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アッシュ・ブルーム ~花の魔王と失われた花言葉~  作者: 長月 鳥
第六章 ガーベラ

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極楽鳥

 「ピィィィィーーー!」


 ハナがストレリチアに魔法をかけた瞬間、ダンジョン内にけたたましい鳴き声が響いた。


 「えっ? ハナ兄さんの魔法って、花を人の姿にするだけじゃなかったんですか?」 エミリーが呆然と声を漏らす。


 「そ、そうみたいだね……」

 ハナも戸惑いを隠せない。


 ストレリチアの花が変化したその姿。

 情熱的な赤い瞳。王冠のような冠羽。鋭いくちばしと極彩色の羽根。翼を広げると、先ほど倒したミノタウロスよりもはるかに巨大な鳥だった。


 「でっかい鳥さん……」

 ハナが呟くと、鳥は再び高らかに鳴いた。


 「……なんか、怒ってません?」

 「そ、そうかな……たぶん気のせい……」


 「ていうか、どうして鳥なんですか?」

 「ストレリチアって“極楽鳥花”とも呼ばれるんだ。花の形が鳥に似てるから。たぶん……それが理由じゃないかな」


 「だからって実際に鳥になるのはどうなんですか、まったく……この魔法、どこまで自由なんですか」

 エミリーは思わずため息をつく。


 けれど、彼女はふと思い出す。兄ニコの残した研究資料——


 (ハナの魔法は、花の特性、あるいは花そのものの“なりたい姿”を具現化する可能性がある。

 ……魔法は、使い手の無意識に応じて姿を変える)


 その一節が脳裏をよぎった。

 今、目の前にいるこの巨鳥が、もし魔物だったら——。


 エミリーは寒気を覚えた。


 「ピィィィーー!」


 突然、巨大な鳥が叫び声をあげ、ハナの足元へ鋭いくちばしを振り下ろした。


 「わっ、ちょっと……ラクチョ、落ち着いてってば!」

 寸でのところで避けたハナは、びっくりして後ずさる。


 「……確認しますけど、ラクチョって、この鳥の名前ですか?」

 「うん、極楽鳥花だから、“ゴクラクチョウ”の真ん中とって、ラクチョ! いい名前でしょ?」


 エミリーは一瞬、心の中で突っ込んだ。

 (いや、せめて“レリチ”とか、あるでしょうが……)


 「ピィィィーーー!!」

 ハナをじっと睨みつけ、叫び続ける鳥。


 「たぶん名前に怒ってると思いますよ」

 「そうかな、呼ぶ前から怒っていた気もするけど」

 「……ともかく、このままじゃ危ない。あんな巨体でじゃれつかれたら、命がいくつあっても足りませんよ!」

 「で、でも、どうすれば……」

 戸惑うハナ。だが、その迷いの隙をつくように、鳥は再びくちばしを振り下ろす。


 「ぐっ……!」

 ハナの右脚のふくらはぎに、鋭い一閃が走った。浅い傷だったが、血がにじみ、ハナの動きが止まる。


 「ハナっ!」

 エミリーは反射的に《ウィンドショット》を放った。初級の風魔法。威力はないが、鳥の注意を少しでも逸らせれば——。

 (……なんで私がハナを助けてるの)


 そんな疑問が脳裏をよぎる。

 でも、すぐにファザの言葉が思い出された。

 『ハナの魔法を監視しろ。そして、何があっても死なせるな。必要とあらば——お前が盾になれ』

 もし、ハナを失えば、自分も見捨てられる。興味を失われる。存在の価値すら否定される。


(それだけは絶対に嫌……!)


 「ハナ、方法がひとつだけあります」

 エミリーは決意を込めて言った。

 「私の《ウィンドショット》に乗って、上空の穴から脱出してください。外へ出て、救援を呼ぶんです」


 その衝撃で身体のどこかが壊れてもいい。今は、それしかない。


 だが。


 「逃げるもんか」

 ハナは血を流しながら立ち上がる。

 ふらつきながらも、両腕を広げて、エミリーと鳥の間に立ちはだかった。




_________________________

 花図鑑No.009

 ストレリチア

 学名【Strelitzia】

 分類【ゴクラクチョウカ科、ゴクラクチョウカ属】

 花言葉【輝かしい未来】【すべてを手に入れる】【気取った恋】【恋の伊達者】【寛容】


 別名【極楽鳥花】


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