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Prologue 『13』
北海道、大雪山。
雪の吹き荒れるこの地を、裸足で行く男がいた。
男の名は、姿寸四郎。
体に纏うは柔道着。
彼の目の前にいるのは、体長5mは優に超えると思われるヒグマだった。
山の王熊、メトゥトゥシ・カムイ。
巨大な熊の王を目の辺りにして、自然体で立ち向かう男。
一足歩く度に、地面の雪が、ぼしゅ、ぼしゅ、と、水蒸気になる。
特殊な能力を使っているのではない。
彼の体から立ち上る、熱量によるものだった。
ふと。
痛い程に体を叩く雪の飛礫が、唐突に止んだ。
男が天を仰ぐと、それまで掛かっていた雲が綺麗に晴れている。
「なんだァ、紫色の、月ィ?」
そして夜空には。
見た事も無い物体が浮かんでいた。
男は知らない。
この月が、なんであるかを。
しかし男は、直感で知っていた。
それが、非常にキナ臭い物であると。
「戦いの、匂いが、するなァ」
男は舌なめずりをすると。
もはやお前に用は無い、と言わんばかりに。
……メトゥトゥシ・カムイを空中に、放り投げた。
ちなみに技は山嵐です。




