第二十九話 最強なる味噌
銀光殿は、白銀の肌と、濃厚なる脂の持ち主。その焼き上がりも美しく七色に染まる西陣織りの衣を纏うような仕上がり。最強なる西京焼き、それが銀鱈の味噌焼きである。
食卓を飾る主役級の旨味。特技「深海味噌圧」は、自慢の濃厚な脂身を、芳醇な西京味噌の香りと共に津波のように放出し、食卓の全てを己の色に染め上げようとする強烈な味覚攻撃となる。
まさに食卓の主役たる、脂の波ノリのごとき風格に満ちていた。
「我が芳醇なる味噌の香りと脂の旨味、他の追随を許さぬ!」
銀光殿は美食大王と共に高笑いしておったものだ。
「たくあん侍殿、いつもすまぬがお頼み申す」
味噌御前様が身内のノリに毒された主に苦い顔をしていた。懲りない主君だが、味噌御前様の頼みは断れぬ。拙者はとある御仁から一本の矢を譲り受け食卓へと向かう。
拙者は隣に添え物として控え、その時を静かに待つ。大王達が銀鱈の美味に舌鼓を打つが‥‥その濃厚さに箸が止まる。
「美味いが少々濃すぎるやもしれぬ」
その時一人の近習が、控えめに佇む拙者に目を留めた。
「たくあん侍殿に引き締め役を頼んでみては?」
近習の言葉に銀光殿は不満げであったが、大王は近習の言葉を受けたくあんと銀鱈殿を交互に口に運んだ。
「ほう⋯⋯これは飯が円滑にすすむが、まだまだじゃ」
「ならばこれはどうでござる」
拙者は茗荷侍殿から譲り受けた矢生姜を大王の大きな口へと放つ。
銀鱈殿の濃厚な脂と味噌の甘塩っぱさが、矢生姜の甘酢のさっぱりした酸味によって見事に調和され、口の中が浄化されたのだ。
「な、なんという爽やかさ」
銀光殿も舌を巻く。銀鱈には矢生姜がよく似合うものと、拙者は引き立て役の代役で、良しとする。
「脂ノリノリの貴殿も引き締めなくば、ただの『濃すぎる料理』にござる。主役と脇役、互いの個性を認め引き立て合うことが真の食の道よ」
脇役の矜持に銀光殿は感銘を受け、食卓の平和は保たれたのであった。




