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アルテイル、悪事?に加担する

ご覧頂きまして誠にありがとうございます。

感想、叱咤激励、叱責、誤字脱字報告ありがとうございます。

誤字脱字に関しては時間と精神的に余裕がある時に修正しようと思います。

三連休ですが、小説の更新は次は月曜日ぐらいになると思います。

今日からフリーダムウォーズを開始しますので。


 ハイデリフト領内で問題が発生してから数日。王都からシュタイマーアルク領へと戻ってきたアルテイル達の元へ冒険者学校へ通う日常がやっと帰ってきた。既にアルテイルが勲功爵となった事は冒険者学校中に知れ渡ってはいたが、対外的にミカとノエル、カインというパーティメンバーが居る事になっているアルテイルの周囲はそこまで騒がしくはなっていない。


 これでハイデリフト領の問題さえ解決すれば本当に元通りだな、とアルテイルは楽天的に考えていた。


 そうして日常を過ごし、いつも通りエリオットの元へと通い魔法に対する理解を深めていく。今回は実践では無く、座学が主の授業となった。


「それではアルテイル。魔法で出来ない事は何か、思いつくかい」


 座学とは言っても魔法を発動させる事もある為、いつもの訓練所で椅子に座りながらだ。ミカとノエル、カインは自身のサイドアームとなる短剣術を練習している。


「よっ、はっ」


「ほっ、ふん」


「ミカはもうちょっと踏み込め、ノエルはいい感じだ」


 カンカンと木でできた短剣を使いミカとノエルが練習し、剣術道場の跡取りでもあるカインがそれを監督する。カインの実家の道場では長剣、短剣の取り扱いをしているので、三人の中で一番短剣術に優れているのは自動的にカインとなる。優秀な剣の腕と共に、既に道場を率いるための指導方法なども仕込まれているカインが相手だ、これで向上しない訳が無かった。


「えっと、魔法で出来ない事、ですよね。……うーん、死者蘇生、とか?」


「ふむ、面白い所から切り込みますね。死者蘇生というのがそのまま死者を生き返らせるという事であれば、恐らくは出来ないですね」


「恐らくって。過去そういう事はあったんですか?」


「過去というか、現在進行形で研究している部門ですね。魔法での回復が可能なのだから蘇生もできるのではないか、という事で」


 何という単純な理屈なのだと思ったが、確かに回復が可能なのだから蘇生が出来てもおかしくはないような気がする。


「ですが事はそう単純では無い。いくら魔法で回復が可能だからと言って斬られた腕を回復させても腕が新たに生えてこないように、死者に回復魔法を掛けても死者は死者ですから」


「あ、腕斬られたら駄目ですか」


「駄目ですね。斬れた腕と繋げようとしても無理です」


 なるほど、何事にも限界はあるという事なのだろう。トカゲのように上手くはいかないという事である。


「それで、他には何か思いつきますか?」


「うーん、そうですね。……こう、物や人を召喚する魔法とか? 獣とかでもいいですけど」


「召喚ですか。うーむ……一応召喚できない、という事になっていますね。実際にやってみましょうか」


 そう言うとエリオットがミカとノエルを指導しているカインへと視線を向けた。


「あそこに居るカイン君を、君の目の前まで召喚してみてください」


「えーっと、召喚ってどうやるんでしょうか」


「まぁ、それが普通の反応ですよね。とりあえず魔力を練って召喚する、という意気込みで魔法を発動させてみてください」


 やっぱり魔法には大分曖昧さというものが必要になってくるもんなのか、とアルテイルは変な納得をする。とりあえず言われた通りにカインへ視線を向けつつ魔力を練り、「召喚、召喚」と心の中で唱えながら魔法を発動させる。魔法陣はどう書けば良いのか全く分からないので儀式魔法と想像魔法の併用だ。


「よし、召喚っ!!」


 発動させた瞬間、アルテイルからドバーンッと魔力が吹き出し土埃をあげる。だが起こった事はそれだけで、カインは元の位置から全く移動してはいなかった。


「……駄目ですね」


「ですよね。具体的に誰かを、何かを思い描いたとしても召喚できないんです。逆に自身と周囲を纏めて転移させる魔法は成功するんですがね」


「でも転移は行ったことが無い場所へは行けません。具体的な場所を思い浮かべられませんから」


「そうですね。転移魔法に関してはそういう制限があるから発動可能である、と考えられています」


「召喚魔法が具体的に物や人を思い浮かべても発動できない理由は分からないんですか?」


「それも研究中ではあります。が、とある国では過去の建国に際し、異世界より勇者を呼び助力を願った事があると言い伝えられています」


 異世界という単語に、アルテイルの心臓が跳ねる。この世界とは異なる世界から勇者、人を呼んだ国がある事を初めて知った。


「そ、その国ってどこなんですか?」


「この国より南東、コニビエ山脈を超えリンド海を挟んだ向こうにある聖王国ダンビルです」


「聖王国、ダンビル……」


 異世界から人を呼んだと言われている国、聖王国ダンビル。そこへ辿り着くまでにはいくつの国があるか知らないが、機会があれば行ってみようと思った。もしかしたらそこが、日本という国に住んでいた意識のあるアルテイルのルーツなのかもしれないと思ったからだ。


「お伽話の類ですが、ダンビル王を含めその王族達はみんなその勇者の子孫であると言い伝えられてますね。実際はどうかは誰も知りません」


「ですよね」


 当たり前の話だがその当時生きていて今も生きている人など居ないだろう。だが何かしらの手がかりはあるかもしれないとアルテイルは考える。


「さて、他には?」


「えっと……人の心を操る、とか」


「それは直接的に、という事ですか? 例えば自分の言いなりにするとか」


「そうですね、直接的にです。間接的にであれば方法はいくらでもあると思うので」


 例えば土に生き埋めにする、火で炙る、水責めにする、などなど。人に言う事を聞かせる方法は間接的にであればいくらでも思いつく。だがもっと直接的に言う事を聞かせる魔法というのを、アルテイルは聞いた事が無かった。例えば催眠術の類など。


「それらに関しても研究中ではありますが、例えば寝付きを良くする魔法などに関しては存在しますね。まぁそんな魔法を使うより寝具を取り替えたりした方が早いらしいですけど」


「ダメじゃん、睡眠魔法」


 存在すると言われて若干期待してまったが思ったより駄目だった。寝具を交換した方が早いって、どれだけの時間と魔力を使う魔法なのだと突っ込む。魔法で風を起こし周囲の気温を快適にした方が早そうだ。


「まぁそういう訳で、魔法にも出来ない事はキチンとあります。そこに注意して魔法を正しく運用するようにしましょう」


「はい、分かりました」


 こうして、この日の魔法授業は終わりの告げるのだった。



―――――



 ハイデリフト領内で起こった揉め事から一月。アルテイルがハイネルを送る日がやってきた。アルテイルが王都前へ転移すると、そこには既にハイネルとミューラ、抱えられたリゲルの姿がある。今日はリザルは来れないのだろう。


「や、久しぶり。今回も頼むよ」


「僕は送るだけなんで気楽ですから」


 済まなそうに言うハイネルの言葉に笑顔で応えてから三人を連れて転移する。いつもの森の入り口でハイネルと別れ、アルテイルはミューラ、リゲルと一緒に実家へと帰る。


「そういえば今日はミカとノエルは来てないのね」


「公の場に出る訳でもないし個人的な用事だしね。連れてくる必要も無いし」


「ふぅん、まぁ対外的に家臣って事になってるだけって感じかしら」


「そういう事です」


 貴族となった以上何らかの伝手を使って自分の娘や息子を家臣として送り込まれてくるかもしれない。そういう警告がシュタイマーアルク辺境伯からあった為、対外的にミカとノエルを家臣としている。けれども実態はただのパーティメンバーだ。それ以上でもそれ以下でも無い、今の所は。


「でもあの娘達、中々可愛かったじゃない。いいんじゃない、将来のお嫁さんに」


「んな事考えるような歳じゃないでしょ僕はまだ」


「貴族の結婚なんて若い内に決めちゃうもんらしいけどね。ウチのバカは冒険者やる事しか頭に無かったからそういうのは無かったらしいけど」


「よく廃嫡になりませんでしたね、リザルさん」


「息子一人で甘やかされてたのよ、ご両親に」


 なるほどリザルは本当に冒険者として身を立てていくつもりだったんだな、とアルテイルは感じた。だがそれにしては今の子爵という立場を別段嫌っている訳でも無さそうなのだが。と考えた所でミューラが口を開いた。


「ま、親父さんの死に際の頼みだったらしいけどね、自分亡き後の子爵家を継いでくれっていうのが。それを嫌だと言えるような腐った人間じゃないわよ」


「確かに、実直というか、純朴というか。妙に純粋な感じですよねリザルさん」


「そうなのよね。あいつ真面目だしやるとなったら一生懸命だし、貴族の息子にしてはよく出来た奴よ」


「はいはい、ご馳走様です」


 急に入ったミューラの惚気に砂糖を吐き出しそうな顔でアルテイルが言う。アルテイルがそのような恋愛だ何だと言えるようになるのは一体いつの事になるのか。今現在で擦れてきていると自身を顧みて思っているのに、そんな純粋な思いを持つことは可能なのだろうかとちょっと不安になる。


 そんな事を心配しつつ実家へと帰ると、今日はカミラの他にデミスも居た。


「あれ、居るんだ」


「折角娘が帰って来るんだ、畑仕事なんていつでも出来るわ」


「息子はどうでもいいんかい」


 父の言葉に若干カチンと来たアルテイルだが、まぁまぁとカミラが取りなして口を噤み用意された椅子へと座った。


「おぉおぉ、その子がリゲルか。よく見せてくれ」


「乱暴にしないでよね、まだ一歳なんだから」


「リゲルちゃーん、おじいちゃんでしゅよ~」


「うぎゃーっ!!」


 父に渡された途端、リゲルギャン泣きである。速攻でミューラが取り上げて自分の胸に抱えてあやす。


「何やってんのよバカ親父! そんなゴツイ顔目の前に出したら子供が泣くでしょ!!」


「いや、まぁ、すまん。折角の初孫なんでな……」


「あれ、ウチの兄はまだ子供出来てないの? 一番上の……ベイル兄さん、結婚してるんでしょ」


「あんた、ベイルの名前忘れてたでしょ」


 カミラからの鋭いツッコミにアハハと笑って流す。実際関わりない兄弟の名前なんぞ覚えていても無駄なので記憶を掘り起こしでもしなければ咄嗟には出てこなかったのだ。


 こうしてアルテイル家では母とミューラ、リゲル、アルテイル、ついでに父も一緒に一家団欒を一時楽しむ。話題は専らミューラの事であり、アルテイルは毎月帰省しているのだからそう話すような事も無い。ミューラとカミラが基本的に話し、偶にデミスが口を挟むやり取りだ。


 こうして団欒の時間を楽しんでいると、家の扉がコンコンとノックされた。アルテイルが対応しおうと席を立ち扉を開けると、そこにはハイネル一緒にカルアスの姿もあった。


「あれ、お二人とも。もうお話し合いは終わったんですか?」


「あぁ、まぁなんていうかな」


「アルテイル、ちょっと相談があるんだけど、いいかな」


 珍しく物事をはっきり言わないカルアスと、何やら決意の見えるハイネルの言葉に、アルテイルは嫌な予感がして堪らなかった。


「えぇ、構いませんが……ちょっと外出てくるね」


 そう言って家を出た後、ハイネルとカルアスと連れ立って森の入口、人気のない場所まで誘導される。そんなにヤバイ話なのか、何だか分からないがアルテイルはとりあえずの覚悟を決めた。


「えっと、それで僕に相談とは。お家騒動以外だったら受け付けますが……」


「いやー、その、な」


「何というか、カルアス兄さんの所に今住んでいるオリガ義姉上なんだが、ちょっと様子がおかしいらしい」


 言葉の続かないカルアスの代わりを引き継いで、ハイネルが言葉を選んで喋る。オリガの様子がおかしい事で、何故アルテイルにお願いができるのかな、と考えているとカルアスが諦めたように口を開いた。


「まぁ、なんていうか。オリガ義姉上が迫ってくるんだ。私が本当に子供が作れないのか確認して欲しい、とな」


「あぁ、そういう……。それで、しちゃったんですか?」


「しては居ない。だがなぁ、なんでか……アデールまで協力してやれと言い出してな」


「アデール義姉さんはオリガ義姉上に同情的でしたから。それに同じ女性として何か思ったのかもしれません。で、だね」


 そこまで言うとハイネルはコホンと咳払いを一つして言葉を続けた。


「正直言って父上はもうケイン兄上を見限っている。その上でカルアス兄さんに家督を継ぐ事を考えているんだ。だがそうなるとオリガ義姉上がどうなるのか分からないので、今の所判断を保留している、という状態を維持している」


「どうして保留しているんですか?」


「ケイン兄上が廃嫡となればオリガ義姉上は実家に戻されるだろう。だが貴族は出戻りを嫌う。またすぐに他の男の所、良くて我々のような貴族の妾や豪商の妾に、悪ければそのまま放逐されてしまう。それは可哀想だと父上は考えている」


「まぁ、嫁に取ったのはハイデリフト家ですもんね」


 そこまで考えた所で、自分の出番は今の所全くない事に気付く。一体ハイネルの言う頼みとは何なのだろうか。


「それで、だ。私はカルアス兄さんが家督を継ぐ事を後押ししようと思っている。もちろんオリガ義姉上も悪いようにはしない。一番丸く収まる方法は、カルアス兄さんがオリガ義姉上と子供を成す事なんだと思っている。まぁケイン兄上には全部の泥を被って貰おうと思っている訳だが」


 中々悪どい事を言うハイネルに思わず苦笑する。カルアスとオリガの間に子供が出来てしまうと、必然的に問題があったのはケインのほうであるという事が確定してしまう。こうなればケインもオリガに手を出す事は出来ないだろうし、出してきたら出してきたでカルアスが何とでもしてくれるだろう。従士達からの信頼は厚い上に、ケインが廃嫡となればカルアスが領主だ。アデールから何か言われないかという方が気がかりではあったが、何故かアデールはオリガを後押ししていると言う。なのでこの問題はクリアだ。


「そういう訳で、アルテイルにはシュタイマーアルク辺境伯にちょっと根回しをして欲しいんだ。ただ放逐しても復讐しにハイデリフト領に帰って来るのは目に見えてるからね。生かさず殺さず、下手な力を付けないような場所に放り込んで欲しい」


「もうそれ、殺しちゃった方が手っ取り早いんじゃないですか?」


「まぁもしもの時は、そうするつもりだけどね。今からはまだ考えていないよ」


「まぁ根回しというか、シュタイマーアルク様にお願いする事は分かりました。というか、来月の話し合いの時僕も一緒に居たほうが良さそうですね。カルアス様達に何かあっても嫌ですし」


「そうしてくれると助かるんだ。それもお願いしようと思っていたからね」


 トントン拍子でケインを追い落とした後の行動を決めていくアルテイルとハイネルの言葉に、カルアスが呻くように呟く。


「だが、俺にはアデールが……」


「まぁ兄さん、それは分かりますけどね。領主になった暁にはオリガ義姉上を第二夫人という事でいいじゃないですか。それとも兄さんはオリガ義姉上がどうなっても良いと?」


「それは不憫だと思うし、何とかしてやりたいとは思うが。俺と子を成すことでそれが本当に解決するのかと……」


「とりあえず、するようにしますから後は私に任せてください」


 ニヤッと笑みを見せたハイネルの言葉に、カルアスはゲンナリとしながらも、弱々しく頷いた。イケメンの悪どい表情っていうのは、本当に悪役っぽいなぁと妙な感心をしてしまうアルテイルなのだった。


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