第74話 6階層最終アタック2、料理2
ただいま昼食の準備としてスープを作っているところだ。
鍋は意外に早く沸騰した。フタを取ってみたら、ぶよぶよしたものが沸騰した泡のあいだで固まっていた。
「これ何かな? 取った方がいいよな」
「灰汁じゃないかな?」
「取った方がいいんだよね?」
「そうじゃない」「取った方がいいと思います」
レードルですくったものの捨てる場所は路面しかない。やはり台所じゃないといろいろマズい。
それはそうと何度灰汁を取ってもなくならない。
「いつまでやらないといけないと思う?」
「それくらいでいいんじゃない。それよりスープの味をみた方がいいんじゃないかな?」
「それもそうだな。ちょっとだけ味見」
レードルにちょっとだけスープをすくって、フーフーして舐めてみた。
「どう?」
「うーん。ちょっと塩味が足りないかもしれない」
ここで塩をたくさん入れては大ごとになるのは火を見るより明らかなので、塩を入れた瓶から小スプーンで1杯だけ鍋に塩を入れてかき混ぜてみた。
そして再びフーフーからの味見。
「これくらいでいいんじゃないかな。でもちょっとコクが足りないような」
何かが足りないんだよなー。
和食じゃないけどみりんを入れたつもりで、ちょっとだけ砂糖を入れてみるか。
砂糖をキューブから取り出して鍋に投入し、あまり溶かずにその辺りからすくって味をみたところ結構いける。
砂糖をある程度入れてから鍋をかき混ぜ味をみたところ、ちゃんとした味になっていた。
エリカにも味をみてもらった。
「エド、砂糖を入れ始めて何をするのかと思ったんだけど、このスープいい味だわ」
エリカからオーケーが出たところで、加熱板の火力を弱にしてフタをしておいた。
「野菜が煮えるのを待つ間、パンを切っておこう」
まな板の空いたところに塊パンを置いて大きな包丁でスライスしていった。これで良し。
あとは、深皿とパンを置く小さめの平皿を人数分。ナイフとスプーンを人数分だな。それは食べる時でいいか。
スープの方は『弱』にして10分ほど煮込んだ。
「そろそろいいかな?」
「もうだいぶ経ってるからいいんじゃない」
深皿を3枚取り出して、一人一人に持ってもらって鍋から具だくさんのスープを入れていった。
最初のエリカの持った深皿にスープをよそったところで。
「エド、お皿を持つのに両手を使うから、これじゃあ食べられないよ。コップに入れた方がいいんじゃないかな」
「そうだな。それは鍋に返してくれるかい」
「うん」
一度よそったスープを鍋に返してもらってあらためて、新しくコップを3個出して、順にスープをよそっていった。
今回用意したまな板はかなり大きなものだったのだが、まな板はテーブル代わりにもなるからもう1枚あった方がいいな。
「それじゃあ食べようか」
「うん」「はい」
まな板を囲むように3人で路面に座り食べ始めた。
二人ともスプーンに取ったスープをフーフーしながら口に運んだ。
「フー、フー。
熱々のスープがダンジョンで食べられるなんて夢みたいね。
あっ、おいしい。でもイモの中に芯があった」
「まだ煮えてなかったか?」
「半煮えかもしれないけれど火は通ってるみたいだから大丈夫。それに他の野菜はちゃんと煮えてるみたいだし」
「大きいものほど煮えにくいから、切る時大きさを揃えた方がいいかもしれませんね」
「確かに大きさがバラバラだったかもしれない」
こうやってノウハウを貯め込んでいけばいっぱしの料理人に成れるかも?
2度の人生で初めて自分で作ったものだったから特別おいしかった可能性がないではないが、自分で食べても結構おいしいスープだった。
ちぎったパンを浸して食べてみたところこれもなかなかのものだった。今日のパンはできたてに近い物だったようで柔らかいからありがたみが少ないけれど、固くなってしまったパンだとありがたみが倍増だ。
「スープのお代わりは?」
「うん」「わたしも」
各人のコップにスープをよそって、俺の皿にもよそった。
「おいしい」
「そうですね」
そんなこんなで結局鍋のスープは空になってしまい、昼食なのに腹いっぱいになってしまった。
まな板や鍋や食器などを3人で手分けして水洗いした物を俺が収納キューブに収納して後片付けを終えた。
この後片付けで坑道の一画はびちょびちょになってしまったが、ダンジョンの中だしすぐに吸収されるだろう。イモの皮なんかもまとめて坑道の壁際に置いています。ダンジョンさん、ちゃんと吸収して養分にしてくださいネ! ごみ入れ用の桶があったらいいかも?
「ヤカンとお茶を用意するの忘れたなー」
「次回までに揃えましょ」
「そうだな。最初だから、足りないものが出ることは予想通りだし」
食後の休憩を少し長めにとった俺たちは、装備を整えて6階層の未探査坑道の探索を再開した。
午後からの探索も順調で、途中小休止を挟んで17時ごろ探索を終了し野営準備を始めた。もちろん野営地は側道の行き止まりの手前だ。
毛布などを並べ終わったところで、少し離れてまな板を路面の上に置きその上に加熱板と水筒を並べた。
「何作ろうか?」
「まずはスープかな」
「スープができたら、フライパンで肉でも焼いてみよう」
「大丈夫?」
「スープは昼作ったから大丈夫。肉はスライスして塩コショウして焼くだけだから何とかなるだろ」
「そうね」
「野菜を先に出すからまず水洗いだ」
イモとニンジンをケイちゃんと二人して洗ってそれから簡単に皮をむき、エリカが皮をむいてくれたタマネギと一緒に大きさを揃える感じで切っていった。
切った野菜は鍋行きだ。今回は野菜の量も多目にしたので鍋は大を用意した。
「肉と魚、どっちの味にする?」
「昼は肉だったから、魚にしてみない」
「了解」
鍋を加熱板の上に置き、干し魚を適当に手で折って鍋に入れてから水をひたひたになるまでいれて加熱板を『強』にしてフタを締めておいた。
「鍋が煮えるまでに肉に取りかかろう。
肉は何の肉にする?」
「牛肉がいいんじゃない? 中が赤くても食べられるから」
「了解」
熱を通しつつ赤味を残すのは本当は難しいのかもしれないが、少々失敗したところでたかが知れてるから何とかなるだろう。
収納キューブから牛肉のブロックをまな板の上に取り出して大きい方の調理ナイフで1センチくらいの厚さに3枚スライスしておいた。調理ナイフが新しいせいか肉がよく切れた。
そういえばタマネギを切る時も目にしみなかったけど、キレない刃物だとタマネギの細胞を潰して目に染みる成分が飛び散ると聞いたことがある。良い刃物は生活を豊かにするってことだな。
レメンゲンさん、聞いてる?
余った牛肉のブロックはほうの木の葉っぱにくるんで収納キューブに収納し、スライスした牛肉はまな板の上に並べて塩コショウしておいた。
加熱板がひとつしかないので、鍋ができ上るまで作業は中断だ。
そのうち鍋が沸騰し始めたので、フタをとったらちゃんとぶくぶくと浮かんでくる泡の間に灰汁が浮かんでいた。
灰汁をレードルですくって捨てていき、あらかたすくい終わったところで味見をしたところ、何も加えなくてもいい味のようだった。
干し魚は塩味が干し肉より強かったのだろう。
フタをして火力を『弱』に落とした。
こうなってくると煮えるまで暇だ。何かできることってなかったかなー。
俺と同じでエリカもケイちゃんも暇そうにしてるもんなー。
そこまでお腹が空いていないのがせめてもの救いか。
そうそう。パンを切っておこう。
パンを切ったら作業は終わってしまった。