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夜に窓から見た冬

作者: しお人間

笑いにあふれた食卓から一時的に離れ、用もないのにトイレに入る。

そっと、静かに、扉が閉まる。

私を見つけてすぐに口を開ける全自動のトイレ。

真っ白いその体をしばらくみつめて、後ろ手に扉の鍵を閉める。

一人きりの空間に、なぜだか安堵する自分がいた。

うまく笑えないなんて格好つけたことは言わない。

それでも、笑いたくないときは笑いたくない。

笑いたくないけれど、笑わなければ浮いてしまう。

小さな窓を開ける。

暖かい室内と、凍った匂いのする外が混ざり合う。

外に顔を出すと、冷たさが心地よかった。

今日は夜空が晴れている。午前中、ひどく雪が降ったからだろうか。

オリオン座がくっきりと、闇の中に輝いて見える。

私を見て。私を解って。私を愛して。

欲にまみれた私に、誰も気づかないで。

汚い心を隠した私を、だれか包み込んで。

寂しくても人に頼れない私を、だれか、好きだと言って、追いかけて。

白い溜息に、たくさんの汚れた感情が流れ出る気がする。立派な環境汚染だ。

温度が下がった白は、数え切れない空気の粒に紛れ、消える。

心も体もそのまま一緒に消えてくれたら、どんなにいいだろう。

入って3分も経っただろうか、たったそれだけで、聞こえる笑い声に心が苦しくなる。

私がいなくてもみんな幸せなんだわ。

私なんて消えたって変わらない。

毎日頑張る意味もない。

私には世界も救えないし、別に生きていて感謝されるわけでもない。

明日になったら、消えていないかな、私。

汚いすべてから解放されて、まったくの別人になっていたりしないかな、私。

本当に汚い。

こんなにきれいな星空の下で息をしているのに、どうしてなの。

窓をそっと閉めて、扉の鍵を、ゆっくり、開ける。

覚悟を決めるように息をついて、自然にいつも通りに、食卓へ帰っていく。

私を含んでも、さっきまでと同じように笑いあう声に安堵する。

本当は、生きるのなんて簡単なのだろう。どこへ行ったって、笑えるなら、幸せなんだから。

私なら何でもできる、と思っていれば、できるのかもしれないな。

ああ、毎日、がんばろう。少しずつ積み重ねて、おかしなことを考えたまま死のう。

笑いながら、おかしなことを考えていても、誰も気づかないのだから。

これでいい、猫背にならなければ、風邪をひいたって、嫌われたっていい。

好きな俳優がテレビに出るのなら、仕事が増えたって、靴下に穴が開いたっていい。

花が咲くのなら、コートが毛玉だらけになったっていい、よく眠れなくてもいい。

どうだっていいんだ。どうにでもなるんだから。

ありがとう!

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