第81話 7階層3。うわさ話
7階層への1回目の2泊3日のツアーを終え、渦から出た俺たちは買い取りカウンターに回って今回の成果を買い取ってもらった。かなりの黒字となった。
「お前さんたち、もう7階層に潜ってるのか!?」と、買い取りのゴルトマンさんに驚かれてしまった。
「いちおう」
「新人で7階層まで行くヤツはまずいないが、矢の一撃と、剣の一撃。お前たち、そこらのベテランなんかよりよほど強いんじゃないか? とはいえ、ダンジョンの中は何が起こるか分からない。慢心せずに頑張りな」
「はい。ありがとうございます」「ありがと」「ありがとうございます」
ありがたいお言葉を頂戴した。
3階に戻った俺たちは6時に雄鶏亭前に集合ということで部屋の前で解散した。部屋に戻って防具を外し荷物を整理したりしていたら街の鐘が鳴り始めた。
部屋を出たところでいつものようにエリカとケイちゃんに合流して1階に下りていき、いつもの席に陣取って反省会を始めた。
「「かんぱーい!」」
俺たちが飲み食いしていたら段々客が増えてきた。
俺たちの反省が一段落したところで、隣のテーブルのダンジョンワーカーの話し声が聞こえてきた。
『フリシアで国王が亡くなっそうだ。次の国王は第一王子らしい』
『あそこって、まだ王太子を決めてなかったよな』
『それに、あそこの第一王子は妾腹じゃなかったか?』
『第二王子が正妻の子だったはずだ』
『なるほど、そうすると国内はもめるな』
『だろうな』
『ということはフリシアとの国境沿いがいくらか静かになるってことか?』
『そうなるだろうな。ヨーネフリッツにとってはいいことなんじゃないか?』
『とはいえ、どこの国からも遠いここヨルマン辺境領じゃ何の関係もないけどな』
『だな』
『しかし、妾腹で国王になったということはそれなりの人物なんだろ?
もし国内をまとめられたら、いい国王になるんじゃないか?』
『まとめられたらな』
国際情勢の話か。俺たちには関係ないがちょっとだけ興味がある。フリシアというのは俺たちの国ヨーネフリッツの西隣の国で、国境沿いでしょっちゅう小競り合いをしている間柄だと父さんに聞いたことがある。今の話ぶりから言って、その関係は変わっていないようだ。
「そういえばエリカのうちはフリシアと取引なんてあるの?」
「うちは国内専門。7、8割は辺境領で残りが国内の他のところ」
「そうなんだ」
「兄さんはいずれ王都に支店を出したいって言ってるんだけどね」
「ふーん。そうなればいいよな」
「分かんないけどね」
……。
そんな話をしているうちにテーブルの上の食べ物も無くなり飲み物も飲み干したところで今回の反省会はお開きになった。
翌日。
午前中はお休みとして、物品の補充をしたり洗濯をしたりして過ごした。午後から集合して収納キューブに残っていたモンスターの死骸を1階層でリュックに詰め直し、そのまま帰ってきて買い取りカウンターで買い取ってもらった。
昨日の今日で似たようなモンスターを買い取ったわけだけど、買い取りカウンターの担当者がゴルトマンさんではなかったので事なきを得た。
それから4回。2泊3日のダンジョンアタックのあと1日休むというサイクルで7階層の地図が完成した。全部で5サイクル。約20日かかっている。これが早いのか遅いのかは、俺たちでは判断できない。
最初の2泊3日と同じように戻ってきた日の翌日。収納キューブに残っていたモンスターを買い取りカウンターで買い取ってもらっているので、やはりゴルトマンさんから変な目で見られてしまったが、何か特別なことを言われたわけではない。
この20日間ほどでかなりの儲けが積み上がってきたのだが、残念ながら、ダンジョン産のアイテムは見つかっていない。従ってケイちゃんが欲しがっていた折れない矢は手に入っていない。今の矢自体、ほとんど傷んでいないようなので折れない矢のニーズはそれほど高くない。逆にそれが原因でレメンゲンの力が働かないのかもしれない。
その間、足りないもの、気が付いたものを雑貨屋で買っているので今ではたいていのものが揃っている。生前、キッチンカーというのがあったが、俺も歩くキッチンカーになったようなものだ。いや、毛布や枕代わりのクッションも持ち運んでいるわけだからキッチンカーではなくキャンピングカーと言った方がいいか。
7階層を完全踏破した日の反省会。
この日も俺たちの反省と8階層の話が一段落したところで、隣のテーブルのダンジョンワーカーの話し声が聞こえてきた。
『ドネスコがまた南の国境でおっぱじめたらしい』
『おっぱじめたとは?』
『ドネスコの南の何とか言う国と戦争を始めたようだ』
『ドネスコの南はハグレアだ』
『そう、そのハグレアと戦争を始めたって聞いたぞ』
『ドネスコとハグレアってこの前もやってなかったか? たしか4、5年前』
『やってたな。ドネスコがハグレアの街を何個か陥として終わったんじゃなかったか?』
『そうだった。今回はその街を取り返しにハグレアが仕掛けたんじゃないか?』
『そうかもな』
『いずれにせよ、遠い他国の話だ。俺たちはせっせせっせとダンジョンの人になってればいいだけだろ?』
『その通りだ』
前世の日本だと戦争は遠い世界の話でしかなかった。
この世界では交通が発達していないせいか隣国で戦争が始まっても遠い世界の話に思えるものな。
「エリカ、隣国で戦争が始まったら足りない物資を売って大儲けできるんじゃないか?」
「普通ならそうなんだろうけど、うちの国とドネスコって仲が悪いから取引自体あんまりないそうよ」
「なるほど」
戦争特需などないわけか。俺が儲けそこなったわけじゃないから別にいいけど。やはり世界が違えば常識も違うってことだな。
「ということは、ヨーネフリッツとドネスコとの国境はフリシアとの国境みたいに小競り合いとか起こっているのかな?」
「小競り合いは分からないけれど、国境に近い領主は緊張しているんじゃないかな。いつ戦いが始まるかってお互い思ってるんじゃない?」
この世界は国際平和とは程遠い世界なのか。俺は父さんからどういった国があるってことくらいしか聞いたことがないから疎いんだよな。
まあ、このヨルマン辺境領に戦火が及ぶとは思えないから、俺たちはせっせせっせと潜っていればいいや。
待てよ、その憎きドネスコがヨーネフリッツの反対側で戦争を始めたとなると、ヨーネフリッツとドネスコとの国境は安定するんじゃないか? 安定して何がどうなるかというと、ヨルマン辺境領は関係ないが、国境沿いの領主はほっと一安心するハズだ。西も南も安定すればわが国は平和って事だろう。おうちが一番とよく言われるが、それとて平和があってこそ。よかったよかった。
今回はちょっと難しかったかも? ヒントは長渕剛、『ダンジョン』→『東京』