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花に埋もれて死にたい  作者: 風鈴
3/10

秘密の丘




* * *




春の陽射しは思いの外気持ちよい。



ひとりの少女が"大木"の下で、薄桃色の花びらたちに埋もれながら蒼を見上げていた。



いつかあの大きな空を自由に泳げたなら、そんなことを夢見始めたのはそれほど昔の出来事ではない。



むしろ最近のことだ。



真白い綿毛がふわんふわんと遥か彼方へ流れていく。遠すぎて、まるで頭上の営みだとは実感できない。



それがなんだか、おかしく思える。




「飛ぶのもいいけど、流れるのも悪くないかもしれない……」




普通なら一人言なんて口にするのも恥ずかしいけれど、ここに人気はないのが常。



山奥の小ぢんまりとした故郷は、よくある話で旅人か通り過ぎるだけの名もない村だ。



ただ、比較的"朝廷"が存在する京の都に近いだけあって商人たちの質もよい"成り立った村"なのである。



優しい人々が住む村から少し離れたここ、一本桜の丘は父と椿の秘密の場所だ。秘密と言っても他に心の安らぎを求めて訪れる者はいるし、存在自体が秘密というわけではないのだが。



誰にも言えない思い入れが、ここにはあるのだ。



いまは訪れる者がいない静かな聖域。手でそこを掬えば花びらたちがついてきた。美しい色だ。




「いつか絶対枯れるのに……」




どうして"今"こんなにも眼を奪われてしまうのだろうか。




「―――儚いモノは、きれいだよ」




気が付けば、椿の重たかった上半身が起き上がっている。そして彼女の目の前にいたのは―――。




聖域はさらさらと、音もたてずに崩れていった。





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