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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

フィジカル聖女

出番がない

作者: た〜
掲載日:2025/08/24

「あの、もしかして聖女さまでいらっしゃいますでしょうか?」

儀式めいた場所で儀式めいた衣装を身に着けた集団の代表者と思しき男が問いかけた。

彼らは聖女召喚の儀式を行おうとしていた。そう、行おうとしていただけでまだ何もしていない。世界の危機を聖女に救ってもらうため悲壮な覚悟を決めて。

召喚の儀式を行うには膨大な魔力を必要とする。行えば、彼らの中の幾人かは命を落とし、そうでないものも長期間昏睡に陥るだろうと言われていた。それでも世界を救うためにはやらねばならなかった。


だというのにまだ何もしないうちに突然まばゆい光とともに一人の女性が現れたのだ。

「カッカッカッ!そうだよ!わたしが聖女だ!」

爽やか笑顔でサムズアップ

男と比べても大柄な体躯。へそ出しタンクトップにハーフパンツという露出多め。筋肉質だが出るべきところは出引っ込むべきところは引っ込んだプロポーション。色黒だが黒人のそれではなく日焼けした黄色人種の肌。短く刈り込まれたいかにも染めてますな金髪。およそ聖女のイメージとはかけ離れた見た目である


「お。ちゃんと聖力鑑定用の水晶球用意してあるな!」

そう言うとそこに置かれている水晶球に右手をかざす。すると水晶球は金色に輝く。聖女の証であった


「どうやら聖女様に間違いございません。まだ何もしていませんが、聖女様自らお越しくださったようです」

奥に控えるいかにも偉そうな人物に報告する代表者風の男


「突然お呼び立てして申し訳ありません。私はこの国の国王を務めさせていただいておるものです。聖女様には」

国王の謝罪と依頼をみなまで言わせぬ聖女

「カッカッカッ!気にしない気にしない!魔王が現れて困っているから退治する手伝いをしてほしいのだろう!?お安い御用だ!」

あっさり安請け合いする。こういう場合帰れるのかと心配したり勝手に呼び出したと怒り狂う覚悟をし、如何に説得するかを考えていたのに、拍子抜けである。まあ、召喚の儀式を行う前に勝手に現れたのだから文句を言われる筋合いではないのだが。


「ありがたき幸せです。早速ではありますが一緒に戦っていただく勇者一行が別室に控えているので顔合わせ頂けますでしょうか」

代表者風の男が申し出る。本来この男は儀式で倒れるであろうから国王がその役目を果たす予定であったが、なんの障害もなかったので、国王を煩わせるだけにもいかない。

「おっ!戦う仲間が居るのか!それはありがたい!ぜひ逢わせてくれ!」


聖女の一声で勇者たちの待つ部屋へ向かう。

「皆のもの、待たせたな。聖女様がご降臨なさった。魔王との戦いへの協力も快諾してくださった」

おお。歓喜にどよめく

聖女の魔法は敵を倒すことは出来ないが、回復に味方の強化、敵の弱体化など様々な支援を得られる。いなければ魔王のもとにたどり着くことすら叶わないだろう。


「司祭様、ご無事だったのですね」

勇者一行の一人が嬉しそうに尋ねる。それで聖女様は?

「こちらのお方が聖女様だ」

ぽかんとする勇者一行。そこにいるのはどちらかといえば肉弾戦を生業としそうな女性である。

「カッカッカッ!聖女に見えないか!よく言われるよ!だが正真正銘の聖女だから安心してくれ!」

異世界から召喚した聖女とはここまで聖女であることを激しく自己主張するものなのだろうかと、疑問に思ったがそれを口にできるものはいなかった。


「よろしくお願いします、聖女様。自己紹介しておきます。オレは剣士でこのパーティーのリーダーをやっている」

若い男だ。いかにも爽やか好男子な外観。

「魔法使いよ。攻撃系の魔法は得意だけど回復みたいな支援系の魔法は苦手だからすごく助かるわ」

妙齢の美女。魔法使いらしいローブを纏っているが、それでもわかるナイスボディ

「・・・弓使い」

どうやら無口キャラらしい。まだ子供だがなかなかの美少女

「忍びの者です。敵に潜入するほか中距離攻撃もできます」

どこにでもいそうな村娘というか、特徴がないのが特徴と言えるだろうか、別れて翌日にはどんな姿か忘れてしまいそうだ。


「カッカッカッ!素晴らしいハーレムだな、剣士様」

バシッバシッ。ご機嫌そうに剣士の背中を叩く聖女。(いだ)い、いだ()いい。勘弁じでぐだざーゐ

ひとしきり叩いて満足した聖女も自己紹介

「私が聖女だよ!魔王退治を手伝うことになった!よろしくな!」



「早速準備に取り掛かろうじゃないか!」

とう言うとあちこち回って

「丈夫そうで良い馬車だな!貰うぞ!」「この樽は水を運ぶのに最適だ!所望する!」etc

次々に無心していく聖女。とはいえ旅には不可欠なものばかりだし、それほど高額なものでもない、もともと提供する必要があると思われていたものばかりなので、是非もなかった。


「大体こんなところかな!皆の方でなにか足りないものはあるか!?」

問いかける聖女に剣士が代表して答える。オレたちは普段から旅をしているから特別必要なものはない。それより馬車があるのに馬がいないのでは?」

そうなのだ。真っ先に馬車を求めておいて馬がいないのはどういうことなのだろう

「私が引っ張るから問題ないよ!馬は水を沢山飲むし、とこでも良い草が生えているとは限らないから餌も必要だから荷物が沢山必要になるからね!」

「そういう問題じゃないかと思いますが」

「大丈夫大丈夫!心配名無し!善は急げだ、さぁ乗った乗った!」

そう言われても聖女様に馬車を引かせて自分たちはのんびりその馬車に乗っているわけにはいかない。そう言ったら

「時間の無駄だから、さっさと乗る!」

怒られた。遠慮したら怒られた。怒ると怖い聖女様だった。

速い速い。下手な馬より速い。そもそも長旅なら馬にとっての歩きのペースが普通なはずだ。そのことを問うと

「カッカッカッ!長距離走はきちんと訓練すれば、人間が体の構造上陸上動物の中で一番速いんだよ!」

こともなげに答える聖女。だからといって、馬車を引いて長距離走れるのは普通のことなのか?


「むっ!」

一行が人里を離れてしばらくすると聖女が一言発して立ち止まる。「どうかしましたか?」

剣士が声を掛けるが聖女は無言で石をいくつか拾うと離れたところに見えるヤブに向かって次々投げる。弾丸のように飛んでいく石(ただしこの世界に銃は存在しないので、勇者一行が感じた印象ではない。閑話休題)

続いて石を投げた方向に向かって走り出す。速い速い。今まで馬車を引いていたとは思えないスピードだ。

何事かと目を丸くしていると、聖女はいくつもの魔物の死体を抱えて戻ってきた。

「魔物が群れていたから退治してきたよ!」

そう言うと手早く魔物を解体していく。手際が良すぎて手伝うと言い出せない。やがて魔物は食料と売り物と残ったゴミに分かれる。食料と売り物は馬車に積み込まれるが、ゴミは放置

「このままにしておいて良いのですか?魔物が寄ってきますよ」

だが聖女はこともなげに答える

「カッカッカッ!気にしない気にしない!どうせすぐ出発するからここに集まってくれれば我々が襲われにくくなるよ!人通りも少ないし、仮に通っても見通しが良いから遠くから気づけるから問題ないよ!」

そんなものなのだろうか?違う気もするのだが一行は聖女の気迫に押されて納得してしまったようだ。

それで良いのか?勇者たち


夕暮れ時

「今日はこのへんで野営にしようか!」

聖女が言い出す。剣士も時間的にも場所的にも悪くなさそうだったので、同じことを言おうとしたところだった。

まきを集め、石を組み合わせてかまどを作ると薪どうしを激しくこすれ合わせる聖女。もしかして火を起こそうとしている?

「そんなやり方では火は起こせませんよ。私が魔法で」

魔法使いが呆れてそう言おうとした途端、薪が燃えだした。

「ん!?どうかした!?」「・・・・いいえ、なんでもありません」

そうして、昼間獲ったばかりの魔物の肉を中心に料理を始める。道中採取したと思われる草(雑草にしか見えないが、ちゃんと食用になるのだろうか?)

「この草は、味は落ちるけれど栄養があるし疲れも取れる。何より中毒防止に最適なんだよ!」

勇者たちの疑問が通じたのか、聖女が説明する。

味は落ちると言っていたが、聖女の料理は美味かった。街の高級料理店には及ばないまでも、安さと量を売りにしているような食堂より美味い。ましてや普段の野営の食事とは雲泥の差である。高級料理店なんて数えるほどしか食べたことがないので、滅多にないご馳走であった。


食事が終わると後片付け。これも聖女が一人で手早く済ませてしまう。片つけくらいは自分たちがやると申し出たのだが

「カッカッカッ!気にしない気にしない。片つけは自分でやったほうが後々使いやすいからね!」

そう言って取り合わないのであった。

片つけが終わると

「そろそろ寝ようか!夜のお楽しみは程々にね!」セクハラ発言を残して馬車に潜り込む。「おやすみー!」

すぐさま高いびきをかきはじめる。野営のとき普通なら交代で寝ずの番をする。一日聖女ばかりが活躍して自分たちは馬車に座っていただけだし、今までも自分たちだけで番をしてきたから問題ないから聖女にはゆっくり休んでもらうように申し出よう思っていたが、何も言う前にさっさと寝てしまわれるのは気持ちの良いものではない。

ところがである。いざ何かが襲ってくると、起きて番をしている者が気づく前に起き出して退治してしまうのだ。野営のたびにである。だんだん寝ずの番がバカバカしくなっていく。気がつけば全員熟睡ということが屡々(しばしば)。気がつけばいつの間にか獲物が増えていることもあった。揃って眠りこけている間に聖女一人で仕留めてきたということだよね。それで良いのか!?勇者一行(カッカッカッ!これでいいのだ!)


魔王の下への旅は長い。当然無人地帯ばかりを行くわけではなく、いくつもの街に立ち寄る

最初の街に到着すると、聖女は「悪いけれどちょっと降りてここで待っていてくれ!」

そういって一行を降ろすとどこかに消える。程なく馬車は引かずに戻って来る。

「魔物の素材を換金してきたよ!半分は路銀の足しにして、もう半分は山分けして小遣い銭だね!」

そう言うと全員に巾着を配る。「こっちは路銀だからリーダーが管理してね!」

剣士に先程より重い巾着を渡す。

小遣い分の方の中身を確認すると節約すれば数ヶ月は生活できそうな金額が入っているではないか。

「「「「こんなに受け取れませんよ。聖女様が一人で稼いだんじゃないですか」」」」

「カッカッカッ!気にすることないよ!私一人の力じゃないからね!」

いやいやどう考えても貴女(あんた)一人の功績でしょう、というツッコミを入れる間もなく聖女は去ってゆく

「私は飲みに行ってくるよ!明日いつもの時間にここに集合ね!」


翌日の朝

「カッカッカッ!思わず徹夜で飲んじゃった!お陰で小遣いすっからかんだよ!だけど大丈夫!昨日のうちに必要な買い物は済ませておいたからすぐに出発できるよ!」

そういう問題じゃないでしょう。貴女徹夜で呑んだ後に馬車引いて走る気ですか!?

「平気平気!若いから!!」

そういう問題じゃないでしょう

それに数ヶ月暮らせそうな金額を飲み尽くすって、いったいどういうことなんだ!?剣士たちも一応情報収集も兼ねて一通り街を見て回ったがそれほど高級な酒場は無かったはずだ。まさかぼったくられた?いやいや、彼女からぼったくれる店があるとは思えない。

「聖女様、もしかして誰彼構わず奢ったりは・・・・」

「ないない!旅仲間ならともかく見ず知らずの人に奢る義理なんてないよ!」

そうして聖女は今日も元気に馬車を引く(人間が引くなら馬車じゃないだろうというツッコミはご勘弁。今更だな、おい)

次に街に立ち寄ったとき、聖女の行動が気になった剣士は「お供します」と聖女について行った。聖女は次々はしご酒を重ねるのだが、そのたびに巧みに酒を奢らせ更には自分の金で酒を飲み、ついでという感じに情報を集める。それは情報収集の専門家である忍びの者が集めてくる情報より多彩であった。

聖女の豪快な呑みっぷりに巻き込まれた剣士は当然のように二日酔い&寝不足でグロッキー

「カッカッカッ!気にしないで馬車の中で寝てなよ!」

貴女は何倍も飲んでいるのになぜ平気なのですか!?なるほど金使い果たすよね!と、頷ける呑みっぷりだったのだ。


やがて長く(やること無い)苦しい(馬車に乗るだけの)旅も終わりの時を迎える。

ついに魔王の居城に到着した。禍々しい雰囲気に気を引き締める。

「聖女様、支援をお願いします。清野の魔法で全員の強化と負傷したときの回復。大変でしょうが、よろしくお願いします」

「おう!任せておけ!!」

「弓使いと魔法使いは露払いだ。雑魚どもを頼む」

「「わかってるわ」」

「忍びの者はいつも通り敵を撹乱してくれ」

(こっくり)

「では行くぞ」

剣士の掛け声で何故か聖女が真っ先に駆け出す。雑魚ども(魔物たち)は苦も無く蹴散らしていく。

その後を必死で追いすがる勇者一行。戦う聖女をただ追いかけるだけなのに、なぜ必死にならなければならないのだろう?

そして最短ルートで魔王の部屋まで到着する。

「よくぞここま

みなまで言わせず襲いかかる聖女。

ラリアット!殴打殴打!!アッパーカット!蹴!踏!踏!!

仕上げとばかりに首を捻りあげる。魔王は見るからに事切れている。勇者たちは未だ息が整わない。それほど短い間に終わってしまった。

「終わったよ!それじゃ剣士殿、討伐の証にするために首を切り落としてね!」

「・・・・・・・」無言で魔王の首を切り落とす剣士

「じゃ、元の世界に帰るね!王様には困ったことがあったら何時でも呼んでねと伝えておいてね!あ、そうそう。これ魔物避けのお守りだよ!これがあれば安全に帰れるからね!」

そう言うと、聖女は消えてしまった。

帰り道は本当に平和そのものであった。本来勇者たちなら魔物くらい十分対応できたはずにもかかわらず、であるが・・・・

ただ、ここまで聖女が引いてくれた馬車を自分たちで引いて帰るのには大変苦労した。聖女から貰った金がたっぷり残っていたから最初の街で馬を買えばよかったのだと気づいたのは、国王のもとに帰り着いてからだった。


 <  終 劇  >


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国王「ワシ、不当な召喚に怒っているであろう聖女様を説得して交渉するはずだったのに、ちょっと挨拶しただけだった」


召喚士たち「我々の決死の覚悟は何だったのだろう?」


剣士「結局剣を抜いたのって、死んだ魔王の首を落とすときだけだった」


弓使い「すること無いから矢の制作ばかりしてちっとも使う機会なかった。おかげで矢が増えすぎ。売り払っちゃおうかな。でもお金も結構あるし」


魔法使い「せめて生活魔法くらい使わせてよ」


忍びの者「・・・・・」


馬「馬車が登場するのに馬が登場しないとはこれ如何に」


聖女の魔法「聖女なのになぜ身体能力(フィジカル)だけで乗り切った!?」


婚約者候補の王子様(ハニトラ要員)「一文字も出てこないまま終わり、だと?」

シリーズにしたので身体能力にルビ追加

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