第84話 10階層2、カエルと宝箱
階段前に陣取った巨大ガエルの目を二つとも潰してやった。
その時気づいたたんだが、カエルの顔に刺さっていたはずの矢が2本くらい抜けていた。ケイちゃんが潰した目に刺さっていた矢も抜け落ちている。
あれだけ深く突き刺さっていたのに。こいつ、まさか再生能力とか持っていないよな?
少々そういった能力があろうが、再生する以上の速さで切り刻んでいけばいいだけだ。
俺の反対側ではエリカが双剣を使ってカエルを切り刻んでいる。
俺もすぐにカエルの鼓膜にレメンゲンを突き立て振り切り、もう一度突き立て振り切った。
一声鳴いたカエルは俺たちに切り刻まれながらも少しずつ後ずさりを始めた。
何か狙っているのか?
なんであれ手数で押し切ってしまおう。
そう思ってカエルに振り下ろすレメンゲンを力重視から傷跡狙いの速度重視に切り替えたところでいきなりカエルがジャンプした。俺は危うくレメンゲンを持っていかれるところだったし、エリカも危うく剣を持っていかれるところだった。
今度のジャンプは本格的なもので、カエルは天井近くまで跳び上がり、そこで頭を上にして空洞の壁に張り付いてしまった。
こうなってしまうと、俺のレメンゲンもエリカの双剣も届かない。頼りになるのはケイちゃんのウサツのと残りの矢のみ。その代り、カエルは口を上を向いているため、攻撃手段は飛びかかってのボディープレスだけとなった。
継続的にダメージを与えないとマズいのだがケイちゃんの弓矢では決定打に欠ける。
即死属性のついた矢でもあれば簡単だったのだが、世の中そんなにうまくは行かないものだ。
これまでトントン拍子でここまできた俺が言っては罰が当たるか。
そんなことを考えながら、天井近くに張り付いたカエルを見ていたら、ケイちゃんがウサツを左手に持って、3つの矢筒を右の脇に挟んでやってきた。
「どうします?」
「とりあえずケイちゃんは矢がなくなるまで射てくれ」
「はい」
「エド、わたしはどうすればいい?」
「俺もエリカもどうしようもないな。ケイちゃんが残りの矢でカエルを仕留めてくれることを祈るしかないみたいだ」
「さすがに他のダンジョンワーカーたちが敬遠するだけのことはあるわね」
「だな。いつ俺たちに向かって飛び下りてくるかもしれないから、そこだけは気を付けていよう。ケイちゃんもな」
「分かった」「はい」
そこからケイちゃんが矢を射始めたので、俺はカエルから抜け落ちて路面に転がっていた数本の矢を拾ってケイちゃんの足元の矢筒の脇に置いておいた。
ケイちゃんの2個目の矢筒が空になった。
カエルの頭部は上を向いているので射界は狭いのだがケイちゃんの矢は狙い通りにカエルの頭部に吸い込まれて行く。
俺とエリカは上から抜け落ちてくる矢を拾ってケイちゃんに届けるのが仕事だ。
そして3個目の矢筒が空になった。残る矢筒は1つ、矢は10本プラスカエルから抜け落ちてくる矢だけだ。
「仕留められるかな?」
「厳しそうだな」
「だけど、カエルもずっとあのまま壁にしがみついてるのかな?」
「俺たちが諦めて帰ったら下りてくるんじゃないか?」
「いま、階段見えてるでしょ?」
「うん」
「このままカエルを無視して階段を下りていったらどうなるのかな?」
「カエルの役目が階段を守ることなら、俺たちが階段を下りていくのを全力で阻止しようとするんじゃないか?」
「ということは壁から下りてくるんじゃない?」
「確かに。やってみよう。エリカはケイちゃんのそばで見ててくれ。
カエルが下りてきたらエリカも突っ込んできてくれ。さっきみたいに切り刻んでいけばいずれたおせるだろう」
「了解」
俺はエリカの作戦を実行するため、壁に張り付いたカエルを見上げながら階段の方に歩いて行った。
階段に5メートルまで近づいたら壁のカエルが方向を変え始めた。俺が階段を下りるのが気になるに違いない。
階段まで2メートル。そこでいきなりカエルが俺に向かって飛び下りてきた。
狙い通り。思わず笑いが出てしまった。
カエルの落下地点、すなわち階段の入り口から横にずれた俺は落ちてくるカエルを待ち構えレメンゲンを切り上げ、そして切り下ろした。
たいしたダメージを与えられた感じではなかったのだが、カエルの動きが一瞬止まったので、俺はレメンゲンをカエルに突き立てそれを手がかりにしてカエルの頭によじ登ろうとした。
カエルは激しく動き回り、頭も上下に動かすので振り落とされそうになる。
エリカが、そのカエルの鼓膜に白銀の長剣ヘルテを突き刺した。
カエルは一声鳴いてエリカの方向に体を動かそうとした。
縦の動きがなくなった俺は再度頭に向かって行き、そしてカエルの頭の真ん中にレメンゲンを突き立て思い切り押し込んだ。
レメンゲンはツバまで押し込まれてそこで止まった。
俺はレメンゲンの柄を持って思い切り手前に引いたけどレメンゲンはびくともしなかった。その代りカエルはわずかに痙攣してそして動かなくなった。
勝ったー!
カエルの頭に突き刺さったレメンゲンを力いっぱい引き抜いたら思った以上に軽くて後ろにひっくり返りそうになってしまった。
「エド、やったわね」
「ああ」
「エド、おめでとう」
「これでわたしたち、サクラダダンジョンギルドのトップチームね!」
「その通りなんだけど、俺たちがこのカエルをたおしたってことはどう証明する?」
「とりあえず、収納キューブに収納して後で考えましょ」
「それもそうだな。
まずはカエルに刺さった矢を抜いてしまおうか」
「そうね」「はい」
3人がかりでカエルに刺さった矢を抜いていき、3人がかりでボロ布を使いカエルの体液で汚れた矢をきれいにしていった。
矢を矢筒に戻し、その矢筒は俺が預かっておいた。
「それじゃあ、カエルを収納するから」
カエルを収納したら空洞がすっきりしたと思ったら、階段前にいきなり銅色の箱が現れていた。今度の箱は以前現れた銅の宝箱と比べ明らかに横長だ。
「宝箱だよね」
「宝箱だな」
「何が入っているんでしょう?」
「この横長の感じから言って、ついにケイちゃんの矢が手に入るんじゃないか?」
「その可能性は高そうね」
「そうかなー」
絶対折れない矢というのはそれなりに貴重だが、今の矢だってかなり丈夫でほとんどダメになっていない。俺とすればさっき考えた即死属性付きの矢が欲しいのだがどうだろう?
しかし、命中したら100パーセント即死となると完全にチートだよな。
ケイちゃんの場合、命中率100パーセントと言ってもいいんだし。今のカエルだって一撃でたおせてしまうんだから。となると、即死が発動する確率が設定されているのかもしれない。
とはいえ、取らぬタヌキの皮算用を続けても仕方がない。
「それじゃあ開けてみようか」
「うん」「はい」
宝箱を見回したところこの前同様カギ穴はなかった。大きさは違うが仕様は同じと考えていいだろう。
フタに手をかけそっと持ち上げたたら、箱の中には黒に近い褐色の筒が一つと、巻物のようなものが1つ入っていた。その巻物も筒くらいの長さがある。
筒と巻物?
筒の方は見た目は革で出来ていて片側が閉じている。
「この筒は何だと思う?」
「矢筒じゃないかな?」
「そう言われれば確かに矢筒みたいだ。紐を通す孔みたいなものが2カ所空いてるし。
ケイちゃん、どう思う?」
「今の矢筒とほとんど同じ形ですから、これがもし矢筒じゃなくても矢筒として使えるのは確かです」
「とりあえずケイちゃん、今の矢筒の代わりに使ってみてよ。
宝箱から見つかったものだから、矢筒だとして、ただの矢筒じゃないと思うけど」
「分かりました」
「こっちの巻物は?」
「中に何が書いてあるか見ようよ」
まさか掛け軸で山水画が現れるってことはないよな?
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流行ってはいないものの、作者の自称最高傑作。もちろん常闇の女神シリーズ1、2で登場するガジェットが登場しますが、解説付きなので読んでいなくても大丈夫。