Prologue 『14』
瀬戸内世界は、電気も付かない真っ暗な部屋で一人、地面にぺたりと座りこんでいた。
床にしかれた紙には、50音とYES/NOの文字、そして、鳥居。
「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」
少女は10円玉にたった一人で指を置き、こっくりさんの言葉を受けている。
彼女の長く美しい黒髪が、紙の上に落ちているが、硬貨はその間を滑る様にすり抜けていく。
いくつか簡単な質問をぽつぽつと行った後。
少女は、いよいよ本題に入った。
「こっくりさん、こっくりさん、あの、紫色の月は、なんですか?」
その質問に。
突然10円玉が、狂ったように紙の上を走り回る。
「こっくりさん、こっくりさん、落ち着いてください」
少女の声に、硬貨は動きを止め。
そして、ゆるゆると、文字を紡ぎだす。
「た」
「ま」
「ご」
「……『たまご』……?」
首を傾げる少女を無視して、10円玉はススス、と鳥居へ戻ろうとした。
「こっくりさん、こっくりさん。
残念でした」
少女は、10円玉から手を離す。
次の瞬間、部屋に嵐が巻き起こる。
いわゆる、ポルターガイスト現象。
しかし、そんなこっくりさんの怒りも、まるで、どこ吹く風。
「こっくりさん、こっくりさん。
静かにしなさい」
その一言で、竜巻を思わせる霊現象は、ぴたりと止んだ。
少女は、肩を竦めて独りごちる。
「式神作りより簡便で、悪魔契約よりも低リスク。
まったく、『こっくりさん釣り』は楽しくてしょうがないわね。
さあ、しっかり働いてもらうわよ。
……貴方が、消滅するまで、ね」
そういうと、巫女の服を纏った瀬戸内世界は、黒髪を揺らして嗤った。




