第70話 1泊ダンジョンアタック3回目6、反省会
合わせて30分ほどエリカとケイちゃんが収納キューブの練習をし、それから装備を整えて3回目の1泊ダンジョンアタック二日目の坑道探索を開始した。
俺は駅弁スタイルで画板を首から下げているだけだし、エリカはランタンを片手で下げているだけ。ケイちゃんは左手にウサツを持っているだけだ。
誰もリュックを背負っていないためダンジョン内をうろつくにはかなり目立つはずなのだが、幸い他のダンジョンワーカーに出会うこともなく順調にその日の午前中の探索と地図描きを終え昼休憩になった。
「エド。この休憩が終わったら、もうギルドに帰るんでしょ?」
「うん。少し遠回りをするつもりだけど5時には帰れると思う」
「朝、収納した岩があるじゃない。帰り道でもしモンスターに遭ったら頭の上から落としてみない?」
「やってもいいけど、あれだけの物を落っことしたらモンスターが潰れてしまって回収したとしてもギルドで買い取ってくれないんじゃないか?」
何せ岩の比重を3とすると1メートル四方×0.5×3=1.5トンである。比重を2としても1トンだ。
「それだともったいないからやめておいた方がいいわね」
この世界にも、もったいない文化はちゃんとあるのだが、エリカお嬢さまからそれを聞いてほっこりした。
いつも通り1時間ほど昼休憩をとって俺たちはギルドへの帰途に就いた。
未踏の側道を通るように道を選んだので若干回り道だが、それも考慮して昼休憩の箇所を選んでいるのでそれほど時間が前後することなくギルドに戻れると思う。
途中1度だけ小休止を入れて1階層まで戻ってきた。
「エド、どこでリュックにモンスターを詰め替える?」
「ここから少し行った先に側道があるはずだからその側道に入ってキューブからリュックを出してモンスターを詰め替えてしまおう」
「分かった」
階段から渦に続く本坑道から側道に少し入り、そこでキューブに入れていたリュックを取り出して、バラでキューブに入れていたモンスターをリュックに詰めてから改めて渦に向かった。
俺のリュックはパンパンに膨れてかなり重たかったが、心が軽いせいか足取りも軽やかだった。
渦を出て買い取りカウンターに回って今回の獲物を買い取ってもらった。今回も結構な金額になり、チームの財布の中も潤った。今日も雄鶏亭で反省会だ!
6時の鐘が鳴ったら1階の雄鶏亭前に集合ということで3階に上がって部屋の前で解散した。
俺は部屋に戻って防具を外し荷物を片付け、いつものように汚れてしまったリュックとボロ布、それに桶を持って部屋を出て1階に下りていき水場に回った。
数人の新人ダンジョンワーカーたちが水場で洗濯をしていて、俺もその中に混ざって洗濯というか水洗いした。
俺が水場でリュックを洗っていたら、ケイちゃんが洗濯物を持って現れた。ケイちゃんのリュックは生ものを入れていないので洗わなくてもいいのでリュックではなくボロ布と衣服を桶に入れて持ってきたようだ。
「エド、いつもありがとう」
「なに?」
「大きな獲物は全部エドが背負っているし、血も流れ出るからリュックも汚れて洗う回数も多くなるでしょう」
「まあそうなんだけど、重たい物を持つのは男の仕事だし、洗濯だって水洗いするだけだから、それほど大したことじゃないよ」
「エドは、偉いです」
「そうかなー」
「はい。すごく偉いです。
エドはこれからもずっとダンジョンワーカーを続けていくんですか?」
「今は一番面白いところだと思うけど、将来はどうなるのかはよく分からないなー。少なくとも4、5年は続けるんじゃないかな。それくらい続ければ結構お金も貯まっていそうだし」
「確かにそうですね。でもエドは5年先でも二十歳ですよね?」
「うん」
「だったらダンジョンワーカー以外の仕事を始めても遅くないですよね」
「うん。でも、そのころには俺たち『サクラダの星』は最前線というかトップチームになってるはずだから、それはそれで面白くなってるんじゃないかな?
ケイちゃんは何かやりたいことがあるの?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
俺とケイちゃんがそんな話をしていたら、近くで洗濯していた女子が俺たちに向かって話しかけてきた。
「お二人は『サクラダの星』の方なんですか?」
「え、ええ」「はい」
「新人狩たおしてくれてありがとう。わたしの友だちも何人も犠牲になっていたんです。ホントにありがとう」
「いえいえ」
「……」
ケイちゃんはその女子の言葉を聞いてきょとんとしていた。新人狩の話はケイちゃんにしてなかったものな。エリカからもケイちゃんに話してなかったんだろう。
「今まで何度か見かけたことあったんですが声をかけそびれていて。
それじゃあ、これからも頑張ってください」
そう言ってその女子は桶と洗濯物を持って駆けるようにして去っていった。
「エド、そんなことがあったんですね」
「実はそうなんだ。たまたま出くわしたもので」
「やっぱりエドはすごいです」
「それほどでもー」
俺の方が先に洗濯が終わったので、ケイちゃんに先に行くと言って水場からギルドに戻っていった。ケイちゃんも俺が隣にいたら下着の洗濯しづらいだろうし。
部屋に戻って洗濯物を干し、水がしたたり落ちる場所にボロ布を敷いて今日の仕事は終了。
あとは6時からの反省会だけだ。
あまり時間はなかったが、時間調整のため靴をはいたままベッドに腰かけてそのまま横になっていたら街の鐘が聞こえてきたので部屋を出た。
ちょうどエリカとケイちゃんも部屋を出たところだったので3人揃って1階に下りて行った。
「「かんぱーい!」」
エールで乾杯して反省会の開始だ。
定食のほか、つまみも多数注文し、いつもの4人席のテーブルの上に並べられている。
もちろん支払いは全てチームの財布からだ。
「今回はすごかったね」
「そうだな」
「わたしたちに必要な物が、はかったように手に入ったわけだから」
「これってやっぱりレメンゲンの力なのかな?」
「レメンゲンは最初の時以来一度も口をきいていないから何とも言えないけど、ここまでどんぴしゃりと俺たちの要望がかなえられたのは偶然じゃないよな」
「ですよね」
「でも、得るものが多ければ多いほど、支払いが膨らむのは商売の常識なんだけど、少し怖くならない?」
「だって、支払う額はもう決まっているんだから、これ以上増えやしないよ」
「そうならいいけど。って言えないけど、ほんとにエドはそれでいいの?」
「いいも悪いも今さら何もできないから」
「最後にレメンゲンを壊せばいいんじゃないかな?」
「これだけの力がある剣だから、どんなことをしても壊せないと思う」
「……」
「まっ、そういうことだから。飲もう」
「う、うん」
「それで明日なんだけど、みんなで鍋とかフライパン、食器類に食材なんかを買いにいかないか?」
「行こう、行こう」
「楽しみですね」
こういう話になるとすぐに明るくなるからありがたい。
「鍋やフライパンは鉄製だろうけど、食器は陶器製だと高いし割れるから、木製よね」
「その方が無難だろうな。ナイフとかフォークも木製で十分だろう」
「そうですね」
「食材は、まずは肉だよな」
「ダンジョンの中だからモンスターの肉じゃダメなの?」
「うまく解体できればいいかもしれないけれど、面倒じゃないか? それに解体って結構時間がかかりそうだし」
「それもそうか」
「食べるものがなくなった場合だけですね」
「そうだな。
そういったものをそろえるとなると今のチームの貯金では足が出る可能性もあるけど、そうなったら臨時徴収してもいいかい?」
「もちろん」「当然です」
食材となると、肉がメインだよな。
俺たち3人とも料理はできないんだけど、フライパンで肉くらい焼けるよな? 焼肉屋で肉を焼くのと同じだよな? 違う?
ところで焼き肉のタレってどうやって作るんだろ?