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白紙の吹き出し

作者: といち
掲載日:2026/04/28

勢いのままに書いた短編です。

小説を書きたい若者と、漫画を描くおじさんの話。



公園で書いていた。

ひたすらに原稿を書いていた。

緑が青々と茂る公園で一人書いていた。


平日の昼前、屋根付きの平たいベンチで、原稿を広げて書いていた。

風が吹いても鳥が鳴いても日が眩しくてもひたすらに書き続けた。


何のために。残すためだ。

何を残す。私を残すためだ。

何故残す。知らしめたいからだ、愛されたいからだ。

何故。認めさせたい、振り向かせたい。

何故。なんだっていい。


ジトッと汗ばんだ背中に風が吹きつける。

バサバサと悲鳴を上げる原稿を叩きつけて書き続けた。


ベンチに新しい影が近づいてきた。

誰だ、今は構っている暇がない。

無視して書き続けた。


「それはなんだ」


気難しそうな男性の声だ。


「小説のつもりで書いてる」


目を向けたくない。


「小説なら小説と言い切れ。それが出来ないなら書くのをやめろ」


頭に血が上る。何様なんだ。

顔を上げて男性の目を射殺すつもりで、射殺した。


「これは小説だ」

「言えるじゃないか」


鼻で笑われた気がした。

無視して書き続けた。


「おい」


無視して書き続けた。


「おい、聞いてんのか」


無視して書き続けた。


「返事をしろ」

「なんだよ」


口だけ返事をして書き続けた。


「うちへ来い」

「嫌だ」

「駄賃はくれてやる。来い」


首根っこを掴まれて息が詰まる。

暴れても離さない、離れない。


「行くから離せ」


パッと手が離れて、ドサッとベンチに崩れた。

渋々原稿をかき集めて、頑固な男性に着いて行った。




そこには原稿があった。

その部屋にはちゃぶ台の上に原稿があった。

丸まった紙がいくつも山になっていた。

古い紙の匂い、埃っぽい匂い、畳の匂い、懐かしい匂い。


「書け。終わったら声を掛けろ」


男性はちゃぶ台の奥にある椅子に腰掛け、机に向かって何かを描き出した。

ちゃぶ台の前に座り、原稿を読んだ。

いつも書いている小説の原稿ではない。ただの紙に書かれた、コマ割りがされた漫画の下書きだった。

セリフは白紙だった。丸だけ囲まれてスペースは取ってあるのに、何も書かれていなかった。


下書きの漫画を読んだ。絵だけの漫画を読んだ。

不思議と白紙のセリフに何を書くか浮かび上がってきた。

何故書かない。何故書いていない。

初めて漫画にセリフを書いた。書き続けた。

原稿を書き続けた。


ガリガリ、ガリガリ。


ひたすらに書き続けた。原稿を広げて書いた。

じわりと滲む汗が額を走り、頬を伝い、顎から落ちる。

屋内だというのに暑くて仕方なかった。


ガリガリ、ガリガリ。ガリ。


書いた。書き終わった。

顔を上げて男性が座っている姿を見た。

黒くて大きい岩のような後ろ姿。

わなわなと肩が上下する。書いている。描いている。原稿を描いている。


「終わった」

「ああ」


口だけの返事だった。

足でゴソゴソ何かした後、頭を搔いてペンを置いた。

ガバッと椅子ごと後ろに向けた。


「見せろ」


原稿を手渡す。下書きの原稿。

数枚捲ってすぐ閉じた。


「巫山戯るな」


吐き捨てた言葉の次に短い溜息。

何だこのジジイ。


「ごめんくださ〜い」


上機嫌な女性の声。若くなく、年老いてもいない艶のある声。


スタスタと勝手に部屋へ入ってきた。


「あら、お取り込み中かしら。花が入ったから届けに来たのよ。ほら、綺麗でしょ〜?」


手に持った花束。ピンク色の花束。五つの花弁からなる花。薄いピンク色の花束だった。


「丁度いい、一本くれ」

「は〜い、どうぞ」


花束に、にこやかな女性の手が伸びて、一輪男性へと手渡された。

男性は一瞬花を見てすぐにちゃぶ台へ投げ捨てた。


「見ろ」


花を見た。


「十個だ。違う視点からこの花の文を十個書け。花ならいくらでも買ってやる」


男性は机に戻った。

かじりついて原稿を描いた。


ちゃぶ台の花を見た。見続けた。

花弁の形、色、花の匂い、茎の色、長さ。

見て書いた。見ながら書き続けた。

思い思いにひたすら書いた。

綺麗だと思いながら書いた。

醜いと思いながら書いた。

儚いと思いながら書いた。

書いた、書いた、書き続けた。

答えなど無く、どれも違うと思いながら書き続けた。

ひたすらに書き続けた。

読んでくださりありがとうございました。

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