第二十八話 鏡開きと塩っぱい諫言
鏡開きの儀式が終わり、里人たちは温かいお汁粉を囲んでいた。伸びる餅、優しい甘味。
美食大王もまた上機嫌でその甘露に舌鼓を打っておった。
「うむ!この甘みこそ、食の頂点なり!」
大王はそう宣言し次から次へと餅を平らげていく。その姿はかつての飽食大王を彷彿とさせた。
「大王‥‥あまりの暴食は胃もたれ魔人を呼び起こしますぞ」
拙者は、お汁粉が盛られた膳の片隅で、静かに忠言を呈した。
里人たちも甘さに飽きを感じ始めた頃、和尚が拙者に目を留めた。
「そうじゃ、これじゃ」
和尚がたくあんを一口食した後、大王にも勧めた。渋々ながらも口にした大王は、目を見開いた。
「忘れておった……な。塩味が甘味を引き出し、満足を促すことを」
「過剰な甘みだけでは舌の肥えた大王には不足にござる。何事も過ぎたるは及ばざるが如し。腹八分目こそ、食の真理ですぞ」
大王は一瞬、言葉を失い、やがて苦笑した。
「……相変わらず、塩味の効いた言葉を吐く男よ。和尚のお株を奪うでないぞ」
「ほっほっほっ。彼は蕪でのうて、たくあん。正月太りのご領主様には甘言より、主を気遣う諫言の方が良い味になりましょう」
「う、うむ」
拙者の意を汲んだ和尚の言葉に、美食大王もうなずく。
求められるその時まで静かに待つ。この控えめな姿勢と、ちょっぴり塩味の効いた忠言こそが、脇役たる拙者の美学。
お汁粉という主役を引き立てる本懐を、拙者は今日も果たすことが出来て何よりだった。




