第十話 芋の国の商人 甘兵衛
薩摩芋商人、名は甘兵衛。彼は南の「芋の里」からやってきた、丸々と太った大きな声の陽気な男だった。
拙者とは対照的に、彼は常に「主役」を張ることを夢見ていた。ホクホクとした食感と濃厚な甘みを武器に、食卓の王座を狙っていたのだ。
ある秋の日の事だ。甘兵衛は和の里に現れ、自慢の焼き芋の香りで里人たちを魅了した。
「どうだね、この甘美なる香り!地味な漬物たちとは格が違うだろう!」
と、里人の側にいた拙者を嘲笑った。
「貴殿の甘み、見事なり。されど──その甘みだけでは人は飽きる。食には『塩気』という引き締め役が必要不可欠」
拙者は静かに応じた。
甘兵衛は鼻で笑い、里人たちは皆、彼の焼き芋に夢中になった。しかし数日後、里人たちは皆、甘さに飽き飽きし、どこか物足りなさを感じ始めていた。
そこへ、たくあん侍がおもむろに塩分刀を抜き、焼き芋にパラリと塩を効かせた。
「こうすれば、貴殿の甘みはさらに際立つ」
一口食べた甘兵衛は驚愕した。塩気が甘さを引き締め、単なる甘い芋から、止められない止まらない旨味へと昇華されていたのだ。
「こ、これは…⋯!」
甘兵衛はたくあん侍に頭を下げた。主役を張るだけが価値ではない。「塩」という脇役の存在が、自分を真の「美味」にすると悟ったのだ。
拙者と甘兵衛は握手を交わし、甘みと塩気の絶妙なバランスを保つ、食卓の新たな名コンビとなったのだ。




