白紙の吹き出し
勢いのままに書いた短編です。
小説を書きたい若者と、漫画を描くおじさんの話。
公園で書いていた。
ひたすらに原稿を書いていた。
緑が青々と茂る公園で一人書いていた。
平日の昼前、屋根付きの平たいベンチで、原稿を広げて書いていた。
風が吹いても鳥が鳴いても日が眩しくてもひたすらに書き続けた。
何のために。残すためだ。
何を残す。私を残すためだ。
何故残す。知らしめたいからだ、愛されたいからだ。
何故。認めさせたい、振り向かせたい。
何故。なんだっていい。
ジトッと汗ばんだ背中に風が吹きつける。
バサバサと悲鳴を上げる原稿を叩きつけて書き続けた。
ベンチに新しい影が近づいてきた。
誰だ、今は構っている暇がない。
無視して書き続けた。
「それはなんだ」
気難しそうな男性の声だ。
「小説のつもりで書いてる」
目を向けたくない。
「小説なら小説と言い切れ。それが出来ないなら書くのをやめろ」
頭に血が上る。何様なんだ。
顔を上げて男性の目を射殺すつもりで、射殺した。
「これは小説だ」
「言えるじゃないか」
鼻で笑われた気がした。
無視して書き続けた。
「おい」
無視して書き続けた。
「おい、聞いてんのか」
無視して書き続けた。
「返事をしろ」
「なんだよ」
口だけ返事をして書き続けた。
「うちへ来い」
「嫌だ」
「駄賃はくれてやる。来い」
首根っこを掴まれて息が詰まる。
暴れても離さない、離れない。
「行くから離せ」
パッと手が離れて、ドサッとベンチに崩れた。
渋々原稿をかき集めて、頑固な男性に着いて行った。
そこには原稿があった。
その部屋にはちゃぶ台の上に原稿があった。
丸まった紙がいくつも山になっていた。
古い紙の匂い、埃っぽい匂い、畳の匂い、懐かしい匂い。
「書け。終わったら声を掛けろ」
男性はちゃぶ台の奥にある椅子に腰掛け、机に向かって何かを描き出した。
ちゃぶ台の前に座り、原稿を読んだ。
いつも書いている小説の原稿ではない。ただの紙に書かれた、コマ割りがされた漫画の下書きだった。
セリフは白紙だった。丸だけ囲まれてスペースは取ってあるのに、何も書かれていなかった。
下書きの漫画を読んだ。絵だけの漫画を読んだ。
不思議と白紙のセリフに何を書くか浮かび上がってきた。
何故書かない。何故書いていない。
初めて漫画にセリフを書いた。書き続けた。
原稿を書き続けた。
ガリガリ、ガリガリ。
ひたすらに書き続けた。原稿を広げて書いた。
じわりと滲む汗が額を走り、頬を伝い、顎から落ちる。
屋内だというのに暑くて仕方なかった。
ガリガリ、ガリガリ。ガリ。
書いた。書き終わった。
顔を上げて男性が座っている姿を見た。
黒くて大きい岩のような後ろ姿。
わなわなと肩が上下する。書いている。描いている。原稿を描いている。
「終わった」
「ああ」
口だけの返事だった。
足でゴソゴソ何かした後、頭を搔いてペンを置いた。
ガバッと椅子ごと後ろに向けた。
「見せろ」
原稿を手渡す。下書きの原稿。
数枚捲ってすぐ閉じた。
「巫山戯るな」
吐き捨てた言葉の次に短い溜息。
何だこのジジイ。
「ごめんくださ〜い」
上機嫌な女性の声。若くなく、年老いてもいない艶のある声。
スタスタと勝手に部屋へ入ってきた。
「あら、お取り込み中かしら。花が入ったから届けに来たのよ。ほら、綺麗でしょ〜?」
手に持った花束。ピンク色の花束。五つの花弁からなる花。薄いピンク色の花束だった。
「丁度いい、一本くれ」
「は〜い、どうぞ」
花束に、にこやかな女性の手が伸びて、一輪男性へと手渡された。
男性は一瞬花を見てすぐにちゃぶ台へ投げ捨てた。
「見ろ」
花を見た。
「十個だ。違う視点からこの花の文を十個書け。花ならいくらでも買ってやる」
男性は机に戻った。
かじりついて原稿を描いた。
ちゃぶ台の花を見た。見続けた。
花弁の形、色、花の匂い、茎の色、長さ。
見て書いた。見ながら書き続けた。
思い思いにひたすら書いた。
綺麗だと思いながら書いた。
醜いと思いながら書いた。
儚いと思いながら書いた。
書いた、書いた、書き続けた。
答えなど無く、どれも違うと思いながら書き続けた。
ひたすらに書き続けた。
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