第十六話 下剋上、主役交代?
「たまには、たくあん侍殿を主役に据えようではないか」
いぶし銀な男、鰹節侍の勝雄であった。
勝雄は自らの身を削り、和の里の台所で腕を振る舞う。拙者ら里の秘伝の出汁にも欠かせない食材だ。
「主役は白米、我らは皆、その引き立て役」
そんな拙者の美学を知りながら、勝雄はあえて拙者を主役にしようというのだ。
勝雄が振る舞ったのは、いつもと変わらぬ握り飯であった。
「拙者をかついだのか?」
「早まるでない。そら、食うてみい」
「こ、これは混ぜご飯か!」
使う材料はおなじみの添え物のたくあんに、醤油で混ぜた鰹節、主役のおむすびだ。
だが勝雄の鰹節握り飯は、采配が違った。たくあんを多く刻み入れ食感を強め、塩気が濃いので鰹節は醤油を控え、削り立てをそのまま米に混ぜ込んでいた。
「うまかろう。これはな、鰹節を多くする事でわしもまた主役になるのだ」
拙者も勝雄も己が引き立て役であると心得ている。
「脇役の極意を知る者であればこそ、主役を張る器量もお持ちのはず」
あくまで脇役は脇役だがな──そう勝雄は得意げに笑った。
拙者は新たな境地に感銘を受けた。主役と脇役は固定されたものではなく、料理という「和」の中で変化し得るのだと。
この日‥‥拙者は一時的ではあるが、里の食卓の「主役」として輝いたのであった。




