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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
82/336

第82話 8階層。侵攻


 7階層を完全踏破した俺たちは、半日休み+1階層での荷役作業のあと8階層へ進出した。


 一昨日の反省会で、8階層へは3泊4日でいこうとエリカが提案したが、それは却下した。理由は特にない。強いて言えば稼ぎ過ぎのような気がしたからだ。なんだか雄鶏亭でいつも反省会をしている俺たちを見る他のダンジョンワーカーたちの目が少し変わってきたような気がするんだよな。なんだか一目置かれているような。


 最近になって知ったことだが、俺たちみたいに泊りがけでダンジョンに潜って1日休みですぐダンジョンに潜るダンジョンワーカーチームはあまりいないらしい。特にこのダンジョンギルドに住んでいる新人ダンジョンワーカーでは俺たちが初めてらしい。どうしてそういった情報を知ったかというと、雄鶏亭のオーナーが俺たちに話してくれたからだ。俺たちの雄鶏亭の利用パターンから類推した俺たちの行動はオーナーからするとかなり特殊だったということだろう。


 7階層からの下り階段を下りて8階層の空洞にたどり着いたのは渦を抜けてだいたい3時間半後。今回は途中一度だけ小休止を入れている。歩く速さも上がっているようで、小休止の時間は7階層分の予想移動時間の3時間半に吸収されたようだ。


 階段下の空洞の脇で小休止し装備を整え直して探索アンド地図描きを開始したのが大体10時半。1時間半仕事したら昼休憩だ。まだ先の話になるが、10階層ともなれば、到着して少し歩き回ればもう昼休憩だ。



 まずは9階層に続くと思われる本坑道を俺たちは進んでいった。それらしいダンジョンワーカーのあとを付いていったわけではないので、今俺たちが進んでいる坑道が階段に続いているのかは分からないが、これまでの経験から、階段を下りた先の坑道のうち、正面、ないしは正面に近い坑道が次の階段まで続いていたので今回もうまく下り階段にたどり着けると思う。


 30分ちょっと歩いたところで前方にそれらしい空洞が見え始め、更に進んでいくとその空洞の真ん中に下り階段が見えた。


「とりあえず9階層への階段を見つけたから、いつものように一度階段下まで引き返して別の本坑道を調べよう」


 この方式だと、一度調べた坑道を歩くことになるのでそこは無駄になる。なぜこういうことをするのかというと、最初の数本の本坑道をこれから描く地図の大元するため原点である階段下からそれらを描いていくことで正確な地図ができるだろうと思っているからだ。

 現にこの方式で、6階層、7階層の地図はそれなりのものができ上った。と、自負している。


 階段下まで引き返してから2本目の本坑道を30分ほど進み、側道に少し入ったところで、昼休憩に入った。


 いつものように具だくさんのスープを大量に作り、それとパンとで昼食にした。

 以前は立ち食いだったが、現在はトレイを使い、坑道の路面に座り込んで食事している。

 食事を始めるまでにスープ鍋とテーブルを含めて調理機材は収納キューブに収納しているので、俺たちがここで調理していたとは誰も思わないと思う。


 今回の食後のデザートはブドウにしておいた。干しブドウと被るかと言えばそうでもなく、やはりフレッシュなブドウは酸っぱさと若干のエグミそれに甘味の少なさに目をつぶれば十分おいしい。言い換えれば、この世界のブドウは生前の世界で売っていたブランドブドウと比べるべくもない。なんだって、慣れればいいんだよ。慣れてしまえば。


 昼休憩は料理時間も含めて1時間ちょっと。休憩を終えた俺たちは外していた装備を整えて午後からの探索アンド地図描きを開始した。


 7階層の途中くらいまで、モンスターの気配を俺が察知した時にはケイちゃんがすでに第一射を放っていて、そこから俺も画板を下ろしてレメンゲンを抜いていたのだが、今ではレメンゲンを抜くこともなくエリカとケイちゃんによって一方的にモンスターがたおされて行くのを見てるだけだ。俺の役割は戦いが終わり血抜きも終わったモンスターを収納キューブに収納するだけになっている。つまりは役割分担。経済学風に言えば「比較優位」ってやつだ。知らんけど。



 結局8階層でもモンスターの歯ごたえがないまま、8階層への1回目の2泊3日ツアーを終えた。



 そして、雄鶏亭での反省会。


「わたしたち強すぎるような気がするんだけど。最大戦力のエドは剣を抜かなくてもいいわけでしょ?。

 わたしたち、もう10階層に行ってもいいんじゃないかな? ケイちゃんはどう思う?」

「そうですねー。確かに手応えありませんし、エリカの言うように10階層に行ってもいいかもしれません。どうせなら11階層への階段前に陣取っているモンスターをたおしてしまって名実ともにサクラダダンジョンでのトップチームになるのもいいかも知れません」

 おっと、ここにきてケイちゃんから過激な発言が飛び出した。ケイちゃんがそこまで言うなら10階層行くことは決まりでいいか。

「分かった。次は9階層を飛ばして10階層。そして11階層への階段前のモンスターを確かめてやれそうならやってしまおう」

「うん」「はい」

「ところで、10階層の階段前にいるというモンスターについて何か知ってる?」

「この前、一人でここで食べてるとき小耳にはさんだんだけど、なんでも大きなカエルなんだって」

「カエル?」

「そう。刃物が全然通らないって」

「となると、ケイちゃんの弓矢が頼り?」

「矢も通らないんだって。そんなこんなでみんな敬遠して11階層へ行くのを諦めてるそうよ。10階層で十分稼げる以上妥当な判断じゃない?」

「確かに。だけどそれだと俺たちでもきついだろ?」

「そこはエドのレメンゲン、わたしの双剣ヘルテとエルバーメン、ケイちゃんのウサツでしょ」

「なるほど。何とかなるかもしれないな」

「何とかなるじゃなくて、何とかするの」

「そうだった。俺たちは『サクラダの星』だしな。

 それで、カエルはどんな攻撃をするか聞いた?」

「そこは聞いてない」

「誰も挑んでいないなら、その話をしていた連中が知るはずないものな」



 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 反省会の翌日。エドモンドたちが雄鶏亭で朝食を摂っていたころ。


 ヨーネフリッツ軍3万が朝日を背に南西の隣国ズーリへ侵攻を開始した。侵攻目的はズーリを属国化ないし領土化し鉱物資源を奪取することだった。


 ヨーネフリッツ王国の隣国は西からフリシア、南西にハイムントとズーリ、そして南方にドネスコの4か国である。このうち南西のハイムントとズーリは海を持たない山岳小国家で、特にズーリは鉱山を多数抱える鉱山国家であり、周辺国であるフリシア、ハイムント、ヨーネフリッツ3国からすれば喉から手が出るほど価値ある土地だ。

 したがってどこかの国が単独でズーリに侵攻した場合、残りの2国がズーリに対して援軍を送るものと考えられていた。

 10カ月ほど前、ヨーネフリッツの西側に隣接するフリシアでは国王が交代し、国王派と王弟派との間で抗争が起こっており現在も政情が不安定な状況が続いている。そしてヨーネフリッツの南に隣接するドネスコは自国の南に国境を接するハグレアと紛争中だった。


 ヨーネフリッツ軍がズーリに侵攻してもフリシアもドネスコも簡単にはズーリに援軍を送れない状況ができ上っていたわけである。


 ヨーネフリッツ側ではズーリの総兵力を5千と見積もっており、フリシア、ドネスコからの援軍がない以上3万の兵で1カ月から長くとも2カ月でズーリを屈服させ得ると考えていた。


 その3万の兵はフリシアとの国境と、ハイムントとの国境に展開していた軍から抽出した4万の兵のうちの3万で残り1万が予備兵力として後詰めに入っている。もちろん4万の兵の中には各国境沿いの貴族領の領軍も多数含まれている。


 ヨーネフリッツからズーリの都へ侵攻するためには、狭隘な山道を数カ所通過する必要がある。ズーリ軍からするとこの狭隘部でいかにヨーネフリッツ軍を削るか。ヨーネフリッツ軍からすればいかにこの狭隘部で消耗を抑えるかがカギとなる。


 一方ズーリ側だが、ヨーネフリッツ同様フリシアとハイムントの状況は理解しており、フリーハンドを得たヨーネフリッツが侵攻してくることは容易に想像できた。また国境近くにヨーネフリッツ軍が集結中であることも掴んでおり、各所への兵の配置を既に終えていた。

 そんな中でのヨーネフリッツ軍のズーリ侵攻である。


 なお、ヨーネフリッツ軍がズーリに侵攻したという情報がヨーネフリッツ王国の北西部に位置するヨルマン辺境伯領のサルダナに届けられるのはまだ先のことになる。



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