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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
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第86話 11階層


 俺たちは自動地図らしき巻物がほかの階層でも使えるのか確かめるため、10階層に戻った。


 階段を上っている間も巻物を広げていたのだが、階段を上り始めたら段々11階層の地図は薄れていきそのうち何も見えなくなり、10階層に近づくにつれて今度は10階層の階段のある空洞の模様が現れ始め、階段を上り切ったらはっきりとした空洞の模様ができ上っていた。

「この調子だと、どの階層でも使えそうだな」

「そうみたいね」

「巻物を連れて歩いたところしか出てこないから、いままで歩いてきたところは出ないってことですよね」

「そこは仕方ないけど、これから上の方の階層で何かするってことはまずないし、紙の地図はあるわけだから十分だろ」

「そうですね」


「何度も行き来して面倒だけど、もう一度下に下りて本格的に探索を始めようか」

「そうだね」「はい」


 俺たちは再度階段を下りていきまた階段下の空洞に出た。

「もう地図を描かなくて済むから、俺とエリカで前を歩いて、その後ろをケイちゃんが歩くようにしたらどうだろう」

「そうなると、ケイちゃんの矢の射界が取れないんじゃない?」

「だから俺とエリカはできるだけ壁沿いを歩いて行けばいいと思う」

「それなら、いいわね」


 俺たちはその隊列で先に12階層に下りる階段がある可能性が高い階段正面の坑道を進んでいった。階段の前には先ほどの巨大ガエルなみのモンスターがおそらく控えているはずだ。


 巻物を広げて歩いているので、歩いた坑道が勝手に地図上に延長されて行くのが実に面白い。

 今まで俺が地図を描く速さに合わせて移動していたのだが、その必要がなくなったので、通常の速さで移動できる上、地図そのものも正確なはずなのでありがたいこと、ありがたいこと。


 30分弱進んだところで坑道が広くなり始めた。

「エド、この感じだとこの先階段だよね」

「たぶんそう」

「また、階段前のモンスターがいるんじゃない?」

「たぶんいる」

「今日はもうよさない?」

「うん。止めておこう」

 負ける気は全くしないのだが、さすがに同日に階段前のモンスターを2匹も仕留めてしまうと悪い意味で目立ち過ぎるような気がする。


 俺たちは階段に続く本坑道を少し引き返して、途中の側道に入っていった。

 これまでなら本坑道をあらかた踏破して地図をある程度完成させてから側道に入っていってたのだが、今回は正確な地図が描けるようになったのでそういった手間をかけずに目に付いた坑道に進んでいっても全然支障はない。

 実に素晴らしいアイテムが手に入った。


 それはそうと、そろそろモンスターに遭遇したいところだ。実戦でケイちゃんが矢筒を使えば、矢筒のことが何か分かるかもしれないからな。


 などと考えながら歩いていたらエリカが声を上げた。

「エド、壁に何か生えてる!」

 エリカが指さした坑道の壁に何かの結晶のようなものが見えた。

 ランタンを点けていない関係で色ははっきりしないのだが、半透明のその結晶は宝石の原石、ジェムだ。


「色は赤のような気がしない?」

 確かに赤いような気がする。

「ランタンを点けて確かめてみよう」

 手にした自動地図まきものをエリカに持ってもらい、俺はキューブからランタン、火打石と打ちがねを取り出し、ランタンに火を点けた。

「赤い宝石の原石みたいだな。きっとジェムだ」

「これがそうなんだ……」

 そう言ったエリカの目が$マークになっていたら笑うところだったのだが、エリカの目元ははっきりとは見えなかった。残念なようなこれでよかったような。


「磨いたりしないと宝石にはならないだろうけど、それなりの値段でギルドに売れるんじゃないか」

「だよね。だけどこれってどうやって採る?」エリカの声が心持ち早口になってる。

「こういったものを採るためにはタガネとハンマーが必要と思うんだけど、用意してないものな」

「手で採れないかな?」

「ちょっとやってみようか」


 手袋をした手の指でその結晶を持って少し力を入れてみたが、壁から外れそうではなかった。

「無理みたいだな」

「このままにするの?」

「レメンゲンなら周りの石を削れそうだからやってみるか」

「刃がダメにならない?」

「今まで相当固い物も平気で斬ってきたけど、刃こぼれ一つしていないから大丈夫じゃないかな」

「エド」

「ケイちゃん、なに?」

「収納キューブって見えてるものなら収納できるんですよね。試しにこの結晶が収納できないかやってみてはどうでしょう?」

「確かに。何となく収納できそうな気がする。

 それじゃあ『収納』」

 赤いジェムに意識を集中して『収納』と唱えたら、ちゃんと収納できてしまった。これはいい。

「ちゃんと収納できたようですね」

「エド、すごいじゃない」

「うん。うまくいった。これならキノコも手を使わずに採集できる」

 そこで一度キューブから今手に入れたジェムを取り出して二人に見せた。


「これって、いくらで売れるかな?」

「かなり大きな結晶だからそこそこ高額で売れるんじゃないか?」

「楽しみだわ」

「これからもジェムが手に入るようなら、たおしたモンスターをわざわざギルドまで持って帰らなくてもいいかもな」

「それはダメよ。食べられるモンスターはちゃんと持って帰らないと。もったいないよ」

 おー。そういえばエリカはもったいない思想をちゃんと持ってたものな。

「確かにその通りだった」


 俺が持っていたランタンはエリカに手渡して俺のリュックの脇にぶら下げてもらった。

 反対にエリカに持ってもらっていた自動地図まきものをエリカから受け取り、両手で広げて移動を再開した。とにかく地図上で勝手に坑道が伸びていくのが見てて楽しいんだよな。


「エド、またニヤニヤしてない?」

 少し離れて歩いているはずのエリカから注意が入ってしまった。あまり続けていると警告に格上げされてしまうので俺は意識して顔を引き締めた。この状態の俺の顔は前世ではきっと醤油顔と呼ばれたんだろうなー。とか考えていたらまた口元が緩んでしまった。いかんいかん。またエリカから注意されては今度は警告になってしまうのですぐに顔を引き締めた。



 そこからその側道をしばらく歩いていたら、前方から何かが近づいてくる気配を感じた。

 俺は手にしていた自動地図まきものを巻き戻し、収納キューブに入れてレメンゲンを構えたら、ケイちゃんの「いきます!」の声と同時に、俺のすぐ横をケイちゃんの放った矢が通り過ぎていった。

 俺の横を歩いていたエリカも既に双剣を抜き放って前方に目を凝らしている。


 矢の行方を目で追った先にいた黒いシルエットはブタ? いやイノシシか?

 

 俺とエリカは同時に走り出し、そのシルエットに近づいたところ、俺のリュックに下げたランタンの明かりの先から見えてきたのは、眉間に矢を1本生やして路面に倒れ動かなくなったイノシシだった。100キロはありそうだ。俺はイノシシの眉間に突き刺さった矢を抜こうと矢のシャフトに手をかけて力を込めて引いたら、拍子抜けするほど簡単に矢が抜けた。今まで何度も矢を抜いてきたが、今回が一番簡単だった。


 俺はその矢をやってきたケイちゃんに手渡し、矢筒について聞いてみた。

「矢筒のことで何か分かった?」

「何も分かりませんでした」


 実戦で矢筒を使ったといっても矢を1本引き抜いただけだもの、それで何かわかる方がおかしいものな。

 ケイちゃんは俺から手渡された矢をボロ布で簡単に拭いて矢筒に戻した。


 俺とエリカはイノシシの血抜きだ。

 俺がナイフでイノシシの首辺りを切り裂いて、エリカと二人がかりでイノシシの後ろ足を持って坑道の壁際まで運び、そこでできるだけイノシシの下半身を上に持ち上げて壁に沿わせておいた。


 5分ほどそうやっていたら、首筋の切れ目から血が流れなくなったので収納キューブに収納した。


 そういえば、ダンジョン産の肉にはムシなどはいないそうで、基本的に生で食べられるのだそうだ。ただ、この世界には醤油がないので生食と言ってもあまりおいしくないかもしれない。

 いや、フレンチドレッシング風のドレッシングくらいは作れるから、それで食べてもいいかもしれない。でも、そんなことをすると、エリカが何か言うんだろうなー。



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