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Prologue 『2』
「チャンピオン!
突然のベルト返上と引退の理由をお聞かせください!」
モロッコの英雄、イースト・イースレイは難しい顔をしながら記者団のマイクへ向かう。
ヘビー級を含めボクシングの8階級を制覇するというとんでもない偉業を成し遂げたチャンピオン。
これからその記録をどこまで伸ばしていくのか、ボクシングファンでなくても注目が集まるほどの選手の突然の引退劇。
取材陣に対してイースレイは。
……突然、舌をペロリと出して一言。
「飽きちゃっタ!」
「「「……は?」」」
そのまま笑い声を上げてイースレイは部屋を後にする。
廊下をズンズン歩きながら、取材陣を振り切ったことを確認して、イースレイは独り言ちる。
「……『紫色の月』ガ、出ちまったカ……」
先ほどの引退会見での戯けた様子は、勿論、演技だ。
「富も名誉も関係なイ。
……俺にとって『チャンピオン』はボクシングやベルトのことじゃナク……。
……生き方のことダ」
先ほどのおどけた様子など微塵も見せない表情を浮かべながら、彼はフェラーリの運転席に、飛び乗った。