Prologue 『17』
茅ヶ崎千春は人鬼である。
身長180㎝を超えるモデルの様な長身に、グラビアアイドルの様な魅力的な体。
燃えるような赤い長髪に、笑うと口元を彩る美しい八重歯。
そんな男女問わず誰もが振り返るであろう彼女は今。
橋の下にいた。
「まさか全財産擦ることになるとはなあ~ウィヒ~♪」
ハハハと軽そうに笑った彼女は、段ボールと新聞紙で出来た家の中で横になりながら。
自身唯一の財産である、醸しの徳利を傾ける。
中からは、自分の望む種類の酒が、無限に出てくるのだ。
そして彼女は、それさえ飲めれば死ぬことはない。
「いやァ、良い月だァ~ウィヒ~♪」
段ボール屋根の隙間から見える紫の月を見て、彼女はそんなことを言った。
「……千春さん、何してるんですか」
段ボールの隙間から、今度は人の顔が見えた。
「ああ、桃太郎さん、お久しぶり~ウィヒ~♪」
「『ウィヒ~♪』じゃないですよ。
起きてみたら、紫の月、出てるじゃないですか……私たちの、出番ですよ」
「いやいや、私は『伯爵様』の登場まで待つよォ~。
アイツを倒せる戦力は、私とか、桃太郎さんの他には、もう限られているしね~ウィヒ~♪」
「……一応、やる気はあるんですね。
じゃあ、お先に行っておきますよ」
ため息をついて去っていく少年に。
千春は笑って手を振った。
鬼殺しと仲良く会話をする彼女は。
人と鬼の混血児。
鬼であり、人でもあり。
そして同時に。
鬼でなく、人でもなかった。
彼女は彼女を知る者からは、こう呼ばれていた。
……『酒呑童子』、と。
桃太郎さんはPrologue 『35』で出てくる予定です。




