ある午後
* * *
「つーちゃ~ん、あそぼ~」
「おや小枝ちゃん、椿なら出かけたよ」
人が賑わう城下町の商店街―――とまではいかないが、暖かさは他所には負けないと意気込む商人らが暮らす町の午後。
日が高く昇り、爽やかな春風が吹く頃、"なんでもなおし□"との貼り紙を掲げる商家のひとつに"小枝"は訪れていた。
「あ、おじさん。大丈夫なの?昨日もつーちゃん寝こんでたのに」
小枝が驚きに眼を大福のようにまん丸にするのも無理はない。
椿の体の弱さは折り紙つきだ。誇れもしないが、川に落ちれば風邪をひき、秋風に吹かれれば鼻風邪をひき、雪にみまわれれば咳をだす。
まさしく病弱と呼ぶに相応しい。
これだけでも大変なのに、椿はもっと厄介だ。
「また転げてなきゃいーけどねぇ。この前なんか、『狸見つけた!』って走ってつまずいて、最後に泣いちゃうんだもん」
「小枝ちゃんは椿より小さいのに、すっかりお姉さんだよ。いつも迷惑かけてんなぁ」
好奇心旺盛なうえに、誰よりおっちょこちょいなのが椿だ。普段はそんなこともないのだが、きっかけひとつで"お姉さん"の見栄もほっぽいてしまうのだ。
"おじさん"である椿の父は思わず苦笑してしまう。
「折角、今日この村に来るっていう男の子の見物に誘おうと思ったのに……つーちゃん、どこ行ったの?」
そんな娘を慕ってくれるこの小さな女の子には感謝ばかりで、真っ赤なべべの似合う短い髪の頭をポン、と叩いてこう言った。
「見えるかな、あの丘にある大木が」
椿だけでない、自分にとってもお気に入りの場所。そこに度々椿は今にも折れそうな足を運ぶのだ。
行ってみる、元気よくはにかむ子供が可愛かった。
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