第85話 巻物
11階層に続く階段前に居座っていた巨大ガエルをたおし、死骸を収納キューブに収納したら階段前に宝箱が現れた。
宝箱の中には、矢筒らしきものと巻物が入っていた。矢筒らしきものは、とりあえず今使っている矢筒の代わりにケイちゃんに使ってもらうことにした。
「巻物の中に何が書いてあるか見ようよ」
せかすエリカを置いて、俺は手袋を外して巻物を持ち、とりあえず観察した。
巻物はひもで結んであるわけでもなく、端の部分が金属のようなもので出来ていてそれを右手で持って左手で巻物をくるくると回すと簡単に広げることができた。右手を離したら勝手に巻物は巻き戻る感じだ。
それで、巻物の材質なのだがどう見ても紙ではない。プラスチック製のように見えるかと言えばそうでもない。謎の素材としか分からない。つまり全く分からない。
素材はどうでもいいが、肝心の何が書いてあるのかというと、表も裏も何も書いても描いてもないまっさらだった。
「これ、巻いてあったから巻物と言っていいんだろうけど、実際何なんだろうな?」
「さあ」
「謎ですね」
開き切った巻物を見ても、表裏何もない物はどうしようもない。
鑑定スキルとか小説でよく出てきた記憶があるが、あれこそ確かにチートだよな。
「あれっ? 何か模様が浮き出てきたんじゃない?」
「ほんとだ」
エリカが言うように、広げた巻物の表面に何かの模様が浮き出てきてそれがしっかりした形になった。
その形は片方が抜けたいびつな長方形で、その抜けていない片側に小さい長四角が見える。長方形といってもその各辺は直線ではなく微妙にデコボコがある。
「何の絵だと思う?」
「うーん、何だろう」
「何か意味があるんでしょうけど」
「うーん」
「「うーん」」
「分からないものは分からないから、ケイちゃん、新しい矢筒に矢を入れて様子を見てくれよ」
「はい」
空の宝箱と巻物はとりあえず収納キューブに保管しておいた。
ケイちゃんが矢を今までの矢筒から一本一本新しい矢筒?に移したところ、今までの矢筒同様矢が10本入ったようだ。
ケイちゃんはその矢筒から何回か矢を引き抜いてみて使い勝手を試した。
「問題ありません」
「何か変わったことは?」
「今のところ分かりません」
そう簡単に効用が判明するわけないものな。
そこで思い出した俺は左手の指輪に目をやった。
俺の左手に燦然と輝く指輪は真っ黒になってしかも黒光りしているじゃないか! 迫力あるような、ないような。
指輪は今のところ人畜無害だし、そもそもどうしようもないので無視することにした。
「そろそろ昼の時間だから昼休憩にしようか」
「そうだね」「はい」
俺たちは階段前で昼休憩することにして、武器類を外して路面に直に座り込んだ。
「ここで料理する?」
「うーん。昼は干し肉と干し果物くらいでいいんじゃない。ちょっとここだと目立つし」
「10階層に来るダンジョンワーカーはカエルをたおせなくて他の場所で稼いでいたわけですから、ここには来ないんじゃないですか?」
「そう言われればそうだよな」
「でも、今は簡単に済ませてもいいんじゃない」
「じゃあそうするか」
そのあと、エリカとケイちゃんのリュックをキューブから取り出して二人に渡し、二人がリュックから取り出して差し出したマグカップに水筒から水を注いだ。
俺のマグカップは、エリカに持ってもらって水筒から水を注いだ。
そのあと各自自分のリュックのポケットに入れていた食べ物を取り出して食べ始めた。
たまに手間がかからず、ほかのダンジョンワーカーの目を気にする必要が全くないこの形もいいかもしれない。
食後、巻物が気になった俺は、キューブから取り出して広げ、先ほど浮かび上がっていけ模様を眺めた。
「どこかで見たことがあるような模様なんだけどなー」
「エド、それって模様なの?」
「模様かどうかは分からないんだけどな」
「でも、ダンジョンの中で見つかったわけだし、今までわたしたちが見つけたアイテムで役に立たなかったものってなかったじゃない。だから、その巻物も何かの役に立つと思うんだけど」
「それはつまり、この模様に意味があるって事だよな」
「うん」
「何だろーなー?」
「何でしょうねー?」
しばらく眺めていたけれどやっぱり分からなかったのでまた巻いてキューブに保管しておいた。
「それはそうと、俺たちがカエルをたおしたってどう証明する?」
「収納キューブのことは秘密にしないといけないから、そうねー、カエルの部位のどこかをリュックに入れて買い取りカウンターに持っていくしかないんじゃないかな」
「だけどデカいからなー」
「前足の一本くらいならエドのリュックに入るんじゃない?」
「そうだな。前足を切り外して本体とは別にして収納キューブに入れておけばいいな」
「うん。それで1階層まで戻ったら、いつものようにリュックに詰め込めばいいのよ」
「カエルの残りはどうする?」
「少しずつ出すってわけにはいかないわよねー」
「相当不自然だものな」
「収納キューブに余裕があるうちは入れとけばいいんじゃない。何かの役に立つかもしれないし」
「役に立つかな?」
「将来何があるか分かりませんから、いいんじゃないですか」
「じゃあ、そうしようか。ところでカエルっておいしいのかな?」
「火を通せば食べられると思うけど、あれだけ大きいとあんまりおいしくないんじゃないかな」
「そうだよな」
エリカとケイちゃんが見守る中、巨大ガエルを収納キューブから空洞の真ん中に出し、レメンゲンを何回か振って左前脚を落とした。
その前足と残りの本体をそれぞれ収納しておいた。その前脚だがちょっと長かったのでリュックからはみ出すと思うが、重さ的には何とか背負えそうだった。
「さてっと、11階層に下りてみる?」
「そりゃあそうでしょ。初物なんだから」
こういうのって初物というの? 初物には違いないけど。
「じゃあ、そろそろ行く準備をしよう」
休憩を終えた俺たちは各自装備を整えた。
「よし、行こう」
「うん」「はい」
目の前の階段を、階段の段数を数えながら下りて行った。
結局、11階層への階段も60段だった。
そして階段を下りた先はいつものような各所に坑道につながる穴の空いた空洞だった。
「代り映えしないね」
「そうだな。でも代り映えがあったら逆に面倒じゃないか?」
「それもそうか」
「とにかく誰も来たこともない階層ですし、何が出てくるか分かりませんから、慎重に行きましょう」
「そうだな」「うん」
「それじゃあ、また地図を描いていきながらこの階層探索するとしよう」
俺は画板と筆をキューブから取り出し地図描きモードに移行した。
まずは俺たちが今いる階段下の空洞だ。
慣れたもので筆をちゃっちゃっ。と、動かしたらすぐに空洞は描き上がった。
「あっ!」
そこで、俺は閃いてしまった。
俺の声で二人が俺を見た。
「どうしたの?」
「巻物のあの模様は、階段と空洞を表していたんじゃないか? つまり巻物は地図の一種だったんじゃないかなって思いついたんだ」
「確かに地図の一部と言われれば一部に見えなくもないけれど、一部じゃ何の役にも立たないんじゃない?」
「それはそうなんだけど、巻物もあの場所しか知らなかったからあそこだけしか描けなかったんじゃないか?」
「どういうこと?」
「つまり、何だ。要するに巻物も自分が見た場所しか地図に描けないんじゃないかと思うんだ」
「なるほど。それじゃあ、今ここで巻物を出したらどうなるの?」
「階段上の地図がどうなるかは分からないけれど、ここが地図のどこかに模様みたいになって現れるんじゃないかな。とにかく見てみよう」
キューブから巻物を取り出して広げたら、階段上で広げていた時の模様が残っていたが、それがだんだん薄くなって代わりに今俺たちがいる空洞によく似た形の模様が現れてきた。
「なんだか、エドの言った通りみたいね」
「だな」
「すごいです」
「試しにどこかの坑道に入ってみようか」
「うん」「そうですね」
試しに巻物を広げたまま階段の正面に開いた坑道に入っていったら、坑道を表しているような模様が少しずつ延長されて行った。
「これは自分で地図を作るアイテムみたいだな」
「そうみたいね」
「この階層でしか使えないんでしょうか?」
「10階層に行けば、今現れている地図が消えて10階層の地図が現れるんじゃないかな。面倒だけど10階層に戻って確かめてみよう」