第九話 夏の幻──西瓜姫との恋
拙者はたくあん侍として脇役の矜持、精神を体現していた。だが心は熟しても尚、欲に渇望し、孤独であった時もある。
あれは修行中、ある夏の日の事だった。拙者は「夏の宮殿」と呼ばれる広大な瓜畑で、西瓜姫と出会う。
彼女は瑞々しく鮮やかな緑と黒とそして紅のコントラストが目を引く、まさに夏の主役であった。
拙者は自身の地味で黄色い姿を恥じた。彼女があまりにも眩しすぎたのだ。
「拙者は所詮、泥臭いたくあんにござる」
拙者は心を閉ざした。しかし西瓜姫の考えは違った。
「あなたのその渋い黄色は、深い思慮の色。長い下積みで培われた旨味は、私の単調な甘さを引き立ててくれる」
そう微笑んでくれた。彼女は主役と脇役ではなく、互いを補い合う存在としての愛を語った。
二人の恋は、周囲の偏見という「夏の暑さ」に晒された。
お肉の国の騎士たちは「釣り合わぬ」と嘲笑し、しし党たちは嫉妬した。だが、二人は強い絆で結ばれていた。拙者は塩分刀で障害を払い、西瓜姫は清涼な心で周りを和ませた。
我らは互いが隣り合うことで生まれる新たな「味わい」、塩気と甘さの絶妙な調和を世に示した。
そして季節が巡る。拙者たちは夏の終わり‥‥別れという名の試練を迎える。
「わたしも、たくあん侍様のように漬かるわ」
こうして拙者の淡い恋の物語は幕を閉じる。西瓜姫は瓜の漬物となり、新たな漬物史を築くことになったのだ。




