフリフリスカートを着けている。
「じゃあ早速行くぞなもし、歌はNIOさんPの『ラブ&ジェノサイド☆ミ』ぞなもし!」
突然の登場に加えて1曲目からの神曲という構成に、観客達は怒号のような歓声を上げる。
……だから、気づいたのは数人しかいなかった。
「お、おい、今日のみかんちゃん。
目、紫じゃね?」
「……あ、ホントだ。
まあでも、あれじゃね?
『夏みかんモード』なんだろ」
「あ……、あ~あ。
なるほど確かに。
演出が憎いね」
結局、誰も気付かない。
まさか自分が、殺戮マシーンになる催眠術を掛けられている真っ最中だなんて。




