第三十一話 これにて終幕
「最高の土壌にて育ち、真っ白な肌を誇る若き大根たちよ。主役を夢見て瑞々しく伸びゆく姿は実に眩しいものだな」
過酷な生存競争。土の肥やしを身の肥やしとする中で、若い後進たちはすくすくと育ち、派手な食卓の舞台に立つことを夢見る。
だが‥‥覚えておれ。陽の光を浴びて泥を落とし、重石の下で己の水分を絞り切った先にしか見えぬ景色がある。
拙者は石の下で三年の間、闇に漬かり、塩分刀を磨きあげた。主役の座を活かすために、泥沼の中で『旨味』という名の矜持を磨き上げたのだ。
だが上には上がおるのが世の常。拙者よりも古くから発酵に工夫を凝らし鍛錬せし者や、百年の時を塩と共に漬かるものがおる。その塩分たるや、拙者など足元にも及ばぬ魔を祓う塩っ気という。
主役が輝くのは我ら脇役がその陰で塩味を利かせ、食感を添え、調和を司っているからに他ならぬ。
どんなに華やかな御前であっても、最後に求められるのは、この一切れのたくあんなり⋯⋯それが拙者でなくとも満たされた顔が何よりの馳走だ。
己をひたすら磨き、食卓を活かす。これこそがたくあん侍の生き甲斐であり、折れぬ矜持なのだ。
育ちゆく若人たちよ、精進いたせ。
拙者はこの食に溢れた膳の片隅で、貴殿らが主役として運ばれてくる日を待つ。、
静かに、そして誰よりも深い味わいを持って待っておるぞ。
これにて「たくあん侍の戦記」 ひとまずの幕引きにござる。さらば!
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