第四話 脅威の粘り、無敵のムチン装甲!
「粘丸‥‥貴様は最近食卓の秩序を乱しようが目に余ると聞く。某が性根を正してくれようぞ」
山芋侍、名は粘丸。
その名の通り全身がネバネバとした「粘液の鎧」で覆われておる。物理攻撃はおろか、拙者の塩分刀すら粘り取る厄介な相手なのだ。
「フハッハッハッ──俺様の『ムチン装甲』は無敵だ!貴様ごとき干からびた漬物では歯が立たぬわ!!」
奴の得物「とろろ槍」が繰り出される。一撃一撃が重く、胃袋に直接響くような粘り気を帯びていた。拙者も攻撃をかわし続けるが、決定打を与えられぬ。
「くっ、この粘り、手強い…⋯!」
戦いが長引くにつれ、拙者の身体にも疲労や痒みが蓄積していく。このままではジリ貧である。
──その時、里人たちが拙者に声をかけてきた。
「たくあん侍様、お酢を使いなされ!!」
「酢……そうか、酸味こそが粘りを断ち切る鍵! 忝ない!」
拙者は咄嗟に懐に忍ばせていた秘伝の酢橘を取り出し、塩分刀に擦り付けた。
「貴様の力、借り受けるぞ!」
刀身は酸味を帯び、再び鋭い輝きを取り戻した。
「喰らえ、酸味塩分合わせ技!」
まさに鎧袖一触、粘丸のムチン装甲を切り裂く。酸味と塩分がネバネバを瞬時に中和・分解し、無力化させたのだ。
「馬鹿な。酸味だ⋯⋯と!?」
崩れ落ちる粘丸。
「どんなに強力な個性も、他の力との調和なくしては、ただの『行き過ぎた特性』に過ぎぬのだ」
山芋侍は、たくあん侍の「脇役の美学」の前で、自らの過ちを悟ったのであった。




