Prologue 『25』
100年以上月の光を浴びた道具は、精神を持ち、人化の業を得るという。
……ここは、とある博物館。
真っ暗な部屋の一室で、窓から差し込む月明かりが、それを照らしていた。
……さて、果たしてそれは、1800年代後半のイギリスで作られた。
局部も含めて丸ごと優しく包み込むその設計は。
使用者を容易に絶頂、昇天へと誘導し。
聖母の抱擁とも揶揄されたその道具は。
……『夜想曲の調べ』と名付けられた。
数多の所有者を満足させたそれは、しかし時の流れに勝つことは敵わず。
次第に『しまり』が悪くなり、使用者が絶頂し、昇天するのにも時間が必要になってきた。
ここに於いてそれは、売られることとなる。
転々と所有者を変えながら。
実用品から骨董品へと用途を変えて。
いつしかそれは、博物館の一角を賑わすオブジェとなった。
窓の外から光るのは、『紫色の月』。
その光に呼応するかのように、それは目覚めた。
「……母さま」
人形を手に入れたそれは、困惑するかのように、自身を目覚めさせた紫色の月へ言葉を紡いだ。
「……私は、どうすれば」
どこまでも透明で美しい肌に、金色の長い髪。
聖母を思わせるその姿は、まさに『夜想曲の調べ』の名に相応しい、汚れを知らぬ少女のようであった。
澄みきった紫色の瞳は、真っ直ぐに空の球体を映している。
少女のその姿に、紫色の月は、何も答えなかった。
まるで、貴女の好きなようにしなさいと言うように。
好きなようにするも何も。
それは、それ以外の生き方を、知らなかった。
「わかり……ました」
それは、まるで紫色の月が伝えたいことを理解したかのように、立ち上がると。
ぺたぺたと、夜の闇の中へ消えていった。
……100年以上月の光を浴びた道具は、精神を持ち、人化の業を得るという。
それが道具であった時の名は。
鉄の処女。
聖母の抱擁とすら謳われたそれは。
人を絶頂に導き、昇天させ。
……確殺する、拷問用具であった。
NIOさんの小説を読むような中2スキーな読者の皆様にアイアン・メイデンの説明など釈迦に説法ですので省きますね。
あと、エロい道具と勘違いした恥ずかしい貴方はNIOさんと仲良しになれます。




