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アルテイル、帰省する

日刊一位、ありがとうございます。何故このように上がったのか分かりませんが、嬉しいです。

また感想、批判、誤字脱字のご報告ありがとうございます。

全てに返信は出来ませんが、目は通させていただいております。

特に誤字脱字のご報告に関してはとても有り難く思っております。

時間がある時にでもご指摘された箇所については修正しようと思います。

一つだけ、感想欄にて拙作以外の特定作品に関する中傷およびそれに類する発言に関しましては行わないで頂けますと幸いです。

 タンデント邸でささやかながら開かれた晩餐会を過ごした翌日、アルテイル達は朝食、昼食もご馳走になってから転移魔法でハイデリフト領へと向う事となった。ハイネルが一旦帰宅して家族への土産を取ってくるのと、リザルがミューラの両親への手土産を何にしようか物凄く悩んでいたからである。


 その様子はとても子爵という爵位に封ぜられているようには見えない、どちらかと言えば一般市民的な様子で、何となくアルテイルは安心感を覚えていた。


「アイツ子爵家跡取りの癖に冒険者志望でね、一時期本当に冒険者やってたのよ」


「へぇ、そんな人居るんですね」


「貴族じゃ珍しい方だけど、全く居ない訳じゃないわね。幼少の頃に憧れてっていうのは良くいるわ」


 幼少の頃に憧れる、その気持ちは分からないでもない。というかアルテイル自身が未だ幼少と言って良い年齢であり、冒険者というヤクザな商売を目指して現在を邁進中である。間違えて貴族となってしまったが、アルテイルの願望はその果てにある改善された生活環境こそにある。


「姉さんも冒険者に憧れてたんですか?」


「私は冒険者に憧れたんじゃなくて、ハイデリフト領以外の世界に憧れたのよ。剣の腕もあったみたいだし、冒険者が都合良かったのよね」


「あー、なるほど。まぁ僕も似たようなものですね」


「でしょうね」


 二人して苦笑を浮かべて頷く。冒険者という理由付けはあの田舎を出て行くには丁度いいものだった。ミューラは剣の腕を、アルテイルは魔法をと手段は違うが、その目的はほぼ同じである。


「よし! じゃあやはり我が家からはこの旨い葡萄酒と小麦粉を」


「だからそれでいいって言ってるじゃないの。早くしなさいよね」


「そうは言うがミューラ、初めてのご挨拶なのだ。ここは慎重に物事を」


「口答え禁止」


「はい」


 漸く持っていく土産物を決めたリザルだが、軽くミューラに叱られるその姿がアルテイル達に苦笑を浮かばせる。こうして準備の整った一行は、タンデント邸の庭から一気にハイデリフト領の森の中へと転移した。王都に存在する結界は外からの侵入を拒むが、内から出て行く分には何も制限されない。よく出来た結界の構造である。


 ハイデリフト領に帰る時いつも使う森の中へとアルテイル一行が転移してくると、森の中の小動物達が散り散りに逃げていく。アルテイルにミカ、ノエル。ハイネルにリザルにミューラとその息子リゲル。合計7人が気配も隠さず森の中に現れれば動物達も当然逃げていく。


 そんな小動物達を懐かしそうに眺めるミューラに笑みを浮かべつつ、アルテイルは森の出口へと皆を先導した。そして少し歩いて森を出た先には、相変わらずの長閑な風景が広がっている。男達は畑仕事に精を出し、女達は家で料理や縄を打つ。本当に相変わらずの田舎な風景が、そこには広がっていた。


「……変わんないわねぇ、ここは」


「早々変わりようもないでしょうけどね、恥ずかしながら」


 ミューラの呆れと懐かしさを含んだ呟きにハイネルが苦笑と共に答える。変わらない、現状維持というのは領主の責任であり、ハイネルはその領主の息子である。実家の所為で変わっていないという事が理解できてしまう為、ハイネルは苦笑を浮かべるしか無い。


「うっわ、ほんと凄い田舎」


「ミカ、それは失礼」


「いや、いいよ。ほんとに田舎だもん」


 思わずといった感じで言ったミカの言葉にノエルが注意するが、アルテイルとしては咎めるつもりは無い。何せ本当に田舎なのだから。田舎な光景にリザルも思わずといった感じで目を輝かせている。こんな光景を見るのが初めてなのかもしれない。


 そんな彼等に苦笑を浮かべながら、アルテイルは一先ず実家へと足を運ぶのだった。アルテイルを先頭にミューラ達が続き、ハイデリフト領出身ではない者達は周囲を珍しそうに眺めながら後を付いてくる。時たま農作業をしている者達が何事かとこちらを見てくる事もあるが、アルテイル達はそれを無視して一路、アルテイルの実家へと辿り着いた。


 コンコン、と木の扉を軽くノックしてから開くと、そこには椅子に腰掛けお茶を飲んでいる母親の姿があった。


「おやアル、お帰り。今日は随分早いね」


「ただいま。まぁ今日はお客さんも一緒だからね」


 そう言って玄関から身体をずらす。そこには、赤子を抱いたミューラの姿があった。彼女の姿に母がガタリと席を立つ。


「あ、あんた……ミューラか」


「ただいま、母さん……」


 赤子とミューラの顔を交互に眺め、それでも嬉しそう笑みを浮かべてミューラに近づく母。その姿にアルテイルも笑みを深くするが、次の瞬間目を見開いた。


「このバカモンがっ!」


「いたいっ!!」


 パカーン、といい音を立ててミューラの頭が引っ叩かれたのだ。


「何年も連絡寄越さないで何やってたんだい! 子供までこさえちまって!!」


「いや、それは説明するか、いたっ!」


「ほーほー説明ね、説明! 説明できる理由があるんなら聞かせてもらおうじゃないのさ! アルに連れられて漸く帰ってきたこの馬鹿娘が!」


「いたっ! いたいって! 頭そんなに叩かないでよっ!」


 パシンパシンといい音を立てて頭を叩かれているミューラの姿と、勢い良く何度も頭を叩いている母の姿にアルテイルは呆気に取られてしまう。こんなに激情に駆られている母を見るのは初めてだったのだ。


「ま、まぁまぁまぁお義母様そこらへんで!」


「全く! まぁ許してやるよ。んで、アンタは一体なんだい?」


 母とミューラのやり取りを間に入って止めたのはリザルだった。突然現れた男に胡乱げな目を向けてくる母の姿に少し冷や汗を掻いてアルテイルが告げる。


「あーえーっと、そこらへんも含めて、色々話をするから。とりあえず落ち着こう、ね?」


 アルテイルの言葉にフンと鼻息一つで応える母の姿に、アルテイルはやはり冷や汗を流すのであった。



―――――


「はー、貴族様の嫁にねぇ。んで、アルも貴族にねぇ」


「えっと、信じてる?」


「信じるも信じないも、そう言われたらそうなんだって納得するしかないじゃないのさ。こんな可愛い子も居るんだから」


 そう言うカミラの腕にはリゲルが嬉しそうに抱かれていた。リゲルを抱いて笑みを浮かべているカミラの姿に、アルテイルもリザルもホッとするのだった。そんな二人とは反対に、ミューラは拗ねた表情を浮かべている。


「なんで二人の事は信じるのに私の言葉は信じないのよ……」


「そらアンタ音信不通の娘より月に一度は必ず帰って来る息子のほうが信用できるわ」


「だから、普通はそんな事できないんだって言ってるじゃない」


「分かってるよそんな事は。それでも連絡が無いのはどうなのさ、ねぇ?」


 問いかけの形を取っているが確実に同意を求めているカミラの言葉に、アルテイルは苦笑を浮かべるしか無かった。


「まぁ母さん、そんな虐めないであげなよ。僕これからカルアス様の所いってくるからさ」


「あらそうかい、きぃつけてな」


「うん、いってきます」


 言葉と共に席を立ち、アルテイルはミカとノエルを連れて家を出る。まぁ余計な者さえ居なくなれば、母も女同士気持ちを解してくれるだろうと、希望的観測を持っていた。それにカルアスに用事があるという事も本当の事であるし。


 ハイネルは先にカルアスの所へ向かうという事だったので先に行かせ、アルテイル達は何とかカミラの気持ちを宥めていたのだ。流石にここの領主の息子であるハイネルにもカミラの気持ちを宥める作業をしてもらうわけには行かなかった。


「それにしてもカミラさん、嬉しそうだったね」


「ん、そう? 嬉しそうに見えた?」


 ミカから飛び出した意外な言葉にアルテイルが疑問形で問い返すと、ノエルがはぁ、と一つため息をついた。


「……アルテイルは、鈍い。素直になれない母心というものよ」


「ふぅん、そういうもんか」


「そうそう、そういうもんだよー」


 そう言いながらミカは周辺の景色を眺めつつ、アルテイルと歩調を合わせ歩いている。アルテイルの右隣にミカが歩き、反対側をノエルが歩く。なんだかこうしていると両手に花状態だなと思いつつ、アルテイルはどこかのんびりとした今の時間をとても良いと感じていた。


 長閑な農園の中を、美少女を侍らせて歩いて行く。まるで自分がリア充になった錯覚を覚えてすぐさまイカンイカン思い直した。


 二人はシュタイマーアルク辺境伯様からのお目付け役、別に自分がリア充な訳ではない、と心の中で念仏を唱えると不思議なもので、段々と心が萎えてくる。


「あれ、アルテイル君どうかした?」


「い、いや、なんでもないよ、うん」


 先程まで機嫌良さそうだったアルテイルが少し見ない間に気分が落ち込んでいる。ミカとノエルにはそういう風にか見えていなかった。


 そんな気分の浮き沈みをしながらアルテイル達は、久しぶりの従士長の屋敷へと辿り着く。屋敷の前ではハイネルとカルアスが笑みを浮かべて話をしていた。ふとこちらに気付いたカルアスがアルテイルを見つめて笑顔を向けて手を降ってくる。それに返礼をしながら挨拶を返した。


「お久しぶりです、カルアス様」


「様はよしてくれよ、ハイデリフト卿?」


「勘弁して下さいよ」


 カルアスからの敬称に思わず苦い顔をしてしまう。個人的に親しいと思っている人からそのような呼ばれ方をすると背筋が寒くなってしまうと言うか、苦い思いしか出てこない。


「冗談だ冗談。ま、土産にしては良い笑い話を貰ったよ」


「もう、勘弁して下さいよ……」


 心底嫌そうな表情で言うアルテイルの言葉にハイネルとカルアスは苦笑を浮かべるしかない。実家の姓であるハイデリフトと同様の姓を叙爵と共に授与されてしまった彼の心の内には、苦味しか無いのだろう。


「それで、どうする。一応ウチのハイデリフト卿に挨拶にでも行くか?」


「あー、そうですね。そういうの必要なんでしょうかね、やっぱり」


「顔を出した以上はね。やっておいて損はないと思うよ、多少の文句は言われるかもしれないけど」


 そう言うカルアスとハイネルの勧めもあって、アルテイル達はハイデリフト領の現領主であるガルマンへと顔を出す事となった。三人での取り合わせというのもハイネルが家を出てから久しく無かった事なので、取り留めのない話をしながらも領主邸へ辿り着くまでの数分の間、とても懐かしい気分で過ごせた。


「キャーッ!!」


 そんな雰囲気をぶち壊すように、領主邸に辿り着いて玄関ホールへと入ると、急に階上から叫び声が聞こえる。その叫び声に何事かとカルアスとハイネルが慌てて階段を駆け登る。アルテイル達もその後に続くと、辿り着いたのは一度アルテイルも訪れた事のある領主の執務室だった。


 執務室の扉を勢い良く開けると、そこには頬を押さえて倒れる女性と、壁に叩きつけられたかのように横たわる領主ガルマン。そして、その前で椅子を思い切り振り上げているハイデリフト家長兄であるケインが居た。


「兄上! 何をやっている!!」


「ち、ちがっ! これはそう、喧嘩、ただの喧嘩だ!」


 カルアス達の姿に思い切り動揺したケインが椅子を取り落とし作り笑いを浮かべた顔の前で手を振る。どう見てもただの喧嘩にしては物騒な状態だったのだが、本人としては喧嘩という事で済ませたいらしい。とりあえずカルアスはケインをキツく睨んでから、横たわるガルマンへと歩み寄った。


「父上、大丈夫ですか」


「あぁ……カルアス、済まない、助かった」


「一体何があったのです?」


「いや、それは……」


 何か言い辛いのか、ガルマンは苦り切った表情を浮かべながら、ゆっくりとその場で立ち上がった。ふるりと頭を振ってからケインを睨みつけた。


「……激情に駆られこのような乱暴狼藉を起こすなど、お前は領主の器では無い。ケイン、お前を次期領主とする事は取りやめる!」


「なっ! バカな、父上!!」


 ガルマンの決定に叫び声をあげて動揺するケイン。何故そのような決定になったのか、一体ここで何が起こったのか。全く何も把握していないアルテイルを含めた全員は、ただただポカーンとするしか無いのだった。


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