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主人公殺し  作者: JohnnyGeppu


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第3話 失意の行先

第2話 失意の行先


図書館に籠もってから、どれほどの時間が経ったのか、自分でも分からなくなっていた。窓の外の光が傾き、やがて橙色に変わっても、俺は席を立たず、ただ機械のように古い文献をめくり続けていた。指先が紙で切れても、喉が渇いても、空腹を覚えても、それらはどこか遠い出来事のように感じられ、頭の奥ではただ一つの疑問だけが鈍く回り続けている。


――本当に、すべては偶然だったのか。


英雄譚の記録を何冊も、何冊も積み上げていく。埃を被った年代記、戦記録、民話の写本。どれもこれも似たような構図だった。絶望的な敗北。仲間の死。打ちひしがれる若き戦士。そして、そこから立ち上がる“たった一人”の存在。傷つきながらも前に進み、最後には必ず敵を打ち倒す。時代も、場所も違うはずなのに、驚くほど同じ筋書きが繰り返されている。


決定的な証拠はない。ただの偶然と言われれば、それまでの話だった。俺は積み上がった本の山を見下ろし、小さく息を吐く。馬鹿らしい。こんなところに答えがあるはずがない。ユノンの死に意味を見出そうとすること自体が、未練がましいだけなのかもしれない。


椅子を引き、帰ろうとした、そのとき。


「随分と酷い顔だねぇ。失恋でもしたのかい?」


間延びした声が、横から滑り込んできた。


視線を向けると、本棚に寄りかかるようにして男が立っていた。三十代にも四十代にも見えるこの男、手にはいつの間にか俺が読んでいたのと同じ英雄譚が一冊。口元には薄い笑み。だがその目だけが、妙に澄んでいて、こちらを測るように細められていた。


「……何だあんた」


「いやぁ、君の目があんまりにも“終わってる”からさ。死んだ魚みたいって言うのかな。で、その山積みの英雄譚。どう考えても趣味じゃないだろ?」


軽い。冗談めいている。

だが、心臓の奥を正確に射抜かれた感覚があった。


無視して立ち去ろうとする。


すると男は、わざとらしく肩をすくめた。


「図星かい? じゃあ質問を変えよう」


一歩、距離を詰めてくる。


「君は“主人公”になりたかったのかい?」


足が止まった。


振り返らないまま、背中越しに男の気配を感じる。

図書館の静寂が、急に薄っぺらくなった。


「……意味が分からない」


「分かってる顔してるよ」


くつり、と笑う。


「物語にはね、中心がある。そこに立つ人間は、だいたい最初から決まってる。才能とか努力とか、そんな綺麗な話じゃない。もっと単純で、もっと残酷な仕組みさ」


男は俺の積み上げた本を指で軽く弾いた。


「主人公はねえ、最初から“そう扱われる”だけなんだよ」


その声音は、やけに穏やかだった。


けれどその目は、笑っていなかった。


「で、君はどっちだと思う?」


ゆっくりと首を傾げる。


「物語の中心か。それとも……中心を成立させるための、部品か」


胸の奥が、ひどく静かに軋んだ。


初めて、はっきりとした言葉になりかける。


――ユノンは、部品だったのか?


図書館の空気が、少しだけ歪んだ気がした。





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