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アルテイル、貴族になる


 アルテイルが叙爵されるまで空いた時間がある。その時間にアルテイルはミカとノエルを連れて王都にある喫茶店へと訪れていた。お目当ては王都で吏員をしているハイネルと会う事だ。約束の時間丁度ぐらいにハイネル待ち合わせの喫茶店へと訪れてきた。


「や、アルテイル。久しぶり、大きくなったね」


「お久しぶりです、ハイネル様」


 直接言葉を交わすのは二年振りぐらいである。ハイネルは背が伸びて見た目的にも成長したアルテイルの姿を目を細めて喜び、次いでアルテイルと共に頭を下げるミカとノエルへと笑顔を向けた。


「話に聞いているミカさんとノエルさんだね。アルテイルがお世話になっているようで」


「いえ、いえこちらこそ」


「アルテイル君にはいつもお世話になっています」


 挨拶もそこそこに、ハイネルは席について紅茶を頼む。店員が紅茶を持ってくるまでの間に、ハイネルは笑顔を浮かべてアルテイルを見ていた。


「いや、それにしても。まさかアルテイルがその歳で叙爵されるとはね。僕としても鼻が高いよ」


「まぁ何と言いますか、行きがかり上そうなってしまったというか」


「事の経緯はある程度聞いているよ、王都でも話題だからね。複数の領地持ち貴族が共謀して違法奴隷を扱っていたなんて、いい醜聞だよ。シュタイマーアルク辺境伯様も大変だ。幸い、ウチの実家は全く関わっていなかったみたいだから良かったけどね」


「ハイデリフト領で人攫いなんてしたらすぐにバレるでしょうからね」


「まぁ浮いた爵位を君が受け取って、余った爵位はそのまま現金換算といった所だね。今私の部署でその処理を行っている所だよ」


「ハイネル様の部署で? ではもしかして僕の爵位とかもご存知ですか?」


「うん、正直に言えば知っている。その予定で給金計算も既に始まっているからね。でもまだ陛下から正式に叙爵されていない状態だから、私からは教えることはできないね」


 ハイネルの言葉にほんの少し残念という思いが浮かぶ。叙爵前にどんな爵位に封ぜられるのか理解していれば、ある程度の緊張は緩和されるのではないかと思っていたのだが、流石にハイネルに守秘義務違反を犯せとは言えない。アルテイルは諦めて叙爵されるその日を待つしか無かった。


「それで、アルテイル。君達はいつまで王都に居られるんだい? 君に逢わせたい方がいるんだが」


「逢わせたい方、ですか? 無いとは思いますけど貴族派閥の偉い人とかそういうのじゃ」


「そういうのでは無いから安心して。私の上司なんだけどね、私もそうだし君とも縁のある方が王都に居るんだ」


「僕に縁のある方で、ハイネル様の上司? 法衣貴族の方ですか」


「そうだね、間違いなく法衣貴族の方だよ。ま、どういう繋がりかは逢ってからのお楽しみという事で。それよりも叙爵される日まで暇だろう? 私が案内する事は出来ないが、王都のおすすめの場所なんかを教えてあげるよ」


「是非お願いします。僕らの中で一番王都に詳しいのはエリオット様、シュタイマーアルク辺境伯のお抱え魔法使いの方なんですけど、こちらに来ても多忙だそうなので」


 それからアルテイル達はハイネルから王都のオススメスポットをいくつか教えてもらった。この喫茶店もそうなのだが、他にも魚料理の美味しい店や、王都の住人が集う憩いの広場、王都の結界を維持している巨大な結界塔など、観光スポットと言える場所を詳細に教わったのだった。


 その翌日からアルテイル達三人はハイネルのオススメ通り小物屋だったり服飾を扱っているお店、食料品の集う商店街と屋台を巡り、王都中央付近にある結界塔を中心とした憩いの広場で屋台の食品を食べたりと、王都観光を満喫する事となった。


 そうして三日が経った頃、いよいよアルテイルに王宮からの招集がかかった。王宮からの使いの騎士と共にエリオットも同行し、アルテイルは馬車に揺られて王宮へと入る。城下町から見ただけでも大きかった王宮は、実際に自分が入るとなると更に大きく見えた。ここにオーリストア王国の国王が座している訳か、と何処か俯瞰した目線で事の流れを眺めている。


 馬車が入り口へ到着したと同時に扉を開けられ、エリオットと共に馬車から降りると、使いの騎士と共に王宮へと入る。中は洗練された綺麗さがあり、少なくとも見た目を着飾っただけの人物がここを納めている訳ではない事を物語っていた。謁見の間は太陽の日差しがガラスを通して入るよう計算された広い空間となっており、左右に武装した騎士が横一列に立っている。使いの騎士がその一列に混ざるのを見送ってから、アルテイルとエリオットは玉座に近い場所へと歩み出て、床へと片膝をついた。ここまではエリオットなどから事前に教授してもらっていたので特に問題無く進める事が出来たが、この後はどうなるのか、アルテイルにも予想ができなかった。


「オーリストア王国国王、アンタレイ・ファル・オーリストア様、御入来!!」


 一際大きな声と共にアルテイルは頭を下げる。頭上で人が歩いてくる気配を感じつつ、その人が玉座へと腰掛けたタイミングで、声をかけられた。


「面を上げよ」


 言われた通り顔をあげると、そこには温厚そうな顔つきをした、ジルベスタに負けず劣らずの優男然の四十程の男が座っていた。


「その方が、此度の問題を解決したと言うアルテイルか」


「はっ、私がアルテイルでございます」


 国王からの言葉に頭を下げつつアルテイルが応えると、国王は笑みを浮かべて頷いた。


「なるほど、なるほど。まだ若いのに精悍な顔つきをしておる。エリオットも久しいな」


「お久しぶりでございます、国王陛下」


「うむ。聞けばエリオットが彼に魔法を教授しているとか。どうだ、エリオットから見て彼は」


「率直に申し上げれば、私のような凡夫とは比べるべくもなく、天才であるかと。その魔力は元より知恵と発想により素晴らしい魔法の数々を操る者でございます」


「エリオットが凡夫であれば、世の魔法使い全てが凡夫であろう。が、エリオットがそこまで言うほどの力を持つか」


 いきなり人の事を持ち上げてきたエリオットにアルテイルは驚きの視線を向けるが、エリオットはそれを涼しい顔で受け流した。未だ魔法の制御ではエリオットに譲る部分があるが、それを補って余りある日本での知識を魔法という技術に掛けあわせて完成されたアルテイルの魔法は、確かにエリオットが言うようにこの世界では非凡なものであった。


「して、アルテイル。お主は将来、どのように見据えておる」


「は。私は将来冒険者として身を立てようと思っております。世界を巡り、魔法を用いて何かを成し遂げようと思っております」


「なるほど、なるほど。良き目標だ。なればこそ、お主には此度の貢献に対し、国より正式に爵位を与えようと思う」


「陛下の御心のままに」


「うむ、それではアルテイルよ。お主はこれより勲功爵とする。また姓が無いのも悪かろう、お主の出身領、ハイデリフト領より拝借し、これからはアルテイル・ハイデリフトと名乗るが良い」


「はっ。有難き幸せにございます」 


「うむ。冒険者として精進し、おのが道を進むが良い」


 こうしてアルテイルは、姓と共に、勲功爵という地位を手に入れる事となった。



―――――



 謁見が終了して王都のシュタイマーアルク邸へ戻った後、アルテイルがエリオットへ文句をつけた。


「ちょっと、あんなに持ち上げる事なんて無いじゃないですか」


「まぁまぁ、ある程度は必要だし、それに事実私はそう思っているのだから、問題は無いよ」


「それにしたって、持ち上げ過ぎですって。変に期待されても困りますし」


「ま、陛下は期待しているだろうね。何せ貢献で爵位を与えるに相応しいという魔法使いが数十年振りに出てきたんだ」


 エリオットのその言葉にアルテイルが驚く。


「え、でも勲功爵って一番下の爵位ですよね」


「そうだけどね。通常の騎士爵位とは違う、何らかの形で国に貢献した者のみが与えられる爵位だから、一番下とは言えある意味特別な爵位なのさ。授与されたのは本当に数十年振りだという話だよ。給金も実は騎士爵位より金貨一枚分多い」


「なんという、面倒なものを……」


 エリオットの言葉にがっくり来るものがあったが、先程の謁見を思い出してアルテイルが笑みを作る。


「でも謁見で陛下から冒険者としての活動に許可が貰えたので、そこは問題無いんですよね」


「まぁそうだね、陛下のお墨付きも貰えたし、冒険者として今後活動する分には問題は無いだろう」


 それだけでもアルテイルにとって救いがあった。貴族なのだから冒険者などするな、と言われずに活動に対するお墨付きを国から得たのだ、これで残る障害は年齢という決して超えられない壁のみとなった。この国では冒険者として活動するには成人してからという基本規定がある為、通常であればアルテイルは後五年間は冒険者として活動する事はできない。特殊事例として国や互助協会から許可を得た場合のみ、成人以下の年齢でも冒険者活動が許可される事もあるが、それもここ数十年は起こっていない事なので難しいだろう。


「アルテイル君が貴族様かー。あ、アルテイル君じゃなくてハイデリフト卿って言った方がいいかな?」


「やめてよそういうの。別に今までと一緒でいいって」


「じゃあアルテイル。これからは貴族らしくなるように頑張らないとね」


「別に貴族らしくなんてなりたくないんだけどな」


 はぁ、と溜息をついてノエルの言葉に返事を返す。貴族らしい貴族など、アルテイルの周囲にはシュタイマーアルク辺境伯ぐらいしか居ない。辺境伯という尊大な地位に居る彼では勲功爵という最低辺のアルテイルにとって参考にはならないだろう。全く貴族などやはりなるべきでは無かったな、とアルテイルは思案した。


「それで、ミカさんとノエルさんのお二人はこのまま、アルテイル君の家臣という事でお願いしますよ」


「はい、分かってます。まぁ妾だ正妻だっていう話はアルテイル君が成長してからという事で」


「アルテイルの成人まで下手な女を寄せ付けないのが、私達の仕事」


「やっぱりそういう事になるか……」


 当然の流れ、ではあるがミカとノエルの二人がそういう意図で着いてきている事を意識してしまうと、やっぱり心が萎えてしまう。自分の中では冒険者学校の仲間という意識が強かっただけに余計だった。


 この先こういう事にも慣れていかないといけないんだろうなぁ、と遠い目をしながらアルテイルは夜空に浮かぶ月を見上げた。


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